復讐の同窓会!極悪令嬢は罪を裁く!{前編}
真夜中のルナジェント王城。
その日、書記官長室にて1人、ルミナの父にしてヴィクトリア家当主。ヘクトール・ヴィクトリアは城に滞在し、部下達を家に帰し、1人自らの仕事を残業していた。
室内の灯りも着けず、執務机のランプの灯火のみで、彼は机にてたった1人、書類の山と戦っていた。
「___……ふぅ。」
仕事を手に止め、一息だけ吐くヘクトールは少しだけ疲れを感じていた。その時、ノックが聴こえ、彼は警戒しながら、扉越しの人物が誰なのか聞き出す。
「……誰だ?」
『夜分失礼致します、ヘクトール書記官長にお茶のご用意を参りました。』
メイドの誰かが自分の事を心配したのか、茶を用意してくれたのだろうと察し、ヘクトールは入室の許可を告げる。
「そうか、入れ。」
扉を開けると、メイドが紅茶の入ったティーポットとカップが置かれた盆を左片手に持ちながら、書記官長室に入室する。
「失礼致します、只今、紅茶の用意を致します。」
「…ああ、出来れば私の机ではなく、其処のテーブルの上に置いて用意してくれ。机だと書類を汚してしまうからな。」
「畏まりました。」
メイドは礼儀正しく、ポットの中の紅茶をカップに注ぐ。
「__ところでだ。私も筆頭書記官としての立場上、使用人達の顔も全て記憶している。」
ピタリと、メイドは紅茶を注ぐ動きを止める。
「……君は、何者だ?」
「っ!!」
するとメイドは食器を床に捨て、ヘクトールに向かって駆け出す。
「死ねっ!ヘクトール・ヴィクトリア!!」
メイドに扮した襲撃者は、隠し持っていた短剣を両手で握り締めながら、ヘクトールに刺し殺しに掛かろうとした途端__
「なっ!?」
彼女の足に踏んだ青紫色の絨毯が突然の光だし、襲撃者は絨毯内に全身を押し潰される。体が石のように重くなり、動けない。短剣は手から滑り落ち、床に転がる。
「がああっ!な、何だ。この魔法はっ!?」
「魔法ではない、対暗殺及び襲撃者用に備えた宝具だ。」
ヘクトールは静かに席を立ち、ランプの明かりを少し明るくした。
眼鏡の奥の瞳は、いつもの冷静さを保ったまま、拘束された女を見下ろす。
「『重星し天秤』。これを置かれし部屋に入った者の重さを一時的に数十倍に圧縮する宝具だ。対暗殺用に、王城の重要な執務室にはいくつか仕込まれている。……君のような者が来ることを想定してな。」
襲撃者は歯を食いしばり、顔を上げた。
メイドの制服は乱れ、顔を覆っていたヴェールがずれている。20代半ばほどの女。瞳には殺意と、わずかな焦りが混じっていた。
「……なぜ、バレた。」
「紅茶の注ぎ方が雑だった。本物の城のメイドなら、筆頭書記官の机の近くで注ぐなどしない。」
暫くして、扉の外から複数の足音が近づいてきた。王城に仕える護衛の王国騎士たちが、速やかに入室する。
「書記官長、ご無事ですか!」
「ああ。この女を拘束しろ。尋問は後で行う。まずは身元を洗い出せ。」
騎士たちが女を取り押さえ、重星し天秤の効果を解除する。
女はすぐに動こうとしたが、すでに数人の剣が突きつけられているにも関わらず。彼女は低く呟いた声で喋りながら、ヘクトールの耳に届かせた。
「……くっ。良い気になるなよ、ヴィクトリア。私を捕らえたとしても何の意味も無いんだからな。」
「…何?」
「近い未来、あの御方は必ずや王家を根絶やしにし!ルナジェントを支配する!」
すると女の首に魔法文字が光りながら現れ、彼女の全身が光り始めると、ヘクトールの魔力反応に危険視が高く増していた事を感じ騎士達に彼女から距離を取る様に命じた。
「離れるな……いや、離れろ。全員、後ろへ下がれ!」
騎士たちが反射的に後ずさる中、女の首筋に浮かんだ魔法文字が急速に輝度を増した。青白い光が彼女の全身を包み、肌が内側から透けるように光り始める。
「……自爆か。」
ヘクトールの声が低く落ちる。眼鏡の奥の瞳が、即座に状況を解析していた。
「いいや違う。これは単純な自爆ではない。……何者かによる『契約の縛り』か。」
女の口元が歪んだ。光に照らされた顔は、すでに苦痛で歪み始めている。
「く……っ、くはは……!知ってるのか、ヴィクトリア……。なら、もう遅い……!『あの御方』の計画は、もう動き出している……万歳!」
次の瞬間、光が爆ぜた。
部屋全体が青白い閃光に包まれ、衝撃波が書類の山を吹き飛ばす。騎士たちが盾を構えて身を伏せ、ヘクトールは机の陰に低く沈んだ。
光が収まったとき、女の姿は消えていた。残っていたのは、床に焦げ付いた黒いシミと、微かに漂う硫黄と魔力の混じった臭いだけだった。
「……っ。」
ヘクトールはゆっくりと立ち上がり、眼鏡を指で押し上げた。書類の一部が燃えていたが、重要なものは事前に別の場所へ移してあった。被害は最小限だ。
騎士の1人が息を荒げながら報告する。
「書記官長!女は完全に消滅しています。痕跡も……ほぼ残っていません!」
「分かっている。『契約の縛り』が発動した時点で、本体は消えるように仕込まれている。……完全なる証拠隠滅、用意周到な連中だ。」
ヘクトールは焦げた床を見つめたまま、静かに続けた。
「だが、完全に無意味ではなかった。あの女は最後に『あの御方』と言った。そして『王家を根絶やしにし、ルナジェントを支配する』と。」
部屋に重い沈黙が落ちる。
騎士の隊長が低く尋ねた。
「それにしても、今月に入ってもう『3度目』の襲撃です。1度目は王城に登城する最中に、2度目は遠征先に、この前城内全体の警備が強化ばかりされた筈が、まるで全てを見通したかの様に行われています。」
「……。」
ヘクトールは窓辺に歩み寄り、夜の王都を見下ろした。ランプの灯火が点々と揺れている。表面は平和そのものだが、その下で何かが確実に蠢いていると、騎士隊長はある事を思い出したか、ヘクトールに告げた。
「そう言えば、2日後にエンディミオン学園で行われる、今期卒業生1周年記念パーティーが開催されると。確か、書記官長の御息女であるルミナ様も卒業生の1人として出席なされるとか…。」
ヘクトールの指が、わずかに止まった。
「……ルミナ、か。」
「はい。もし敵の計画を進めるのであれば、王城の中枢に近い人間を狙う可能性は高いと思います。娘君が表に出る場は、むしろ好機と見られる恐れがあります。」
ヘクトールはしばらく沈黙した。
やがて、静かに振り返る。
「……伝令を出せ。今夜のうちに、ヴィクトリア本邸へ連絡を。内容は『2日後のパーティーへの出席は、予定通りで構わない。ただし、警備を倍にせよ』と。」
「ははっ!」
「それと……すぐに報告をまとめろ。第一に国王陛下へ。第二に、近衛騎士団長と教会。そして……」
彼は一度だけ息を吸い、低く言い放った。
「第三に冒険者連盟の各連盟長に通達しろ。以上だ。」
『はっ!!』
騎士達は直ぐ様、各場所に報告しに駆け出して行った。騎士達が部屋を退出し、1人書記官室にてヘクトールは再び、窓辺に歩み寄り、夜の王都を見下ろしながら、娘の今後に起きる出来事に何も起こらない様に、心から安泰を願った。
{__メリア、どうか天の上からルミナを守ってくれ。}
そして、亡き妻の名を告げるのであった。
*
2日後の夜。
エンディミオン学園、大講堂。
第66期卒業生1周年記念パーティーは、予想以上の盛況を呈していた。
白い大理石の床にシャンデリアの光が降り注ぎ、貴族の令息令嬢たちが華やかな礼服に身を包んで談笑している。壁際や議堂周辺には王国騎士団の制服を着た護衛が等間隔に配置され、普段より明らかに警備が厚い。
すると、深緑のドレスを纏った1人の令嬢がメイドと共にこの同窓会にやって来た。
ルミナ・ヴィクトリア。
翡翠色の長髪を丁寧にまとめ、いつもの扇子を片手に、入場してから、窓際で静かに場を観察している。隣にはアリッサが控え、 共に視線を泳がせていた。
「うわあ〜。凄いです!この場に御出席なされてる人達が全員。お嬢様と同じく貴族の方々ばかりなのですね。」
「アリッサ、行儀が悪いですわよ。」
ルミナは周りを見渡し、誰かを探すと、2人の姿を見かねたある人物が大きな声で手を振りながら、ルミナに呼び掛ける。
「あ、おーい!ルミナー!アリッサちゃーん!此方此方!」
1人は『フォルクス商会』総務部長にして、商業貴族フォルクス家令嬢であるレイナ・フォルクス。
ルミナとアリッサを呼び掛けた人物は、ヴィクトリア邸と同じ高級住宅街に住む、下級貴族クライン家令嬢のエリーゼ・クラインの2人はであった。
「レイナ様、それにエリーゼ様も!」
「ご機嫌ようルミナ。ううん、ようやく来たわね『翡翠の乙女』様。」
『翡翠の乙女』。
ルミナの学園在籍時代の頃に呼ばれていた。
大講堂の喧騒の中、ルミナは静かに扇子を開いた。
「……『翡翠の乙女』、ですか。懐かしい響きですことね。」
エリーゼが嬉しそうに近づいてくる。以前の事件から少し顔色が戻っていたが、まだ完全に以前の明るさではない。それでも、ルミナの顔を見て表情が和らいだのが分かった。
「久しぶりね、ルミナ。無事で何よりだわ。……あの時は、本当にありがとう。」
「礼には及びませんわ。あれはただ、やるべきことをやっただけですが、それはそうとエリーゼ__貴女、少し膨よかになられました?」
「あっ…。」
良く見ると、エリーゼの体系は少しだけ横が増していた事に気付くと、エリーゼは顔真っ赤にしながら、少し怒った。
「もうっ!ルミナったら、いきなりそんなこと言わないでよ……!少しだけ、ストレスで食べすぎただけなんだから……!」
エリーゼが顔を真っ赤にして抗議する。隣でレイナが肩を震わせて笑っていた。
「ふふっ、まあ無理もないわ。亡くなったチャールズの件からまだ日が浅いもの。ストレス食いくらい、許してあげなさいよルミナ。」
「そうかしら?私はただ、事実を述べただけですわ。」
ルミナは扇子で口元を隠し、くすりと笑った。翡翠色の瞳には、いつもの冷静さの奥に、わずかな優しさが混じっている。
エリーゼは頰を膨らませたまま、しかしどこか安堵したように息を吐いた。
「……それでも、こうしてまた会えるのって、不思議ね。あの頃はもう、何もかも終わったと思ってたのに。」
「終わらせないわよ。少なくとも、私がいる限りは。」
ルミナの短い言葉に、エリーゼは目を細めて微笑んだ。レイナが紅茶を片手に、軽く肩をすくめながら、周りの出席してる元同期生を見渡す。
「それはそうと、見なさいルミナ、今年の今期1周年記念パーティーはかなりの出席者が参列してるわよ。」
見渡すと、遠くのテーブルにて見覚えのある同期生が、ルミナは何人も見つける。
「彼処に居られるのは。上級貴族ヴォーゲン家子息のアストン様でしたわね。確か、クレアが率いる王宮騎士団員の。」
大柄で筋肉質のある金髪の子息、アストンの肉料理を食らいながら、友人達と楽しく話し合ってる姿を遠くから見ると、エリーゼは彼の現在の情報をルミナ達に告げた。
「そうそう、そのアストン様はね、今じゃ王宮騎士団の副団長補佐候補の1人らしいのよ。学園在籍時代の頃から剣術の腕は上位に入る程のね。」
「それにしても彼、王宮騎士団の仕事を放ってパーティーに出席するとは。」
レイナが横から入って、出席した理由をルミナに告げた。
「騎士団長のクレア様から、この日だけは特別休暇を与えられたそうよ。」
「クレア様って、女性の騎士ながらにとっても強くお優しい御方だからね〜。私がもしも男だったら惚れてしまうわ。」
エリーゼは頰を赤らめたまま、少し恥ずかしそうに視線を逸らした。
「……冗談よ、冗談。でも本当に、クレア様って強いのに優しいのよね。学園の頃から変わらないわ」
ルミナは扇子を軽く開閉しながら、アストンの方を一瞥した。
「アストン様が副団長補佐候補とは。……彼の剣は確かに一流ですわね。ただし、貴族意識が強く弱者を見下し、頭の回転はいまひとつ。」
「また辛口ね。まあそうだけど。」
その時、別方向から女性達の黄色い歓声が響き始め、アリッサは辺りを見渡しながら驚き出す。
「こ、今度は何ですか!?」
この声援の正体を知っているのか、ルミナとレイナは溜息を吐くと。エリーゼはキャーキャーと歓声を叫びながら、
「あの歓声。きっとギルバート様だわー!」
令嬢達に囲まれてる、長い銀髪の令息が令嬢達に優しく接していた。レイナは呆れ顔で言った。
「同じ同期生とは言え、出席は予想通りだったけれど、学園在籍時代の頃から相変わらずの女性人気ね。」
「ギルバート・シルバニスタ。父親は王城に仕えし経済宰相のフィンラル・シルバニスタ。」
ルミナは扇子で口元を隠し、銀髪の令息――ギルバート・シルバニスタの周囲に群がる令嬢たちを、冷静な視線で眺めていた。
「……相変わらずのですこと。」
彼女の呟きに、レイナが肩をすくめる。
「仕方ないわよ。あの男、顔も家柄も良くて、おまけに物腰まで柔らかいんだもの。学園時代から『銀の貴公子』なんて呼ばれてたんだから。」
エリーゼが目を輝かせながら続ける。
「ギルバート様は本当に素敵よね……!私、あの方の笑顔で何度も心臓が止まりそうになったわ。」
「エリーゼ、貴女はもう少し自制をなさい。」
ルミナが呆れたように言うと、エリーゼは頰を膨らませた。
「もうっ、ルミナは冷たいんだから。でも……少しは嬉しいわ。こうしてまた皆で集まれるなんて。でもどうしてルミナはギルバート様を毛嫌ってるの?」
「それはですね__」
その時、ギルバートがふと視線を上げ、こちらに気づいた。銀の長髪を軽くかき上げ、優雅に微笑むと、周囲の令嬢達に軽く頭を下げてから、真っ直ぐに歩み寄ってきた。
「おや、これはこれは。ヴィクトリアの『翡翠の乙女』ではないか。久しぶりだね、ルミナ。」
「ご機嫌よう、ギルバート様。相も変わらずの、人気者ですこと。」
「人気など、ただの見かけ倒しさ。君の方がよほど……『特別』だ。」
ギルバートはそう言いながら、ルミナの扇子を持つ手に軽く視線を落とした。翡翠色の瞳と、銀の瞳が静かに交錯する。
この場面を見てたエリーゼは、ルミナとギルバートが顔見知りなのかとレイナに聞き出す。
「ね、ねぇ、レイナ。ルミナってギルバート様と顔見知りなの?」
「父親同士が城に仕える宰相同士だけれど、卒業後暫くしてから縁談があったのよ。彼奴とルミナのね、でもギルバートのあの性格と態度のせいか、縁談開始たった数秒でルミナ自ら解消したのよ。立場上、2人は元婚約者同士と言う扱いかしら?」
「ええっ!?ギルバート様のような御方の縁談を数秒で!!?」
エリーゼの声が、周囲の喧騒に紛れて少し大きめに響いた。近くにいた令嬢たちがチラリと視線を向け、すぐに興味深そうな瞳を向ける。
ルミナは扇子で口元を隠し、静かに一息吐いた。
「数秒、というのは正確ではありませんわ。正確には『3分』です。自己紹介が終わった直後に、彼が『君のような強い女性は、私のそばで花のように美しく咲いていればいい』とおっしゃったので、即座にお断りしました。」
「……そ、それ、最悪ね。」
レイナが呆れたように肩をすくめる。エリーゼは口をパクパクさせながら、ギルバートの方を盗み見た。
「で、でも、ギルバート様はそんなつもりじゃ……。」
「つもりなどどうでもいいのです。私は『花』として扱われるつもりはありませんから。」
その言葉を聞いたギルバートが、優雅に微笑んだまま一歩近づいた。銀の長髪がシャンデリアの光を反射し、周囲の令嬢たちが息を呑む。
「厳しいな、ルミナ。あれからもう1年も経つのに、君の舌鋒は全く鈍らない。」
「鈍らせる必要がありませんわ。ギルバート様こそ、相変わらずの軽口ですことよ。」
「軽口?これは本気だよ。君が僕の婚約者でいてくれたら、今ごろ王都の噂はもっと華やかになっていたはずだ。」
「その華やかさが、私には必要ありません。」
ルミナが静かに扇子を閉じると、ギルバートは苦笑いを浮かべて両手を上げた。
「いやはや降参だ。君には勝てない。では、せめて今夜くらいは昔話でもしようか。学園時代、君は『翡翠の乙女』と呼ばれながら、誰とも距離を置いていたな。僕だけは何度も話しかけたのに、いつも三言で追い返された。」
「貴方のようなウザい性格のある御方は、三言で十分だったからですわ。貴方が『君の髪はまるで翡翠のようだ』『僕が守ってあげる』『一緒に歩けば映える』と続けたからです。そう言う台詞は恋愛小説の男役の台詞だけで十分なことよ。」
エリーゼが小さく悲鳴のような声を上げ、レイナが額に手を当てた。
「……もう、やめてあげなさいよ、2人とも。周りが注目し始めてるわ。」
事実、周囲の視線が徐々に集まっていた。特に女性陣の視線は、ギルバートとルミナの間を行ったり来たりしている。中には明らかに嫉妬の色を浮かべている者もいた。
その時だった。
近くの方から料理の皿が割れる音が響いた。
『貴方ねえ!私が食べたいのはローストビーフのソテーじゃなくてローストポークのソテーなのよ!!何処をどう間違ったらそうなるのよ!!』
自身の髪の色と同じ橙色のドレスを着た。長髪の令嬢が、2人の取り巻きの令嬢と共に同年代近い執事の少年を怒鳴り散らしていた。
「あの女って、エバンズ家の。」
エリーゼはあの令嬢に説明する。
「ヴァニラ・エバンズ様。中級貴族エバンズ家の第2令嬢。ほら、同じ教室のクラス生で何時もルミナの事を睨んでた。」
「ああ、そう言えばあの様な方も居ましたわね。」
「取り巻きのマチルダとロザリーナも、ヴァニラ様同様に学生時代から性格は変わっていないみたいね。と言っても、まだ卒業してから1年しか経っていないし。」
橙色のドレスを着た長髪の令嬢――ヴァニラ・エバンズが、顔を真っ赤にして少年執事を怒鳴りつけている。取り巻きのマチルダとロザリーナが両脇で腕を組み、得意げに頷いていた。
「もう一度言うわよ!私が食べたいのはローストポークのソテー!ビーフじゃないの!とんだ勘違いをしてるんじゃないわよ!今直ぐに取り替えなさい!」
「も、申し訳御座いません!」
少年執事は青ざめた顔で何度も頭を下げている。周囲の視線が集まり始め、談笑の輪が少しずつ遠ざかっていく。
レイナはあの少年執事の名前を思い出す。
「思い出したわ、彼は確か、ヴァニラが仕えてた執事よ。名前は確か__ライル・トレガー。」
「そう言えば、学生時代からヴァニラが何か失敗したり、機嫌が悪かった時にあの執事の子を痛め付けてたの、見たことあるわ…。」
レイナが呆れたように肩をすくめ。エリーゼは少し困った顔で視線を泳がせると、彼女は続けて言った。
「しかもそれだけじゃないわ、ヴァニラは今年__」
暫くして少年執事、ライルが割れた皿と料理を素手で片付け始める。
「何の騒ぎだ。」
騒ぎの元に、アストンが駆け付けると。
「アストン様!」
ヴァニラはアストンの元へと駆け寄り、彼の左腕に抱き着きながら、ライルの失敗を言い付けた。
「聞いて下さいアストン様!またライルったら失敗して、ローストビーフをローストポークと間違えて持って来たのよ!」
「ほぉ…。」
アストンは睨みながら、ライルを見下ろすと、ライルは怯え震えながら、2人に謝罪をする。
「も、申し訳あ__」
瞬間、アストンはライルの腹目掛けて思いっ切りの蹴りを食らわせ、別のテーブルへと吹っ飛ばされる。
「がはっ!!」
エリーゼは続けて言った。
「あのアストン様と婚約関係となって近々結婚するそうよ。」
パーティーのざわめきが一瞬止まった。
アストンの蹴りを受けたライルの体が、隣のテーブルに激しく衝突する。食器が派手に散乱し、ワインのグラスが床に砕け散った。少年は腹を押さえてうずくまり、苦しげに咳き込む。口の端から血の筋が伝っている。
「ううっ…。」
倒れたライルは、腹の痛みに耐えながら、ゆっくり立ち上がろうとするとアストンは近付く。
「……何だ。まだ立っているのか。どうやら仕置きが足りんみたいだな?」
「っ…。」
腹を抑え立ったままのライルは執事とは思えない、睨み目でアストンを睨み出すと、アストンは怒り出す。
「何だ?その目は、使用人とは思えない態度だなぁ!俺がヴァニラに変わってキツい仕置きをしてやる!!」
激昂したアストンはライルに殴り掛かろうと突撃する。右拳をライルに向けて振り掛かろうとした途端、何者かに手首を強く。掴まれる。
「なっ!!」
「!」
間に入ったルミナが、アストンの右手首を掴み止めていた。
「そこまでですわよ、アストン・ヴォーゲン。」
「貴様は、ルミナ・ヴィクトリア!!」
「これ以上の下らない行いは騎士道は疎か、人として恥かく一方ですよ。」
アストンの右手首を掴んだルミナの指は、まるで鉄の枷のように動かなかった。
「離せ……!何をする、ヴィクトリア!」
アストンが力を込めようとした瞬間、ルミナはわずかに力を増した。甲高い軋む音がして、アストンの顔が歪む。令嬢とは思えない異常な握力だった。
「がああっ…。」
「……痛いだの?先ほど、貴方はこの少年に何をしたか、覚えていらっしゃいますか。」
「使用人が主人に逆らい、睨みつけたのだ! 躾けているだけだ!」
「躾け?腹を蹴ってテーブルに吹き飛ばし、立ち上がろうとしたところをさらに殴ろうとする。……それが、王宮騎士団の副団長補佐候補の言う『躾け』ですの?」
周囲の視線が一気に集中した。談笑の輪が止まり、令息令嬢たちが息を呑んで見守っている。後から来たヴァニラが声を上げた。
「ルミナ・ヴィクトリア!貴女に何の関係があるのよ!ライルは私の使用人よ!主人が叱るのは当然でしょう!」
「当然?では伺いますわ、ヴァニラ・エバンズ。」
ルミナはアストンの手首を離さぬまま、ゆっくりとヴァニラの方を見た。翡翠色の瞳が、冷たく細められる。
ルミナはアストンの手首を離さぬまま、ゆっくりとヴァニラの方を見た。翡翠色の瞳が、冷たく細められる。
「この少年が、ローストビーフとローストポークを間違えたこと。それだけで、ここまでの暴力が『当然』だとおっしゃるのですか?」
「当然よ!使用人が主人の命令を間違えれば、罰を受けるのが筋ってものでしょう! それにアストン様は私の婚約者よ!私の使用人を躾ける権利くらいあるわ!」
「権利……ですか。」
ルミナは小さく息を吐き、アストンの手首をようやく離した。アストンはすぐに手を振り、怒りに顔を赤くする。
「貴様……!ヴィクトリアの令嬢だからといって、何でも許されるとでも思っているのか!」
「許されると思ってなどいませんわ。ただ、貴方が今しようとしていたことが『人として恥をかく行為』だと指摘しただけです。」
その言葉に、アストンの顔がさらに歪んだ。周囲から小さなどよめきが漏れる。ギルバートが銀髪をかき上げながら、興味深そうに口を挟んだ。
「おやおや。久しぶりにルミナの『説教』が聞けそうだね。アストン、君も少し冷静になったらどうだい?場が白けているぞ。」
「黙れ、シルバニスタ!お前に関係ない!」
アストンが怒鳴ると、ヴァニラがすかさず取り巻きを促した。
「マチルダ!ロザリーナ!この女をどうにかしなさいよ!パーティーの雰囲気を壊してるのはそっちでしょう!」
2人の取り巻きが前に出ようとした瞬間、ルミナは扇子をパチンと開いた。
「止めておきなさい。貴方がたまで恥をかくだけですわ。」
その一言に、マチルダとロザリーナが足を止めた。ルミナの声は穏やかだったが、底に凍てつくような威圧が宿っている。学園時代に何度も味わった、あの感覚が蘇ったのだろう。
『全員、そこまでだ。』
大議堂の1人の令嬢の一声が、この場の現状を抑え、彼女の方へと一斉に向ける。
その令嬢は炎の様な紅い長髪と瞳をし、赤い豪華なドレスを着込んでいた。彼女の姿を見かねた貴族令息令嬢は無言ながら、礼儀正しく彼女にお辞儀する。
「……カ、カトレア・フレイローズ、様。」
「………。」
彼女、カトレアの襲来により。大講堂に響いた彼女の声は、まるで炎そのもののように熱を帯びていた。
紅い長髪を緩やかにまとめ、深紅のドレスを纏った令嬢――カトレア・フレイローズ。特級貴族フレイローズ家の長女であり次期当主、エンディミオン学園第66期の卒業生主席で前生徒会長。在学中は『紅蓮の女帝』と恐れられ、同時に『紅玉の乙女』と呼び敬われていた存在だ。
彼女が一歩踏み出すだけで、周囲の空気がぴりりと張り詰めた。アストンもヴァニラも、自然と後ずさる。
「今宵はエンディミオン学園の卒業を果たした者のみが参加する。1周年を迎える同窓会だ。これ以上の争いは止めてもらおうか。」
「……カトレア・フレイローズ様。」
ルミナは扇子をゆっくり閉じ、静かに一礼した。翡翠色の瞳に、わずかな敬意が宿る。学園時代、唯一まともに会話が成立した同期が、この女性だった。
「久しぶりね、ルミナ。相変わらず『場を荒らす』才能は健在のようだわ。」
カトレアの声は冷静だったが、どこか呆れたような笑みが混じっている。彼女はアストンとヴァニラの方を睨みつけた。
「アストン・ヴォーゲン。ヴァニラ・エバンズ。貴方がたの所業は、十分に確認した。使用人への過剰な暴力、そしてそれを『躾け』と呼ぶ傲慢さ。……王宮騎士団の副団長補佐候補が、そんなことで恥を晒すつもり?」
アストンの顔が真っ赤に染まる。
「ち、違います!あれは……使用人が俺を睨んだからです!これは反逆です!!」
カトレアは静かに首を傾げた。
「腹を蹴られてテーブルに飛ばされ、血を吐きながらも立ち上がろうとした少年が、貴方を『睨んだ』。それで反逆ですか。ならば私は、今すぐ貴方を反逆罪で告発しても構わないわよ?王宮騎士団の規律に照らして。」
アストンが言葉に詰まる。ヴァニラが慌てて口を挟もうとしたが、カトレアの一瞥で黙り込んだ。
「……今夜はこれ以上、場を汚さないこと。アストン、今だけは見逃してあげる。これ以上の事をすればヴァニラ同様に処罰を与える。特級貴族フレイローズ家の次期当主権限を使ってでも。」
「……っ、分かりました。」
アストンが悔しげに歯を食いしばり、踵を返す。ヴァニラは取り巻きを連れて、唇を噛み締めながら場から離れ去っていった。
ルミナはライルの元へと向かい、手を差し伸べる。
「立てますか?」
「……は、はい。……申し訳ございません。」
「謝る必要はありませんわ。貴方が悪いのではないですことよ。アリッサ。」
「は、はいっ!」
アリッサが駆け付ける。
「彼を直ぐに医務室へ。」
「か、畏まりました!すぐに医務室へ。」
アリッサはライルを抱えながら、医務室へと移動する。
「……す、すみません。ご迷惑を……。」
パーティーのざわめきが、徐々に元に戻り始めていた。
カトレア・フレイローズの介入で場は収まり、アストンとヴァニラの一団は目立たぬように端へ退いた。だが、視線は完全には消えていない。特に女性陣の中には、ルミナとギルバートのやり取りを面白がる者、嫉妬する者、ただ静かに観察する者が入り混じっていた。
ルミナは扇子をゆっくり開き、口元を隠したまま、カトレアに向き直った。
「助かりましたわ、カトレア。貴方が来なければ、もう少し長引いていたでしょう。」
「助かった、などと言われたくないわ。貴方が先に止めなければ、もっと酷いことになっていた。アストンのあの様子……副団長補佐候補の器ではないわね。」
カトレアは紅い髪を軽くかき上げ、溜息をついた。彼女の隣には、いつの間にか銀髪の令息――ギルバートが立っていた。
「それは本意ではないさ。ただ、彼女の舌鋒は相変わらず鋭いからね。」
ギルバートが優雅に肩をすくめる。ルミナは2人を一瞥し、扇子を閉じると、ギルバートは何かを思い出したか、ルミナにある事を告げる。
「そう言えば一昨日の夜の事を聞いてるかい?君のお父君、ヘクトール卿が暗殺され掛けた事を。」
「…その件でしたら新聞を読んで、もうとっくに存じていますわ。それがどうかしたのですこと?」
すると、ギルバートは普段のナルシスさから真剣な表情へと変え、ルミナの背中を押しながら、誰も居なさそうな所に移動し小声で暗殺の内容を話す。
「良いかい?これは口が軽い父の部下からの話によると__」
ギルバートは周囲に人がいないことを確認すると、声をさらに落とした。銀の瞳が、いつもの軽薄さを消して真剣な色に変わっている。
「襲撃者は完全に消滅した、口封じでだ。しかも痕跡もほとんど残っていない。だが、ヘクトール卿が拘束した瞬間に女が言った言葉がある。……『あの御方は必ずや王家を根絶やしにし、ルナジェントを支配する』と。」
「……『あの御方』、ですか。」
「生憎とこれ以上、詳しい事は分からず仕舞いだ。それに__」
ギルバートは出席している同窓生達を見渡しながら、続けて言った。
「今回の1周年記念パーティー。ヘクトール卿の娘である君を狙う輩が潜んでいる可能性が無いとは言えない、念の為にフォンアルト団長ら王宮騎士団の警備もあるが。油断は禁物、君も余り問題沙汰には巻き込まれ無いようにするんだ。良いね。」
「……善処致しますわ。」
『ギルバート様〜。』
その時、別のテーブルにいる令嬢達の1人がギルバートに向けて元気良く呼び掛けると、彼女の声援を聴いたギルバートは優しい笑顔を令嬢達に向けると、ルミナとの会話を終わらせる。
「じゃあルミナ、僕は他の可愛い乙女達の誘いがあるから、この辺で失礼するよ。」
ギルバートは、ルミナに別れを告げると、令嬢達の元へと去る、同時にアリッサが医務室から戻って来た。
「お嬢様、ただいま戻りました。」
「お帰りなさいアリッサ、彼の容体はどうだったのかしら?」
「あ、はいっ!ライルさんの治療は私自ら行わせて、今は寝かせています。ですが__」
アリッサの報告を聞いた瞬間、ルミナの扇子を持つ指が、わずかに止まった。
「__ライルさん、シャツの内側にその。『鎧』を着込んでたんです、駆け出しの冒険者が着てそうな、薄革製のを…。」
「…使用人が、鎧を?」
「おーい、ルミナー!あっちで美味しそうなお菓子があるから一緒に食べよう!」
溜息を吐くとルミナは致し方無く、アリッサと共にレイナとエリーゼのいるテーブルへと向かう。
同時期に別のテーブルではルミナ達が楽しく過ごしてる光景を、強く睨むヴァニラ。
{ルミナ・ヴィクトリア…。}
すると、ヴァニラの取り巻きの1人であるロザリーナは席を外そうとこの場を離れようとする。
「ヴ、ヴァニラ様、わたくし一旦、お手洗いへ参ります。」
そう言うたロザリーナはこの場から離れ、お手洗いへと向かった。
アストンもヴァニラ同様に、落ち着きながらもルミナに対して怒りを出していた。自分の右手首を見つめると、先程の彼女の掴まれた手の握力が感じていた。彼は学園時代。当時、王宮騎士団入隊希望だった彼は剣術の実戦授業でルミナに手も足も出ずに敗北した事があったのだ。
「彼奴、以前よりも力を…。糞っ!」
そう言うとアストンは別の肉料理の皿を掴み取り、ヤケ食いをする。
一方の別のテーブル付近では、ルミナ達とアストン達の様子を静かながらに目視している眼鏡の貴族令嬢がいた。
*
10分近く経過すると、周りの令息令嬢達は其々の自分達がどの様な仕事をしてるのか、最近の趣味は何か、関係を迫って来たりする最中、ルミナはアリッサやレイナ達と過ごしてると。
ルミナは単身、議堂内を出てバルコニーに入るカトレアの姿を見かねと、彼女の後を追おうとする。
「あれ?お嬢様、何処へ行かれるのですか?」
「ええ、少し1人で夜景を見てくるわ、アリッサは私の分までパーティーを楽しみなさい。」
バルコニーの扉を静かに閉めると、夜風がルミナの翡翠色の髪をわずかに揺らした。
大講堂の喧騒が遠ざかり、代わりに王都の夜景が広がっている。遠くに見える王城の灯火、商業街のネオンに似た魔法灯、そして低く垂れ込めた雲の切れ間から覗く月。カトレア・フレイローズは手すりに肘をつき、紅い髪を夜風に任せて立っていた。
「……来たわね。」
振り返らずに、カトレアが呟く。
「貴方が1人になるのを待っていましたわ。カトレア様。」
「昔通りに呼び捨てで構わないわルミナ。フレイローズ家が特級に爵位したのは学園卒業の頃からだから。後、堅苦しさと敬語は止めて。そう言うの私苦手だから。」
「ええ、ではカトレアと呼びますわ。」
ルミナは扇子を閉じたまま、隣に並んだ。2人の間に、ごく短い沈黙が落ちる。
「学園を出て早1年。相変わらず『場を荒らす』才能は衰えていないようね。」
「荒したのは私ではありませんわ。あの2人ですことよ。」
バルコニーの夜風が、2人の髪をゆっくりと揺らしていた。
カトレアは手すりに肘をつき、王都の夜景を眺めながら口を開いた。
「……アストンとヴァニラの件、見ていて吐き気がしたわ。使用人をあの扱いをしておいて『躾け』だの『権利』だのと。王宮騎士団の副団長補佐候補が、その程度の器では話にならない。」
「それで、どうする積もりで?」
「後日、この事をクレア騎士団長に報告するわ。彼には一度、人間性を学び直す機会が必要だ。」
「…流石は、第66代生徒会長。伊達に優等生は勤めておりませんわね。」
カトレアは微笑みながら、自分達の学園時代の思い出を振り返る。
「思い出すわねルミナ、学園時代。私と貴女、中等部入学の頃からお互いの成績首席を競い合い。周りからチヤホヤされ人気を得られる程のね。」
「私は『翡翠の乙女』。貴女は『紅玉の乙女』と呼ばれ、会長選挙で五分五分の候補活動を行い、結果、貴女が会長として当選した。」
「その後、私は貴女の推薦で副会長に任命されたのを忘れていないわ。」
カトレアは手すりに肘をつき、遠くの王城を眺めながら口を開いた。
「……副会長に指名したのは、貴女しか適任がいなかったからよ。成績も、判断力も、誰よりも上だった。ただ、人気投票では負けたわね。」
「人気など、どうでもよかったのです。私は『選ばれる』より『選ぶ』側でいたかった。」
ルミナは扇子を軽く開閉しながら答えた。翡翠色の瞳が、夜景の灯火を映している。
「それでも、貴方が副会長を引き受けてくれたおかげで、学園はかなり動きやすくなった。特に上級生の規律問題は、貴女の『極悪』ぶりが効果的だったわ。」
「極悪令嬢の萌芽は、あの頃からすでにあった、ということかしら。」
「ええ。でもね、ルミナ。」
カトレアが初めてこちらを見た。紅い瞳に、珍しく真摯な光が宿っている。
「あの頃の貴女は、今よりずっと『孤独』だった。誰とも距離を置き、笑顔もほとんど見せなかった。だから私は、時々わざと挑発したのよ。『翡翠の乙女は氷のように冷たい』って。」
「……覚えていますわ。あの時は本気で怒りましたもの。」
「でも、それで少しだけ口を開いてくれた。私にとっては、それで十分だった。」
短い沈黙が落ちる。
夜風が強くなり、ルミナの髪がわずかに乱れた。彼女はそれを指先で直しながら、静かに言った。
「カトレア。貴方が今夜、私を呼んだのは、ただの昔話のためではないでしょう。」
「……察しがいいわね。相変わらず。」
カトレアは周囲を一瞥し、声を落とした。
「ルミナ、実は私、貴女に伝えたい事があるの。それは__」
その時だった。
『きゃあああああああっ!!!』
突然、遠くの方から女の悲鳴が響かせ、カトレアの言葉を遮らせる。その悲鳴はテラスの2人だけでなく、大議堂内の出席してる同期生達の耳にも届いた。
「今の悲鳴は一体?」
「方向からして、議堂内、いいえ、廊下の辺りからですわ。取り敢えず状況をたしかに」
ルミナとカトレアの2人は急ぎ、悲鳴が起きた場所へと急ぎ向かう。
*
大議堂を出た2人は、廊下から響いた悲鳴の方へと駆け付けると。女子用の化粧室に人集りが集まり、直ぐにカトレアは人集りの中にいる令嬢の1人に何事か聞き出す。
「貴女達、この騒ぎは一体何事なの?」
「あっ!カトレア様、ルミナ様も!それが…。」
ルミナとカトレアの2人は直ぐ様に化粧室の中へと割り込んで入室すると。2人はある物を見た瞬間、目を大きく見開く、化粧室の奥の壁に背もたれしながら座り倒れた。ロザリーナの斬殺体だった。
「……これは一体、はっ!ルミナ!鏡を!」
「!」
何かに気付いたカトレアが鏡の方に指差した。ルミナは直ぐに化粧用の壁付け鏡を見ると、何者かが何者かの手によって血文字が塗り書かれてあった。
血文字にはこう書かれてあった。
『亡霊は蘇った。次に狙うはお前の番だ。』と。
「……気持ち悪い程の、嫌な悪趣味ですわね。」
そして新たな事件の幕が今、開かれた。




