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45話 詠唱って必要?

「それにしても本当に驚いたよ。まさかアミルが魔法を覚えれるなんてね」



 プリセラと別れ、寮の自分達の部屋に帰ってきたリンが遅れながらに驚きが出てきたようだ。



「わたしも驚いたよ。でもこれはユキトさんのおかげかな」


「師匠の?」



 事前に作戦を教えていなかったリンに、アミルが一から秘密を教えてあげる。



「そんな方法があったんだ。師匠がアミルの体を操れるのは知ってたけど、魂が乗り移っていたんだね。突然師匠が「俺の体が動かなくなるが平然としていろ」って言って来た時には理由が分からなかったけど、やっと謎が解けたよ」



 実は魔導書グリモアの閲覧中に雪兎の体から力が完全に抜けていたので、リンは心の中でかなり動揺していたのだ。

 師匠なら何か意味のある行動をしてる。でももしかしたら異常事態が起こったのではないかと、不安な時間を過ごしていた。



「でも今のままだと戦闘では使えない魔法だよね。……で、どうするの。アミルは魔法科に転科するの?」



 魔力の低さには問題はあるが、一応魔法を覚えたので魔法科に転科するのが可能なのだ。



「わたしは転科しないよ。モンスタートレーナーとして力をつけて、ユキトさんの力になりたいもん」



 アミルは少しも迷う事がなかった。個人で戦える力より、雪兎の力になれる方がアミルにとって嬉しい事だった。



「でも、少しもったいないよね。魔法科に行けば、いろいろなバリエーションの詠唱文を教えてくれそうだもの」


「詠唱って必要なの?」


「何言ってるの。詠唱しないと魔法が発動しないじゃん」


「え? 魔法ってイメージだけでどうにかなる物じゃないの? ……そよ風吹け!」



 アミルはリンに向かって風を吹かせた。魔力が低いので本当にそよ風が一瞬流れただけだったが、窓の締まっている部屋で起こる風は、明らかにアミルの魔法だと証明している。



「うそ……? む、無詠唱で魔法って、何で? だって普通は、え? どういう事?」


「リンちゃん驚きすぎだよ。これが精一杯なんだから、何の役にも立たないんだよ」


「そう言う事じゃないんだよ。……もう!! 師匠も何とか言ってやってくださいよ」


『そう言えば前にも詠唱とやらを唱えないで魔法を使ったら驚かれたな。だが良く考えてみろ猪娘。詠唱なんか唱えていたら、戦闘中に使えんだろ。それに1つの詠唱で決められた魔法が発動って、効率が悪過ぎるし応用力がなさすぎる。いったい何のメリットがあって詠唱なんて唱えるんだ?』


「え? だってそれが常識っていうか、当たり前だから……。むしろ何でアミルが無詠唱を使えるかを聞きたいですよ」



 雪兎に問われて、リンは明確な答えを出せなかった。魔法は詠唱を唱えて発動する物と思い込んでいたのもあるが、その理由については何も知らないのだ。



「魔法ってイメージを乗せて魔力を放つと発動するってユキトさんに教えてもらってたし、実際に普通に出来たからどうしてって聞かれても、わたしには分からないよ」


『詠唱なんて共有したイメージを持たせるための手段だろう。周りの魔法使いの全員がそれを唱えると決められた形の魔法が発動するからってな。集団催眠の一種だ』


「そうなのかな。わたしは魔法が使えないから細かい事は分からないけど……そう言えば、師匠も魔法が使えるんですか?」



 雪兎の説明に、納得出来るようで出来るようでと混乱してきたので、思い切って話を変える。



『こいつと一緒に風と土の魔法を覚えたぞ。魔力は俺の方が上だから威力も高いはずなんだが……俺はどうにも単独の魔法で遠距離に飛ばすイメージが固まらなくてな。瞬間的に魔法を爆発させる事は出来るが、風の塊を飛ばすってイメージが出来ないんだ』



 そう言って雪兎はリンに向かって風の塊を飛ばすが、彼女が驚いて前に突き出した手に触れると一瞬の強めの風がふいただけで消え去ってしまう。



『これが遠距離に魔法を放った時の限界だ。風の刃を脚に生やす事で切り裂く事は出来そうだがな』



 鋭く微妙に振動しているような風の刃を脚に纏わせて見せる。

 リンはそれを見て息を飲み込んだ。魔法を無詠唱で簡単に使った事も驚いたが、それ以上に目の前の刃はまさに刃物にしか見えないほど無駄がない形をなしている。

 先程の風の塊と同じ人が使った魔法とは思えないほどの完成度を見せられ、もしこのレベルの魔法と戦った時の事を想像すると、背筋に冷たい汗が流れた。



『まだ魔法のレベルが低いから、これ以上刃を伸ばそうとすると時間がかかるか。ま、それは今後魔法を使い続ければ成長するだろう。お前も時間が空いたら魔法を使って、レベルと魔力の上昇を目指せよ』


「はい」



 いまだ茫然としているリンをほかって置いて、こうして今日から寝る前に魔法の練習が加えられた。









「今日はアミルさんとユキトさんにお願いがあるのですが」



 翌日、いつものように座学を受けるべく席に着くと、プリセラが話しかけてきた。



「どうしたの? 急にあらたまって」


「実はですね。今週の日曜日にわたくしの誕生パーティーが開かれるんですが、お父様が学園の友人も招待しなさいって仰りまして……」



 雪兎は話の内容が想像出来きて、小さくため息を吐く。



「わたくし、この学園で普通に話しかけてくれる方ってアミルさんとユキトさん、あと昨日知り合ったリンさんしかおりませんの。なので、出来れば参加してほしいと思いまして」



 雪兎達も人の事を言えないが、プリセラもかなりのボッチ体質だ。どうしてもレベルの違いからお高く留まっているように見られ、デストロイヤーと物騒な二つ名を持つ事から距離を置かれている。

 なのでプリセラから話掛けても、緊張から来る苦笑いを見せながらそそくさと逃げ出されてしまう。ようは怖がられているのだ。

 リンは雪兎やアミルと普通に話している事から分かるように、噂や見た目だけで人を判断しないので、紹介されてすぐにプリセラと話をしだした。



「わたし達で良ければ参加するよ。ね、ユキトさん」


『まあ、とくに予定を入れているわけじゃないし、断る理由はないわな』


「ありがとうございます! さっそく今日家に帰ったら、お父様に報告しますわ!」



 アミルが即決で了承してくれた事にプリセラは嬉しそうに微笑んでいる。たまに見せる作り笑いではなく、まさに本当の笑顔だった。



『我からも礼を言わせてもらう。この子は昔から実力があったせいか、周りの人間は怖がって一歩引いてしまい、同年代の友人が出来なくてな。少々身を案じていたのだ』



 アミルやプリセラがバハムートの念話に反応していない所を見ると、どうやら雪兎1人に話しかけているようだ。その意図を読み、雪兎もバハムートにのみ念話を送る。

 こういうときに念話は便利だと実感する。



『強者とは孤独になりがちだ。だが竜使いにはお前がいるだろ。本音で話し合える相手が1人でもいるって事で、だいぶ救われているはずだぞ』


『そうだと……良いのだがな。それにしてもお主の言葉には実体験を思わせるところがあるな。やはり孤独を経験したのか?』


『俺にも鈴音が慕ってくれたからな。おかげで闇に落ちずに……鈴音? 闇? いったい俺は何を…………痛っ!?』



 無意識に出た人の名前だったが、それを誰か思い出そうとすると激しい頭痛に襲われた。いつも自分に着いて来て、慕ってくれた女の子。どことなくアミルに似ている気がしたが、それ以上の事は思い出せない。

 一瞬顔を歪ませた事に気付いたバハムートが、少し心配そうに話しかける。



『どうしたのだ?』


『何でも無い。軽い頭痛に襲われただけだ。もう痛みも引いた』



 ここで先生が来たので話は終わった。


 雪兎は今日の授業に集中出来なかった。一瞬思い出した記憶に出てきた女の子が誰なのか気になり、何度も失われた記憶を呼び起こそうとしては頭痛に苦しめられた。




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