復讐の同窓会!極悪令嬢は罪を裁く!{中編}①
女性用化粧室の周辺には未だに野次が集い続けているにも関わらず、室内では、王宮騎士団団長であるクレア・フォンアルトを始めとした数人の騎士達が、亡くなった被害者の身元を確認していた。
「亡くなったのは身元は誰か分かったか?」
クレアの右隣にいる、記録係の騎士団員はメモを取りながら答えた。
「あ、はい、被害者はロザリーナ・ガネット。下級貴族ガネット家の次女。死因は胸を『鉤爪』による数回の斬撃での斬殺死です。傷口は鋭く、深く、一度で致命傷を与えるほどの力です。出血量から見て、ほぼ即死と判断します。」
クレアはしゃがんだまま、床に広がる血溜まりと、壁に書かれた血文字を交互に見つめた。
『亡霊は蘇った。次に狙うはお前の番だ。』
文字は乱れておらず、むしろ丁寧すぎるほど整っている。犯人は落ち着いていた、あるいは……慣れていた。
「鉤爪、か。……獣の爪か、それとも人工的なものか。」
「まだ分かりません。ただ、普通の刃物ではこの傷の形は付きません。3本、あるいは四本の爪が同時に抉ったような跡です。」
その時、化粧室の入り口で人垣が揺れた。
「通してください。……はい、私です。」
翡翠色の長髪を持つ令嬢が、静かに人をかき分けて入って来た。扇子を握ったままのルミナ・ヴィクトリア、隣にはカトレア・フレイローズが。
クレアは立ち上がり、溜息混じりに彼女を見た。
「……またお前か。ルミナ。今回ばかりは『また勝手に動くな』とは言えない状況だが。」
「ご機嫌ようクレア、と言いたい処ですが、この現状を見て流石に……言葉が出ませんわね。」
ルミナは扇子をゆっくり閉じ、床に広がる血溜まりと、壁に丁寧に書かれた血文字を交互に見つめた。翡翠色の瞳に、いつもの嘲りの色はなく、ただ冷たい観察の光だけが宿っている。
カトレアが隣で腕を組んだまま、殺された人物が誰なのか、低く呟く。
「見覚えがあるな、確か、ヴァニラ嬢の友人の__」
『此方です!ヴァニラ様!!』
マチルダに先導され、現場へと駆け付けるヴァニラは。何者かの手によって殺害されたロザリーナの死体を見て絶句する。
ヴァニラの足が、血溜まりの前で止まった。
橙色のドレスの裾が、わずかに血を吸い、黒く染まる。彼女の瞳が大きく見開かれ、唇が震える。取り巻きのマチルダが背後で小さく悲鳴を上げた。
「……ロ、ロザリィ……?嘘よ……こんなの、嘘よ……!」
ヴァニラがよろめきながら一歩前に出る。膝が折れそうになり、マチルダが慌てて支える。
クレアが低く命じた。
「近寄るな。現場を荒らすな。証拠が消える。」
「証拠……?私が親友の死体を見て、何をしろって言うのよ!」
ヴァニラの声が裏返る。怒りと恐怖が入り混じった叫びだった。周囲の令息令嬢たちがざわめき、人垣がさらに厚くなる。
ルミナは静かに扇子を開いた。翡翠色の瞳が、ヴァニラの顔と、床に広がる血、そして壁の血文字を交互に捉える。
「……クレア。傷口を見せて頂けますか。」
「お前に見せてどうする。」
「鉤爪の跡、とおっしゃいましたわね。本数と角度を確認したいのです。」
クレアは一瞬だけ躊躇したが、やがて小さく頷いた。彼女はロザリーナの遺体にしゃがみ込み、慎重に胸元の傷を指し示した。
「3本……いや、4本だ。同時に抉っている。深さが均一で、一度の一撃で心臓近くまで達している。普通の人間の腕力では、ここまでの深さは出ない。」
ルミナは扇子で口元を隠し、傷を凝視した。
「……人工的な鉤爪、ではありませんわね、この傷。」
「どう言う事だ?まさか素手で殺したと言うのか?」
クレアはこれは武器ではなく、素手での殺害だとルミナに聞き出すと、彼女は続けて答えた。
「クレア、彼女の切り裂かれたドレスの胸の部分の生地を近くで御覧なさい。」
ルミナは扇子を閉じたまま、ゆっくりとロザリーナの遺体に近づいた。
クレアが邪魔をしないよう一歩退く。翡翠色の瞳が、切り裂かれたドレスの胸元を正確に捉えた。
「……見てください。この生地、見た目とは合わずに荒っぽいですわよ。」
ルミナは扇子の先端で、あえて触れずにドレスの裂け目を示した。
クレアが目を細めて近づく。
「……本当だ。表地は絹に見えるが、裏側の織りが粗い。安物の混紡だ。」
「ええ。高級に見せかけて、実際は安価な生地。しかも……ここ。」
ルミナはロザリーナの殺害の元となった傷を指差した。
「傷が大きい、まるで大柄な人間が行ったやり口ですわ、例えるならそうですわね。アストン・ヴォーゲンの様な『大柄な人間』が行えば実質可能ですわ__」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ…。それってつまり、アストン様がロザリーナを殺したと言いたいの!?ふざけないで!!」
ヴァニラの絶叫が化粧室に響き渡った。
マチルダが慌ててヴァニラの腕を支える。周囲の令息令嬢たちが息を呑み、視線が一斉にルミナとヴァニラに集中した。アストン本人はまだ現場に到着していない。
クレアが低く警告する。
「声を抑えろ、エバンズ。現場はまだ保存中だ。」
「抑えろですって!?私の親友が殺されたのよ!?しかもこの女が『アストン様がやったみたい』なんて言い出して……!」
ルミナは扇子をゆっくり開き、口元を隠したまま静かに答えた。
「あら?誤解なさらないでくれませんこと。私は一言も『アストン様が犯人だ』とは断言していませんわ。ただ、傷の深さと大きさから見て『大柄な人物の腕力で可能』と指摘しただけです。貴方がすぐに『アストン様』の名前を出したのは、ご自身の心の中で一番可能性を感じていたからでは?」
「なっ……!」
ヴァニラの顔が一気に真っ赤になる。反論の言葉が出てこない。
カトレアが腕を組んだまま、低い声で口を挟んだ。
「ルミナ。そこまででいいわ。今は証拠を優先しなさい。」
「ええ。」
ルミナは扇子を閉じ、クレアに向き直る。
「クレア。もう一つ確認させて。ロザリーナの右手と左手、どちらに防御傷がありますか?」
クレアが再び遺体にしゃがみ、慎重に両腕を確認する。
「……左手の甲に、浅い裂傷が2本だけある。右手にはほぼ無い。背後から急襲された可能性が高いが、一瞬だけ左手で庇おうとした跡がある。」
「なるほど。では、犯人は被害者の右側から接近した可能性が高い、ということですのね。」
ルミナは壁の血文字を改めて見つめた。
『亡霊は蘇った。次に狙うはお前の番だ。』
「『亡霊』…。」
文字の書き順を目で追い、ルミナは思った。まるで誰かが何者かの『亡霊』として蘇った言い分だと。
*
ルミナ達は令嬢達と共に騎士団の指示で議堂内に待機する事となり。野次となってた者達はルミナとカトレアを含めて化粧室から撤収し、廊下内を歩いていた。
移動の最中、ルミナはヴァニラらの様子を調べる。被害者のロザリーナの友人であるヴァニラはマチルダに支えられながら、未だに友人の死に泣き続けて歩いていた。
{あの様子からして、ロザリーナ・ガネットを殺害したと言う根拠は疎か、度胸はありませんわね。}
その時、廊下から慌ただしい足音が近づいてきた。
「ヴァニラ!何があった!!」
副騎士団長補佐候補にしてヴァニラの婚約者であるアストン・ヴォーゲンが駆け付けて来た。ヴァニラは直ぐ様に心配するアストンに抱き着き、泣きながらロザリーナの死を告げた。
「アストン様っ!ロザリーナが、ロザリーナが殺されたの!」
彼の視線が、顔から血の気が引いた。
「……ロザリーナが、殺されだと……?」
「アストン様っ!!」
泣きながらヴァニラが駆け寄り、彼の腕にすがりつく。
「この女が……ルミナ・ヴィクトリアが、アストン様がロザリーナを殺したみたいな言い方をしたのよ!!」
アストンの顔が一気に歪む。怒りと困惑が入り混じった表情でルミナを睨みつけた。
「貴様……!また俺に難癖をつけるつもりか、ヴィクトリア!」
アストンの怒声が廊下に響き渡った瞬間、周囲の令息令嬢たちが一歩後ずさった。
ヴァニラは彼の腕にすがりついたまま、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらルミナを睨みつけている。マチルダは背後で小さく身を縮めていた。
ルミナは扇子をゆっくり開き、口元を隠したまま静かに応じた。
「……難癖、ですか。私はただ、傷の深さと大きさから『大柄な人物の腕力で可能』と指摘しただけですわ。貴方がすぐに『俺が疑われている』と感じたのは、ご自身の心が1番よく知っているからでは?」
「っ……!貴様……!」
アストンが一歩踏み出そうとした瞬間、カトレアが間に入り、静かにアストンの前に立った。
「アストン・ヴォーゲン。ここで暴れるつもり? 親友を殺された婚約者の前で、さらに騒ぎを大きくするつもりなの?」
カトレアの紅い瞳が、冷たくアストンを射抜く。彼は一瞬だけ言葉を失い、歯を食いしばった。
「……カトレア様。この女が俺を犯人扱いしたんです!黙っていられるはずがありません!」
「私は貴方を犯人扱いなどしていないわ。ルミナは『可能性』を述べただけ。それを『難癖』と受け取るのは、貴方が自分で自分を疑っている証拠よ。」
アストンの顔がさらに赤くなった。ヴァニラが彼の袖を強く握りしめる。
「アストン様……!私、怖いの……。ロザリーナが殺されて、私どうしたら…。」
アストンの表情がわずかに強張った。彼はヴァニラの肩を抱き寄せ、低く言った。
「大丈夫だ。俺が必ず守る。誰が何と言おうと、俺がお前を守る、騎士として命を懸けて。」
その光景を、ルミナは扇子の陰から静かに観察していた。
翡翠色の瞳に、嘲りの色はなく、ただ冷静な分析の光だけが宿っている。
アストンがヴァニラを抱き寄せ、低く誓う言葉を口にした瞬間、廊下の空気が一瞬だけ止まった。
周囲の令息令嬢たちは息を潜め、ただ2人を見つめている。ヴァニラは彼の胸に顔を埋め、肩を震わせていた。マチルダは背後で小さく俯いたまま動けない。
ルミナは扇子をゆっくり閉じた。翡翠色の瞳が、アストンの顔と、彼がヴァニラを抱き寄せる腕を、冷静に観察している。
「……守る、ですか。」
静かな声だった。だが、その一言に、アストンの肩がわずかに強張った。
「何だと?」
「先ほど、貴女は『騎士として命を懸けて守る』とおっしゃいましたわね。では伺います。ロザリーナ・ガネットが殺されたとき、貴方はどこにいらしたのですか?」
アストンの顔が歪む。
「貴様……今、俺を疑っているのか!?」
「疑っている、とは一言も申しておりません。ただ、事実を確認しているだけです。犯人は鉤爪状の傷で胸を抉り、血文字を残して去った。犯行時間は、パーティーが最も盛り上がっていた時間帯。貴女がその時間にどこにいたのか、ただそれだけを尋ねているのです。」
カトレアが低く口を挟んだ。
「ルミナ。今は尋問の場ではないわ。クレア騎士団長が正式に事情聴取を始めるまで、勝手に動くない方が良い。」
「ええ。分かっていますわ。ただ、記憶が新しいうちに『アリバイ』を確認しておくのは、無駄ではないでしょう?それとも、腹の中に何か包み隠してる物でもあるのかしら?」
アストンは歯を食いしばり、ヴァニラを庇うように一歩前に出た。
「俺は……その時間帯、議堂内で友人ら数人と食事をしながら話をしていた。証明できる。証人だっている!」
「そうですか。では、後でクレアにその証人の名前を伝えてくださいませ。私はただの『興味』で聞いただけですもの。」
ルミナはそう言い残し、扇子を開いて口元を隠しながら、先に議堂内へと戻って行った。
歩く最中、翡翠色の瞳の奥で、既に幾つかの可能性が整理され始めている。
{アストン・ヴォーゲンのあの様子からして、ヴァニラ同様に殺害に関与されていないみたいですわね…。ですが__}
ルミナは、アストンがロザリーナが殺された事を知った瞬間、一瞬だけヴァニラから目を逸らした事を思い出す。
{単なる、無関係とは、言えませんわね__}
*
パーティーに戻ると、同期生達は何事なのかとざわついていた。ルミナが最初に戻って来る。
「ルミナ!」
友人であるレイナ・フォルクスとエリーゼ・クライン。そしてルミナの側近メイドであるアリッサ・レストが駆け付けて来た。
「大丈夫!?何があったの!?化粧室で人が殺されたって噂が……!」
エリーゼが青ざめた顔で声を上ずらせる。レイナは腕を組んだまま、冷静な目でルミナを観察していた。アリッサは息を切らしながら、主の服に血が付いていないかを確認するように視線を走らせる。
「……無事よ。私は何もしていないわ。」
ルミナは扇子をゆっくり開き、口元を隠したまま、ロザリーナが何者かの手によって殺害された事を3人に話した。翡翠色の瞳はすでに冷静さを取り戻している。
話を終えると、3人の表情が一斉に強張る。
「鉤爪……?人間の仕業なの?」
レイナが眉をひそめる。
「傷の深さから見て、普通の刃物ではない。人工的な鉤爪か、あるいは……それ以上のもの。クレアはすでに現場検証を始めている。私達は議堂内で待機を命じられたわ。」
アリッサが小さく息を呑む。
「お嬢様……また、巻き込まれてしまいましたね。あ、でもそれじゃあ、この後行われる舞台劇はどうなるのでしょうか?あんな事があった以上、やっぱり中止に__」
「いや、舞台劇は予定通り決行する」
後から駆け付けて来たカトレアが、はっきりと繰り返した。紅い瞳に迷いの色はない。
「我がエンディミオン学園に伝わる恋愛悲劇『ジュリオとロミーナ』。演劇クラブの卒業生達が毎年演じる、伝統の演目だ。ロザリーナの死で会場が騒然としている今だからこそ――中止すれば、犯人の思う壺よ。動揺を抑え、視線を舞台に集めさせる。それが今、私達に出来る最善策。」
ルミナは扇子をゆっくり閉じた。
「……なるほど。観客の注意を一点に集中させ、犯人の次の動きを誘う、というわけね。」
「ああ、それにだ。演目の出演陣も裏方を勤める進行役、舞台装置担当など、全員がこの学園の卒業生だ。犯人は必ずその中にいるか、少なくとも会場内に潜んでいる。舞台が始まれば、視線は一点に集中する。その隙を突いて次の動きを見せるはずよ。」
カトレアの紅い瞳が、議堂内をゆっくりと見渡した。すでに椅子が円形に並べられ始め、舞台装置の一部が搬入されている。
ルミナは扇子を軽く開閉しながら、静かに頷いた。
「……承知しましたわ。では、私もその『観客』の1人として、静かに観察させてもらいます。」
「頼むわ、ルミナ。貴女の目は、何時も私より鋭いから。」
カトレアが小さく息を吐き、周囲の同期生たちに声を上げた。
「皆さん、お聞きください。本日の伝統演目『ジュリオとロミーナ』は、予定通り開催いたします。ロザリーナ・ガネット嬢の訃報は誠に痛ましいものですが、ここで中止すれば、犯人の思う壺です。皆で舞台を見守り、静かに故人を偲びましょう。」
ざわめきが一時的に収まる。令息令嬢達は互いに顔を見合わせ、やがて静かに席へと移動し始めた。
ルミナはアリッサ、レイナ、エリーゼと共に、議堂のやや後方の席に腰を下ろした。翡翠色の瞳はすでに舞台ではなく、周囲の人々の反応を冷静に追っている。
舞台上には既に、何人もの裏方の元演劇クラブの者達が劇の準備をしていた。小道具、背景、設備、装置の確認など其々、
舞台の光景を見ていたアリッサは、隣に座っているルミナに『ジュリオとロミーナ』と言う劇の内容を聞き出した。
「あの、お嬢様、1人のメイドの立場上、私もこの劇のお話は知ってるのですが。内容が分からず仕舞いで、教えて頂けませんでしょうか?」
「あら?アリッサったら、主たるこの私に教養を学びたいと言うのかしら?」
ルミナは扇子を開き、舞台を見上げながら、アリッサに劇の物語の内容を語り始めた。
「来たる半世紀程前の昔の話よ、物語の舞台はヴェロニカ王国の都市が1つ『ロンダルキア』。其処には2つの貴族の名家が対立し、血みどろの戦いを繰り広げ続けていたわ。主人公は『キュリオス家』が令息ジュリオと『モンターナ家』が令嬢ロミーナよ。」
舞台の準備が進む様子を眺めながら、ルミナは静かに語り続けた。
「キュリオス家の令息ジュリオと、モンターナ家の令嬢ロミーナ。両家は長年の確執で争い続け、息子と娘は決して結ばれてはならない運命だった。だが二人は仮面舞踏会で出会い、互いに名も知らぬまま恋に落ちる。……ここまでは、どの王国にも伝わるありふれた悲劇ね。」
アリッサが小さく頷く。隣のレイナとエリーゼも、耳を傾けていた。
「問題はその後よ。ロミーナは両親の決めた政略結婚から逃れるため、偽の『死の薬』を飲む。ジュリオは彼女が死んだと信じ、自ら命を絶つ。ロミーナが目を覚ました時には、既に遅かった。……両家はようやく和解するが、残されたのは2人の亡骸だけ、というお話。」
「……悲しいお話なのですね。」
「そうなのよアリッサちゃん!」
すると、今にでも泣き出しそうな涙目で感激したエリーゼは、ハンカチを目元に押し当てながら続けた。
「学園の頃、演劇クラブが毎年これをやるたびに、私、毎回泣いてたの……!ロミーナが目を覚ましてジュリオの亡骸を抱きしめるシーン、もう……だめ、思い出しただけでまた……!」
レイナが呆れたように肩をすくめる。
「エリーゼ、まだ始まってもいないのに泣くのは早いでしょう。それに今回は、 演劇クラブの卒業生が本気でやるから、いつもより本格的よ。照明も音響も、学園時代よりずっと凝ってるはずよ。」
「うん、うん、分かってる…。」
物語の結末を知ったアリッサは、悲しげな表情をしながら、
「でも、流石にこれは悲し過ぎます。とは言え、劇の内容を聞いてみると、本当に実際してたお話みたいですよね。」
「当然よ、これは実話を元にしてるのだから。」
「ええっ!そうなのですか!?」
アリッサは驚くと、エリーゼは説明した。
「知らないの?私ね。『ジュリオとロミーナ』を書いてくれた今は亡き原作者。ウィリアムス・シェイク先生の読書愛好家でもあるのよ。特に実話を物語にしてるのは先生の実際にあった人生を元になってるの、特にこの『ジュリオとロミーナ』の物語にはね。『別の結末』があるの。」
「『別の結末』ですか?」
アリッサが目を丸くする。隣のレイナも、珍しく興味深そうに身を乗り出した。
エリーゼはハンカチを握ったまま、声を潜めた。
「表向きの結末は、2人が死んで両家が和解する悲劇。でも、シェイク先生の遺稿には……もう1つの終わり方が書かれいた説があるらしいの。『偽の薬』に飲んだのは実はロミーナではなくジュリオだったとか、はたまた2人同時だったり、結末で死んだ2人は実はまだ生きてて他国に駆け落ちしたって説もあるのよ。」
何か思い出したレイナは、ある事を話した。
「そう言えば、何年か前にそんな話題が一時期あったわね…。シェイク先生の遺稿が発見されたとか、噂だけが先行して、結局公式には否定されたはずよ。」
レイナが腕を組んだまま続ける。
「でもね、完全に消えたわけじゃないの。一部の読書家の間では『本当は2人とも生き残って、別の国で生きていた』という結末の方が支持されてるみたい。悲劇で終わらせたくない人が多いのよ。」
エリーゼがハンカチを握りしめたまま、目を輝かせる。
「そうなの!私、その説が大好きなの。だって……2人が死んで終わりなんて、悲しすぎるもの。もし本当に駆け落ちして、静かに幸せに暮らしたなら……。」
「夢想は結構ですわ、エリーゼ。」
ルミナが扇子を軽く開閉しながら、静かに遮った。
「今は『物語の結末』よりも、現実の死体の方が重要ですことよ。ロザリーナ・ガネットは鉤爪のような傷で胸を抉られ、血文字を残されて死んだ。犯人は『亡霊は蘇った』と書いた。……亡霊、ね。」
アリッサが小さく身を縮める。
「お、お嬢様……その『亡霊』って、まさか本当に……。」
「霊的な存在ではないでしょう。誰かが『亡霊』を名乗っている、あるいは『亡霊』として扱われていた人物が関わっている、という意味ですわ。」
ルミナの翡翠色の瞳が、舞台の方へ向けられた。
すでに照明が落ち始め、観客席のざわめきが徐々に収まりつつある。カトレアが舞台袖で進行役の卒業生と何やら話し合っているのが見えた。
「……舞台が始まるわね。」
レイナが低く呟く。
「カトレアの狙いは分かる。視線を一点に集中させて、犯人の次の動きを誘う。だが、逆に言えば――犯人もそれを利用する可能性がある。」
「ええ。だからこそ、私は『観客』として、舞台ではなく周囲を観察しますわ。」
ルミナは扇子を閉じ、 椅子に背もたれに体を預けた。
舞台の幕が、ゆっくりと上がり始める。
*
照明が落ち、大講堂に静寂が訪れた。
舞台上には、ヴェロニカ王国の街並みを模した簡素なセットが組まれている。中央に立つのは、ジュリオ役の男――かつての演劇クラブ副部長で、現在は王都の小さな劇団に所属しているという卒業生だ。銀髪を後ろで結び、白いシャツに黒いマントを羽織っている。
「……今夜、仮面の下で出会った君の瞳を、私は忘れられない。」
彼の声が、大講堂に朗々と響く。
隣に立つロミーナ役の女は、淡い青のドレスをまとい、長い金髪を肩に流している。学園時代は地味な存在だったが、今は清楚な美貌を保っていた。
観客席から、小さなため息が漏れる。
ルミナは舞台をほとんど見ず、 主に周囲を観察していた。
アストンとヴァニラは、議堂の左前方に座っている。ヴァニラはまだ時折肩を震わせ、マチルダがハンカチを渡している。アストンは腕を組み、舞台を見つめるふりをしながら、時折ルミナの方へ鋭い視線を送っていた。
ギルバートは右寄りの席で、いつもの優雅な微笑を浮かべたまま、隣の令嬢たちと小声で話している。だが、その銀の瞳は時折、舞台ではなく廊下の入り口を窺っていた。
カトレアは舞台袖に消えていた。進行を統括しているのだろう。
すると、ルミナは突然と視線をアストンの元へと戻す。
左前方に座っていたアストンの元に1人の使用人の男が四つ折りのメモを彼に渡し、アストンはメモ内容を、目に通した瞬間、表情が明らかに変わった。驚き、焦り、そして――何かを隠している者が見せる、あの特有の強張り。
使用人が耳打ちを終え、アストンはヴァニラに短い言葉を残して席を立った。
「アストン様、何方へ?」
「大丈夫だ。直ぐに戻るから…。君は気にせずに劇を観ていてくれ。」
そう言い残すと、彼は議堂の出口へ向かった。何処かへと向かった。
その様子に気付いたのは、ルミナだけではなかった。
「あれ?今出てったのってアストン様よね?どうしたのかな?」
エリーゼが小声で尋ねる。
レイナは腕を組んだまま、アストンの背中を追いながら低く答えた。
「意外にもしかしたら食べ過ぎのせいで、お腹を壊したんじゃないのかしら?ルミナもそう思うでしょう。」
ルミナは扇子をゆっくり開き、口元を隠しながら答えた。
「ええ、そうですわね。これが単なる。腹痛だったらの話ですけれど。」
しかし、10分近く経過しても、アストンが席に戻る気配は無かった。隣に座っているヴァニラは心配しそうな表情をしているも、言われた通りに劇に目線を向けている。
エリーゼは目を煌めかせ、劇に夢中になりながら、ルミナ達に伝える。
「もうそろそろあの名場面が、出て来る所よ!」
「お、お嬢様。その、あ、あの名場面とは一体?」
アリッサはルミナに聞き出すと、彼女は答えた。
「舞踏会の後、互いに恋したジュリオとロミーナの2人は周囲の目を盗み、貴族街外れのにある霊園の教会に忍び込み、ジュリオの募る想いを爆発させ。それを聞いたロミーナが声をかけ、互いは宿敵同士の家系であると知りながらも、強い愛と永遠の忠誠を誓い合う。これが名場面の1つよ。」
「流石はルミナ、伊達にこの名作の事を知らない筈が無いわね。」
レイナは不器用な褒め言葉をルミナに告げるも、ルミナはそんな事を気にせず黙りと、劇を見上げる。
舞台が暗転し、背景が舞踏会場から教会へと変わって行く。舞台上から罪人が磔られた十字架がゆっくりと下ろされ、舞台横から祈る聖母像が設置される。
薄暗い照明の中、ジュリオ役の男が跪き、ロミーナ役の女が彼の前に立ち、愛の言葉の台詞を告げる。
「君の名を知った瞬間、私は両家の確執など、塵のように感じた。ロミーナ……君を愛している。この命が尽きるまで。」
ロミーナ役の女が、震える声で応える。
「私も……ジュリオ。たとえ世界が敵に回ろうとも、貴方の側にいると誓います。」
2人の手が重なり、観客席から小さな吐息が漏れた。
エリーゼがハンカチを強く握りしめ、目を潤ませている。
その時だった。
照明が光だし、十字架の方を中心に明るくなった瞬間、観客達のざわめきが響き始めた。
それは無論、ジュリオ役とロミーナ役の2人もその様子に気付いたか、一旦劇の進行を止めると十字架の方を振り向いた瞬間、ロミーナ役が額を青ざめ悲鳴を叫んだ。
「きゃあああああっ!!!」
十字架には何者かの手によって、磔られた血塗れのアストン・ヴォーゲンの姿があった。
胸には芝居用の木剣が深く突き刺さり、顔は鉤爪のような傷で無残に抉られている。血が黒いマントを伝って舞台床に滴り落ちていた。
「……アストン様……?」
ヴァニラの声が、枯れきったように漏れた。
次の瞬間、彼女の絶叫が議堂を突き抜けた。
「アストォォォン様ぁぁぁっ!!」
マチルダが慌ててヴァニラを支える。観客席が一斉に立ち上がり、悲鳴と悲鳴が重なり合う。ジュリオ役とロミーナ役の2人は顔を蒼白にして後ずさり、舞台袖からカトレアが飛び出してきた。
「全員、動かないで!騎士団を呼べ!今直ぐに!」
カトレアの怒声が響き渡る中、ルミナは席からゆっくりと立ち上がった。
扇子を閉じたまま、翡翠色の瞳で十字架上のアストンの遺体を凝視する。
{……鉤爪の傷。ロザリーナと同じ。だが、木剣は後から刺された可能性が高い。これは見せしめだわ。}
「おい!誰か来てくれ!舞台裏に誰かが不気味な落書きをしやがった!!」
舞台袖から、裏方の1人が血相を変えて駆け出してきた。彼の手には、ペンキのような赤い液体が付着している。
カトレアが即座に反応した。
「何だと!?詳しく話せ!」
「舞台裏の壁です!大きな文字で……血みたいな赤い文字で書かれてるんです!」
ルミナはすでに動き出していた。アリッサ、レイナ、エリーゼを視線だけで制止し、舞台袖へと足を運ぶ。カトレアも続く。
舞台裏に入った瞬間、強い鉄錆の匂いが鼻を突いた。壁一面に、血のような赤い液体で大きく書かれた文字が浮かび上がっている。
『亡霊は蘇った。
復讐はまだ終わらない、次に狙うは――
お前の番だ。』
文字は化粧室のものと同じ筆致だった。丁寧で、乱れていない。犯人は焦っていない。むしろ、楽しんでいるようにさえ見える。
「……アストンの遺体は?」
カトレアが低く尋ねる。裏方の卒業生が青ざめた顔で答えた。
「十字架から下ろしました。胸の木剣は……演劇用の小道具です。本物の刃ではありません。ですが、顔の鉤爪の傷は本物です。胸を深く抉られ、即死に近い状態でした」
ルミナは壁の文字から視線を外さず、静かに扇子を開いた。
「木剣は『見せしめ』ですわね。鉤爪で殺した後、劇の象徴である十字架と木剣で飾った。……犯人は『この場の全員に見せたかった』のでしょう。」
ルミナ達が舞台裏から戻ると、クレアが騎士団員を引き連れて駆け込んできた。現場を一瞥しただけで、彼女の表情が厳しく変わる。
「アストン・ヴォーゲン…。」
彼女はまさか同じ騎士団に属する部下、しかも副団長補佐候補の1人である、血塗れのアストンの遺体を見下ろし、クレアは苦痛な表情をする。
「まさか私の部下まで被害の手に及ぶとは…。一体誰がこんな…。」
「あの女が殺したのよ!!」
友人であるロザリーナと、婚約者であるアストンの死が重ねた影響か、泣きながら発狂したヴァニラはアストンの遺体の胸に抱き締められながら、ルミナに向けて叫んだ。
「ルミナ・ヴィクトリアが……。極悪令嬢と呼ばれてる彼女が、ロザリィとアストン様を殺したのよ!!」
彼女はアストンの遺体にすがりついたまま、血で染まった橙色のドレスを震わせていた。マチルダが慌てて止めようとするが、ヴァニラの力は異常に強かった。
クレアが低く、しかし明確に命じた。
「エバンズ、遺体から離れろ。これ以上現場を荒らすな。」
「離れるものですか!この女が……この女が全てを……!」
ルミナは扇子を閉じたまま、静かに立っていた。翡翠色の瞳に動揺の色はない。ただ、ヴァニラの叫びを冷静に受け止めている。
「……私が殺した、と?」
「そうよ!ロザリィが死んだ直後に『大柄な男の腕力』だのとアストン様を疑わせて、その隙にアストン様を……!貴女は昔から私を敵視してた!学園の頃から!!」
周囲の視線が一斉にルミナに集まる。ざわめきが広がり始める。
その時、カトレアが一歩前に出た。
「ヴァニラ・エバンズ。貴方が今言っていることは、重大な誹謗中傷よ。証拠も無く『殺した』と断言するなら、私は特級貴族として貴方も拘束する。」
「っ……!」
ヴァニラが言葉に詰まる。だが、怒りと悲しみで理性が戻らない。
クレアが騎士団員に指示を出し、アストンの遺体を丁寧に下ろさせる。胸に刺さっていた木剣を抜き、鉤爪の傷を改めて確認した。
「……ロザリーナ・ガネットと同じだ。4本の鉤爪。深さも角度もほぼ同一。ただし、アストンの傷はより深く、一度で心臓を貫いている。犯人は慣れてきている。ん?」
クレアは、アストンの右手に何か握り締められている事に気付いた。
指を慎重に開くと、中から出てきたのは――小さく折りたたまれた紙切れだった。血にわずかに染まっているが、文字は判読できる。
「……これは。」
クレアが紙を広げ、低く読み上げた。
『お前とロザリーナ・ガネットの秘密を公にしたく無ければ、1人で舞台裏へ来い。――V.E。』
「……V.E?誰かのイニシャルか?」
「っ!!?」
その言葉を聞いた途端、先程からルミナを攻め怒鳴っていた筈のヴァニラは身を震えさせ、何かに怯えていた。
「……G.E……?」
クレアが小さく呟いた声が、静まり返った議堂に響き、周りの目線がヴァニラへと向ける。まるでメモを書いた人物だと。
ルミナは扇子をゆっくり開き、口元を隠したままヴァニラを観察した。翡翠色の瞳に、嘲りの色はない。ただ、冷静な分析の光だけが宿っている。
「……ヴァニラ・エバンズ。このイニシャルはお前の名前を意味している、アストン・ヴォーゲンを舞台裏に呼び出したのはお前か?」
「違うわ!!何で婚約者である私がアストン様を殺さなきゃならないのよ!!」
「そ、そうです!ヴァニラ様は一度も離席せずに、ずっと私の隣に座っていたんです!」
マチルダが青ざめた顔で叫ぶ。だが、その声は震えていた。
ルミナは扇子をゆっくり開き、口元を隠したまま静かに歩み出た。翡翠色の瞳が、ヴァニラを射抜くように細められる。
「V.E……。ヴァニラ・エバンズ。イニシャルは完全に一致しますわね。しかもこの筆跡……化粧室の血文字と、舞台裏の落書きと、ほぼ同じですことよ。」
「嘘よ!私は書いてない!アストン様を呼び出したのも私じゃない!本当よ!!」
ヴァニラの様子を見たルミナは思った。
取り巻きのマチルダの証言通りに、アストンが離席して以降から遺体が現れるまでの間の時間帯まで、ヴァニラは離席する気配は無かった。
{それに仮に犯人の立場として、幾ら彼女の様な人間でも、アストンの様な大柄な体格を、普通の貴族令嬢の力で持ち上げる事は不可能。だとしたら可能性は1つだけ__}
「___宝具。」
だとしたら、ロザリーナとアストンの身体の殺害の元となった鉤爪痕も。ルミナは今回の事件が宝具絡みと関係してるとなると、これ以上の犠牲者は出させない。彼女は直ぐ様にある提案をクレアに頼み込んだ。
「……クレア、貴女に頼みたい事があるのだけれど、宜しいかしら?」
「…内容次第ならな、聞いておこう。」
「直ぐに出席者とその関係者の使用人、また。このパーティーの裏方・進行役・舞台装置担当者全員を対象に、簡易的な身体検査と所持品検査を実施をして欲しいの。」
クレアは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに理解したように頷いた。
「それは別に構わないが、一体何故。」
「……今回のアストンの殺害と、ロザリーナ・ガネットの殺害、宝具を使用したからよ。」
「何だと?じゃあ、今回の一連の事件は魔術事件だと言うのか!?」
ルミナは縦に頷くと。クレアは殺された2人の遺体を見て把握する。
「確かに、ロザリーナ・ガネットの殺害は兎も角、アストンの殺害や十字架に磔られた事も常人の殺人では出来ない事だ。分かった。直ぐに部下達に命じて各検査をしよう。」
クレアは直ぐ様に部下の王宮騎士団員らの所に向かい、出席者達を全員呼び集める様に命じた。
その最中、ルミナは再度、アストンの遺体の胸に刺さった木剣を見下ろしながら違和感を覚えた。彼は宝具の手で殺害された。なのに犯人は何故、殺した後にあの様な事をしたのかと。
*
議堂内は、騎士団の緊急招集の呼び出しにより、パーティーの出席者及び同行の使用人達を全員集められた。
出席者達は突然の騎士団の呼び出しで、一体何事なのか分からず仕舞いのまま、ざわついていた。
「突然呼び出して一体何の集まりだ?」
「アストン様やロザリーナ嬢が殺されたばかりだと言うのに、何なの?」
「でも、緊急の呼び出しとなると俺達の中に犯人が紛れてる事が…。」
「嘘でしょ!?」
ざわめきが収まらない中、騎士団員らの中からクレアが現れ、先頭に立ち、低く、しかし明確に命じた。
「全員静粛に!これより、出席者および関係者全員を対象に、簡易的な身体検査と所持品検査を実施する。拒否は許さない。協力を願う。」
出席者達はルミナとクレアの予想通りに、激怒しながら一斉に文句を騎士団に向けて、言い散らした。
「ふざけるな!!王宮に仕える騎士団如きが俺達に命令とは何たる無礼だ!!」
「そうだそうだ!身分を弁えろ!!」
「検査何て誰がすると思いますか!?私を誰だと思ってるの!私は中級貴族__」
「静粛に!!」
クレアの静止の怒号により、出席者達は一斉に静まりだす。
「これは王宮騎士団の権限だ。この場で連続殺人が発生した以上、現場にいる全員が対象になる。文句があるならば、後で正式に申し立てろ。」
クレアの声に、さすがに誰も反論できなかった。騎士団員たちが手際よく列を作り、1人ずつ検査を開始する。
男たちは上着と手袋を外し、女たちは扇子やハンドバッグを差し出す。使用人たちはベルトや懐中の小物まで細かく調べられた。検査は淡々と進む。誰もが不満げな顔をしていたが、クレアの威圧と、すでに2人の死体が転がっている現実が、文句を飲み込むには十分だった。
検査が進む中、ルミナは扇子を閉じたまま、列の端に立っていた。翡翠色の瞳は、検査を受ける人々の表情を冷静に追いながら、ルミナはクレアの元へと向かい、状況を聞き出す。
「…どうかしら?」
「生憎、かなり時間が掛かりそうだ。何せ使用人を含めて200人以上は居るからな。」
「宝具らしき物はまだ見つからないと言うのね。」
クレアは検査を行ってる騎士達を見ながら答えた。
「今のところはだ。宝具らしき魔力の反応は一度もまだ無い。もしかしたら、魔力を持たない宝具の可能性も高い。」
「…そう簡単には、見つけられない様ですわね。」
クレアは呆れた顔をし、心配がてら、幼馴染としてルミナに軽く警告を告げる。
「ルミナ、お前も少しは遠慮しておけ、事件の対応は私達王宮騎士団が引き受ける。お前の身にもしもの事があったらヘクトール卿に何を言われるか…。」
「…一昨日、城内でお父様が襲撃された件なら既に新聞で読んで存じてますわ。それに私、一度巻き込まれた以上、最後まで放っておけない質なのは存じてるでしょう。」
「だろうな、元からお前はそう言う奴なのは分かってた。……まあ一応だ。犯人の手掛かりを見かねたら直ぐに私に報告してくれ。」
「ええ、善処するわ。」
そう言うとルミナは一旦、検査の仕事に戻るクレアと別れ、友人達の居るテーブルへと向かおうとすると。
「…あれは。」
アリッサがテーブルに置かれた余ったレパートリーをこっそりと自分の皿に盛り合わせてから、周りを警戒しながら議堂内を出て行く姿をルミナは目撃する。
「はぁ、呆れてるけれど、ヴィクトリアに仕えるメイドがこの様な事をするのは、主として流石に見過ごせないわね。」
怪しげな行動をするアリッサを叱ろうと、ルミナは彼女の主らしく、アリッサの後を追い掛けたのだった。




