47話 パーティードレスを求めて
パーティー参加に向けての資金集めは、出だしから躓いてしまった。
「どうしよう。今更、やっぱり無理ですなんて言えないよ……」
午前中。プリセラは誰が見ても分かるほど浮かれていた。話す事は今週の日曜日の話題に集中していて、その笑顔を見せられたら行けないなんて言える訳がなかった。
流石の雪兎もまともに顔を見る事も出来ないほどだ。
「師匠、やっぱりわたしが」
『いや、ドレスは俺が手に入れる。だが、万が一の時の為にお前も何かプレゼントを用意しておけ』
「でもお金が……」
現在必要なお金を細かく計算したところ、余りは1590クポン。ほとんどが昨日のクエスト報酬だが、これでは安い服を買うのが精一杯だ。
お金持ちと思われるプリセラにプレゼントするには、安物の服では流石に不味い。庶民が食べるような食べ物を用意しても、パーティーなので食事も出るだろうから、それより劣るのは駄目だろう。
それはアミルも分かっているので、顔色が優れない。
『確かお前はこのアイテム袋を背負えるように縫っているのを見て、自分も昔は少しやった事があったと言っていたな』
「奴隷になる前ですが、自分の服を直すのに少し触った事がある程度ですが」
『そこでだ。竜使いも金持って言ってもまだガキだ。だからお前が奴の竜を模したぬいぐるみを作ってプレゼントするんだ』
プリセラの年齢はアミルとそう変わらないはずなので、おそらく10代前半なのは間違いない。日本ではぬいぐるみを貰って喜ぶ年齢を過ぎているだろうが、この世界ではぬいぐるみを持ち歩いている子供を見ないので喜ばれるかもしれないと考えた。
「ぬいぐるみってなんですか?」
アミルはぬいぐるみを知らなかった。
『ぬいぐるみってのは、布で形を作り中に綿を詰めて立体感をだした人形の一種だ。布と糸、それと綿を買ってお前が作るのだから安く済むはずだ。ここで問題になるのは……』
「アミルが見た事も作った事もないぬいぐるみを、あと5日以内に作れるか……って事ですね」
「わたしが……自分の手で……」
アミルもその難易度の高さを理解している。雪兎も厳しい事を言っている事は分かっていた。だが今の費用で可能なプレゼントと考えると、これが最善としか思えなかった。
「それで師匠はどうやって費用を貯める予定ですか?」
『俺はクエストにあった<デススパイダーの糸>を採取し、依頼主である<ユニシロ服店>と直接取引をする』
雪兎が行おうとしているのは、クエストの横取りとも言える。もちろん学園内では禁止されている行為だが、外ではお抱えの冒険者に直接目的の素材を取って来てもらう事が良くあるので、そこまで大きな問題とはされていない。
と言うか、依頼人も高級素材は手に入るのであれば手に入るだけ欲しいので、わざわざ問題にする人がいないのが現実だ。
流石に学園にバレると問題になるので、雪兎はアミルを巻き込まずに1人で動こうと考えていた。
「それって! ……それって3年生の中でも上位の成績のチーム限定のクエストですよね?」
『ああそうだ。今回は時間がないからな。直接服屋と取引でもしないと間に合わない可能性があるだろう』
「でも危険なんじゃ……やっぱり━━」
今にも断って来ると言いだしそうなアミルを見て、雪兎はそれ以上の言葉が出る前にあえて明るく続きを言う。
『今の俺には魔法もある。今までは打撃一本だったが戦いに斬撃に盾も加えれるようになったしな、学生が相手出来る程度の強敵なら負けるはずがないだろ。最近は少し体が鈍ってきたような気がしていたし、ちょうど良いトレーニングだ』
「……………」
それでもアミルの表情はすぐれない。自分が世間知らずだった為に雪兎に迷惑を掛けてしまったと思っているのは、その顔を見れば分かる。
『お前は俺の心配ばかり気にしているが、自分の方も厳しい条件だと分かっているのか? 俺は裁縫の知識がないから正直分からんが、人に満足してもらう物を作るのはシロートには厳しいだろう。俺達2人ともが成功しないと、今回のパーティー参加というクエストは失敗になるからな。俺はお前の成功を信じるし、お前も俺が無事に帰って来る事を信じるんだ』
「ユキトさん……分かりました。わたしも頑張ります!」
雪兎に信用された。その気持ちが嬉しかったのか、アミルの目に強い意志を感じた。
『ああそれで良い。猪娘には悪いが、しばらくクエストには参加出来ん。あまり無理をするなよ』
「わたしの大丈夫ですよ。師匠がいない間はアミルの手伝いをする予定です。もちろんわたしも師匠が無事に帰って来ると信じてるから、自分のドレスは用意しておきます」
『すまんな。今回のパーティーが終わったら少し技を教えるから、氣を練る訓練は続けておけよ』
「ほんとですか!! これはますます師匠が帰って来るのが楽しみになったよ。あ!? わたしもぬいぐるみを作るのを手伝うから、合同のプレゼントって事にしてね」
嬉しそうに小踊りをするリン。ちゃっかり合同プレゼントにしてほしいと言いだす所を見るかぎり、貴族の娘に渡すプレゼントに悩んでいたと分かる。
『俺はデススパイダーの生息地である<魔境の森>に旅立つが、その前に寮の部屋にぬいぐるみのモデルを置いて行く。それを見れば少しはイメージがしやすいだろう。お前達はすぐに必要な道具を買い集めに行くんだ』
「「 はい! 」」
雪兎は寮の部屋に戻ると土魔法でバハムートの石像を作る。
(こんなもんだろう。しかしここまで細かいところまで再現すると、MPの消費が大きかったな)
土魔法で石像を作るのは初めてだったので、かなり集中して牙や爪、鱗など少々細かい所まで拘ってしまった。
MPの上乗せはヒールの魔法で何度も試しているのでコツは掴んでいる。なのでイメージを固めてそれに必要なMPを消費すれば、実質MPの全てを乗せて魔法を使う事も可能だ。
ただ発動までに掛かる時間が膨大に増えてしまう問題は残った。
そして雪兎はアミル達が帰って来るのを待たず、北に向かって旅立つ。
裏路地から裏路地と走り抜け、なるべく人目につかないように進む。
アミルがいないので、はた目から見ればモンスターが町を歩いているように見える。なのでいらぬトラブルに巻き込まれないようにしないと、アミルに迷惑が掛かってしまうかもしれないのだ。
町中での目撃者を最低限の人数で乗り越えたが、流石に門番の目を盗んで通り抜けるのは不可能なので、強引に走り抜ける事にした。
もちろんモンスターが1匹で走り去ったので少し騒ぎにはなったが、そこは愛玩モンスターとして人気のあるスノーラビット。誰かのペットが逃げだしたとのだろうとすぐに騒ぎは収まった。
残された日数は5日間。ドレスの取引に1日掛かると想定して、往復4日で帰って来ないと間に合わない。
門を抜けた後は、人の目もモンスターの気配も全てを無視して北に向かって走り続ける。進路上で出会ったモンスターは吸収して食事代わりとなった。
途中で馬に乗った冒険者を抜き去ってしまった事から見て、雪兎のステータスは馬の足を越えているようだ。
途中何度か休憩を挟んだが、ほぼ丸一日走ったおかげか思ったより早く魔境の森に到着した。
魔境の森。ここは魔族と人間族との境界線上にある森で、モンスターの強さが町の周辺とは格段に上がる。なのでこの森の手前に砦が設置されており、魔族の侵攻に対応する事と知らずに森に入る人に注意するのが仕事だ。
危険な森の近くでは砦で仕事をする兵士が危険に見えるが、ここに住み着いているモンスターは森を出る事は滅多にないので、立ち入らなければ安全なのだ。
(なるほど……話には聞いていたが、嗅いだ事がない臭いばかりが充満している。ターゲットのデススパイダーを探すのに手間がかかりそうだ)
雪兎のスキル嗅覚強化のおかげで、一度匂いを嗅いだ事があるモンスターの種類は把握出来る。だが知らないモンスターだらけの森では、場所の把握は出来るが肝心の目標がどれかは分からなかった。
(時間がないが、しらみ潰しに回っていくしかないか)
だが、知らないモンスターが多数いると言う事は、自分のステータスの向上が出来る事も意味する。雪兎は憂鬱そうな事を言いながらも、顔は嬉々として喜んでいるように見えた。




