4 南国リゾート満喫
翌朝、水着に着替えて封鎖の解けた海に繰り出す。
砂浜にはカラフルなパラソルが、いくつも刺さっていた。
右を見ても左を見ても、水着のお姉さんがいっぱいだ。天国は本当にあったんだ。
「どうしよう。どの子から声をかけよう」
感極まり、口元を押さえる。
「人に迷惑をかけるなよ」
「というか、迷子になるから声をかけにいくな」
ガルとレヴィンに釘を刺される。
三人に視線を走らせた。ガルに擦り寄る。
「なぁ、一緒にナンパしにいかね?」
「断る」
「えー! ガルしかいないんだって。ヒョロガリとお子ちゃまじゃナンパは無理じゃん」
「オレとロランは、そんなに体型変わらないからな。オレがヒョロガリならお前も同じだ」
「僕のことお子ちゃまって言うけど、僕の方が筋肉あるからね」
レヴィンが片眉を跳ね上げ、ピノは肘を曲げて力こぶをアピールする。
「おとなしく砂で遊んでいろ」
ガルが腰に手を当てて、息を吐き出した。
「はいはーい! ロランのことは、僕が砂でムキムキにしてあげる」
ピノが片手を上げて、俺に詰め寄る。
寝転がるように指示をされた。横になるとピノは俺の体に砂を盛っては、手で押さえて固めていく。
「オレも手伝うわ」
レヴィンも俺の体に砂をかける。どんどん体が埋まっていく。
「ムキムキじゃなくて、ナイスバディにしてくよ」
「いいよ! 任せて」
ピノは胸へ重点的に砂を集めた。
「うわー、すげー。女の子の目線ってこんな感じなのか」
顎を引くと、胸に山ができている。
「下品な遊びをするな。レヴィンは股間に砂を盛るのをやめろ」
ガルが額を押さえて、苦言を呈した。
近くを通った女の子二人組が、こちらを見てふふっと笑った。なんだか知らないが受けたぞ。
「写真撮りたい」
「もうちょっと待って! くびれがないからナイスバディになれてない」
ピノは腰の砂を削っていく。表情は真剣そのもので、職人の目をしている。
満足いく出来になったようで、ピノは額を手の甲で拭って力強く頷いた。
ガルがカメラを覗き込んで、位置を決める。
俺の周りで三人がピースサインを作った。
「撮るからな」
魔法でシャッターを押し、写真を見せてもらう。
上半身はナイスバディだが、股間に盛られた砂が余計だった。
「レヴィン」
半目を向けると、レヴィンはいたずらっ子のように片方の口角を上げる。
「おー、いい写真だな」
レヴィンは写真を手に取って、ぶはっと盛大に吹き出す。それを手早くアルバムに貼り付けた。
「ねぇねぇ、誰が一番泳ぐの速いか競争しようよ」
一仕事やり終えて、砂遊びに飽きたピノが提案する。
「負けねーから」
俺は風で砂を浮かせて、立ち上がる。
海に向かって駆け出した時に、ガルから「いっ」と小さな声が聞こえた。
全員で立ち止まってそちらに目を向ける。ガルは顔の前で手を振った。
「たいしたことじゃない。貝殻を踏んで少し切っただけだ」
「見せろ」
レヴィンがすぐさま反応し、俺とピノでガルを座らせる。
ガルの足の裏には小さな傷があり、血が滲んでいた。
「砂がついているから、綺麗に洗うな。染みるかもしれないけど、海水よりはマシだろ」
水魔法でガルの足を洗い、砂を取り除く。
綺麗になると、レヴィンが治癒術を使った。傷は跡形もなく消え去る。
「たいした傷じゃないから、放っておいてもいいのに」
ガルは眉を下げて笑う。
「違うよ。そういう時は、ありがとうって言うんだよ」
一番下のピノに教えられて、ガルは目を瞬かせた後に表情を和ませる。
「そうだな。レヴィン、ロランありがとう。ピノも間違いを正してくれて、ありがとう」
よし、と俺たち三人は頷いた。
その後泳ぎの勝負をしたけれど、ガルが圧倒的に速かった。
小さな頃から部屋の中で魔術書ばかりを読まされていた俺が、敵うわけない。
十日間、南国リゾートを遊び尽くした。
浜辺で花火を眺めながら南国フルーツに舌鼓を打ち、海底探検ツアーで魚を間近で眺めたり。
ホテルで観光情報誌を広げて、次の目的地を決める。
「どこにいく?」
「船に乗るか? ちょうど港もある街だし」
ワクワクと声を弾ませるピノに、そう提案する。レヴィンが船旅を望んでいたから。
「船で行けるところは……」
ガルがページをめくって調べる。
「ここがいい。カジノ都市」
レヴィンが指を差して、目的地が決まる。
写真のなのカジノ都市は、夜でも煌びやかに街全体が輝いていた。
乗船手続きをして、船に乗り込む。大きな船の中は客室だけでなく、娯楽施設やショッピングを楽しめる店まであった。
甲板に上がる。
潮風が強く、髪が顔を隠す。邪魔で肩まである黒髪を一つに纏めた。レヴィンも長い銀髪を括る。
ヴォー! と大きな音を鳴らしながら、ゆっくりと出航する。
「お待ちください!」
大声に全員がそちらへ目を向けた。
宰相のおっさんが拡声器を手にしている。
「よく探せるな」
「でも船の上だから、もう追ってこれないよね」
「目的地はバレているだろうから、待ち伏せをされるのではないか?」
この船はカジノ都市にしか行かない。
「まっ、なんとかなるって。記念におっさん撮っとこ」
拡声器を構えて「巨大イカの退治をしてくださったのですよね?」と声を上げるおっさんをカメラに収めた。
「西ではドラゴンの被害がぴたりと止みました。これも貴方たちですか?」
どんどん小さくなるおっさんに手を振る。
「ありがとうございました」
拡声器を使って、やっと耳に届くほど離れていた。




