皇国の大祭 一日目 花の香りの木彫りペンダント
アルケディウスの大祭デート。
チョコバナナを二人で食べてから、城壁市場のお店をぐるっと回ってみた。
「素敵な細工物出しているお店、多かったね。
後でガルフやアルに頼んだら買ってきてくれるかな?」
「大丈夫じゃないか? 城の皆へのお土産か?」
「うん。そう。あと、孤児院の子達にも」
子どもの数が増えてきた、とはいえまだまだ、大祭は子どもの参加を前提とはしていない。
彼らにいいお土産を探すのも一苦労だけれど、アクセサリーとか、置物なら多分喜んでくれると思う。
「城の皆の分はアーサー達に任せておけばいいさ。張り切って買って来てくれる」
「そうだね」
私達が魔王城に来た時まだ幼稚園児のように小さかった彼らも今は小学校高学年か中学生かってくらいに成長してきた。
アーサーなんて最近身長が凄く伸びて、小柄だった同じ年齢のリオンよりも大きいくらいだ。
私も多分、もうじき追い越される。
「今、成長期だからな」
「くっそー、必ず追いついて追い越してやる」
アーサーがドヤ顔する度にクリスは歯噛みしていたっけ。
この年頃は一年の差ってけっこう大きいからね。
まだ二人の間にはけっこうはっきりとした身長差がある。
リオンの従卒扱いでいつも競い合うアーサーとクリスは戦い方の差もあって、仲間であり、兄弟であり、ライバル関係だ。
リオンが丁寧に教えているから、来年かその次の年くらいに騎士試験を受けてみようかなんて話も出ているらしい。
アレクは宮廷楽師としての地位を確立した。
主任楽師さんが後見してくれて、貴族の婦人たちのサロンなどに引っ張りだこ。
子どもとは思えないリュートの腕とボーイソプラノにメロメロなのだそうだ。
婦人達が変な手を出さないように注意して貰っているけど、今日の大祭でもトリの舞踏曲を弾く予定だと言うし、魔王城一番の出世頭かもしれない。
私が大神殿に移った後は、どうしようかな?
アーサー達はリオンと一緒に移動するけど、アレクはアルケディウスに戻って欲しいって言われてるんだよね。
大事なのは本人の気持ちだから、後で確認して……。
「おい!」
「きゃっ?」
城壁市場から、中央広場までの移動中、私がそんなことを考えていたせいだろう。
リオンがぐいっ、と私の手を強く引き、抱き寄せた。
どうやらぼんやりして足元の水桶に気付かなかったっぽい。
危ない危ない。
「あんまり子ども達のことばかり考えていないで、前と俺の方も見ろよ」
「あ、うん。ゴメン」
手を繋ぎ直してまた、歩き始める。
さり気ない彼の言葉と、行動に頬っぺたが熱くなる。
ホント。カッコいいよね。リオン。
もう人々が憧れる勇者というか英雄そのものだ。
人ごみの中でも時折、彼が横を通ると振り返って見ている人がいるのが解る。
少し鼻が高い。
そうでしょう。素敵なんだ。私のリオンは。
見せびらかしたい気持ちと、私だけのものにしたい思いがせめぎ合うけれど。
皆がいる前でのリオンは、きっちりと自分の立ち位置を弁えている。
っていうか、多分、私が恋人としてダメダメなんだよね。
リオンの事は大好き。
恋愛対象としては彼しか考えられない。
こうして手を繋いでいるだけで幸せだし、安心するし、ずっと側にいて欲しいと思う。
各国の王子様とかはともかく、他の大貴族とか貴族達は私にとっていくらプロポーズされても顔の見分けもつかないただの野菜でしかない。
なのに、いつもマルチタスクで頭がいっぱい。
子ども達のこととか精霊神様のこととか。
さっきのリオンの言葉じゃないけど、誰かが側にいると、リオンしか見えない。
ぞっこん。
なんてことにはまるでならないのだ。
不思議な事に。
考えれば考える程もやもやするけれど、頭を振り払って、今は忘れる。
子ども達の事も、今は他所において。
せっかくのデートなんだもん、思いっきり楽しまないと。
と、決心した筈なのに、中央広場に来てそれを見つけた途端に忘れてしまった。
「あ! シュウだ!」
「こら! バカ!」
思わず声をかけて手を振りそうになるのをリオンに止められる。
確かにヤバいよね。名前呼びで近づくのは。
魔王城の子どもの一人、シュウは今、一番しっかりと外に出て働いている。
元々、天才的な腕と記憶力の技師だったのだけれど、それを専門の教育で磨いているのだ。
ガルフが後見して、アルケディウス一の職人さんの所で半住み込みの修行中。
今日の大祭も工房の他の人達と一緒にお店を出しているのに、私が変な声をかけたらバレバレになってしまう。シュウにはもし私がお店に来ても知らんぷりしててね、って言ってあるのに。
幸い、店の前は人だかりでシュウはまだ私に気付いていないっぽい。
大きく深呼吸して素知らぬ顔で近づいていく。
「いらっしゃいませ! あっ!」
「ちょっと見せて貰えますか?」
「は、はい。どーぞ」
シュウもどうやら私だと『解った』らしい。少し声が上ずって緊張しているけれど、接客モードで品物を見せてくれた。
ここで売っているのは工房の、いわば工場直産品。
普段、工房は注文に合わせて品物を作っているのだけれど、合間に職人さんが作ったアイテムを売っているようだ。
この時代の工房は鍛冶工房、木工工房と専門が分かれていることが多い。
けれど、シュウの工房の親方は、木工と金属の両方の加工を手掛ける数少ない人物で、その技術を買われて色々な機械や道具の試作品を任されている。
金属と木工、鉄と異金属の複合加工を得意とするマイスターなんだって。
カトラリーとか、調理道具とか、大工道具とか小さなものから、酒蔵の大釜までその範囲は幅広い。
最近は活版印刷機や旋盤などを手掛けた。今後の科学技術の発展に地味に欠かせない実力者だと聞いている。
そんな工房で、複合技術を身につける事を目的としているお弟子さん達なので、修行の為のアイテムも幅広い。
精密な彫り物のオブジェとか、飲み物を飲む為の樽型ジョッキ、カトラリーなど色々。
あ、手のひらサイズのマトリョーシカのような人型人形もある。男と女対で並んでいるこれは、もしかして大祭の精霊だろうか?
やがて、私は買うつもりだったお目当てのアイテムも見つけた。
木彫りの香りのペンダント。
私個人はシュウが作ってくれた最初の作品をもっているけれど、改めて買おうと決めていた。
花や、牙、雫型など色々な形がある。その中の一つを手に取った。
ちょっと懐かしい。大事な人にプレゼントしたものと同じ形だ。
「これ、可愛いですね。どんぐりの形」
「ふつーの首飾りとしてもつかえますが、これはふたが開くので中に、シュライフェ商会で売ってる花の香りの液を入れたりすると、ほのかにながく、いいにおいがしますよ」
「まあ、ステキ。じゃあ、これを一つ頂いてもいいですか?」
「はい、どうぞ! おまけにロッサの香りの液を入れておきますね」
「ありがとう」
花の香りの油は、アルケディウスではシュライフェ商会専売だけれども、香りの油を作る為の蒸留器の製作者はシュウだ。
花の香りのペンダントの発案者も。
だからシュライフェ商会は、シュウが自分の作ったペンダントに、自分で作った花の香りの油を使う事は許可している。
ロッサの花の油を入れて貰って、首から下げると秋だというのに周囲には初夏の花園のような爽やかな香りが広がる。どんぐりの形をしているのも、秋のイメージでコーディネートした服によく合っている。
「大事にしますね。お仕事頑張って」
「まいどありがとうございます。またのおこしを!」
精一杯のお辞儀をしてくれたシュウに手を振って(今度は品物を買ったお礼だもん。いいよね?)私は店から離れたのだ。
後で、シュウには
「マリカ姉、お店に来てくれてありがとう!
キレイだったよ! でも後で、兄さんたちに『お前ばっか美人と接客してずりー』『俺もそれの作り方おしえろ!』って言われちゃった」
と苦笑交じりの報告を受けた。
ちなみに、その後ペンダントは完売御礼、注文が殺到しているそうだ。
「大祭の精霊効果は凄いな」
と親方が感心しながら、仕事の配分を割り直していたらしい。
お役に立ったのか、それとも迷惑をかけたのか。
まあ、外で頑張るシュウの売り上げと工房での地位向上に役立ったのなら良しとしよう。




