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50話 交渉

 更新が滞ってしまい、すみませんでした。仕事が忙しく……ゴールデンウィークは休日出勤する日々でした。

 だいぶ疲れが溜まっているのは実感しているが、今は時間が惜しいのでアルティアまで走って帰る。


 残りの日数は1日ちょっとあるが、無事に目当ての素材も手に入れた。あとは人目に付かずに交渉できる場が必要となる。




 アルティアに到着したのは日が暮れて少し経ったぐらいだった。薄暗い街道を駆け抜け、門番の目を盗んで素早く町の中に入り込む。



(ずさんな門番で助かったな)



 馬鹿真面目な門番が相手だと、どうやって気を逸らそうかと考えていたのだが、夕食前で気の抜け掛かっていたのか、時間が無駄にならずにすんだ。


 そのまま裏道を走り抜け、お目当てのユニシロ服店の近くにまで到着する。建物は二階建てで、一階が店で二階が居住用だろう。



 スキルを使って店の中の様子を調べて見ると、どうやら客はおらず、一階には店主と思われる人物は服を仕立てており、二階で大人が1人、子供が2人いるのが分かる。

 一階に1人しかいないなら、むしろ好都合だった。



『おい、ユニシロの店主。俺の声が聞こえるか』



 とりあえず念話によって話しかける。


 突然の声に勢い良く立ち上がり、周りをキョロキョロして声の主を探しているのが分かるが、どんなに見回しても建物の外にいる雪兎を見つける事は不可能だ。



「だ、誰です? お客様ですか?」


『客と言えば客だが、実はお前と取引をしたくて話しかけている』


「えーと、お客様はどちらに? 声はするのに姿が見えないのですが?」


『分け合ってお前の前に姿を見せる訳にはいかないんだ。そして時間もない。さっさと用件だけを伝えよう。……実はお前に10歳ぐらいの子供用のドレスを用意してほしい』


「? それなら普通にお買いになられればよろしいのでは?」


『さっきも言ったが、俺は顔を出す訳にはいかない。そして今は金もないんだ』



 金がない。その言葉に店主に緊張が走ったのが分かる。金がなく、顔も見せれず商品が欲しいとなると、強盗か何かと思ったのだろう。

 俺でもそんな状況になれば、怪しさから警戒するだろう。当然の反応だった。



『そんなに緊張しなくてもいい。金はないが、代わりにある素材を取って来た。店の前に1つ置いているから、それを確認してみてくれ』



 自分で言っておいてなんだが、かなり怪しい。店から出てきた所で何かを仕掛ける。そう捉えられても不思議ではないからだ。

 説明が失敗したかと思ったが、店主は恐る恐るだが店の前に移動してきてくれた。



「こ、これは<シルクスパイダーの糸>!? それも結構上質の物だ!」



 落ちていた物を見て、店主はすぐにそれが何なのかを理解した。



『俺は冒険者じゃないから依頼を受ける事も出来ない。だから金に変える事も出来ない。お前への頼みは、この素材とドレスの交換だ』


「た、確かにこの品質なら結構な値で取引されるでしょう。ですが子供用と言ってもこれ1つではつり合いが取れませんよ?」


『分かっている。だから俺が取って来た分、全てをお前に渡す。すまないがもう一度店に入ってから出てきてくれ』



 店主も顔を見せれないと言われた事を思い出し、素直に店に入る。そしてもう一度出てきてみれば、そこには9つの糸の束が置いてあった。



『それに見合った……いや、最低限貴族のパーティーに参加しても恥をかかない程度のドレスを用意してほしい』


「シルクスパイダーの糸をこんなに……これならかなり上質なドレスを用意出来ますよ?」


『それは駄目だ。これを着るのは一般人だ。そんな奴が下手な貴族より上質なドレスを着ていると、変に因縁をつけられてしまうかもしれないからな。だから最低限でいい』


「そう言う事でしたら……分かりました。確かに庶民が参加するなら当然の事ですね。それでは採寸などをしたいのですが、その少女を連れて来る事は出来ませんか?」


『それも駄目だ。そいつを連れてくれば、この取引の事がバレた時に罪にとられる可能性が出て来る。これはあくまで俺の独断でした事にしないといけない。……だから代わりに着る奴の人形を渡してやる』



 その声がして少しすると、店主の横に顔のない10センチ程の石で出来た人形が降って来た。



『顔は明かせないが、それがドレスを着る奴の体系だ。身長は130センチぐらい、髪は栗色。あと、ドレスが必要になるのは明後日なので、急なのは分かっているがそれまでに頼みたい』

 

「ここまで精巧な人形を……確かにこれがあれば採寸は必要ありませんね。少し計算が必要になりますが、明日のこの時間までには似合うドレスを仕立てましょう。それで構いませんね?」


『ああ、頼む。あと出来ればお前が出した依頼やクエストを取り下げるのは止めてほしい。俺のせいで仕事が減ったら申し訳ないからな』


「それに関しては大丈夫です。服に使う素材はいくらあっても困りませんから。それにこの依頼を受けてくれる冒険者は数が少ないんですよ。貴方は実力はあるようですが、あまり世間の事情に詳しくないようですね」



 こちらの事情を少し知られてしまったが、それぐらいで自分達に辿り着くのは不可能だと考え、とくに気にしない事にする。



『俺の詮索はそれぐらいにしてもらおう。それより頼んだぞ。明日のこの時間にまた声を掛ける』



 それだけ伝えて今日はアミル達が苦労しているであろう寮に帰る事にした。






<ユニシロ店主 視点>



 今日の商いが終わり、新たな服の製作に入っていると不思議な声を掛けられた。まるで声の出所が分からない、その割にハッキリと伝わる声。長年この商売をやっているが、こんな体験は初めてだ。


 その声の主は乱暴そうな話し方の割に、欲しがっているのは子供用のドレスというアンバランスな物だった。

 最初は何か危険なトラブルに巻き込まれるのかと警戒をしたが、強盗ならわざわざ声を掛ける必要がないし、もう少し遅くに来て寝静まった所を襲えば抵抗も少ないだろう。


 少々怖かったが、声に言われたとおり店の外に出て見ると、そこには一目で分かる高級素材、シルクスパイダーの糸が置かれていた。

 これは一ヶ月に一度、依頼を受けてくれれば良いぐらいの入手難易度が高い素材だ。それに状態も良い。前に持って来てくれた物は、強引に巻きとって来たのか汚れが目立ち、商品に出来る部分少なかった。

 巣を守るシルクスパイダーは危険なモンスターなので、陽動して、その隙に奪って来るのだから仕方がないのだが……これは違う。明らかに均等な力加減で巻きとられており、危険がない安全な状態で採取して来れた物だ。


 これだけあれば前回、途中で糸が足りなくなった依頼の品を完成させられる。


 自慢じゃないが、わたしの店は貴族からの注文が多い。その中でもシルクスパイダーの糸を使った商品は、肌触りから艶のある見た目まで最高に良いので、予約待ちの状態が続いている。肝心の素材が手に入らないと作れないのは貴族の方々も分かっておられるので、そこまで急かされる事はないのだが、早い事にこした事はない。


 そう言う意味ではこれは喉から手が出るほど欲しいものだ。だがドレスとなると元が取れない。わたしも商売をやっている以上、利益が出ないのであれば諦めるしかないのだ。


 だがその声の主はまだ素材を持っていると言う。確かにこの品質の素材を3つもあればドレスを用意する事は可能だろう。

 しかし次に見た物は想像以上の物だった。なんと最初の分を合わせて10もの束を出して来たのだ。


 これは顔を見せない怪しさを抜いても、是非取引をしたい物だった。それにこの量なら最上級とは言えないが、中級よりやや上のドレスを用意しても十分利益が出る。



 そう考えていると、用意するのは最低限のドレスで構わないと言われた。理由を聞くとドレスを着るのは庶民の少女のようだ。確かに貴族は自分達の身分を誇示する為に見栄を張る生き物。そんな所で庶民が上をいくドレスを着ていようものなら、その後、様々な嫌がらせをしてくるのは間違いないだろう。


 少しこちらが儲け過ぎだが、声の主によると急ぎのようなので、最優先で最速で仕立てる事にしよう。採寸の心配も精巧に作られた石の人形で何とかなる。

 これを作る暇があるなら、もっと早くに注文を出してくれれば良いのにとも考えたが、それは各々の事情があるのだろうから何も言えない。


 声の主はまた明日来るとだけ言って去っていった。


 明後日に必要になるパーティーと言えば、プリセラ様の誕生パーティーぐらいしかないはずだな。つまり正体を隠していても、その会場に来る庶民の少女に関係する誰かが声の主なのだろう。

 深く詮索するつもりはないが、丁度わたしも呼ばれているし、自分が作ったドレスを着ている少女がいれば顔を覚えておくぐらいは良いだろう。

 もしかしたらまたシルクスパイダーの糸を取って来て貰えるかもしれないからな。


 おっといけない。そんな先の話よりまずは依頼のドレスを完成させないとな。二階で嫁が呼んでいるから食事をして、その後はシルクスパイダーの糸を編み直してもらおう。

 

 今日は忙しくなるぞ。だがここまでの上客の依頼。しっかりとこなさなければ、店の看板に泥を塗る事になる。




 ユニシロ店主の夜はまだ長い……。



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