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51話 ぬいぐるみ製作

 ユキトさんは材料を買い揃えている内に出発してしまいました。声は掛けてもらえませんでしたが、部屋に残されたバハムートさんの人形が、「これを見て製作に励めよ」と語っているように見えます。



「師匠って行動が早いわね。でも間に合うのかな? 確か魔境の森までは馬でも一日以上は掛かる距離なのよ」


「そうなの? でもユキトさんが本気で走ったら、たぶん馬より早いと思うよ。それに無茶な事は言わないと思うし」


「いやいや、馬より早いスノーラビットって、それだけでも十分無茶な事を言っているから。……でも師匠なら平気な顔でやりそうだから怖いわね」



 リンちゃんは他のスノーラビットを知っているのでしょう。それと比較して呆れたような顔をしています。でもわたしが知っているのはユキトさんだけだから、全然不思議に思えないんだけどね。



「それにこの石の人形……ここまで細部まで拘った物を掘るなんて、師匠ったら何時の間に彫刻まで」


「たぶんそれはここを出る前に作ったんだと思うよ。ユキトさんも土魔法を覚えているから」


「ああ、魔法で…………って!? なんで師匠がこんな精巧な魔法を!? アミルにも出来たから無詠唱が可能でしょうけど、昨日覚えてもうここまでの魔法を使いこなせるってどういう存在よ。……は~、ステータスも上、技術も上、その上魔法まで高レベルで使いこなせるなんて、規格外過ぎて追い付ける気がしないわ」


「ハハ、ユキトさんは凄いんだもの。普通の枠に収まらないよ」


「まあ、そうよね。師匠が非常識なのは今更だし、わたし達も頑張って作りましょう」


「うん」



 最初はバハムートさんを思い出しながら作るのは大変だと思ってたけど、ユキトさんには苦労するところがお見通しだったみたい。

 今からモンスターと戦う所に行くのに、わたしの為に魔法を使ってくれて感謝です。



 わたし達は午後の授業が終わるとすぐに寮に戻ってきて、ぬいぐるみ製作に取り掛かります。リンちゃんは途中で何度かドレス作りに抜けましたが、2人で試行錯誤して縫い目などを出来るだけ目立たないようにしまう。

 どうしても分からない時はリンちゃんのお母さんに聞きに行きました。お母さんも裁縫をやるようなので、知らない技術などを教えてもらい、とてもためになりました。



 作業は毎日夜遅くまでやりました。何度も針を指に刺してしまいましたが、それでも3日目にもなると慣れてきたようです。

 一番辛かったのは座学の時間です。いつも眠たそうにしているわたしと、横にいるはずのユキトさんがいない事に不思議そうな顔をしていたので、誤魔化すのが大変でした。



 4日目。パーツは出来上がっていきました。後は合わせていくだけです。ここまで何度か失敗を重ねましたが、ギリギリ材料が足りそうです。



『今帰った』



 するとユキトさんが帰ってきました。見たところ怪我もなさそうでホッと安心すると、涙が出てきてしまいました。

 ユキトさんを心配する必要はないと思っていても、3日も離れると不安でいっぱいだったのかもしれません。



「ユキトさん、おか、おかえりなさい」



 泣きながらだったので、上手く言葉が出ませんでした。



<アミル視点 終了>





 寮に戻ると、アミル達のぬいぐるみ製作は大詰めになっているようだ。



『今帰った』 



 そこまで長期で離れていた訳ではないので、普通に家に帰った時のように声を掛けたのだが、アミルは泣きだしてしまった。



「ユキトさん、おか、おかえりなさい」


『おいおい、何も泣く事はないだろ。ちゃんと帰って来るって言ったろ』


「分かっています。分かっていますけど、心配で心配で……わたしユキトさんを信用出来てなかったのかも」



 信用しろと言われて返事をしたはずなのに、それでも心配してしまった事に、アミルは雪兎を信じていなかったのかも表情を暗くして自分を責めていた。



『何を言っているんだ。ちゃんと帰って来る事を信じる事と、その身を心配する事とは別の話だろ。今回はとくにお前も知らない森に向かったんだから、心配してくれるのはむしろ良い事だ』


「うう、すみません、すみません」


『だから泣くなって……まったく、お前はいつまで経っても泣き虫が治らんな』


「うう……」


「ハハ、アミルったら緊張が解けた途端、泣いちゃうなんてね」



 リンは泣いているアミルを見て、少し笑っていた。



「わたしってそんなに緊張していたの?」


「そりゃ傍から見ればすっごく緊張していたわよ。通り過ぎる人がいる度に肩に力が入って、師匠いる時はそんな事がなかったのにね」


「……自分では全然分からなかったよ」



 リンの笑い顔でアミルに少し笑顔が戻った。それを見てリンがいて良かったと雪兎は見つめた。



『さてと、そっちの方は順調なのか? 俺は明日ドレスを受け取りに行けば終了だ』


「は、はい。あとは繋ぎ合わせて綿を入れて、細かいパーツを縫いつけるだけです」


『なら風呂に入りに行くぞ。ここん所風呂に入れないでいたから、ベトベトして気持ちが悪い。やっぱり火と水の魔法を早く覚えるないといかんな』


「フフ、そうですね。では早速お風呂に行きましょう。リンちゃんも一緒にどう?」



 すぐに立ち上がり、お風呂に向かう準備をしながらアミルはリンに問いかける。



「わたしは遠慮するわ。一応、師匠は男性だし」


『ガキが何を言ってるんだか。まあいい、さっさと風呂に向かうぞ』


「はい! 久しぶりに一緒に入りますね。あ、食事はどうします? まだなら先に食堂に行った方が良いかもしれませんよ」



 アミルは嬉しそうに出て行った。リンはそんな2人を見て、「相変わらずだな」っと呟く。

 雪兎は確かにモンスターだが、人語を完璧に理解し、思考も人間そのものである以上、どうしてもリンからは男性に見えてしまう。なので一緒にお風呂に入って肌を見せるのに抵抗を感じているのだ。

 




 久しぶりのお風呂を満喫した雪兎は、部屋に帰るなり、アミルに一言言って先に眠ってしまった。アミルも一緒に旅をした事があるので、この4日間碌に睡眠をとっていないと理解し、優しく「お休みなさい」と告げて作業に戻る。


 ただ近くにいる。それだけでアミルは安心して作業を続ける事が出来た。






「あら、ユキトさん。お久しぶりですわね」



 翌日、久しぶりに学園に顔を出すと、プリセラが声を掛けてきた。



『ああ、少し訓練をしてきたんでな。ここへは顔を出す事が出来なかった』


『なるほど、確かにお主から感じる力が上がっているのが分かるぞ』


「たった数日間の訓練でバハムートにそこまで言わすとは、やはり面白いお方ですわね」


『まあ、詳しい話をするつもりはないが、少しはお前を満足させれるだけの力をつけた。と、だけ言ってっておこう』



 嬉しそうに笑うプリセラとバハムートを横目に、しばらく振りの授業に耳を傾ける。アミルは昨日も遅くまで頑張ったようで眠そうにしているので、その分雪兎が授業を聞き逃さないようにしていた。

 まあ、今日の授業は計算がメインだったので、とくに聞かないでも教えるのに困らない内容だが。



 午後からは今日もクエストを受ける事はせず、学園内での訓練を行う事にする。生徒同士の模擬戦だったが、アミルは魔法を使う事無く戦っていく。

 まだ実戦レベルで使える物ではないのも理由だが、変に期待された目で見られるのを防ぐ為、緊急時以外は公の場で魔法を使わない事にしているのだ。


 そして授業が終わるとアミルは最後の仕上げをしに、急いで寮に戻る。雪兎はリンと約束した通り、そろそろ技を教える事にした。



 リンに教える技は<発剄>に該当する物で、大地を蹴り下ろし、その反動を体内を通して手から放つ。リンは体内で氣を練り上げる事までは出来ているが、それを外に放つ事がまだできない。

 なので蹴り下ろした反動の波を利用して、体内を巡っているだけの氣に方向性を持たせるのだ。


 これを覚える事が出来れば、零距離からでも強力な攻撃が出来るようになり、体内の氣の量が増えればその分威力が上乗せする事が可能だ。



「確かに凄い技ですが、それが出来るなら攻撃する度に自分もダメージを受けていると思うのですが」


『まあそう思うわな。猪娘も経験があると思うが、的を殴り続けると腕が痛みを帯びる時があるだろう。それは自分にダメージが返ってきている証拠だ。だが一撃にそこまで痛みがないのにはちゃんとした理由があって、人間は筋肉で衝撃を逃がす事で自分へのダメージを減らしている』


「そんな理由があったんですか」


『それでさっき言った技はその筋肉で逃がしている衝撃をも氣に変え、100%攻撃に変えるんだ。まあ、言葉で説明するのはここまでとして、早速実戦してみろ』


「は、はい!」



 すでにリンの体内に廻らせていられる氣の総量は、MPで言えば10ぐらいにはなっている。おそらく一撃放てばすぐに空になり、また氣が溜まるのに数秒の時間が必要となるだろう。

 それでも氣を覚えてから1か月少々。十分早い成長と言える。



 最初は上手くいかなかったが、氣を廻らせる事に慣れ始めているリンはすぐにコツを掴み、脚力の半分ぐらいの衝撃を放つ事が出来た。

 それでも足は手の3倍の力を持っていると言われているので、全力で殴るより遥かに強力な攻撃が出来る。



『すでに分かっていると思うが、猪娘の氣のコントロールは未熟だからな。腕にだいぶダメージが返ってきているはずだ』


「は、はい。細かい作業が出来ないぐらい腕が震えています」



 リンは自分の手を見て、そう実感していた。



『これは力づくで氣の流れを作っているからな。その内慣れる事が出来れば、体内の氣だけで同じ攻撃が出来るようになり、また腕への衝撃も氣に戻す事が可能だ。ちなみに今の一撃も、足からの衝撃を3割ぐらいしか利用できていないし、体内の氣も半分ぐらいしか使えていない』


「わたしにもついに技を覚える事が出来たんですね! しかも間合いが無くても使えるなんて、拳闘士にとって最高の技ですよ!」



 未完成ながらも確かな手応えを実感できた技を使えて、リンのテンションはかなり上がっていた。スキルを持たない者が、魔法のような力を手に入れたのだから、その気持ちも分からない訳ではない。

 だが、ここで満足されては困るので、少し釘を刺しておく事にする。



『お前の氣の総量は、MPで言えば10ぐらいしかない。今はまだ技に氣を乗せきれていないから半分ぐらい残っているが、少し慣れれば一撃で空になるだろう。今後も技の訓練はもちろん、氣を練り上げるの訓練も忘れるなよ』


「はい! それでこの技はなんて言うんですか?」


『発剄の一種だが、猪娘の自由に決めて良いぞ。技って言うのは人の数だけ種類が増える。だからお前が覚えた技は、お前が自由に決めて良いんだ』



 使う人が変われば微妙に技の効果や内容も変わっていく。まったく同じ技でない以上、同名である必要はないのだ。

 その事を伝えると、リンは嬉しそうに名前を考え始める。



『名前はゆっくり考えればいい。それより体内の氣も回復したようだし、もう一撃だ』


「はーい」



 リンの浮かれっぷりは技を放つ直前まで続いたが、流石に放つ時は真剣な表情に戻っていた。






 日はまだ沈んではいなかったが、リンも注文していたドレスを取りに行くと言っていたので、修練は終わりとした。


 少し早いと思ったが、雪兎もドレスを受け取りに向かう。


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