着せられた冤罪!極悪令嬢は夜闇を舞う。{後編}
チャールズ殺害から2日後。
真夜中のルナジェント王国西市街地にて、2つの影が正道には通らず、誰にも見つけづらい路地へと曲がり、そのまま縦横縦横と曲がって駆け出す、1人はもう1人の手を掴んで合流地点である例の建物の前へと向かっていた。
{大丈夫だ。この時間帯なら、騎士団の巡回は通り過ぎている、この隙に俺達はこの国から逃げ出さねば…。}
合流地点である建物の前には、行商人が使われている荷馬車が停車していた。周りには何人もの武器を携帯した男達が居る、彼等はある人物が雇った護衛の為の傭兵達だ。
2人は傭兵達と直ぐ様に合流すると、男は傭兵達のリーダー各に馬車の準備は出来てるか確認を聞き出す。
「待たせてしまった。馬車の準備は出来てるか?」
「既に終わっています、何時でも国外への脱出は可能です。」
リーダー格はニヤリと笑いながら荷馬車を見せる、既に御者担当の傭兵が座っていた。
「良し、騎士団に勘付かれる前に直ぐに出発しよう。」
もう1人の同行者である彼女の両肩を優しく掴みながら、彼は言った。
「大丈夫だ。例の逃走ルートを使って国を出れば、もう騎士団に追われる事はもう無い、俺達は自由の身だ。」
女は微笑みながら縦に頷くと、彼も微笑み返す、幸せそうな空気が生み出そうとした。
その時だった__
「っ!!」
男は素早く鞘から剣を抜き、放たれたそれを街道に弾き返す、一体何が放たれたのか男はそれを見た瞬間、驚愕した。
「翡翠色の扇子、百合の紋様!?ハッ!!」
扇子の紋様を見て男は直ぐ様に、目線を扇子が放たれた方へと向けると、街の影で隠されたか、1人の女の影が堂々と立っていた。
「__何処へ向かわれようとしてるのですか?まだ事が解決してはいないとはいえ、この様な夜更けの外出は、些か見逃せませんわね。」
「き、貴様、この私を誰と知ってて言ってるのか!?お前等ぁ!!」
1人の傭兵が笛を吹くと、建物の扉から多くの傭兵達が直ぐ様に駆け付け、現れた女に目を向ける。その数凡そ30人程。
「……騎士団の手先だ。其奴を殺せ!!」
『おうっ!!』
傭兵達は一斉に武器を構える。街頭の灯りがチカチカと照らされ、女は堂々と姿を現す。
「あ、ああ…。ま、まさか……。まさか!!」
男は目を大きく見開き、驚きを隠せずにいた。知っている、2日前に当邸に乗り込んで来たあの令嬢の顔を、鮮やかな青緑色の長き髪とエメラルドグリーンの瞳、そして愛色の深緑色の豪華なドレスと頭のティアラを着けた。あの令嬢を、彼は知っていた。
「ヴィクトリア家の、ルミナ嬢!?」
「ご機嫌よう、いいえ、この様な時間帯なのですから今は、今晩はと申した方が良いのかしら?ニコラス・ルーズベルト様。」
「なっ!?」
男はフードを取り、素顔をルミナに見せる、ニコラス・ルーズベルト、ルーズベルト家の次男にして殺害されたチャールズの弟だった。
「な、何故、貴女が此処に!?此処に来る事は誰にも知らされていない筈……。」
ニコラスの声が裏返る。隣に立つフードの女も、肩を震わせて一歩後ずさった。
ルミナは新たな扇子をゆっくり開き、口元を隠したまま、静かに歩み出る。
「知らされていない?」
翡翠色の瞳が、夜闇の中で冷たく光った。
「貴方が取調の後、ルーズベルト家の使用人に『今夜は外出禁止』と命じたこと。そして、其処の傭兵紹介所で護衛の傭兵達を雇い入れ、廃倉庫に隠した、逃亡用の荷馬車を手配したこと。――その全てを、私が知らないとでも?」
ニコラスの顔が青ざめる。
「……誰が、そんなことを……!」
「知りたいですか?では教えましょうか、チャールズ・ルーズベルト殺害事件の真相を。」
*
2日前。
騎士団本部内、遺体保管室。
冷凍保管されてたチャールズの遺体を、ルミナはチャールズの右腕を右手で掴み持ち上げて、じっと確認する。
「……。」
ルミナはチャールズの死因である撲殺された頭を調べる最中、後ろに立っていたアリッサは声かける。
「お、お嬢様、一体何を…。」
「アリッサ、今話しかけないで頂戴、真剣に集中してるから。」
「も、申し訳有りませんっ!!」
慌てながらアリッサは頭を下げて、ルミナに謝罪する。
「……クレア、確かチャールズは部屋の置物で撲殺されたのよね?」
「ん?ああ、鳥を模した彫刻を鈍器として使っての撲殺だが、それがどうしたんだ?」
「…そう、普通はね、殺す気でやるなら1発で仕留める筈よ。なのに何故。2度も殴られた跡が残ってるのかしら?」
アリッサとクレアは驚くと、クレアは直ぐ様にチャールズの鈍器で殴られた傷跡が残っていた。それを見た瞬間、クレアは新たな考えが思い浮かべた。
「ま、まさか。」
「ええ、察しの通り、チャールズを殺した真犯人は。『2人』よ。」
そう、チャールズを殺害した真犯人は1人ではなく、2人存在したのだ。ルミナは既に2人の犯人が誰か分かった様な、微笑みをしていた。
「ふ、2人?ではチャールズ様を殺害したのは一体誰と誰なのですか?お嬢様。」
「クレア、チャールズがエリーゼと婚約する前、誰か親しい女性はいないかしら?例えば、婚約破棄されたばかりの。」
婚約破棄と言う言葉に反応したクレアは、自分の頭の中でチャールズの今までの人間関係を探り始めると、クレアはある1人の人物の顔を思い出し、ルミナに伝えた。
「1人だけ心当たりがいる、その令嬢は浮気が原因で、その事を知ったチャールズは直ぐ様に婚約破棄をした。その令嬢の名は__」
*
ルミナは自身の推理で繋がった考察を、目前にいるニコラス達に、チャールズ殺害の真相と誰が殺害したのかを、ルミナは扇子をゆっくりと閉じ、夜風に髪をなびかせながら静かに口を開いた。
「では、チャールズ・ルーズベルト殺害事件の真相を、貴方がたに教えて差し上げますわ。」
ニコラスの顔が引きつる。隣のフードの女も、肩を震わせて一歩後ずさった。
「まず、貴方、ニコラス・ルーズベルト。弟として兄の婚約者に罪を着せるなど、随分と下賤な真似をなさったこと。」
「っ……!な、何を根拠に……!」
「根拠なら十分にありますわ。第一に、現場の血痕。後ろから不意打ちで殴ったにしては、血の飛び方が円を描きすぎている。あれは一度目の殴打、あちらは素人の彼女が行いましたわね、そして駆け付けた貴方がトドメとして、二度目の一撃を加えた証拠ですわ。どうしてか、お分かりですか?」
ルミナは一歩、また一歩と近づく。
「第二に、凶器の置物。大理石の鳥の彫刻。重さ約4〜5キロ。エリーゼほどの体格の女性が、あの体格の男性を一方的に二度も殴り殺すのは物理的に困難。現場に争った形跡がほとんど無かったのも、その証拠。」
「第三に、黄色いハンカチ。全体に血が染み込んでいるのではなく、片端に掌で強く押さえたような濃い跡がある。犯行後に『証拠』として置かれたものですわ。もうお分かりですわよね?一度の殴打の後、チャールズ様はまだ生きておられたのですよ。」
「!!」
ルミナは足を止め、続けて言った。
「ニコラス様、貴方のチャールズ様の殺害の目的は唯一つ、当家の跡目相続、エリーゼの恋愛事情から聞いたところ、チャールズ様は文武両道で近々王城の宰相補佐候補に入る程の逸材だったそうですわね。」
ルミナは一歩だけ踏み出す。
「あの日、チャールズ様の部屋で貴方と此方の彼女の目的の内容を、まだ息のあったチャールズ様は知り、怒れる彼は最後の力を振り絞ってニコラス様に抵抗した。貴方の右手の甲の擦り傷。爪で抉られたような線状の傷。あれは、チャールズが死ぬ間際に抵抗して付けたものでしょう?」
ニコラスの額が汗で光る。
「……っ!」
ルミナの視線が、隣に立つフードの女へと移る。
「そして、貴方がた。もう1人の犯人。」
フードの女がビクリと身を強張らせる。
「クレアが教えてくれましたわ。チャールズがエリーゼと婚約する前に、浮気が原因で婚約破棄された令嬢がいたこと。その名は――」
ルミナは扇子を摘み、フードの女に向けて投擲した。先程のニコラスから放たれたのよりも速く、扇子は女のフードに当たり、素顔が曝け出される。
「セシリア・ヴァンス。中級貴族ヴァンス家の令嬢。今宵ニコラス様と共にこの国を逃げ出そうとしている、彼女こそ、ニコラス様と共にチャールズ様を殺害したもう1人の真犯人ですことよ。」
フードが勢いよく跳ね上がる。中から現れたのは、髪を乱した20歳前後の金髪の女性だった。目は血走り、唇は震えている。
「……どうして……どうして知っているのよ……!」
「簡単なことですわ。ニコラス様が『兄上に他の女などいない』と断言した瞬間、貴方の右手の傷を見て反応した。そして、その傷の形が爪の跡に酷似していたから。」
ルミナはさらに一歩踏み込む。
「真相はこうですわ。セシリア、貴女がまずチャールズ様の元に訪ねに来た。理由は復縁以外無いでしょう、チャールズ様は貴女との復縁を認めず、逆上した貴女はチャールズ様が余所見してる隙に。後ろから置物で殴って昏倒させた。しかし死には至らなかった。そこでニコラスが駆けつけ、二度目の一撃を加えて止めを刺した。その後、ハンカチに血を付けて床に落とし、偽造した手紙でエリーゼを呼び寄せた。」
ニコラスが歯を食いしばる。
「理由は明白ですわ、セシリアが浮気した相手の正体、それは弟であるニコラス様、貴方以外におりませんことよ。」
ニコラスの顔が引きつる。セシリアは両手で口を押さえ、肩を激しく震わせた。
「チャールズ様は、自分の弟と元婚約者が関係を持っていたことを、死ぬ間際に知った。だからこそ、最後の力を振り絞って貴方の手を掴み、あの傷を残した。そして貴方は、兄を殺し、証拠を捏造し、エリーゼに罪を着せた。跡目相続のため、そして――自分の汚れた関係を隠すため。」
ルミナは扇子をゆっくり閉じ、二人を交互に見据えた。
「実に、下賤ですこと。」
「……っ、うるさい!!」
ニコラスが叫んだ。声は裏返り、焦りと恐怖が混じっている。
「貴様に何が分かる!兄は何でも出来た!文武両道で、宰相補佐候補まで話が上がっていた!俺は影でしかなかったんだ!セシリアも、兄に捨てられたくせに、俺のところに擦り寄ってきただけだ!だが――」
彼は剣を構えたまま、後ろの傭兵たちに振り返った。
「だが、もう終わりだ!貴様など、ここで消してしまえば問題無い!野郎ども!殺れェェェ!!」
「おうっ!!」
30人近い傭兵が一斉に動き出す。剣、槍、斧、短弓。路地の両側から影が溢れ、ルミナを取り囲んだ。
セシリアは恐怖に顔を歪め、ニコラスの後ろに隠れた。
「や、やって……あの女を……早く殺して!」
「ぶっ殺せぇ!!」
ルミナは周囲をゆっくり見渡した。月光が翡翠色の髪を銀に染め、ドレスの裾が夜風に揺れる。表情は変わらない。ただ、口元に薄く、嘲るような笑みが浮かんだ。
「……まあ30人。前回より少し増えたようですわね。」
袖の中から、黒い金属の光沢が滑り出る。両の拳に、ヴィクトリア家の紋章を刻んだ籠手が嵌まる。金属が噛み合う音が、静かな夜に乾いた響きを立てた。
「わたくし、手加減が苦手なのは、もうご存知でしょう?」
「うおおおっ!!」
最初の傭兵が斬りかかった。
ルミナは一歩も下がらず、右腕を上げた。剣が籠手に弾かれ、火花が散る。そのまま半歩踏み込み、右拳が男の鳩尾に沈んだ。革鎧が凹み、男は無言で後ろに飛ばされた。壁に叩きつけられ、動かない。傭兵達は驚きを隠せずにいた。
「次。」
2人の傭兵が左右同時から斧を横から振るう。ルミナは身をわずかに捻り、左の斧の柄を掴んで引き寄せ、同時に右の斧を籠手で受け流す。引き寄せた男の顔面に膝が跳び入り、鼻骨が砕ける音が響くと共に倒れる。もう1人は回し蹴りで側頭部を捉えられ、その場に崩れ落ちる。
「ゆ、弓だ!弓で射て!」
傭兵の誰かが叫ぶ。5本の矢が同時に放たれた。ルミナは回転した。前回と同じように。ガントレットが矢の軌道を叩き、逸らし、そして最後の1本を指先で掴み取り。そのままその矢を、射手の1人の太腿に突き返す。悲鳴が上がり、男が膝をつく。
「……練習不足ですわね、正々弓の勉強をし直したらどうかしら?」
残りの傭兵が距離を詰める。槍の穂先が四方から突き刺さる。ルミナは1本を掴んで盾にし、別の槍を弾き、踏み込ませ。拳が連続で沈む。腹に、顎に、脇腹にへと。金属と肉がぶつかる鈍い音が、路地に連続して響いた。
10人。15人。20人。25人と。
傭兵達の列が、みるみる薄くなっていく。
この光景を見ていたニコラスは後ろずさりながら、セシリアの腕を掴んだ。
「い、行こうセシリア!こいつは化け物だ!この隙に馬車で逃げて――」
「あら?逃げるおつもり?」
声が、すぐ背後からした。
ニコラスが振り返ると、既にルミナが立っていた。息は乱れていない。ドレスにはほとんど汚れがなく、髪すら乱れていない。ただ、籠手の表面に、わずかな血が付着しているだけだった。あり得ない、30人もいた傭兵達がたった1人の令嬢の手によって全員を。
「何処へ向かわれるとおっしゃいましたかしら。国外逃亡、でしたわね。無駄ですわよ、仮に私から逃れたとしても、其々の逃走ルートにはもう王宮騎士団が待機してありますわ、逃げ場はもうありませんわよ。」
ニコラスは剣を振り上げた。
「く、来るなァァァ!!」
斬り下ろす。ルミナはそれを片手で受け止めた。刃が籠手に食い込み、金属が軋む音を立てる。そのまま、剣をへし折った。
折れた刃が地面に落ちる。
「全く、無力ですこと。」
次の瞬間、ルミナの右拳がニコラスの腹に入った。男は大きくのけぞり、荷馬車の側面に叩きつけられた。木材が軋み、馬車が傾く。
セシリアが悲鳴を上げる。
「や、やめ……!お願い、許して……!私は……私はただ、チャールズに……!」
「復縁を求めて殴り、殺し損ね、弟に止めを刺させ、無実の私の友人に罪を着せた。」
ルミナはゆっくりとセシリアに歩み寄る。ヒールの音が、石畳に冷たく響く。
「それを『ただ』で済むと、本気で思っていましたの?」
セシリアは膝から崩れ落ち、地面に両手をついた。
「許して……お願い……家名を……!」
「家名?」
ルミナは扇子を取り出し、パチンと開いた。口元を隠し、翡翠色の瞳だけでセシリアを見下ろす。
「貴方が汚したのは、家名だけではありませんわ。チャールズ様の命。エリーゼの未来。そして――」
扇子を閉じ、セシリアの顎を軽く持ち上げた。
「わたくしの大切な友人を、傷つけたこと。」
セシリアの顔が蒼白になる。
「ヴィクトリア家の掟は、3つ。守るべき者を傷つけた者には、相応の報いを。権力を笠に着て弱者を踏みにじる者は、その権力ごと叩き潰す。そして――」
ルミナの声が、夜闇に静かに落ちた。
「ヴィクトリアの名を侮辱する者は、何者であろうと、この世から消す。」
その瞬間、路地の入り口から複数の足音が近づいてきた。松明の光が揺れる。騎士団の制服を着た者たちが、一斉に現れた。先頭に立っていたのは、金髪をきっちりとまとめたクレアだった。
彼女達騎士団が駆け付けたか、ルミナは自分の役割を果たし終えるかの様に、闇夜の中から消え去って行った。
*
後日談。
事件から早くも1週間が経った。
翌朝のヴィクトリア邸のルミナの自室にて、朝早く起きた彼女はベッド近くの椅子に座りながら、アリッサが用意した食前のモーニングティーを静かに啜り飲む。
「い、如何でしょうか?」
「__……45点、まだまだ未熟ね。」
「やったあ!」
評価が少し上がって調子に乗って喜ぶアリッサ、しかし喜びの束の間、無言の威圧の籠もった睨みでアリッサを見つめると、我に返ったアリッサは慌てながらルミナに謝罪する。
「も、申し訳有りません!!」
「アリッサ、評価が上がったからと言って、余り調子に乗らない事よ。」
「い、以後気を付けます!…そ、それはそうとお嬢様、あの後はとても大変で御座いましたね…。とくにエリーゼ様、釈放されてからは部屋に籠りっきりで落ち込み続けてるらしくて。」
「致し方無いわ、愛し合ってた婚約者が殺されて平気でいられる人間がいると思って?」
ルミナはテーブルに朝刊を手に取り、アリッサに手渡す。
「今日の朝刊の注目記事、ニコラスとセシリアの判決が決定したわ。読んでみなさい。」
「は、はいっ!え、えっと、何々…。中級貴族ルーズベルト家長男、チャールズ・ルーズベルト殺害の主犯である次男、ニコラス・ルーズベルトは近親殺人罪と偽証罪で懲役刑45年。同じく中級貴族ヴァンス家長女、セシリア・ヴァンスは共同正犯の容疑で懲役22年。両名は家名を剥奪と同時にエベレス鉱山にて採掘囚人として労働刑に処す。」
アリッサが読み終えると、ルミナはカップを置き、窓の外を見た。
「妥当な判決ね。死ななかっただけ、幸運だったと言えますわ。」
「……あの、お嬢様。エリーゼ様は、その後いかがなのでしょう。釈放されてからも、部屋に籠りっきりで……。やはり一度くらいはお見舞いに__」
「駄目よ。」
はっきりと駄目と答えるルミナ。彼女の表情には厳しさがあった。
「仮に今、私がエリーゼの元を尋ねたところで彼女の心の傷が治るの?生憎だけど、時間だけが、心の傷を治すしか方法が無いのだから。後はエリーゼの意思次第よ。」
「……お嬢様、そ、そうですね、エリーゼ様ならきっと。」
一瞬だけ、ルミナの表情が悲しく見えていた。この時のアリッサは察した。主であるルミナが極悪令嬢とは思えない程にエリーゼの事をとても大切な友人として意識していたのだと。
事件後。
ルーズベルト夫妻は、殺人の冤罪掛けられたエリーゼに謝罪し、慰謝料としてクライン家に金貨500枚を支払ってくれたそうだ。
特にチャールズとニコラスと言う2人の息子を事件で失い、悲しみに満ち溢れたベアトリス夫人はあの後、ニコラスの罪の責任を自ら背負い、貴族の身分を捨て教会に入り修道女になったそう。恐らく夫人はもう2度と、王国の貴族社会に戻る気は無いのだろう。
だが彼女は違った。
極悪令嬢ルミナ・ヴィクトリアは過去と言う名の後ろを振り向かない、後悔も、未練も、何もかも、彼女はその先を突き進むのだ。
「アリッサ、本日の予定は?」
「は、はいっ!本日の午後2時にて、旦那様と共にアドルフォ家との」
「お父様ったら、また下らない見合いの予定を勝手に、まあ良いわ、少し早いけど支度ををなさい。」
「畏まりました。」
一度失えば二度と戻らない。
エリーゼがまた何時もながらの元気と笑顔を取り戻し、自ら、自分の前に現れる心の中で祈った極悪令嬢であった。




