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地国 動き出した未来

 時に、大人はズルいと思う。

 子どもに肝心なことを告げず、一方的な指示や思いを押し付けることがあるからだ。


 一部の毒親を除く多くの場合、それらは子どもにとって正しく、必要なことで。

 成長すれば、それが愛情からくるものだったのだと理解はできるのだけれど。

 精神や思考が未熟な子どもにとっては、素直に従うことができず、親への反抗や敵対心に繋がってしまう。


 所謂、反抗期と呼ばれるもの。

 家庭にとっては試練ではあるけれど、大人になるための大事なプロセスでもある。

 長々と解り切ったことを書いたけれど、何が言いたいのかと言えば。


「な、なんでいきなりキスなんかしてくるのよ! 『神』のお馬鹿!!」

「マリカ様。落ち着いて下さい。外に聞こえます。

 リオン様、少し離れて」

「解った。すまない。マリカ」


 混乱する私とリオンの間に割って入るミュールズさん。

 リオンは素直に、すっと身を引いて間を空けた。


「リオンが謝ることじゃないよ。でも……」


 私は思わず唇を両手で押さえてしまう。

 反論を封じるためだけにしては、濃厚なディープキスだった。

 口の中に、リオンの舌の感覚と味がまだ残っている。

 治療で熱を帯びていた私の身体が一気に冷えたというか、別の形で熱くなったというか……。


「な、なんで? 私を黙らせるだけだったら、もっと別の方法があるでしょうに!」


 限られた身内だけとはいえ、人前でいきなり唇を奪われたことは、ちょっと許せない。

 なんなんだ。一体。


『仕方あるまい。緊急的医療措置だ。あいつはあいつなりに気を使ったのだろう。気にするな』


 肩に乗っていた精霊獣。

 精霊神アーレリオス様が息を吐く。

 なんだか諦めたような、納得したような口ぶりで、逆に私は気になってしまう。


「医療措置? 何ですか? お父さん。私が病気みたいな言い方。

 リオンとキスしないといけない理由があったんですか?」


 気を使った、というのはまあ、解らなくもない。

 自分ではなくリオンを戻したのは、私が嫌がらないように、だろう。

 けれど、それならそれで、なんでキスが必要だったのかという謎に戻る。


『……いや。そういう訳じゃない。本当に気にするな。あいつには後で俺が灸を据えておく』

「お願いします。できれば理由もちゃんと聞いて下さい。

 訳知り顔で意味深なことを言って消えるなんて、中二病にも程があるって」

「チューニビョウ?」


 小首を傾げるミュールズさん。

 カマラも、リオンも、意味が解らないという顔だ。

 地球のローカルスラングだからね。


 ギリギリ通じるのはお父さんだけ。

 インド生まれだから普通なら知らない言葉かもしれないけれど、解った、と頷いてくださっているから、理解はしていると思う。

 『神』レルギディオスへの嫌味だから、彼に通じればそれでいい。


「あ、こちらの話です。ミュールズさん。

 とりあえず治療も終わりましたから、外で待っているであろうダーダン様達をもう一度入れて、話し合いをしましょう」

「かしこまりました」


 ミュールズさんが部屋を片付け、外へ彼らを呼びに行っている間。

 私はソファに腰かけ、深呼吸した。

 リオンのキスはともかくとして。

 とりあえず、外傷、内傷の治療にはどちらも成功した。

 これを応用すれば、不老不死が解除された今後も、病気や怪我で不慮の死を迎える人は減らしていけるだろう。


「お待たせいたしました。マリカ様」

「マリカ様。この度はダーダン様の治療を行っていただき、ありがとうございます」

「いいえ。『星』と『精霊神』と『神』のお力故です」


 シュンシー様とスーダイ様はお戻りになったけれど、その後の打ち合わせがあるので残ってもらったマオシェン商会一行は、ダーダン様だけではなく、グアン様やユン君まで私に膝をつき、頭を下げる。


「不老不死は失われましたが、『神』のお力。『星』の加護は、いつでも皆さんの中にあるのです」


 実際、私は特に何もしていないからね。

 治って、とお願いしただけで。


 改めて思うことだけれど。

 不老不死というのは、肉体の劣化、老化を、細胞と融合したナノマシンウイルスが防止する仕組みだったのだろうと思う。


 どんな生物も、いつか死を迎える。

 生きて世にある限り、細胞の劣化、老化は不可避だし、地球で人類の一番の死因の一つは癌。

 つまり、細胞生成の不具合だった。

 この二つが防止されれば、事実上、不老不死は成立する。


 ただ、今回のパターンでは人類を思ってのものではなく、ナノマシンウイルスの主であるコスモプランダーが、自分の餌である存在を劣化させないための仕組みであると考えられているようだ。

 肉体を不老不死に作り替えるのではなく、あくまで細胞が劣化しないように補助する形。

 劣化させないためのエネルギーは人間の気力で、不老不死の維持に使わない余剰分を『神』が回収していた。

 だから、世界中の人間から気力を取っていても、思うように力が溜まらなかったのだろう。


「ダーダン様。当面は、治療を受けたことを吹聴しないでいただくことはできますか?」

「勿論でございます。

 私は長らく隻眼の商人として顔を知られておりますので、治療したことが知られると、注目を浴び過ぎる可能性があります。

 元よりリハビリもかねて、暫くは眼帯や杖を使用し続けるつもりでおりますので」

「お願いします」

「実際問題として、マリカ様の治療の力が外に触れると、今後、大きな騒ぎになる可能性がありますから、よほどの場合を除いて隠しておくのが良いと思います」

「解っています。アルケディウスのお父様やお母様からも、そう言われておりますので」

「不老不死が解除され、死が戻ってきた今、治癒、治療の技は今後必要になってくるでしょう。

 ダーダン様。個人で処置するための傷塞ぎの品などは、今後の新しい商圏になりそうですね」

「流石カイト」


 今は、その命令機能を停止させることで不老不死が解除されている、アースガイア人全ての身体の中にある新型ナノマシンウイルス。

 これを本気で除去しようと思えば、多分、できなくはない。

 シュンシー様の子宮に張られたコーティングを解く応用みたいな形で。


 でも、アースガイアの人類全てからナノマシンウイルスを除去するのは、現実的な話ではない。

 できるのは多分、私か、高位の魔術師だけということになるだろうし。

 身体に入っていても危害は無く、むしろ必要に応じて補助してくれるのだから、共存していくのがいいのではないかと思う。


「この御恩に報いるためにも、我がマオシェン商会はマリカ様に忠誠を誓い、その財を捧げることをお約束いたします」

「財などは必要ありません。

 ですが今後、ダーダン様の念願である『神の子ども達(地球移民)』の覚醒と保護に向けて、新しい事業を起こす予定なので、その時にどうかご協力をお願いします」


 魔王城の島を、目覚めた地球移民の保育園として整備し、そこで教育を行う。

 廃墟状態の島を整備して、最低でも人が住める状況にすることも。

 その後、目覚めた子ども達を守ることも。


 私や魔王城の子ども達だけではできない。

 全力で準備や手伝いはするけれど。

 万が一、ダーダン様のような事故があったとしても、回復させてあげる自信もついたし。

 でも、実際の運用には莫大な費用と物資がいる。各国の王家や商人などに力を借りなければならないだろう。


「解りました。非才なこの身の全力を持ちまして、この国と星と兄弟達の未来を拓くために力になりましょう」


 エルディランド最大の豪商と、第一王子、大王の全面支援を手に入れたので、その後の話は問題なく、スムーズに進んだ。



 最終日の晩餐会。

 既にメニューは決まっているので、私は特に口出しすることなく堪能させてもらったのだけれど、一つだけ。


 新しいレシピとして、厨房の方達にお願いして作ってもらったものがある。

 晩餐会では皆さんびっくり。

 好評を博した、と思う。


「これは……飯が紅色?」

「まあ、なんて美しいリアなのでしょう!」


 小豆の煮汁で紅く染めたご飯。

 所謂、お赤飯ね。

 祝いの席にもよく使われる。


「赤い色は邪気を払い、幸せを呼ぶと古くから言われています。

 大王様と大王妃様のこれからが、祝福に満ちたものになりますように」


 寄り添う二人と、エルディランドに。

 私は心からの祝福を贈ったのだった。


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