14 料理大会
「みなさま、本日は料理大会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。魂のこもる熱い料理の戦いを、どうぞお楽しみください」
時間になると司会者がステージに上がり、前口上で盛り上げる。
観覧席からは、歓声と拍手が湧いた。
「それでは本日の主役をご紹介いたします。予選トップで通過したのは、王族たちの食を支えた元宮廷料理人」
小柄なじーさんが小さく会釈をする。
その後も順番に紹介が続く。
「カジノホテルの総料理長。数多の客を唸らせてきた料理の達人」
「王都の老舗料理店を引き継いだばかりの、若き料理人」
「騎士宿舎の食堂を三十年支えてきた、騎士たちの胃袋の母」
「荒くれ者たちを料理で黙らせてきた、冒険者ギルド専属の料理人」
「珍しい食材を求めて渡り歩く流浪の料理人」
紹介された六人は、当然ながら全員が料理人だ。
最後にガルの紹介が行われた。
「剣聖は料理の腕も一流だった?! 魔王討伐を果たし、世界に平和をもたらした英雄ガル」
ガルが会釈をすると、一番の歓声が上がる。
俺とレヴィンも「ガル!」と名前を叫びまくった。
カメラのシャッターを押し、写真が吐き出されるとまた押す。
料理大会の説明に移った。決められた食材以外は自由で、オリジナルの料理を作るというものだ。
その食材はサンドロブスター。砂漠に生息する甲殻類で、この地域では馴染み深い食材らしい。
サンドロブスターが全員に配られる。
「それでは、料理を始めてください」
司会者が高らかに叫ぶと、全員がまだ生きているサンドロブスターを捌き出した。
「すげーな。全員、手の動きがわからないくらい速い」
視線を左右に走らせるが、全員迷いがない。
「ガルも負けてねーよ」
レヴィンは腕を組んで、得意げに笑う。
ガルは真剣な面持ちでサンドロブスターを捌いていた。砂を飲み込んでいるから、丁寧に内臓を取り出して身を洗う。下処理が終わると、野菜を切った。
すぐに野菜を炒める。
夢中になって眺めていたせいで、写真を忘れていた。慌ててカメラを構える。ガルを写したが、早すぎて手元がブレていた。
スパイスの香りやサンドロブスターを焼く香ばしい匂いがしてきて、美味しそうな匂いに包まれる。口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。
時間になり、全員が手を止める。
審査員席に料理が運ばれた。
下位から順番のようで、審査のトップバッターはガルだ。
ガルが作ったのは、サンドロブスターのあんかけだった。たっぷりの野菜と黄金色のあんがサンドロブスターに絡まり、見ているだけで腹が鳴る。
審査員が口に運ぶのを、顔の前で指を組んで見守った。
俺が作ったわけでもないのに、緊張で喉が渇く。
心音がドッドッと、耳元で鳴っているかのようにうるさい。
「サンドロブスターに甘みと酸味がマッチしたあんが絡んで、食欲が増す味わいですね」
「シャキシャキとした歯応えのある野菜が、サンドロブスターのプリプリとした食感を際立たせていますね」
審査員が咀嚼してコメントを残す。好感触に、レヴィンと顔を見合わせてハイタッチを交わした。
「美味しい! もっと食べたい」
ピノは顔を輝かせておかわりをねだったが、他の料理もあるからと断られていた。
「どんな賞賛の言葉より、あの美味しそうに食べる顔が一番伝わるよな」
「ああ、ピノに審査員をやらせて正解だったな」
ピノの写真も撮る。
ピノはフォークからペンに持ち替えて、何かを書いていた。ちゃんと審査しているようだ。
その後も順番に料理を食べ、審査員たちは料理の感想を告げる。
ピノは満面の笑みで「美味しい!」とはしゃぐ。料理人たちはみんなその反応を喜んでいる。
全ての料理を食べ終わると、審査員たちが席を外した。
その間に料理人たちが、全部の料理を味見していく。
グラタン、パスタ、スープ、リゾット、唐揚げ、カレーとガルが作った以外の料理も美味そうだ。
料理人たちは唯一同業者ではないガルの料理に興味津々で、真っ先にガルの料理に手をつける。
「どこかで修行をしたことは?」
「いえ、ありません。普段作っているだけです」
元宮廷料理人のじーさんに聞かれて、ガルは背筋を伸ばした。
「うちで働く気はないかい?」
カジノホテルの総料理長からスカウトを受けた。
ガルは目を大きく見開き、俺とレヴィンに目線を寄越した。
ガルが望むなら応援したいが、まだまだ一緒に旅は続けたい。二つの心が複雑に絡み合う。
ガルは総料理長に向き直って、深く頭を下げた。
ああ、ガルは行ってしまうのか。嫌だ! と叫び出してしまいそうな口を慌てて押さえた。
顔を上げたガルは、清々しい顔をしている。
「ありがとうございます。お誘い頂けたことは、私には勿体無いくらい光栄なことです。ですが、私が胃袋を満たしたいのは大勢の人ではなく、いつも支えてくれる三人なんです。私にとっての料理は、三人に食べてもらうことなので、辞退させてください」
レヴィンは目元を覆って空を仰ぐ。俺は目の奥が熱くなり、鼻を啜って頬骨を上げた。
審査員たちが戻ってくると、辺りはしんと静まり返る。
審査委員長が立ち上がり、全員が固唾を飲んで審査委員長の言葉を待つ。
「どの料理も素晴らしく、難しい審査でした。今大会の優勝者は、元宮廷料理人! おめでとうございます」
大きな拍手が会場を包む。
元宮廷料理人のじーさんが作ったグラタンは確かに美味そうだった。
ガルは五位。
入賞はできなかったが、晴れやかな顔をしていた。
大会が終わると、ガルは料理人たちに写真を一緒に撮って欲しいと頼み込む。快諾した料理人たちがガルの周りに集まった。
「ロラン、撮ってくれ」
「はいはい。わかってるよ」
浮き足立つガルは珍しく、俺は大会出場者七人の笑顔を写真に収めた。これもアルバムに貼り付ける。
レヴィンと先にホテルに戻り、しばらくするとピノとガルも帰ってきた。
「残念だったな」
「いや、全力を出したんだ。悔いはない」
「また次も出ろよ」
「もちろんだ」
ガルは奥歯に力を込めて頷いた。
「ピノはどれが一番美味しかったんだ?」
「全部に『美味しい!』って言ってたよな」
ピノは腕を組んで、うーんと唸る。
「決められないよ。本当に全部美味しかったんだもん。僕、全部に満点つけたよ」
「ちゃんと審査しろよ」
「その結果、全部が満点なの! 美味しくなかったら満点なんてつけないよ」
ピノは頬をぷっくりと膨らませる。
「決勝戦の賞品として、珍しいホテルの宿泊券を貰ったんだが泊まってみないか?」
「珍しいホテル?」
俺が聞けば、ガルが宿泊券をこちらに向けた。
俺たち三人とも、そこに顔を近付ける。
「空飛ぶホテル?」
「あっ! 僕ここ知ってる。スタンプがあるんだけど、全然予約が取れないから幻のスタンプって言われてるの!」
「いーじゃん! 幻のスタンプ、十個目にぴったりだな」
「明日の朝にオアシスに迎えにきてくれるらしい」
「じゃあ次は空飛ぶホテルで、優雅に空の旅だな」
予定が決まるのは、わくわくして楽しい。
「それはそうと、おっさん対策はどうする?」
「宰相殿も招待されていたぞ」
「じゃあまた一緒なのか」
「スカウトがなければ、楽しいおじさんなんだけどね」
顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
ガルに写真を見せた。料理人たちと並び、誇らしげに笑うガル。剣聖と紹介されていたけれど、ガルは俺たち専属の料理人だ。




