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49話 魔族の少女

 帰りに掛かる時間を考えるとそこまで余裕はなく、寝ずの移動を繰り返していたので疲れも溜まっている。それでも行きに出会った魔族の少女の事が気になり、その位置を確認してみる。



(さっさと魔族の領土に向かっていれば良いんだがな)



 雪兎のその願いは叶う事はなかった。魔族の少女は、よりにも寄って敵対している人間の領土に近づいている。

 しかもその近くには人間の匂いもするので、すぐに出会ってしまうか、すでに鉢合わせになっているのは明確だ。



(まったく。面倒事に巻き込まれやがって。……仕方がない、少し様子を見に行くか)



 雪兎はため息を吐いて、その少女の下に走っていく。






「やめて! わたしは人間に危害を加えるつもりはない!」


「へへ、なら尚の事、高く売れそうだ。まだ年齢は若そうだが、将来有望そうだしな」



 武器を構える冒険者達は、いやらしい笑い顔のまま少女に近づいていく。「売る」その言葉を聞いて、逃げなきゃと感じた少女は、黒い塊を放って攻撃を開始する。


 だが、



「おいおい、何が危害を加えないだよ。しっかり攻撃魔法を使ってきたじゃないか。これはもう、殺されても文句はいえないな」



 少女から放たれた黒弾はあっさり冒険者の盾によって防がれた。その間に少女は冒険者に囲まれてしまい、逃げる事を封じられる。


 武器を構えた山賊のような冒険者に囲まれ、恐怖で震える事しか出来ない少女。その恐怖で歪ませる顔を見て、冒険者は軽く腕を傷つけるなどして追い込み、楽しんでいた。

 徐々に増えていく傷に少女は痛みでますます体を丸める。



「あまり傷付けるなよ。商品としての価値が下がってしまうからな。まあ、薬草はあるから、もう少しならいたぶっても構わんがな」



 その言葉を聞いて、少女は絶望の涙を流す。まだ傷付けられ、更にその後に売られる未来を告げられる。

 助けを呼ぼうにも誰も味方はいない。逃げ場もない。もう泣く事しか出来なかった。



『胸糞悪いものを見せやがって。お前等、このまま無事にここから帰れると思うなよ』


「だ、誰だ!? どこから話しかけてやがる!」



 雪兎が現場に到着した時、そこには冒険者に囲まれていたぶられて泣き崩れている少女の姿が見えた。


 大の大人が寄ってたかって1人の少女に武器を向けて攻撃をしているのだ。それだけで雪兎の逆鱗に触れるには十分な行為だった。



「ギャ!?」



 木の上から勢い良く下りてきた雪兎は、そのまま1人の冒険者を蹴り殺す。最後に短い悲鳴を上げて地面にめり込んだ冒険者を見て、他の冒険者は何が起こったか分からないで固まってしまう。


 地面に足が着くと同時に近くの冒険者の顔を蹴りつけ、その首が変な方向に曲がって息絶える。



「あの時の……ウサギさん?」



 突然上げられた冒険者の悲鳴に、少女が顔を上げて雪兎の姿に気付く。だがすぐにその姿を見失う。雪兎が3人目の冒険者に向かって移動したのだ。



「グッ!」


「お、おい! 武器を構えろ! こいつは唯のスノーラビットじゃないぞ!」



 3人目が倒された事でようやく我に返った冒険者は、残された仲間に声を掛けて戦う姿勢を見せる。盾を前に出されると倒すまでに時間が掛かる。と、今までなら思ったかもしれないが、雪兎の蹴りを受けようと構えた盾ごと冒険者の体は真っ二つに切り裂かれてしまった。



「風の……刃? な、なんでモンスターが魔法を使えるんだ! こいつも魔族だっていうのか!?」


『うるさい、黙れ。……俺は魔族じゃないが、いったい何を怖がっているんだ? お前達がこのガキにしようとした事が、自分達に返って来ただけじゃないか』



 最後に残された冒険者は剣を向けて震えていた。周りに転がっている仲間の死を見て、自分の運命に恐怖したのだ。



「こ、こいつをどうしようとお前に関係はないだろう! な、なんでこんな事を、人間が魔族をどうしようと自由だろ!」


『ああ、関係がないな』


「なら!?」



 一瞬の希望が差しこみ、表情を明るくした冒険者を無視して雪兎は上に跳ぶ。



『だが、俺はお前達の行為が気にいらない。ガキをいたぶり、傷付けて楽しむ奴等を見ると俺の怒りの感情が爆発するだよ』



 雪兎は冒険者の真上で土魔法でただただ巨大で重量のある石を出し、重力に任せて落とす。射出する分と硬さにまわす分の魔力を大きさにまわしたので、そこまで追加MPを使わないで石を生み出す事が出来た。

 しかし冒険者には恐怖でしかないだろう。突然上から避けようがない石がゆっくり降って来て、絶望を想像する時間だけを与えられる恐怖。

 武器を捨て、両手で石を支えようとするが、その重量を支えるだけの力は冒険者にはなかった。



ズン!!!!!



 静かに落ちる石の音だけを残し、冒険者の墓標が完成する。



『死んで反省するんだな』



 雪兎は一瞬魔族の少女を見て、石の下に潰れている冒険者を除いた4人を吸収する。



「何が起こったの……?」


『……おい! 魔族の領土は向こうだ。こっちは人間の領土、お前は魔族なんだから帰るなら向こうだ』


「うそ!? モンスターが喋るなんて」



 帰りの方向を腕で差しながら突然念話で話しかけた事で、少女は目を見開いて驚いている。



『そんな事はどうでも良い。俺はこの先にある人間の町、アルティアに帰らないといけないからな。お前はさっさと魔族の町に帰れ!』



 雪兎はそれだけを告げて立ち去ろうとする。



「あ!? ありがとうございました。おかげで助かりました」



 魔族の少女は痛みを無視して立ち上がり、頭を下げてお礼を言った。



『気にしないでいい』



 これ以上関わるつもりはないので、恩を着せるのではなく、そっけなく返事をする。だがそのあっさりした態度が少女には何かを思い出させたのか、懐かしく、そして嬉しそうに微笑む。



「フフ、なんかお兄ちゃんにまた会えた気がしました」


『ならさっさと帰ってその兄貴の下から離れるな』


「……もう、お兄ちゃんには会えないんです。お兄ちゃんは遠い、とっても遠い世界にいますから」



 笑ったと思ったら落ち込む少女。そんな少女に掛けて上げれる言葉を持っていない雪兎は、顔を見てあげる事も出来なかった。

 傷だらけの体を見て魔法で治療してあげようとも考えたが、魔族は聖魔法が使えないと言っていたので、ヒールの魔法だとダメージを与えてしまうかもしれない。なのでアミル達の治療用としてアイテム袋に入れてある薬草を投げ渡す。



『忠告はしたからな。そしてもう2度と助けてやる事も出来んだろう。お前も注意して帰るんだぞ』


「本当にありがとうございました。それでは貴方も気をつけてください」



 そうして2人は別れる。雪兎はとりあえず周囲のモンスターを狩りとり、少しだが少女の危険を減らしてあげた。










 残された少女は雪兎の歩いて行く方向を見て、懐かしさに涙を流した。



「本当にお兄ちゃんみたいなモンスターだったな。お兄ちゃんか……向こうの世界で元気に生活出来ているかな。……もう一度、会いたいよ……大好きだった、お兄ちゃん……」



 涙を払い、少女もまた歩き始める。雪兎に教えられた魔族の領土の方ではなく、人間の領土の方へ……





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