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48話 デススパイダーの糸

 魔境の森と言われて恐れられるだけの事はあり、そこに住みついているモンスターは外とはケタ違いに強いものだった。



(確かに普通の冒険者から見れば敷居の高い森のようだな。入ってすぐでオークレベルのモンスターがウヨウヨしてやがる)



 嗅覚強化のスキルもレベルが上がっているので、今まで以上に鼻は効くようになっている。その中に人間の匂いも少数混じっている事から、アルティアの町にいる冒険者のレベルの高さを見てとれた。

 いらぬトラブルを回避したい雪兎にとって、冒険者との鉢合わせだけは避けたい事なので、人の匂いがする方からは遠ざかる場所を選ぶ。


 出現するモンスターは巨大な昆虫系や妖樹と呼ばれるモンスター、蛇や熊などであった。木陰に隠れたりや木に擬態して襲いかかってくるモンスターがほとんどだったが、複数の索敵スキルに鑑定眼を持つ雪兎にとって意味をなさず、逆に不意打ちで仕留められる始末だった。



(それにしても数が多いな……このペースで吸収し続けると、消化の方が追い付かずに休憩が必要になっちまう)



 雪兎のアブソープションは吸収する事でステータスの上昇やスキルを得る事が出来るのだが、それと同時に空腹も満たしてくれるので、使い過ぎるとお腹が膨れて苦しくなり、最悪は動けなくなってしまうのだ。



(食い残しは勿体ないからな。最悪の場合はアイテム袋にしまっておくか)




 この後も嗅いだ事がない匂いに狙いを絞って向かって行くのだが、なかなかターゲットのデススパイダーの巣に辿り着く事は出来ない。






 約半日、だいぶ奥深くまで進んできたので木々が深くなり、日の光もほとんど差しこんで来ない場所にまで着いた。

 初見のモンスターばかり狙っていったので、そろそろ嗅いだ事のない匂いは少なくなってきた。



 そして次なるターゲットとして新しい匂いの下に辿り着いた時、雪兎は攻撃の手を止める事になる。



「キャッ!? ……なんだ、スノーラビットか。もう、ビックリさせないでよ。危険なモンスターが現れたかと思ったじゃない」


(子供? ……いや、魔族か。耳が尖がっているし、尻尾が生えている)



 見た目の年齢はアミルと同じぐらいで黒髪。そして黒いワンピースを着ているから、肌が余計に白く見える。間違いなく美少女の部類に入るだろうが、口から鋭い牙が2本出ているので種族は調べないでも吸血鬼種だと分かる。

 怯えて隠れている姿から戦えるようには見えないので、迷い込んだかそれとも何かから逃げだしてきたのだろう。



《ヴァンパイアプリンセス   レベル3  スペル ファーストダーク(LV2)   スキル 吸血 ・ 太陽光耐性 ・ MP吸収(LV2) HP自動回復(LV2)》



吸血    ・・・ 血を吸う事でHP、MPを回復する事が出来る。


太陽光耐性 ・・・ 日の光に浴びてもダメージを受けない。


MP吸収  ・・・ 大気に浮遊している魔力を自然吸収する事で、MPの回復速度が速くなる。


HP自動回復 ・・・ レベルに応じて回復速度が速くなる。どんな怪我でも時間が経てば自然に治る。




(吸血鬼……いや、吸血姫と読んだほうが正しいか。スキルと魔法が上手く噛み合っていて、魔法使いとしては優秀そうだ。そうなると種族から考えてもかなり高位だと思えるから、何かから逃げだして来たってのが濃厚か)



 魔族の実力はそのまま地位に繋がっている事が多いらしく、そんな地位の高い少女が1人で危険な森に好き好んで入る訳がないのだ。


 確実にトラブルの匂いがする。余裕があるときなら保護してやっても良いのだが、今は時間がない。さいわい近くにモンスターの匂いはしないので、今は放置する事にした。



「あ、もう行っちゃうんだ。でも気を付けてね。この森は危険なモンスターがいっぱい出るから」



 吸血姫の少女は立ち去っていく雪兎に向かって注意を告げる。どうせ言葉が理解出来るとは思っていないだろうが、少女も雪兎を守ってあげるだけの余裕は持っていないのだろう。素直に別れる事を選んだ。



(魔族って言っても、見た目以外人間と変わらんな。……放置しておいてなんだが、その動向に少し気をつかっておくか)





 更に数時間戦い続ける。すでに森に入る前に比べて、そのステータスは3割ほど上昇していた。


 そして、ついにお目当てのモンスターと出会う事が出来た。



 雪兎の目の前には巨大なクモの巣が幾数にも重なり合っており、その上の方にデススパイダーが睨みつけていた。



『あー、別にお前に危害を加えるつもりはない。少しこの巣から糸を分けて貰えれば良いだが』



 こちらとしては糸を分けて貰う立場なので、とりあえず念話で声を掛けて穏便に済ませたかったのだが……。



(やっぱり駄目か)



 デススパイダーは素早い動きで雪兎に向かって来る。



《デススパイダー  レベル 20  スキル スパイダーネット》



 まだこちらの間合いの外だが、口から白い糸を飛ばしてきた。おそらく粘着性の糸で、これに捕まると逃げるのは困難になるのは想像がつく。

 雪兎は後ろにジャンプして糸をかわすが、その行動を予想していたかのように着地地点に糸を吐いて来る。



(こんな森にここまでしっかりとした巣を作れるんだから、相当戦い慣れてやがるな)



 今回の目的は糸の採取。その糸を作り出すモンスターを倒す訳にはいかないだろう。

 この森を抜ける為に邪魔をするなら少しも迷うことなく倒してしまうのだが、学園はもちろん、おそらく冒険者ギルドにも依頼が出ているこのクエスト。無断で横取りしようとしている以上、少しでも迷惑が掛からないように終わらせる責任があると雪兎は考えている。



(少しダメージは与えるが、気を失わせてその内に目的の品を貰うとするか)



 デススパイダーは巣から出ようとしないで、糸を吐いて雪兎を捕らえようとしている。クモの巣は獲物を捕まえる罠でもあるので、その中心で戦うのは間違っていないだろう。

 だがそれはクモの巣の構造を知らない、知識のないモンスター相手に有効な罠だ。


 雪兎は吐き出される糸をかわしながら、平気な顔をしてクモの巣を渡っていく。モンスターであるはずのデススパイダーも驚愕し、攻撃の手が止まる。


 クモの巣の粘着性のある部分は横に張り廻らせている所だけで、縦の糸には粘着性はない。デススパイダーもそこに脚を置いて移動しているのを確認し、地球での知識とすり合わせを済ませた。

 そのままモンスターに走り寄り、体格の違いを利用して懐に入って柔らかい拳を当てる。



(上手くいくと良いがな。<心震撃>)



 雪兎が振り上げた拳を引き下げると、デススパイダーは糸が切れたように崩れ倒れた。



(どうやら心臓の位置は普通のクモと同じだったようだな)



 心震撃とは、一時的だが対象の心臓を止める技で、殺さずに動きを止めたい時に使う。だが、相手の心臓の近くでその鼓動に合わせて衝撃を与えないといけないので、未知のモンスターが相手では一か八かの賭けだった。

 相手の細かな動きを感知出来る<聴剄>と衝撃を内部に送り込む事が出来る<浸透剄>、その二つを思い出していたからこそ出来た技とも言える。



(いったい後いくつの技を俺が忘れているかは分からんが、これも記憶を呼び起こす為に役立つかもしれんな)



 一時的と言ったが、雪兎が心臓を再動処置をしないと本当に殺してしまうので、早速デススパイダーの巣から粘着性のない部分の糸を木を風の魔法で加工した巻きとり棒に巻き付けて回収する。


 流石2メートルはあるデススパイダーの体重を支えていただけの事はあり、その糸はかなり太かった。そしてその糸は何本もの糸が巻きついて出来た物で、しかも手触りも良く、綺麗で艶のある白なのでシロートの雪兎でも高級素材だとすぐに分かった。




 次々とアイテム袋にしまっていき、1つの巣をバラした所で服なら10着ぐらいなら作れそうな量を回収出来た。

 これ以上採取するとクエストや依頼を受けた者の迷惑になると思い、ここまでで採取をやめる。



 最後にデススパイダーの心臓を再動させると、脳に血が流れていないせいかしばらくはボーとしていたのでその内に立ち去る。


 雪兎はお目当ての素材を手に入れ、満足そうにアルティアに向かって歩き始めた。


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