大聖都 神の子ども 4 エルディランドの子ども達
神の子ども。
地球移民の一人であるマイアさんからの情報は、私を大いに驚かせた。
「うーん、シュンシーさんが『神の子ども』だったのか」
「『神』が言った通り、本当に俺達の側にいたんだな」
「オレ達の側、というより、権力者や王族の側ということじゃね?」
マイアさんとの話し合いの後、アルにも来てもらっての四者会談、プラス、カマラ。
皆、最初のエルディランド訪問の時から一緒だったから、話も早い。
「アルの言う通りでしょう。
地球移民の子どもは、基本的に自分の生まれに近い場所へ行くことが多い。
記憶があれば有利に立ち回れるでしょうし、記憶がなくてもしっかりとした教育を受けているので、普通の子どもよりも有利な位置に立てます。
貴族や王族の側にいて保護を受ければ、それだけで生存率は上がりますから」
「ということは、シュンシーさんがスーダイ王子に見出されたのも、計算だったのかな?」
「可能性はあるでしょうね。
彼女が大地の精霊に好かれる性質を持っていたのは事実ですので、騙したとは思いませんが、自分から近づいた可能性は大いにあります」
さすがに騙した、とまでは私も言わない。
けれど、少しもやもやはする。
スーダイ王子は、純粋な気持ちで彼女を助けたのだろうに。
しかも、神の娘ということは、ラールさん曰く、
「バースコントロールの何かをされている」
はずだ。
不老不死時代ならともかく、今は各国で跡継ぎを得たいと妊娠出産ラッシュなのに、このままではエルディランドだけ子どもが生まれない、ということもあり得るのだから。
「とりあえず、次の訪問国はちょうどエルディランドだろう?
その時に、話が聞けるようなら聞いてみればいい。
子宮にかけられた守り、というのも本人が望めば外せるはずだし」
「そうだね。うん。そうする」
神の子どもの中でも、環境や状況には個人差があるのだろうな、と私はマイアさんとの話で理解した。
今まで出会った三人の神の子どもは地球の記憶を持っていたから、みんなそういうものだと思っていた。
けれど、マイアさんのように記憶に障がいを持つ人もいる。
その人の個性や価値観もあるから、一括りにはできない。
マイアさんのように『神』に心酔しているようだと厄介だけれど、どうやら全員がそうというわけでもなさそうだし、そうだとしても対処のしようは色々ある。
「エルディランドには二人、神の子どもがいると言っていました。
シュンシー妃がそうだとしても、あと一人いるわけですからね。
油断はできませんよ」
「あ、そういえば、マリカ。
エルディランドに行く時、クラージュ先生を連れて行くことってできるか?」
「できなくはないけど、どうして?」
シュンシーさんの話が落ち着いた後、アルがふと思い出したように、そんな話を転がしてきた。
「エルディランドのマオシェン商会がさ、マリカに会いたいって言ってきたんだ。
繋いでくれないかって手紙を寄越してきた。
できればユン……クラージュ先生も呼んでほしいって言ってる」
「マオシェン商会? あの、エルディランドきっての大店の?」
「そう。
元々は筆や墨、インクや羊皮紙の扱いから始まって、今は服飾から食品まで、ほとんどの品を扱ってる。
特に植物紙の生産と印刷、製本に関しては凄く研究熱心で、活版印刷は一緒に開発したけど、その運用にはアルケディウスもまだ追随できないかな」
「確か、カイト。クラージュさんの前世を見出した方、ではありませんか?」
フェイの言葉に、アルは「そう」と頷く。
クラージュさんの話によると、エルディランドに戦士クラージュと地球人片桐海斗の記憶を持って生まれた彼は、半ば孤児のような存在だった。
そんな彼は、マオシェン商会のダーダンに拾われ、店で働くことになったという。
植物紙を作ってみたいという丁稚の言葉に耳を傾け、援助を行った結果、植物紙の生産に成功。
その後、ガリ版印刷なども実用化させ、約百年の間、マオシェン商会は製紙と印刷業を独占することになる。
店主ダーダン氏の凄いところは、丁稚であったカイトさんを囲い込んで、全てを自分の手柄にすることもできたのに、カイト先生を開発者として立て、その権利を認めたことだ。
製紙、印刷事業を任せ、最終的には国の後援も取り付けた。
エルディランドは、有能な人物であれば一般人でも『王子』として取り立て、国務を任せる方針をとっている。
実際には、七精霊の子である王家の人間以外が王位を継ぐことはほぼない。
けれど、王子に順位をつけることで、互いに切磋琢磨し、国を盛り立てるシステムになっているのだ。
国は、製紙印刷事業を手に入れるために、彼らを王子として迎え入れようとした。
カイト先生本人は不老不死を得なかったので王子にはなれず、ダーダン氏も断ったため、カイト先生が拾った子が一族の代表として王子となった。
そしてマオシェン商会を優先しつつ、製紙、印刷。
その後の醤油や酒の醸造事業なども、国の事業として広げていった。
おかげで、今、私は料理に必須の醤油と酒を手に入れることができている。
今はそこから、味噌、みりん、米酢なども醸造されるようになり、各国の『新しい食』に色を添えている。
「名代の方とは何度かお会いしたことがあるけど、今回の相手は店主様?」
アルが差し出した手紙を、私は受け取って開いた。
名前はよく知っている。
けれど、そういえば直接店主の方と会ったことはない気がする。
エルディランドの商業契約はアルに任せてあったし、報告が必要な時は第二王子であるグアン様がまとめてくださった。
野心がある人なら、大聖都の礼大祭後のパーティなどで挨拶してくると思うのだけれど、いつも代理の方だったし。
私が疑問を顔に浮かべたのが解ったのだろう。
「隻眼なんだよ。ダーダン様は」
「隻眼? 不老不死前からの?」
「後天的なものだって聞いた。
子どもの頃からのもので、そのまま不老不死になったんだろうな。
いつも眼帯をしている」
アルが説明してくれる。
「足もちょっと悪いって聞いた。
外見年齢は二十代後半くらいに見えるけど、いつも杖をついていた。
だから、ダンスとかはできなくて、あんまりマリカの前に顔を出してこないのかもな?
あ、商業契約に関してはいつも最前線に立っておられるけど。
ガルフ並か、それ以上のやり手だぜ」
「マリカ……もしや、この方も……」
「うん。私もそう思う」
手紙を覗き込んだフェイが、主語のない問いを呟いたので、私も同意の頷きを返す。
羊皮紙ではなく、植物紙に書かれた文字は達筆と言っていいレベル。
もちろん、ペンで書かれた共通語だ。
けれど最後の署名には、共通語の横に、エルディランドの精霊古語で名前と思しき文字が添えてあった。
すなわち、漢字。
これは多分、名乗り出だと思う。
自分は『神の子ども』であるという。
「この手紙の返事は、私が出すね。
クラージュさんとも連絡を取って、一緒に来てもらうから」
「頼む。
俺は今回は同行を遠慮する。
ほんとに『神の子ども』だった時に、色々面倒だしな」
「了解」
アルも、広義で言えば『神の子ども』だ。
大っぴらに公表することでもないし、他の『神の子ども』に告げて面会させるのは、良い面もあるだろうけれど、悪い点も多そうだ。
本人が嫌がるなら、強制するつもりはない。
三年前、初めてエルディランドに行った時、エルディランドは植物紙の生産シェアの百パーセントを占めていた。
けれど今は、アルケディウスを始めとする各国で製紙、印刷が行われるようになっている。
この世界には特許制度などもないから、知識は一度公開すればどんどん広がっていく。
異世界転生した――と、当時は思っていた――海斗先生を助け、見出し、育てたという店主。
王子として国務に入ることも期待されていたけれど、生涯商人であり続けたいという要望から、今も商業の最前線に立つエルディランド経済界の大物と聞く。
海斗先生は二度目の転生、ユン君に生まれた時、そのことを自分の一族には話していたようだけれど、ダーダン氏には話していたのだろうか。
後で聞いてみよう。
彼が本当に『神の子ども』だとしたら、私との面会に一体何を望んでおられるのだろう。
この星の、そして自分自身のこれからに、どんな思いを抱いているのだろう。
私は手紙を見つめながら、そんなことを考えていた。




