↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/18

13 おっさんと

 ホテルに戻ると、受付の壁に俺たちのサインが額縁に入れて飾られていた。

 これをおっさんに見られたら、ここに泊まっているとバレバレだ。

 サインを片付けることと、俺たちの居場所を聞かれても誰にも話さないことを頼み込んだ。

 サインを外すのは渋られたが、一緒に写真を撮って渡したら上機嫌で外してくれた。

 部屋に戻ってベッドにダイブ。


「これでおっさんには見つからないだろうな」

「のんびりできるね」

「おっさんの持ってくる仕事につく気なんてねーし」

「まだまだ、みんなで色んなところに行きたい」


 俺たちの意見は一致している。





 夜になってだらけきっていると、扉がコンコンとノックされた。


「ルームサービスか?」


 ガルが扉を開けると「約束通り来ましたぞ」とおっさんが顔を出す。約束なんて、全くしていない。

 ドアに体を滑り込ませ、おっさんが部屋に入ってきた。


「なんでここがわかったんだ?」

「街で聞いたら、すぐに教えてくれましたよ。皆様は有名ですから。受付に写真も飾ってありましたし」


 おっさんの言葉で顔を見合わせ、俺たちは受付まで駆ける。

 大きく引き伸ばされた写真が、壁を飾っていた。

 受付係が「すごくいい写真ですよね」と悪びれもなく笑う。


「サインを外すことに納得してただろ!」

「はい、サインは外しました。でも写真を飾ってはダメだと言われませんでしたよね?」


 受付係は図太かった。肩を落としてトボトボと部屋に戻る。何を言っても無駄だろうし、おっさんにはバレてしまった。

 部屋に戻ると、おっさんはテーブルに紙を並べていた。その紙の前に座らされる。


「今から、皆様に就いていただきたい仕事の説明をいたします。具体的なことを伝えていないから、皆様は拒否していたのですよね。ではまずはロラン様の魔術学園学長から説明いたします。一番上の資料を見てください」


 おっさんの説明は左耳から入って右耳から抜けていく。

 ピノはテーブルに突っ伏して、レヴィンは腕を組んで船を漕いでいる。

 ガルだけは姿勢を正しているが、時計をチラチラと確認していた。

 逃げることもできないし、どうしたもんかと考える。

 ……おっさんを酔わせて寝かせるか。

 グラスに酒を注いで、おっさんに差し出す。


「おっさんと飲みてーな。話は飲みながらでもできるだろ?」

「ロラン殿……」


 だからキラキラした目で俺を見るな。好感度が簡単に上がりやがる。

 ピノが体を起こして伸びをした。レヴィンは瞼を持ち上げて、ガルと酒を注ぎ合う。

 全員がグラスを持って「カンパーイ」とグラスを鳴らした。

 全員でグッと飲み干して、「おっさん飲めよ」とどんどん注いでいく。

 気分よく飲んでいたおっさんだが、徐々に目を潤ませて、とうとう泣き出した。


「うっ、……本当に皆様には申し訳ないと思っております。幸せになって頂きたい。安定した仕事を……」


 おっさんは喋っている途中で、テーブルに顔を埋めた。

 ガルがおっさんにブランケットをかける。


「おっさんや国の気持ちもわからんでもないけどさ」

「僕たちは求めてないって、何回言っても伝わらないよね」

「遊びたいだけだしな」

「良い方だというのは分かってはいるのだが」


 少ししんみりしてしまったが、空気を変えたくて再び乾杯をすると、グラスをあおる。





 酒を飲みすぎ、気付いたら朝だった。いつのまにか眠っていたようだ。

 頭も体も重く、ボーッと天井を眺める。


「オレ、もう酒やめる」

「はいはい、夜には飲むってわかってるから」


 レヴィンのお決まりのセリフに、ピノが腰に手を当てて頬を膨らませる。

 視線を部屋に巡らせると、ガルとおっさんもダウンしていた。


「もう! 世話をする人が一人増えたんだけど」

「申し訳、ございません」


 おっさんの声はか細い。


「みんな大人なのに」

「大人になるって、こういうことだ」

「それなら僕は大人になりたくない」

「いつも、迷惑をかけてすまない」


 プリプリするピノに、ガルがのろのろと起き上がって頭を下げた。

 ピノは全員に水を配ると「しょうがないな」と眉を下げて笑う。


「朝ごはんいる人?」


 ピノが聞くが、誰一人声を上げない。


「じゃあ僕は朝ごはんを食べてくるから」


 ピノは一人で部屋を出て行った。

 だらけきっていると、ピノはすぐに戻ってくる。

 顔を上げると、大きな袋を抱えていた。


「買ってきたのか?」

「うん。食べてこようと思ったけど、一人で食べてもつまんないし。みんなには二日酔いに効くジュースを買ってきたよ」


 ピノがテーブルにジュースを並べる。

 俺たちは緩慢な動きで席に着き、ピノは「いただきます」と元気に手を合わせてパンにかぶりついた。

 ピノの買ってきたジュースに口をつける。

 ドロリとしたジュースは、驚くほど苦い。自然と瞼が開く。必死に嚥下するが、喉の奥にこびりつくような違和感が残る。はっきり言って不味い。


「本当に効くのか?」


 まだまだ残っているジュースに目を向けて、顔が引き攣る。


「ジュースを売ってるおじさんが言ってたよ。風邪にも二日酔いにも夫婦喧嘩にも効くって。すごいよねー」


 一切の澱みない瞳でピノが言った。

 ……絶対に騙されてる。

 ピノが「みんな全然飲んでないね。効かなかった?」と眉を下げて口を引き結ぶ。

 俺たちは一気に煽った。ピノを悲しませるくらいなら、自分をも騙そう。


「すごく効きそうだ」

「今日は回復が早いかも」

「美味しかった」

「ピノ殿、ありがとうございます」


 おっさんまで、無理して飲んでいた。

 ピノは「よかった」と顔を綻ばせる。

 ピノはスタンプ帳を取り出した。


「あと一つでスタンプが貯まるな。楽しみ!」





 料理大会前日までは、街で買い物をしたり、美味いものを食べたり、四人でのんびり過ごした。観光できる場所はあまりない。

 たまにおっさんが部屋に来て、五人で楽しんだ。

 アルバムをパラパラとめくる。俺たち四人の次に、おっさんとの写真が多い。

 決勝戦前日になり、予選の結果が張り出された。


「あー、見るのが怖い」


 いつもピシッと伸びている背を丸めて、暗い表情のガル。


「大丈夫だって!」

「そうそう! ガルの料理は美味しいもん」

「早く見に行こうぜ」


 三人でガルを引っ張るが、重たくて早々に諦めた。魔法でガルを浮かせて、強制的に連れていく。


「ロラン、待ってくれ。心の準備ができていない」

「ガルを待ってたら、すぐに明日になっちまうよ」


 ガルの言葉は無視して、俺たちはレストランへ向かう。

 レストランの前に着くと、人がギュウギュウに集まっていた。あちこちから、落胆のため息や悔しい呻き声が聞こえる。喜びの声は全く聞こえない。

 人の波を掻き分けて、目の前までやってきた。

 張り出されている名前は七人。

 ガルは俯いている。


「おい、自分で見ろよ」


 魔法を解いて、ガルは自分の足で立つ。頼りない背中を思いっきり叩いた。


「痛いな」


 顔を上げてこちらに剣のある目を向けるが、深呼吸を繰り返して正面を見据えた。

 一番下に、ガルの名前が書いてある。

 ガルは口をぽかんと開けて固まった。

 三人で肩をポンと叩いて「おめでとう」と声をかける。ガルは唇を震わせ、泣き笑いの顔で「ありがとう」と返した。

 ホテルへ戻る途中で、ピノがジュースを売ってる露天を見つけて駆ける。

 俺たちはその後を追った。


「緊張に効くジュースってある?」

「ああ、あるよ。このジュースは陣痛にも緊張にも視力回復にだって効くんだよ」

「この前は風邪にも二日酔いにも夫婦喧嘩にも効くって言ってたよ」

「その通り!」


 ジュース売りのおっさんは、いけしゃあしゃあと頷いた。


「それちょーだ……むぐっ」


 買おうとするピノの口を塞いだ。


「ピノありがとう。情けないところを見せたから、私のために買おうとしてくれたんだよな。でももう大丈夫だから」


 ガルが笑い、ピノの口を開放した。ガルとピノは先に歩き出す。

 レヴィンがジュース売りのおっさんに顔を近付け、睨みつけた。


「今度騙したら、折るからな」


 背筋が寒くなるような、ドスの効いた声だった。


「折るって何を?」


 その言葉には返さず、レヴィンはピノとガルを追う。

 折るのは骨とか心だろう。


「もういい加減なことを言うのはやめとけよ」


 忠告をして、俺は三人に駆け寄った。





 部屋に入り、早速祝いの乾杯。明日に響くとまずいから、全員でジュースを飲み干す。


「ガル、スゲーじゃん」

「ありがとう。だが、最下位での通過だったな」

「こっから巻き返せばいいんだよ!」

「そうだな、頑張るよ」

「料理を食ったら、ガルが一番だってわかるさ」

「そうなるよう、全力を尽くす」


 ガルだけじゃなく、俺たちまでそわそわと落ち着かない。

 この日は早めにベッドに入ったけれど、なかなか寝付けなかった。





 翌朝、ガルに付き添ってオアシスの特設ステージに向かう。

 オアシスの上に板が敷かれ、そこに調理台が乗っていた。魔法使い四人で浮かせて、安定しているみたいだ。

 すでにちらほら人が集まっていて、受付でガルを見送ると、「すみません」と声をかけられる。

 料理大会のスタッフにこそっと声をかけられた。


「あの、英雄様たちのどなたか、審査員をやっていただけないでしょうか? 審査員が一人、間に合わないようでして」


 俺たち三人で顔を見合わせる。


「俺はパス。ガルの勇姿を収めるのに忙しい」


 カメラを取り出した。


「オレも無理。食べ慣れているから、ガルの料理を点数高くしそうだし。公平性に欠ける」


 ピノは片手をピンと伸ばした。


「はいはーい、僕やりたい。色々な美味しいものが食べられるってことでしょ」


 審査員はピノに決まる。


「ピノのことも写真に撮ってやるからな」


 ピノは審査員席に連れて行かれ、宰相のおっさんの隣に腰掛けた。俺とレヴィンは観覧席の最前列を陣取る。

 ステージの上で調理器具を眺めているガルにカメラを向けた。写真を撮ると、今度はピノにピントを合わせる。仕方がないから、隣のおっさんも一緒に写してやった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。