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火国 プラーミァの大祭 前編

 今年の秋の大祭は、プラーミァから始まる。


 私は今年、七国すべての大祭に、最初から最後まで参加させていただくことになりそうだ。

 これまで神殿で行われてきた、祭りの始まりを告げる王妃や王女の舞。

 それを今年からは、『大神官』『聖なる乙女の舞』として、私が奉納する。


 各国王族にとっては晴れ舞台を譲ることになるのでは、と少し心配したのだけれど、どの国からも反対意見は出なかったという。


「色々な点で差があり過ぎるからな。お前がやってくれるのなら、それが一番確実だ」


 だそうだ。


 まず前日に神殿から各国へ向かう。

 王家へ挨拶を済ませ、そのまま宿泊。

 翌日は王宮で身支度を整え、馬車で広場へ向かう。

 特設舞台で舞を奉納し、舞が終わると同時に大祭が始まる。


 その日は着替えた後、王宮で歓談。

 翌日は図書館で各国の文官達と精霊古語の書物を読み解き、意見交換や技術交流を行う。

 最終日は大祭の締めくくりと、社交シーズン最後の舞踏会へ参加し、人々へ祝福を授けて終了。


 そんな流れだ。


「面倒ではあろうが、今回の大祭への参加は、其方らのお披露目のようなものだ。

 しっかりと『精霊神』様や各国の有力者達へ挨拶してまいれ」


 とは、お祖父様のお言葉だった。

 私は今回の大祭参加を、各国からの要請によるものだと思っていた。


 けれど本当の目的は少し違うらしい。

 私とリオンが結婚することで、大神殿に新しく生まれる『準王家』という存在を各国へ正式に示すこと。


 大神殿を取り仕切り、『神』へ仕える一族を確立させることで、私を巡る各国の利害を一致させる。

 そして、不老不死が失われたことで薄れ始めた『星』『神』『精霊神』への信仰を、私達と精霊の奇跡によって繋ぎ止める。

 それがお祖父様(君主方々)達から与えられた役目だった。


 信仰というものは、何だかんだ言って大切だ。

 人々の心の支えになり、生き方の規範にもなる。


 変な新興宗教が生まれ、人々の祈りや願い、やる気――つまり気力が奪われ、『精霊神』様達へ届かなくなってしまうのも困る。

 身を削りながら私達を見守ってくださる『神々』へ仕え、全力を尽くすことに異論はない。


 私は大神殿に仕えてはいるけれど、『神』だけではなく、『精霊神』や『星』も含めた『神々』全てに仕える巫女。

 そんな立場なのだと改めて思う。



 ――そういうわけで、やって来ました。

 プラーミァ。


 私は神殿の転移陣で移動し、そのまま王宮へ挨拶に向かう。

 神殿から王宮まではほんの短い距離。

 それなのに。


「うわっ! 凄い人!」

「ようこそ、『聖なる乙女』様!」

「ご結婚おめでとうございます!」


 沿道には、今まで見たこともないほどの人、人、人。

 明らかに以前より増えている。

 どうしてだろう。


 不思議に思いながら馬車の窓から手を振ると、歓声がさらに大きくなった。


「今回は、お招きくださいましてありがとうございます」

「うむ。よく来てくれた。待っていたぞ」


 いつものように、国王陛下自ら迎えに出てくださる。

 通信鏡では何度も話をしていたし、慰問の際にも挨拶は交わしていた。

 けれど、こうしてゆっくり向き合うのは、不老不死が終わってから初めてだ。


「今さらだが、あの騒動の時は力になれず、すまなかったな」

「いいえ。

 お父様、お母様、そして陛下を始めとするプラーミァの皆様が、私の死を望まず願ってくださったからこそ、『神々』は再び命を与えてくださったのだと思っております」


 そういえば、陛下は『星の夢』をご覧になったのだろうか。

 どこまで真実をご存じなのかな。

 国王陛下達には、私達の存在はどのように伝えられているんだろう。

 そんなことを考えながら、頭一つ以上大きい兄王様を見上げると、


「リュゼ・フィーヤ」


 兄王様は私を見下ろし、穏やかに微笑んだ。

 もっと小さかった頃は、すぐ抱き上げられていたけれど。

 流石にここ数年は、そんなこともなくなった。


「不老不死の解除については思うところもある。

 だが、其方を失わずに済んだ。

 それだけは、心から良かったと思っている」

「ありがとうございます」


 昔と変わらない優しい声。

 変わらない呼び方。

 それが少し、いやとても嬉しかった。


 一方で、晴れやかな国王陛下とは対照的に、控える貴族達の表情はどこか硬い。


 これはきっと――。

 私を生贄に捧げることへ賛成し、それが間違いだったと知った気まずさ。

 どんな顔で私と接すればいいのか分からない。


 そんなところだろう。

 まあ、私から何か言う立場でもない。

 本当に悪かったと思い、それでも私と向き合いたいと思いやってきたなら、その時に話せばいい。


「今日はいつもの部屋でゆっくり休むが良かろう。

 夕食はフィリアトゥリスが腕によりをかけて差配していた。

 楽しみにしているといい。

 十分に英気を養い、明日の舞へ臨め。

 『精霊神』のみならず、国中が期待しているのだからな」

「国中って……少し大げさでは?」

「いや、大げさではない。

 周辺の町や村からも、祭りと其方の舞を見ようと大勢が集まっている。

 近くの村など、祭りの日だというのに誰もいなくなっているほどだ」

「えっと……冗談ですよね?」

「私が冗談を言っているように見えるか?」


 楽しそうな表情のまま真面目な目を向けられ、私の頭からすっと血の気が引いた。


 本当なんだ。

 怖っ。

 いつの間に、そんなことになっていたんだろう。


「それに、不老不死が終わったことで、人々の考え方も行動も変わってきている

 特に下層の者達がな。少々厄介な行動力を発揮することが増えてきた」

「厄介な……行動力?」

「失うもののない者達が自棄になると厄介、という話だ。

 まあ、お前はあまり気にするな。

 いつも通り、お前はやるべきことをやって、暴れて帰ればよい」

「暴れるって何ですか?」

「お前が騒動を起こさず国へ来て、そのまま帰ったことがあるか?」

「ありますよ。何度も」

「さて、どうだったかな」


 失礼な。

 少し頬を膨らませてみせたけれど、兄王様はまったく気にした様子もなく、


「行くぞ」


 と顎で促す。

 私は苦笑しながらも後に続いた。


 アイトリア宮の内部構造も、もうすっかり覚えてしまった。

 私達の部屋は、いつもの王族居住区。

 お母様が昔使っておられた部屋だ。

 帰ってきたような安心感がある。


「ふう……」


 寝室のベッドへ腰掛け、大きく息を吐く。

 気が緩むと、それまで張っていた緊張も一緒にほどけていく。

 今回は短い滞在だから、フェイもアルも同行していない。


 女性の随員達は揃っているけれど、少しだけ寂しい。

 そして、この部屋へ来ると、どうしてもノアールのことを思い出してしまう。


「マリカ様、申し訳ありませんが、晩餐会のお支度のお時間です」

「分かっています。お願いしますね」


 ミュールズさんに促され、私は夜の支度を始めた。

 湯浴みを済ませ、衣装へ着替え、王宮の晩餐会へ向かう。

 久しぶりにゆっくりお会いするプラーミァの皆様との歓談。


 美味しい料理。

 その時間だけで、昼間の疲れはすっかり吹き飛んでしまった。

 今回はリオンにも私の婚約者として席が用意され、まるで夫婦のように遇されたことが、嬉しくもあり、少し照れくさくもあった。


 王太子妃フィリアトゥリス様も、いよいよ臨月。

 今年中には出産になるだろう。


「今度は女の子がいいのですが、ガルディヤーンは弟が欲しいと言っています」

「どちらが生まれても、楽しみであることに変わりはありませんけれど」


 お二人とも、本当に幸せそうだった。

 不老不死は終わった。

 それでも国王陛下はまだお若く、王太子は頼もしい。

 世継ぎにも恵まれ、家族仲も良い。


 プラーミァ王家は、これからもきっと安泰だろう。

 デザートのバニラアイスを口に運びながら、私はそんなことを思った。


 


 その夜。

 私は少しだけ期待しながら、寝台へ入る。

 プラーミァの『精霊神』様から、夢へ呼ばれることを。


 私の本当のお父さん。

 アーレリオス様の気配は、この国へ来てからずっとはっきりと感じている。

 国を守護する神として、強く優しい想いで、この国全体を包み込んでいるのだろう。


 それなのに、ピュールは姿を見せない。

 国に残っているはずの精霊獣達も同じだった。

 何だか、みんなにシカトされているみたいで、胸が少しだけもやもやする。


(結婚式の前に、一度ちゃんとお話ししたいなあ)


 そう思いながら、私はゆっくり目を閉じた。

 この気持ちは、きっと精霊神様へ届いているはずだから。


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