皇国 精霊神様との会話
魔王城での親子会見から数日後。
「なるほど。そんな展開になっていたのか……」
「はい。ですのでステラ様から、各国の精霊神の皆様には、今後についてご協力を仰ぎたいとのこと。
また、子ども達の受け入れについて良い案などがあれば、ぜひ教えていただきたい、との伝言を預かっております」
私はアルケディウスの神殿で、精霊神ラスサデーニア様と面会していた。
細かい事情の説明と、協力要請のためだ。
ここは疑似クラウドの中。
リオンは、アーレリオス様の精霊獣と一緒に先に大神殿へ戻っている。
カマラが外で護衛をしてくれていて、中にいるのは私とラス様だけだ。
「分かった。
何か思いついたら知らせるし、できる限り協力すると伝えておいて」
「かしこまりました。
……というか、皆様の方がネットワークで直通の連絡が可能なのでは?」
「まあね。
でも、僕達同士で話をしてしまうと、君達には伝わらないだろう?
だから、君を通した方がいいというステラの判断には同意する」
「そういう意図がおありだったのですか?」
「多分ね。
君の話なら、各国王も精霊神も素直に聞くだろうし。
僕としては、シュヴェールヴァッフェの案に賛成かな。
ステラの島にあまり多くの人を入れるのはどうかと思うけど。
必要なら、木の祝福を増やすし」
なるほど。
精霊神様達は疑似クラウドを通じて会談できるはずなのに、私に伝言を頼んだのは、私と各国王家の皆様の顔を立ててくださったということらしい。
本当に『神様』らしくないなあと、良い意味で思う。
優しくて、人間のことをいつも考えてくださって。
この星は、良い守護神を持った。
「それで、あいつとも和解できたんだ?」
「はい。
今はまだ少し顔向けできないけれど、近いうちに気持ちの整理をつけて謝罪に行く、とのことでした」
「カッコつけなところは変わらないなあ。
今更、気にするようなことでもないだろうに。
でも、まあ。楽しみに待っておくよ」
私の話に微笑むラス様は、なんだか楽しげだった。
そういえば、この方と『神』神矢君は年が近く、仲も良さそうだったと思い出す。
仲間の帰還は、やっぱり嬉しいのだろう。
「皆様、そんなに『神』のことを怒ってはいないんですね。
封印されておられたのに」
「ん?
怒ってはいるよ。
ただ、あいつを痛めつけたところで、失われた子ども達が戻ってくるわけではない。
奴の事情も分かっているし、反省もしたようだしね。
そこは精霊神として合理的に考える。
償いは、きっちりさせるけど」
「お手柔らかに、というのは私が言う台詞ではありませんが」
反省していなかったなら、きっちり締めるつもりだったとラス様はおっしゃる。
神々の事情に、私が首を突っ込む話でもない。
だから、そこは聞き流すことにした。
「それで?
『神』の息子は王都に戻ったのかい?」
「はい。
ステラ様は直通の通信鏡を持たせたそうです。
少し寂しそうではあらせられましたが」
レオ君こと、フェデリクス・アルディクスは、あの後、城の皆で送別会をしてから孤児院へ帰した。
ステラ様は勿論、弟分ができていたことを喜んでいた魔王城の双子やリグも、とても残念そうだった。
けれど連れ戻した時、孤児院の皆さんがとてもホッとした、嬉しそうな顔をしていたので、これで良かったのだと思うことにする。
デイジーちゃんは、特に。
レオ君の姿を見た途端に泣き出し、そのまま抱き着いていた。
そんなデイジーちゃんを、レオ君は優しく受け止めていた。
その姿が、とても印象に残っている。
父と母のいる魔王城ではなく、自分を受け止め、育ててくれた孤児院を、彼は今の居場所として選んだ。
それは、リオンが望んだレオ君の変化。
外の世界を見てきたことによる、彼自身の変化なのだろう。
今後は、少なくとも前のように『神』に、精霊として縛られ、ヤングケアラーをさせられることはない。
子どもらしく生きて、色々なことを学んで、そうして自分の未来を選択してくれればいいな、と思っている。
多分、いずれは大神殿か魔王城で、私達かステラ様の補佐という形になるのだろう。
でも、このまま平和な時が続くのなら、本当の意味で自由な進路を選ばせてあげることも可能かもしれない。
「とりあえず、話は分かったよ。
報告ありがとう」
ラス様はそう言うと、私の頭を撫でてくださった。
ふわりと宙に浮かんで、少し上から優しくなでなで。
ちょっと嬉しい。
「次に行くのは、ナハトのところ?」
「はい。アーヴェントルクです。
その後、エルディランド、ヒンメルヴェルエクト、フリュッスカイト、シュトルムスルフトの順で各国を回り、最後にアルケディウスでお祭りをして冬、ということになりそうですね」
「そうか。
大変だろうけれど、頑張って。
皆、楽しみにしているだろうから」
「楽しみにしていただけるだけの舞ができているかどうかは分かりませんが、全力を尽くします。
舞の後は、神殿に行った方がいいと思いますか?」
「そうしてやると喜ぶと思うよ。
必要なら、寝ている君の精神に夢で接続して語りかけることもできるけど、君が来てくれた方が嬉しいし、楽だしね」
「分かりました」
神様達の世界。
疑似クラウドは、言ってみれば電脳世界だ。
普通の人間には見えない、触れられない場所で、本来なら精霊石などの助けが必要になる。
今の私は精神的にも肉体的にも、疑似クラウドへのアクセス権を持つ、混じり合った存在だ。
けれど基本的に、自分の力だけで疑似クラウドへ入ることはできない。
呼ばれた時に来るだけ。
「別に、無理して入りたがることはないよ。
面白い場所では全然ないから」
「そうなんですか?」
「うん。
何も変わらない真っ白な世界。
向こうから持ってきた本を見るか、外の世界を覗くくらいしかすることがない」
「大変ですね……」
「前はね。
今はそれほど退屈していないよ。
子ども達が不老不死後の世界で生きやすいように仕事もしているし。
何より、君達の行動は面白いから」
それは、精霊神様達にいつも見られているということなのかな、と思う。
でも、気にしないことにする。
別に、見られて困ることは何もしていない。
……あ、そうだ。
「ラス様は、またローシャを作って一緒に来てくださる気はありませんか?」
私は、この機に聞いてみることにした。
七国の旅で、アーレリオス様と一緒に私を助けてくれたラス様の精霊獣ローシャ。
あの子も、ここ最近は姿を消している。
きっとアーレリオス様と同じ理由で、ラス様が引っ込めたのだと思う。
「『神』レルギディオス様が、大神殿の結界を緩めてくださったんです。
だからピュールも動きやすくなったと言っておられましたし、また来てくださると嬉しいんですけど」
灰色の短耳兎と一緒の旅は、とても楽しかった。
だから、ちょっと甘えてみたのだけれど。
「それは、とっても魅力的なお誘いだけど。
やめておく」
残念なことに、きっぱり断られてしまった。
「今は、たった一つの敵だった『神』が消えて、この星全体に敵がいなくなった。
父親と婚約者がいれば、君を害することができるものはほぼいないだろうし。
何より、これ以上舅や小舅が増えたらリオンが可哀想だしね。
アーレリオスも嫌な思いをするだろう」
「そんなことを気にするお二人ではないと思いますけど……」
「表向きはね。
でも、裏ではきっと、君との蜜月を邪魔されたくないと思っている。
だから僕はいいよ。
遠慮しておこう」
「そうですか……」
明らかにしょぼんとしてしまった私を、気遣ってくれたのだろうか。
「そんな顔をしないで。
君に何かあったら、何があろうとも吹っ飛んでいくからさ」
「何かなくても、来てくださっていいんですよ。
待っていますから」
「ありがとう。
そうだね。気が向いたら」
ラス様は、優しく慰めてくださった。
ありがたくて、嬉しい。
やっぱり、少し寂しくはあるけれど。
「じゃあ、そろそろお戻り。
アルケディウスの祭りを楽しみにしている」
「はい。ありがとうございます。
あ、最後に、少しいいですか?」
「何?」
「アーレリオス様に聞こうと思って聞きそびれたのですが……このアースガイアって、浮遊惑星なんですよね?」
私の疑問に素直な頷きが返る。
「そう。
特定の恒星に依存しない、浮遊自由惑星。
水だけは大量にあったけれど、恒星から光や熱が与えられないから、基本は真っ暗で、極寒だった。
ただ、地熱によるガスで一部が解けていてね。
そこに僕達が大陸を作って移住したんだ。
火山活動で地球に似た鉱物も生まれたし、地球から持ってきた金属元素も混ぜたりして、皆でテラフォーミングした、という感じかな」
「いじったのは、星の内部だけです?」
「そうだね。
星の軌道そのものには、手を入れていないと思うなあ。
もともと浮遊惑星は、他の星の重力圏を感じると磁石の同極みたいに離れていくみたいだし。
万が一のために、ステラが危なくないよう調整しているとは聞いているけれど」
ステラ様と同じことをおっしゃる。
「やっぱり、そうですよね。
じゃあ、あれは何だったんでしょう?」
「あれって何?」
「実は……」
私は『神』との会談の時に、彼が口にした言葉について知らせた。
とはいえ、芳しい情報は得られない。
ラス様も、首を捻るばかりだった。
「そんなことを、あいつが言っていた?」
「はい。
この星には天文学の概念が無いんですよね。
それは、ここが浮遊惑星で天体が固定しないからだと分かりました。
でも、少し気がかりで」
「分かった。
気にしておくよ。
何か分かったら教えてあげる」
「ありがとうございます」
「次はアーヴェントルクだろう?
ナハトにも聞いてみるといい。
あいつは生前、引きこもりの読書家で、SFをけっこう読んでいたらしいから」
「分かりました」
そうして、私は話を終え、外の世界へ戻った。
この時の雑談。
ほんの小さな問題提起。
それが後に起きる、星と、私の運命を動かす大事件の重要な手掛かりになるのだと。
この時の私は、まだ気付いていなかった。




