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44話 アミルの魔法

 閲覧部屋を出ると、そこではプリセラが面白い事でも策略していたような顔をして出迎えてくれる。



「どうでしたか? 魔導書グリモアを読むのは不思議な感覚でしたでしょ」


「そんな事より……」



 そこまで発して雪兎は話すのをやめる。このままアミルの体で会話をするのは、プリセラにスキルを1つ教えるようなものだったからだ。



『どういうつもりだ。俺は土の魔法を頼んだはずだぞ。どうして風の魔導書グリモアが用意させたんだ』


「……どうやら閲覧が済んでから違いに気付かれたようですわね。つまり風の魔法を試しもしないで覚えれたと確認出来た、と言う事ですわね」



 プリセラはやはりと得心がいったような顔で雪兎を見つめる。閲覧に掛かる時間と試し撃ちをする部屋に行く前に出てきて文句を言ったので、そう判断されてしまったようだ。

 つまり最初から自分達のスキルを見破られているかも知れないと感じ、それを確認する為に今回の事を策略していたのだ。



『なるほど、これは一本取られたな。確かにお前の想像通り、俺はお前達のスペルとスキルを読みとる事が出来る。そのスキルで何が出来るかまでは分からんがな』



 雪兎は諦めたように自分の鑑定眼のスキルの一部を話す。



「やはり鑑定に関するスキル持ちだったんですね」


『まあそう言う事だ。それより、俺達に違う魔法を覚えさせた事については、どう責任をとるつもりだ?』


「それは大丈夫ですわ。ちゃんと土の魔導書グリモアも閲覧できるように話をつけていますわ」


『チッ、あいつもグルだったって訳か』



 言われてみれば風の魔法を覚えた事について文句を言っても、冷静に試し撃ちの部屋に連れて行こうとしていた。

 最初からこの部屋から出てすぐに文句を言えば分かるように仕組まれていたのだ。


 雪兎のスキルの1つを金で調べられたとも言える。だがおかげで風の魔法を覚えれたのだから、強く文句を言えないのも事実だった。



『まあいい。もう一度閲覧部屋に入れ』


「は、はい」



 後ろでもう一冊の魔導書グリモアを持って先生が待っていたので、アミルに閲覧部屋に入るように指示をする。もちろんすぐに憑依のスキルを使ってアミルと一緒に閲覧するのだが。








「それでは魔法を覚える事が出来たが試してみましょう」



 土の魔導書グリモアの閲覧も終わり、雪兎達は広い部屋に案内させた。まるで弓道場のように、数十メートル離れたところに木の的が立っている。

 周りの壁も頑丈で分厚く造られており、ちょっとやそっとの魔法が当たっても大丈夫のようになっていた。ただ2列分しか的がないところから考えて、この部屋は周りにバレずに魔法の試射が出来るように作られたのは間違いないだろう。



「それでは風の魔法からいきますね。初級で簡単な詠唱なので、魔法を覚えていれば確実に発動するはずです。風よ、その力をまとめ、敵を吹き飛ばせ!<エアバレット>」



 まずは見本として先生が詠唱を行い、風の弾丸を的に向かって放つ。周囲の空気が集まって見え難い塊となり、一直線に飛んで行って離れた的を粉砕した。


 確かにまあまあな威力だったが、飛ぶスピードはミズチの水弾の方が早く、雪兎なら簡単にかわせる程度の物だった。それより気になったのが、魔法を放つ為の詠唱だ。あんな魔法を放ちますって教えるような物は、戦いには不向きだと感じた。



『あんな無駄な詠唱は必要ないだろうな。俺が憑依して魔法を使った時の感覚を覚えているなら、お前なら今見た風の魔法も詠唱無しでそのまま使えるだろう。だが、変に注目を浴びるのは面倒だから、今は詠唱を唱えておけ』


「風の魔法ってあまり使い道が思い付かないですよね」



 アミルもそうだが、雪兎も風の魔法に魅力を感じていなかった。単純にお風呂作りに役に立ちそうにないので、4属性の中では優先順位が最下位なのだ。



「風よ、その力をまとめ、敵を吹き飛ばせ。エアバレット」



 教えられた通りの詠唱を終えると、アミルの突き出していた手の先から風の塊が放たれる。放たれたのだが……



「え~と、確かに魔法を習得したようですが……もしかして貴女の魔力はそこまで高くないのでは?」



 アミルの魔法に先生は驚いている。ただ習得した事にではなく、放たれた魔法のそのあまりの威力の弱さにだ。


 彼女から放たれた風の魔法は、まるでパチンコ玉のような小さい風の塊で、木の的に当たると簡単に魔法の方が消え去ってしまうほど脆弱な物だった。

 魔導書グリモアで魔法を覚える為には、ある程度の魔力がないと覚えれないはずだ。それなのに明らかに低魔力によるひ弱さを感じる魔法に、リンやプリセラまでもが褒める事も喜ぶ事も出来ずに固まってしまった。



『お前の魔力ならそれぐらいの威力なんだろうな。まあ、魔法を覚えた事でこれから魔力値が上がっていくだろうから、将来的には使い物になるだろう』


「なら次は土の魔法ですね。先生、出来れば壁を作るような魔法を教えてください」



 周りの何とも言えない空気に気付かない2人は、使えないとは少しも疑わずに次の魔法のリクエストを行う。



「わ、分かりました。それでは行きます。土よ、我が前に立ち上がり、堅固なる壁となれ!<アースウォール>」



 詠唱が終わると、先生の身長ぐらいの壁が下から盛り上がって来る。土で出来た壁はそこまで堅固には見えず、普通の兵士の剣や槍、または低レベルのモンスターの吐く火ぐらいなら防ぐ事が出来るだろうが、オーククラスのモンスターの一撃には耐えれそうには見えなかった。

 


 続いてアミルも同じ詠唱を行ったが、出来上がった壁は雪兎の姿も隠せないほど小さいものだった。



「す、凄いですわ。風と土の魔法を両方とも習得するなんて」


「そ、そうよね。普通は覚える事さえ出来ないのに、凄いよアミル」



 2人の言うとおり、確かに2つの属性を覚えれた事は凄い事なのだ。普通の魔法使いは1つの属性しか覚える事ができず、その属性の魔法を極める事を目指すものなのだが、アミルは2つの属性を手に入れた。

 先生も本来なら魔法科に転科してくれと頼む所なのだが、その想像以上の貧弱な威力に将来的にどうなのかと疑問に思い、悩んで固まったままだった。



「わたしはぜんぜん凄くないよ。でもこれで土掘りぐらいは出来るようになるか……な? あれ?」



 アミルは目眩を起こして座り込んでしまう。彼女は何が起こったのか分からず戸惑っていたが、この症状が何なのか雪兎にはすぐに理解出来た。



『不思議そうな顔をする必要はないぞ。それは単に魔力が切れかかっているだけだ。貧弱なMPで魔法を2回も使ったから精神的に疲れているんだろう。少し休めばすぐに良くなるぞ』


「これが魔力切れですか。始めて体験しましたが、変な感じですね」



 アミルは笑っていたが、周りはそうもいかない。魔法をたった2回使っただけで倒れていては、とてもじゃないが実戦では使えないと感じる。

 だが雪兎もアミルも落胆の色は少しも見せず、それより魔法を得れた事を喜んでいた。



「ユキトさんも試してみますか?」


『そうだな。だが他の奴等に手の内を見せる気はないから、全員がこの部屋を出て扉を閉め、3秒たったら開けろ。一発だけ魔法を試してみる』


「分かりました。……それじゃあ目的も達成したし、リンちゃんもプリセラちゃんも帰ろっか」



 雪兎はアミルにだけ念話を送り、他の人を外に出すように誘導してもらう。



 ガチャ



 扉が閉まると同時に、雪兎は覚えた魔法を使って見る。






 「ユキトさん。帰りますよ」



 アミルが予定通り数秒後に戻ってきた。



『ああ、手間を掛けさせたな』



 雪兎は満足そうな顔で部屋を出ていく。誰もいなくなった部屋。そこに残されたのは木の的に10センチ程の綺麗な穴を開け、その奥の頑丈な壁までも深い穴を開けていた。


 その破壊痕は後日発見され、いったい誰がやったのかと騒がれるのだが、結局犯人が特定される事はなかった。




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