第三十三話 脱出は再会と
「…お~い。キフェルいるんだろー!」
ヴェーゼンは唐突に大声を出す。
やけに棒読みで違和感があった。
「うわっ!何で大声出したんだよ」
ルシが隣で文句をいうが気にしない。
ルシよりもキフェルの方がこの状況を脱するのに役立ちそうだと、
ヴェーゼンが思っただけだ。
「…何してんだよ」
不意にヴェーゼンの肩が軽くたたかれる。
その声は…
「キフェル!本当にいるとは思わなかった」
暗闇から出てきたキフェルにヴェーゼンは驚く。
それにキフェルは呆れたように、
「アホかよ。確証ねぇのにこんなとこくんな」
キフェルはそう言いつつも嬉しそうだ。
「ねぇ、キフェル。この人たちは?」
暗がりの奥から不思議そうな声が飛んでくる。
「旅をしてた仲間と部外者だ」
「俺部外者判定なの?」
心外だというようにルシが声をあげる。
考えてみればキフェルとルシはほぼほぼ初対面だ。
「…私はウルティオ―・ライン。以後お見知りおきを」
不気味な笑顔を貼り付けて、丁寧な自己紹介だった。
「…ライン?それって――」
ルシが青ざめたような顔で何かを言いかける。
しかし、諦めたように首を振り。
「まさかこんなとこにいるとは思はなかった」
そして、
「俺はルシ。聖女ルシだよ」
改まったように自己紹介した。
ルシでもこんな投げやりになることあるんだな。
ヴェーゼンは少しだけ感心した。
「ふーん。聖女様…そこの君は?」
ウルティオーは、ヴェーゼンに向けて話しかける。
「僕は…ヴェーゼンだ」
ウルティオーは、ヴェーゼンの顔をジーと見つた。
そして、手を打って納得したようにうなずく。
「魔法使いとは珍しい。久しぶりに出会ったね」
そして、そこらの地面に目を向けると何かを呟く。
地面を軽くなでると、白い骨が組みあがった。
「ほら、このフライハイト君以来だよ」
骨は何も言わない。
まるで人形のように。
「テメェ。死霊術師か?」
キフェルは驚いたようにこぼす。
確かに、こんな陰気臭いところに居たら、
死霊術の一つや二つ習得しそうなものだが。
「…ご名答。半径一キロメートルぐらいなら召喚できるよ」
そう当たり前のように骨とジャンケンしだした。
「オルデンと同じかよ…」
その瞬間ウルティオーは、
キフェルに飛びつかんばかりににじり寄る。
「キフェル!君、オルデン卿を知ってるのか?」
――オル…デン?
ヴェーゼンは首をかしげる。
そんな奴いたっけ。
「なあキフェル。オルデンって誰だ?」
困った時のキフェルだ。
しかし、キフェルはヴェーゼンの質問に、
呆れたように頭を掻く。
「はぁ、死霊術師の奴だよ」
その一言でヴェーゼンは思い出した。
白い街に来ることになった経緯を。
「あぁ、あのとぼけた奴か」
ヴェーゼンは思わず手を打つ。
すると、ウルティオーが少しだけむくれたように。
「先生をとぼけた奴呼ばわりは認めないよ!」
するとヴェーゼンは無表情で、
「実際とぼけた奴なんだからしょうがないだろ」
と言い切った。
「…これどうする?」
「知らねぇよ。俺様はこいつらのお守じゃねぇんだ」
ルシとキフェルが余計なことを言った。
しかし、そんなことを気にしている余裕はない。
「…キフェル君。私こいつと脱出なんてできないけど」
「僕の何が問題なんだ…?」
ヴェーゼンは首をかしげる。
見かねたルシが仲裁に入る。
「とにかく!ここから出てからどうにかしよ!」
その声は心なしか上ずっていた。
「それで?縄梯子もダメだったがどうすんだ?」
キフェルはさっそくウルティオーに聞く。
「縄梯子?」
ルシはキフェルに向かって尋ねる。
確かに、エレベーターがあるのに、
なぜ梯子が必要なのだろう。
「…整備員が昔使ってたんだって」
そして、すぐ近くの壁面に向かって歩き出す。
壁際に手を添え黒ずんだ場所をなでる。
「ずっと前に事故があってね。梯子が切れた」
端的に話すウルティオーの目は遠くを見ているようだった。
「それで?ほかに手段はあるのか?」
ヴェーゼンは聞いてみる。
答えるとは思っていなかったが。
「…私は知らないけどこの上の穴を通っていけば上の階には行けると思う」
ルシはそっと、縄梯子のあった上を見る。
かすかにランタンの明かりが灯っていた。
それでも、相当上であることに変わりはない。
「俺の身体能力ではたどり着けないね」
ルシはそう言って、地面に座り込む。
そして、ぽつりとつぶやく。
「俺の知る限りじゃここから出る手段は…ないな」
その顔には絶望だけが深く刻まれていた。
「エレベーターの復旧とかはできないのか?」
数分の思考の末ヴェーゼンはそう呟く。
それに一同は顔をあげる。
「…これを?」
ルシは数メートル先で大炎上しているエレベーターを見る。
流石にケーブルも焼け落ちているだろう。
「復旧…か。可能っちゃ可能だが」
キフェルは、ヴェーゼンを見つめて言う。
「数か月ここで飲まず食わずで生きられるか?」
彼の言葉は極めて真剣だった。
確かに、脱出の前に餓死しては元も子もない。
「あれ?じゃぁ、お前どうやって生きてたの?」
ルシはウルティオーに尋ねる。
聞く限りエレベーターも配給もないのに。
「ハハ、私も最近ここに来たばかりでさ」
見るからにはぐらかそうとしているようだった。
「神話を生きたのを師匠を持つのに?」
ルシの追及で黙る。
「やっぱり、あれは嘘じゃないのか」
フフ フフフフ
ルシが小さく笑いだす。
まるで、恐怖を押し込めるように。
「まぁ、君は後でどうにかするとしよう」
先ほどの笑いとは対照的にルシは言う。
その声はまるで別人のようであった。
「彼女が仮にそれならば脱出は容易だよ」
その答えにキフェルとヴェーゼンは息をのむ。




