53話 誕生パーティーでの騒動
嫌がらせの続くフリータイムは終了し、ようやく主役であるプリセラの挨拶が始まる。流石にこの挨拶中には連中も黙っていたので、少し落ち着く事が出来た。
「このたびは、わたくしプリセラの誕生日を祝ってくださり、とても嬉しく思っております」
プリセラの決められたような挨拶が終わると、次は順番にプレゼントを渡しにいく流れとなった。
順番はとくに聞いていなかったが、庶民であるアミル達の番は最後だろうとずっと待っていた。雪兎はアイテム袋からプレゼントを取り出してあげ、アミル達に持たせてあげる。
1人ずつ挨拶をしながらプレゼントを渡すので結構待つ事になったが、ようやく他に動く人がいなくなってきたので、2人も緊張しながら列に向かう。
2人はさっきまでの嫌がらせを忘れ、自分達のプレゼントを喜んでくれるか楽しみで微笑んでいた。
雪兎もその光景を微笑ましく見守っていたのだが…………その空気を壊す奴がいた。
「キャッ!?」
またしても足を出し、今度はアミルが転んでしまう。それでもプレゼントだけは守ろうと受け身も取れなかったアミルは、その痛みで少し動けないでいた。
「ア、アミル!?」
流石にその後にとった貴族の行動に、雪兎の堪忍袋の緒が切れる。
「おいおい、汚らしい忌み子が何を渡そうとしているんだ? お前みたいな奴は、黙って料理でも食っておけ」
そう言って足を出した貴族は手に持っていた料理をアミルの頭からかけ、プレゼントの箱を踏みつぶす。
「ああ、せっかくのプレゼントが……ユキトさんが用意してくれたドレスも……ううっ」
「アミル大丈夫!?」
一生懸命に作ったプレゼントも雪兎からプレゼントされたドレスも汚され、ついにアミルが泣きだしてしまった。リンもアミルの心配をしてあげる事しか出来なかったが、その心の中では怒りに溢れかえっている。
すぐにでも殴り倒してやりたい。その気持ちを必死に抑えるのに精一杯だった。
しかし、そんな世間のしがらみのない者にとっては我慢の限界を超えていた。
『お前等! そこまで俺のものをいたぶって、無事に帰れると思うなよ!』
雪兎は正体がバレるとか、この町で生活出来ないなど少しも考えずに念話による声を全員に発した。その声にどこの誰だと周囲を見回すが、脳に直接語りかけている声の出所を探る事は出来ない。
だがその怒りの声に素早く反応する者もいた。
『お主の怒りはもっともだが、ここは怒りを鎮めてくれ。いくらお主達がプリセラの学友だとしても、貴族を手に掛ければお尋ね者になるぞ!』
声の正体を知っているバハムートが、いち早く雪兎の前に飛んで来て進行を阻む。
『邪魔をするな! 何故俺がここまでやられて我慢をしないといけない! それともお前から始末してやろうか!!!』
雪兎はバハムートが相手だろうと止まるつもりはまったくない。狙いは2人に手を出した貴族の全員。その顔と匂いは最初から忘れないように記憶している。
『頼むからここで暴れる事は止めてくれ!』
『黙れ』
『ガッ!?』
雪兎は押さえつけてきたバハムートの胸に手を当て、浸透剄を放つ。いくら硬い鱗に守られていても、体内に直接攻撃をされてはダメージを受ける。
『こ、これが前に言っていた衝撃を通す技か』
油断をしてはいなかったが、まさか本当に零距離から明確なダメージを受けるとは思っていなかったバハムートは、痛みで後ずさる。
『今のは手加減してやったが、これ以上俺の邪魔をするようならお前だろうと殺すぞ』
雪兎の目を見てバハムートは悟る。普段はノンビリ暮らしているが、その本質は闇の住人。生き物を殺す事に慣れ過ぎて、例え人間が相手でも平気で息の根を止めれる暗殺者の目を持っている事に。
『それでもここで争うのは不味い! お主1人ならどうとでもなるだろうが、あの少女はどうなる? 一生逃げ続ける生活をさせるつもりか!』
『ここにいる全員の口を塞げば問題ない。……それに忠告したぞ。邪魔をするなら殺すと』
再び目の前に立ち塞がるバハムートに、冷たい視線のまま移動する。バハムートも仕方がないと、口からブレスを吐こうと力を溜める。
「そこまでです! わたくしの誕生パーティーで揉め事は許しません!」
ここでプリセラが声を上げて止めに入る。周りから見ればアミルを守る行為だが、実質は雪兎とバハムートの戦いを止めるものだった。
「わ、わたしはこの場違いな忌み子に罰を与えただけで、け、決して争うつもりは……」
「黙りなさい! 彼女達はわたくしが頼んで参加してもらったのです。貴方にはわたくしの友達を罰する権利はありません! ……大丈夫ですか、アミルさん?」
プリセラはその場にしゃがみこみ、泣きじゃくるアミルに声を掛ける。
「ごめんね。ごめんねプリセラちゃん。わたしのせいで誕生日が滅茶苦茶になって、プレゼントも潰されちゃったよ。ごめんね」
アミルはひたすら泣きながら謝った。その様子を見て、雪兎の怒りは更に膨れ上がっていく。
「分かりました! 今回の事は彼女とそこにいる彼、<ブラウン>家の決闘で収拾をつける事にします。お互いの家の全力を持って挑み、負けた方には全財産の没収とお家のとり潰しを行います。お父様、それでよろしいですわね」
「お前がそこまで感情を露わにするとはな。確かにブラウン家の行いは目に余る物があるのも事実。プリセラ、お前の好きにしなさい」
「ありがとうございます。ブラウン様、それで構いませんね?」
「ええ、それで今回の事が丸く収まるのなら、わたしは構いません。それより宜しいのですか? 決闘と言う事は、ご学友が死んでしまう可能性もありますよ?」
少しも負ける気がしないブラウンは、この場を収める為に忌み子を生贄にしたと思っている。そんな男の下品な微笑みを少しも見ず、更に条件を告げる。
「決闘は明日のこの時間。場所はこの町の闘技場を使います。ただしこの決闘の見学は許しません。当事者とお互いの用意した戦力のみとします」
この場にいる貴族達は全員がこう思っただろう。貴族の面子とご学友を守るために閉鎖した場所で決闘した事にして、見逃してあげる為の処置だと。
そんな周囲の考えとは別に、プリセラは雪兎の方を見て、何も言わずに見つめ続ける。
『お主ならあの言葉の意味を理解出来るだろう! だからここは一度怒りを抑えてくれ』
『……分かった。ここは竜使いの流れに乗ってやる。だが明日は誰1人として逃がすつもりはない。もしお前が止めに入った時は、今度こそ全力の攻撃で息を止めてやるから注意しておけ』
『明日は止める事はしないから安心しろ。だがもしも暴走して我が主に手を出したのなら、こちらも全力で排除する事を約束しよう』
『そう言う事だ竜使い。お前の言うとおりにしてやるから、今日は帰らせてもらう』
雪兎はゆっくりとアミルの下に近づいていく。
「ユキトさん、ごめんなさい。わたしのせいでせっかく用意して貰ったドレスが……」
『そんなのは気にしないで良い。お前は今までの嫌がらせに耐えきったんだ。俺には出来ない事をしたんだから、もっと胸を張って良いんだぞ』
「でもプレゼントも……」
『おいおい、お前が作ったプレゼントはぬいぐるみだろ? 例え箱が壊されたって、中身は無事だろう。おい竜使い。その箱の中身はこいつ等が夜中まで起きて頑張って作ったお前へのプレゼントだ。こんな形で悪いが、受け取ってくれ』
プリセラはへこんだ箱を手に取り、中身を見てみる。
「これは……バハムート? これをお二人が……ありがとうございます。わたくし、こういう物を貰った事がありませんでしたので、とても嬉しいですわ」
『ほう、少々丸い気はするが、確かに我のようだな』
プリセラとバハムートは、そのプレゼントを見て微笑んでいた。それを見て、泣いていたアミルに少しだけ笑みが戻った。
『さあ渡す物も渡したし、さっさと帰るとするか。あと、明日も迎えをよこしてくれると助かる。俺達はその場所が分からんからな』
「ええ、ちゃんと用意しますわ。……そして貴方の実力も見せてもらいますね。一日遅れですが、プレゼントとして見学させてもらいます」
『ちゃっかりした奴だ。そして怖い奴だな。1つの家が消え去るって言うのに、楽しみしているなんてな』
その答えをプリセラは返してこなかった。ただその微笑みを見る限り、否定をするつもりはないらしい。
雪兎は泣き止んだアミルを起こしてやり、リンを連れて寮に帰っていく。




