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第四十二話 吸血鬼の館


「誰だっていいよ。お前が誰だって」


――僕はお前が嫌いだから。


「ううん?釣れないなぁ…坊や。名前、なんていうの?」


歪な笑みを浮かべて、少女は一歩にじりよる。


「…お前みたいな怪物に教える名前はない」


「ふーーん。怪物ね。詐欺師君が気に入るはずね」


少女は一歩ヴェーゼンに近づく。


髪がヴェーゼンの頬に触れる。


わずかに鉄の匂いがする。


「ねえ。君の血はどんな味がするのかなぁ。

 魔法使いだから美味しい?ニンゲンだから不味いの?」


揺らめく赤い双眸、尖った犬歯。


つたない言葉のすべてが恐怖にとってかわった。


「…バーカ」


魔力も魔法も決して万能ではない。


しかし、”魔力の塊のようなもの”には致命的なダメージを与える。


「…詐欺…師」


少女はヴェーゼンをにらみつける。


そして、次の瞬間には糸の切れた操り人形のように膝をつく。


「…やっぱり弱い」


キフェルが言っていた通り、吸血鬼というのは弱かった。


何の感慨もないように剣を鞘におさめた。


そして、ヴェーゼンはキフェルとルシのもとへ駆け寄る。


「大丈夫か?」


ルシは、無言で目を開ける。


そして驚く様子もなく立ち上がる。


まるで最初から目が覚めていたかのように。


「…あぁ、なるほ――っ!ヴェーゼン!今何時?」


ルシは、焦ったように錆びかけの懐中時計を取り出す。


「…十九時…はぁ…」


ルシはそう呆れるように溢す。


そして、無造作に後ろを振り向く。


「あ、バレちゃった」


そこには何事もなかったかのようにたたずむ少女の姿が…。


「俺も聖女だからね吸血鬼のことぐらいは知ってるよ」


そして、ルシは座り込む。


「ルシ…大丈夫なのか?」


少し前、まるで吸血鬼のように這っていたルシとは思えない。


「…まぁね。俺も一応浄化つかえるし」


ルシは、少女を見つめつつ、


「…俺はルシ。お前は誰だ?」


「君は、そこの坊やとは違うのね」


少女は含みのある笑いを浮かべる。


「私は、クラシュピカ…最弱の吸血鬼にして元影の魔法使いの側近」


ヴェーゼンは息をのむ。


「…え?いや、六芒星って滅ぼされたんじゃないの?」


「五芒星?」


ルシの怯えたような声にヴェーゼンは首をかしげる。


「…聖書第百版第十一章一万三十六ページ第三節」


ルシは、何かを暗唱するようにつぶやく。


実際そうなのだろう。


「神敵と呼ばれた影。その五人の将…」


そう言われてもヴェーゼンには何のことかわからない。


「なんか強そうだな」


「なんかじゃないよ!強いんだよ」


すかさずルシがヴェーゼンにつっこむ。


「…彼女、吸血鬼ってのはね。夜の支配者って呼ばれてる」


「あら、それは私達にはもったいない称号ね」


ルシの途切れ途切れの声。


そこに、楽しそうなクラシュピカの声が入ってくる。


「もったいないじゃねーよ。不死身の分際で」


「あ、ルシが切れた」


それにしても不死身とはなんだ?


ヴェーゼンは腕を組む。


「…吸血鬼は夜は死なない。昼も普通に活動できる」


ルシがうんざりしたように言う。


「お前の説明が足りない」


「こんなの一般ジョーシキだよ!」


そうまくしたてるもののルシは肩をすくめて、


「ま、ともかくこいつは吸血鬼で影の幹部だったの!

 …昔、全員封印されたって聞いたけど」


「いやぁ、あんまりに封印が脆くてさぁ。夜は普通に外出できるよ」


首輪を指して言う。


それ封印なんだ。


「まぁ、ね?私にも格好ぐらいつけさせてよ」


ふっと、威圧感のある魔力で満ちる。


随分と掃除されていない部屋…分厚い埃が舞う。


「え、これ魔法か?」


ヴェーゼンがいぶかし気にいう。


ルシも同意とばかりに首を激しく立てに振る。


「そう、まぁ。幻影魔法の一種」


それだけ説明した後クラシュピカはヴェーゼンとルシそして倒れたままのキフェルに向き直る。


「さぁ、お客人。我らが館へようこそ。どうか…」


そこで言葉を切り、ぺこりと頭を恭しく下げる。


「…どうか、楽しんで」


下に向けられた表情はヴェーゼンにもルシにも見えない。


きっと、きっと微笑んでいるのだろう。


「では、ついてきて」


ルシが何かを言いかけるが、


間髪入れずクラシュピカが歩き出す。


ヴェーゼンが無言でキフェルの胸ぐらを掴んでひきずる。


広間を抜け、見覚えのない石造りの廊下を抜け、


やけにきれいな長いテーブルが中央にある食事処のようなところに出た。


「座って」


クラシュピカに言われるがまま、


ヴェーゼンとルシは食事処に向かい合わせになるように座る。


クラシュピカは主賓席に座り、そこに二つ開けて座るような構図だ。


キフェルはヴェーゼンの隣に座らせる。


「…何で此奴まだ気絶してるんだ?」


「毒でも回ってるんじゃね」


――キフェルがそれしきで気絶するとは思えない。


ヴェーゼンだけが違和感をぬぐえないまま心の中でうなる。


「さぁ、ディナーの時間だ。臨時参加の客人も増えたが…吸血鬼の館へようこそ」


妖艶な笑みと鋭い犬歯。


彼女が吸血鬼であることを再確認する。


「なぁ、クラシュピカ…お前は一体――」


ガチャ


「あぁ、親愛なる友(シェールアミ)。今宵の宴に招いていただいたこと。

 感謝する」


「いいのよ。”星降り”私と君の中じゃない」


足を組み、いかにも親し気にクラシュピカは男と話す。


豪奢なドレスがわずかに着崩れる。


「…こいつは誰?」


無遠慮にヴェーゼンが聞く。


正直、わかってるていで話を進められるのは都合が悪い。


「別に。特別なのではないわよ。ただ――」


ぺろりと舌なめずり。


各所に設えられた蝋燭がわずかに揺らぐ。


「ただ、彼が私の悪友ってだけ」


まるで…息が止まったようだった。


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