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第三十二話 魔造技術と地下空間


地下牢のさらに奥、そこには観音扉があった。


ギィ


ヴェーゼンが軽くたたくが開く気配はない。


「…これなんだ?」


今まで見てきた度の扉とも違う。


それにヴェーゼンは戸惑う。


「知らない。大抵この辺にスイッチがあるは…ない?」


扉の側面をバンバンと叩くルシ。


カチ


「あ、これスイッチか?」


ルシが探していた壁とは反対方向の壁。


そこには確かにスイッチが存在した。


「ちょ、そこは俺が押すところだろ?」


「なんだそれ」


ルシが地団駄を踏むがヴェーゼンは聞かない。


ただ、生い茂ったツタの奥。


そこでほの暗く光るランプを見つめていた。


ポーン


そんな間の抜けた音が響く。


「へ?」


ツタやほこりを薙ぎ払うように扉は開く。


やはり階段だろうか。


正直、また下るのは嫌だと思うルシであった。


「とりあえず行くぞ」


扉の先に何の躊躇もなく踏み出す。


そんなヴェーゼンをルシは慌てて追いかける。




「箱――か?」


長方形の部屋だ。


壁にはハンドルが生えていた。


ランプは壁に埋め込まれ、やけに明るい。


「何か書いてるよ」


ルシは壁のツタを払いハンドルの上を指す。


二行ほどの文章だ。


「…僕、文字読めないんだが」


「…え?」


ヴェーゼンがまるで当然だというようにルシに言った。


「い、いやだって一般教養…」


ルシは何か言いかける。


しかし、ヴェーゼンの影の差した顔に口を閉じる。


「だからさ、通訳してくれないか?」


ヴェーゼンは無機質な文字列を軽くなでた。


そして振り返らずにルシに言う。


「…べつに、いいけど」


ルシは、ライターを構え膝をつく。


それだけで、白かった法衣は真っ黒だ。


「手動式エレベータの使い方――」


曰く、このエレベーターは教会の研究者が開発したものだそう。


曰く、付属のハンドルを回すことで上下移動が可能で。


「…これで降りられるのかな」


ルシは不安げにヴェーゼンに尋ねる。


当のヴェーゼンは、ハンドルを眺めていた。


鉄製の重そうなハンドルだった。


「まぁ、階段がないんだったらそうなんじゃないか?」


「それはそうだけどさ…」


ルシは不安げに装置を眺める。


「とりあえず戻ろ――」


そう言ってルシは扉に目を向ける。


閉まっていた。


「…戻れないな」


ルシを小ばかにするようにヴェーゼンが呟く。


「お、俺だって最初から分かってたし?別に帰りたかったわけじゃないからな!」


そう言ってルシはハンドルに手を掛ける。


「あ、ちょ――!」


ギギギィ


胃が浮くような感覚だった。


天井にたたきつけられたところで、


ヴェーゼンは気が付いた。


いま、この箱――エレベーターが高速で落下していることを。


「…!」


耐えがたい痛みとともにヴェーゼンは意識を失った。



ガラララララ


瓦礫の崩れる音がした。


「…ん?」


仄暗いランプだった。


ただ、それしか灯りはないはずだった。


「燃えてる…のか?」


煙たい空気に思わずむせこむ。


「…大丈夫か?ルシ」


ヴェーゼンは近くにいるであろう…ルシに問いかける。


「…」


返答はない。


「ルシ!」


炎の向こう、視界の悪いその先に確かにいるはずだった。


ヴェーゼンは体を起こし煙の彼方へと踏み出す。


「ゲホッゴホッ」


その先に合った光景にヴェーゼンは息をのむ。


エレベーターは横向きに落ちたのだろう。


扉はわずかに開いていた。


「…生きてる…よな?」


ルシの右足は瓦礫に挟まれていた。


白い肌は少しずつ血の気が失せていく。


ヴェーゼンはルシの足を魔力で保護しようと試みる。


しかし、それはかなわない。


魔法にもなれないただの魔力の塊はあまりに…強力であったから。


「う…ん?」


そのタイミングで、ルシが目を覚ます。


まるで、痛みなど全く感じていないように。


あどけなく。


「…あれ?何してんの?キフェル探しに行くんじゃないの?」


ルシは、動かない右足を不信がりつつそう尋ねる。


「いや、だってお前右足!」


「あぁ、コレ?慣れてるよ?」


間髪を入れない答えにヴェーゼンは少しだけ驚く。


だって、こんなの想定外で。


信頼できる人間がそんなこと言うなんて。


「それなら…別にいいか」


ヴェーゼンは、気にしないふりをする。


自分も、踏み込まれたくない過去というものがあるから。


「それより早く出るぞ。灰になるのはごめんだ」


そう言って、身をかがめる。


「あ、ちょ、瓦礫どかすの手伝えよ」


少し遅れてルシが現れる。


「…なぁ、ルシ」


ヴェーゼンは何かを見上げながらつぶやく。


「何?」


少し不機嫌にルシは返す。


ヴェーゼンは気にも留めず、


「キフェルってここにいると思うか?」


黒く、空虚な空間。


エレベーターの炎だけが灯りとなっている。


「…知らないよ」


見たところ、階段も梯子もないようで、


そもそも、空間の広さすらわからない。


「…キフェルがいればまぁ、何とかなると思うんだがな」


ヴェーゼンは空間に向かって呟く。


まるで、音が吸収されているみたいだった。


「結局人任せかよ」


ルシが服の裾をはたきながらつぶやく。


右足の動きは、少しだけぎこちなかった。

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