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魔王城 星の今とこれから

 親子の和解を見届けた後、私達はこれからのアースガイアについて、具体的な話し合いを始めた。


『私は当面、ステラに従ってこの星の維持管理を手伝う。

 交換条件は、可能な限り早く船に眠る子ども達を受け入れることだ』

「まったく未知の環境に放り込まれるのですもの。出来る限り、生活しやすい環境を整えてあげたいですね」


 十万人もの人が増えるというのは、想像以上に大きな出来事だ。

 一つの大きな市が丸ごと増えるようなものなのだから、食料や住居、生活基盤まで全て用意しなくてはならない。


「少しずつ、数名、数十名ずつ目覚めさせることは可能か?

 一気に万単位の人間が来れば受け入れが難しい。だが数十名ずつ数年かけてであれば、各国も十分目を配れるだろう」

『本当は一刻も早く起こしてやりたい。

 保存期間が長くなればなるほど、目覚めた後に記憶を失ったり、現実との乖離に苦しんだりする者が増える』

「むしろ記憶が無い方が、真っさらな気持ちで新しい環境に馴染めるやもしれんぞ」

「ですが、記憶を持っていてくれた方が助かる面もあります。

 向こうの世界の技術や知識を、マリカやラールさん、マルガレーテ様のように生かしてくださる方がいるかもしれませんから」


 この辺りは、本当に難しい問題だ。


 向こうの世界への思いが強すぎれば、「帰りたい」という喪失感に苦しむかもしれない。

 何しろ、『神』自身がそうだった。

 一方で、知識や経験を持つ子ども達がいれば、マルガレーテ様のようにこの世界へ新しい文化や技術をもたらしてくれる可能性もある。

 避難してきた地球移民は子どもが中心だから、即戦力となる技術者は決して多くはないと思うけれど。


「皇王陛下のご提案なのですが、子ども達をまとめて魔王城の島へ受け入れるというのはいかがでしょう?」

『魔王城の島? エリクス達がいる場所か?』

「あ、いえ。こちらです。『星』の島の方です。

 ……というか、エリクス達のいる魔王城の島って実際にはどこなんです?」

『座標で言えば、大陸の北。氷の大地の少し手前だ』


 この星全体から見れば、人類が暮らしている範囲は意外なほど狭い。

 星全体のおよそ三分の一ほどの海洋部に、大陸が浮かんでいる形らしい。

 ワカサギ釣りのように氷に穴を開け、その水上に大陸を乗せているような感じ、と言えば近いだろうか。


 空には人工太陽があり、大気圏内を周回しながら昼夜を作っているという。

 私はてっきり宇宙空間に浮かんでいるものだと思っていた。


「この星は浮遊惑星だから、特定の恒星の光や熱には依存していないの。

 その気になれば一年中同じ季節にすることもできるけれど、子ども達の体内時計を乱さず、持ち込んだ植物も育てやすいように、人工太陽と大陸に季節のプログラムを組み込んでいるのよ」

「基本的には春夏秋冬、大陸全体で同じように季節が巡る。

 だから私達がこの地に根を下ろした時、それぞれ故郷に近い気候になるよう調整した。

 ロシア生まれのラスは北に寒冷地を、インド生まれの私は南に常夏を作った、というわけだ」

「人工太陽は私の船の外殻を加工したもの。

 各国の大陸も、皆が乗ってきた宇宙船を融合させて作ってあるの。

 機関部だけは王宮や神殿という形で切り離したけれど……だから、物理的にはもう私達は宇宙へ戻ることはできないのよ」


 各国の細長い地形は、宇宙船だった頃の名残なのだろうか。

 ちなみに、各国の王宮には王族ですら知らないSFのような施設が残されているらしい。

 精霊石が城の内部にあり、さらに精霊神様の許可が無ければ入れない。

 今は精霊石が神殿へ移されたため、入ろうと思っても入れないそうだけれど。


「無色の精霊を加工する機能そのものは、大陸に住む人々の気力を源に動く全自動システムだ。

 おそらく精霊神がいなくなっても機能は続くだろう。封印されていた時のように多少出力は落ちるだろうが」

「『精霊神』って、人間へ継承させることは可能なんですか?」

「……可能ではある。

 だが、どうしてもの時以外はやりたくない。

 『神々』が暴走した時の危険性は、『神』が証明してしまっただろう」

「なるほど」

『納得するな!』


 ステラ様が私を後継者に選んだのは、それほどまでにシステム上重要な役割だからなのかな。

 でも、少し怖くもある。

 全てがナノマシンウイルスによる機械的な仕組みなのだとしたら、もし誤作動を起こした時はどうなるのだろう。

 だからこそ、それを管理する『精霊神』様が存在するのかもしれない。


『……ステラ。この星の軌道には、お前が介入しているのか?』


 突然、『神』がぽつりと問いかけた。


「え? 特にはしていないわよ。

 必要な出力が大きすぎるもの。

 一応、他の惑星や恒星の重力圏には近付かないよう設定しているはずだけれど」

『そうか……なら偶然か。

 ……いや、にしては……』

「何の話?」

『いや、私の勘違いだったのだろう。気にするな』


 意味が分からず子猫姿のステラ様が首を傾げる。

 タブレット越しの『神』は首を横に振った。


 私達にもよく分からない。

 なんとなく察したような顔をしていたのは……レオ君だけだった。


「レオ君、何か知ってる?」

「父上がお話しにならないことは言えません。

 僕も、はっきり分かっているわけではありませんから」


 つまり何か知っているのだろう。

 けれど、一度「言えない」と決めた精霊の口が堅いことは、私達もよく知っている。

 今は、話して貰えるその時を待つしかない。


「ちなみに、レルギディオス様の船はまだ宇宙船として動くんです?」

『十分な気力(ナトゥラム)精霊の力(ナノマシンウイルス)があればな。

 ただ、この地へ降りた時、機械中枢部が大陸中央へ落下して分離した。

 それを回収して組み込む必要はある』

「大陸の中央って……大神殿?」

『そうだ。

 泉があっただろう。

 あの泉は私の『精霊の力』を生み出す補助システムだ。

 他にも色々と機能があってな。

 修理が終わるまで誰にも見せず、管理AIと共に残しておくしかなかったので、その上に大神殿を建てた』

「アーレリオス様が以前、『大神殿を神に奪われたら詰む』っておっしゃっていたのは、そういう……」

「ああ。

 補助AIはリオンが破壊したようだから、取り込むのも簡単ではないだろう。

 だが、あれを取り戻されれば奴は宇宙へ帰ることができる」

「僕が数百年かけて直したのですが扱いがとても難しんです」

『宙へ戻るのでなければ、今すぐ必要なものではない。

 放置しておけ。大した害はない』


「大した害はない」ということは、少しは害があるということなんですか?

 思わず突っ込みたくなったけれど、とりあえず今は口を閉じておく。


「とにかく、一朝一夕で決められることではありません。

 新しい子ども達を受け入れるには、先達であるアースガイアの子ども達の協力が不可欠です。

 マリカ。これから各国を巡るのでしょう?

 その時に王家や精霊神の皆様とも話をして、意見を聞いてきてください。

 それをまとめて新年の会議で具体的に話を進め、数年を目安に受け入れ準備を整えましょう。

 それでいいわね、レルギディオス」

『ああ。

 千年近く待ったのだ。

 数年くらいは誤差の範囲だ。

 限界を超えた子が出たなら、その都度ラールやマルガレーテ達の所へ預ければいい』


「数人でしたら、魔王城やアルケディウスの孤児院でもすぐ受け入れられますから」


 これからは、各国と相談しながら移民の子ども達を迎える準備と、不老不死後の新しい社会づくりに全力を注ぐことになるだろう。


 特に食料の増産は急務だ。

 この三年間で、ほぼゼロから各国が自給自足できるところまで発展した。

 けれど、その先には十万人の子ども達が待っている。

 まだまだ、やるべきことは山ほどありそうだった。


 話が一区切りついたところで、ステラ様はレオ君へ視線を向けた。


「フェデリクス。

 貴方はこれからどうしますか?

 私は魔王城の島へ戻って、私の補佐をしてほしいと思っているのだけれど……」

「申し訳ありません。

 孤児院へ戻らせてください」


 レオ君――フェデリクスは、申し訳なさそうに首を横へ振った。

 少し意外な答えだった。


「ステラ様のお手伝いをするには、まだ僕には力も技術も足りません。

 もう少し孤児院で色々なことを学び、出来ることを増やしたいのです。

 どうか、お許しください」


 知識は転生者として十分に持っている。

 けれど身体は、まだ四歳の子どもだ。

 思うように身体を動かすことさえ難しい。

 だから彼は、まず孤児院で学びたいと言う。


「それなら……」


 それなら魔王城でも――。

 ステラ様はそう続けようとしたのだろう。

 けれど何かを察したように、静かに口を閉じた。


「分かりました。

 でも、こまめに顔を見せてちょうだい?

 マリカもリオンも忙しくて、最近はなかなか帰ってきてくれないの」

「はい。

 僕も母上に会いたいですから」

「あと、その子はどうしますか?

 与えた力をそのまま残すことも、貴方の力として戻すことも……星の輪廻へ還すこともできますよ」


 レオ君は、ずっと抱きしめていた犬のぬいぐるみをぎゅっと胸へ寄せる。


「この子を輪廻へ還すのは、もう少し待ってください。

 助けたつもりだった僕が、本当はこの子にずっと助けられていたんだと気付いたんです。

 彼が命を捧げて繋いでくれた未来を見せてあげたい。

 だから。

 僕が自立するまで、もう少しだけ一緒にいさせてください」

「この子? 輪廻?」

「分かりました。

 その子も、貴方の助けになりたいと願っているようだし。

 レルギディオスが抱えている『星』の子ども達も、不老不死後の世界が安定したら輪へ還す予定です。

 その時にでも、ね」

「ありがとうございます」


 少し気になる言葉が交わされたけれど、リオンがそっと私の背を叩いた。


 ――今は聞かなくていい。

 そんな意味だったのだろう。

 レオ君にとって、この会話はきっと、とても大切な時間なのだから。

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