52話 誕生パーティーの始まり
雪兎は無事に頼んでいたドレスを受け取る事が出来た。受け取ったドレスは、肩に紐で支える支えるワンピースタイプで鮮やかな青だった。
『今帰った。そっちはどうだ? 満足な物が出来たか?』
「おかえりなさい。ちゃんと完成しました。……どうでしょう。今のわたしに出来る全てを出したつもりですが」
アミルは少し自信なさげにぬいぐるみを見せる。雪兎が作った石の人形に比べると丸みがあり、可愛らしい物だったが、パッと見でバハムートと分かるので出来は十分と言えた。
『思ったより良い物が出来たな。これなら十分プレゼントとしていけるはずだ』
「良かった。実は少し心配だったんですよ。ユキトさんが作った人形のように格好良く作れませんでしたから」
「だから言ったでしょ。それならプリセラだって喜ぶって」
雪兎の意見を聞き、アミルは嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。
アミルとリンは満足そうにぬいぐるみを箱にしまい。ラッピングもリボンで綺麗に結び、アイテム袋にしまってもらう。
『じゃあ、次は俺の番だな。……さあ、これが俺の用意したドレスだ。サイズは合うと思うが、とりあえず着て見てくれ』
アイテム袋にしまっていたドレスを取り出すと、アミルの目が釘付けになる。
「これを、わたしに? 良いんですか。こんなに良い物をわたしなんかが着て」
『何を言っている。お前の為に用意したのに、お前が着ないで誰が着るって言うんだ』
そう言ってドレスを投げ渡すと、アミルは慌ててそれを受け取る。そして手触りなどを堪能して「わ~」と嬉しそうに呟いていた。
「アミルのドレスも綺麗だね。ねえ、早速わたしにも見せてよ」
どうやらリンのドレス姿はアミルには見せたようで、雪兎が見るのは明日になりそうだ。アミルはリンにも促され、すぐに服を脱ぎ出し、受け取ったドレスを着て見る。
「ど、どうですか? わたしに似合っていますか?」
『ああ、かなり似合っているぞ』
「うん。とっても似合ってるよ」
「へへ、そう? わたし、ドレスって初めてだから……でも2人がそう言ってくれるなら、嬉しいかな」
アミルはその場でゆっくり周り、初めてのドレスを楽しんでいるように見えた。
プリセラの誕生パーティーの日がやってきた。
会場はプリセラの家らしいのだが、アミル達は一度も行った事がないので今更ながらどうしようかと困ってしまった。
しかしその心配もすぐに解消する。プリセラの計らいで寮まで馬車で迎えが来た。
出来れば事前に教えておけ、とも思ったが、プレゼントやドレスに集中しすぎて気がつかなかった此方にも非があるので、言葉に出す事は出来ない。
馬車に乗る前に使いの人に言われ、ドレスに着替えておいた方が良いらしいので移動中に済ます事にする。
アミルは平気で着替えていたが、リンは恥ずかしがっていた。するとそれを察知したアミルが自分の服を使って俺の顔を覆ってしまう。
正直子供の着替えを見たからと言って何も感じないのだが、本人が嫌がるなら仕方がないと抵抗はしない。
馬車で30分ほど走っただろうか、ようやくスピードが落ち始める。
「うわー、凄く大きなお屋敷ですね。前に見たお屋敷と比べ物になりませんよ」
「ここがプリセラの……ここからはプリセラ様って呼んだ方が良いわね。プリセラ様のお屋敷か」
『おいおい、竜使いの親が凄いだけで、本人はまだ何もしていないだろ? なら様をつけるのは大袈裟すぎるんじゃないか?』
「何を言っているんですか! 貴族って言うのは子供でも同じなんです。だからいくら同級生と言っても、呼び捨ては不味いんですよ」
「ならわたしもプリセラちゃんって呼ぶのは駄目なんだね」
普段は呼び捨てとちゃん付けなのに、今更丁重にして意味があるのか? とも思ったが、他の貴族の目もあるので、ここは念には念を入れた方が良いのだろうと諦める。
ただ念話で話をする雪兎にとっては、伝える相手を選べれるので関係ない話ではあった。
馬車で迎えに来てくれた人は、そのまま屋敷の中の案内までしてくれた。内部は綺麗に清掃されており、所々に高そうな壺などが飾られている。
その廊下を歩き、一際大きな扉の中に入ると、そこには既に多くの人が集まっていた。
「す、凄い人の数ですね。……わたし、もう緊張してきちゃったよ」
「わたしだって怖いわよ。アミル、無礼を働く前に隅の方に行こう」
「う、うん」
煌びやかなドレスや宝石を身につけた人達が大勢いる為に、完全に気圧された2人は目立たないように部屋の隅に移動しようとする。
しかしその考えはすぐに失敗する。
「アミルさん、ユキトさん、リンさん。このたびはわたくしの誕生パーティーに参加してくれて、ありがとうございます」
逃げようとした2人は今回の主役であるプリセラに見つかり、声を掛けられてしまったのだ。それも本人から近づいてきたので、逃げる事も出来ず、更に他の人の注目まで浴びてしまい、もうこっそりやり過ごす作戦は崩壊していた。
「ほ、本日はお呼びいただき、誠にありがとうございます」
「あ、ありがとうご、ございます」
完全に場の空気に呑まれた2人は、緊張して上手く言葉を話せなかった。それを見てプリセラは笑いながら、
「そんなに緊張しないでいつも通り、気楽にお話ください」
「む、無理だよ。こ、こんなに人がいるんだよ」
気さくに話をするリンですら緊張しているのに、人見知りのアミルがまともでいられる訳がなかった。
『はー、竜使い。こいつ等は場の空気に呑まれちまっている。悪いが少し落ち着く時間を与えてやってくれ。お前も何時までもこいつ等とばかり話をしているわけにもいかんだろ?』
「そのようですわね。それでは料理は自由に食べてもらって構いませんので、楽しんで行ってくださいね」
そう言ってプリセラはその場から離れる。それでも一度浴びた注目はそう簡単には消える事がなく、プリセラが自分から足を伸ばした相手が誰か、興味を持たれてしまったのだ。
対象が子供でもプリセラが懇意にしている相手、無礼を働いて関係が崩す訳にはいかない。なので貴族側もなかなか直接話しかけれないでいた。
だが注目を浴びる事で知ってほしくない事を知られてしまう。やはりと言うか、相手の弱みとも言える所を見付けると、その話題は一気に広がってしまった。
「おい、あの子の目。見て見ろよ」
いくら前髪を垂らして隠していると言っても、完全に隠している訳ではないので気付く人は出て来る。学園でも汚い物を見るような目で見られているが、大人の視線と言葉は更に酷い物だった。
「なんで忌み子がこのパーティーに来てるんだよ。プリセラ様の足を引っ張る為に誰かの指しがねか?」
「いや、意地汚い忌み子だ。お優しいプリセラ様に取り入ろうとしているに違いない」
「どうやらあいつ等はプリセラ様のご学友らしいぞ。しかも庶民らしい」
「なら取り入ろうとしているって事に間違いないな」
アミルの表情が固まる。貴族達はあえて聞こえるように話しているのだ。もちろん耳の良いアミルにはハッキリと聞こえてしまい、顔も上げれないで震えている。
『あんな見ず知らずの馬鹿なんか気にするな。あいつ等がどう思おうとも、竜使いは全てを承知でお前を友達と言ったんだ。お前も友達と思うなら、堂々としていろ』
「そうだよアミル。言い返したら駄目だけど、聞こえない振りをする分には問題ないし、せっかくのプリセラの誕生日なんだから楽しもうよ。うん、わたし、料理を取って来るよ」
リンはアミルの気を紛らわせようと料理を取りに行く。しかしその途中で貴族の1人に足を引っ掛けられ転んでしまう。
「痛っ……」
「おいおい、しっかり足元を見て歩きたまえよ。まったく庶民は意地汚く料理に跳びつこうとするから転ぶんだ」
「な!? あんたが……いえ、何でもありません。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
明らかに足を引っ掛けられた事に一瞬頭に血が登り文句を言いそうになったが、すぐに立場の違いを思い出して謝りだした。
相手が貴族でないとバレると、今まで距離を置いていた者もあからさまに嫌がらせを始める。
『おい……なんでお前が謝る必要がある。足を出して来たのはアイツだろ』
「それでも駄目なんです。わたしが手を出したら、お父さんたちにまで迷惑が掛かるかもしれないから。少し我慢すれば良いだけだから、師匠もお願いだから我慢してください」
「ユキトさん、わたしも大丈夫ですからお願いします」
『……お前達がそこまで言うのなら、俺も出来るだけ我慢しよう』
その後もわざと近づいて来てはぶつかって謝罪を求めるを繰り返してくる。その度に2人は悲しそうに謝っているが、雪兎の怒りは徐々に膨れ上がっていた。
周りの空気に流されている大人たちは気付かないが、雪兎から発せられる怒気に、まだ貴族の風習に染まっていない子供は怖がって離れていく。




