43話 魔法習得
魔法習得を目指し、アミル達はクエストを積極的にこなしていく。
倒したモンスターの買い取り制度のおかげで入学費用を貯めた時より楽だが、それでも毎日狩りに行くとモンスターとのエンカウント率が下がってしまうので、リンとの話し合いの結果、クエストを受けるのは一日おきと決めていた。
前回のような低ランクのモンスターの討伐禁止を受けない為に、雪兎達も学習していたのだ。
そんな生活を1か月ほど繰り返していくと、次の月の授業料と魔導書閲覧の費用を貯める事が出来た。
ここまでの授業は、座学の方は徐々に周囲の町の位置や歴史に広がっていき、計算の勉強も加えられてきた。計算と言ってもまだ普通に足し算引き算程度の内容なので、雪兎にとっては寝てても問題がないレベルだったが、アミルは引き算の方で苦労している。
就寝前などに授業の復習として雪兎が教えていると、リンも計算は苦手のようで一緒に習うようになっていた。
学園内での実技訓練は主に模擬戦を繰り返している。モンスタートレーナー科にとって、生徒同士で戦うのはそのままモンスターとの戦闘訓練になるので、誰も文句を言わずに従っている。
唯一プリセラだけが退屈そうに周りの戦いを眺めていた。
最初はプリセラも模擬戦に参加していたのだが、周りとのレベルの差が激しく、最初から相手も戦意喪失しているので自分から前に出る事をやめていたのだ。
今日もまた、退屈そうにしているプリセラに雪兎が話しかける。
『退屈凌ぎに1つ教えてやるよ。ようやく金が貯まったんでな。俺達はこの授業が終わったら魔法科に行って魔法の習得に挑戦してくる』
今までボーとしていただけのプリセラの目に活気が湧き上がる。
「まあ、それは面白そうな事ですわね。まずはどの属性にチャレンジする予定で?」
『まずは土魔法だ。俺はともかく、あいつは防御力に不安が残っているからな』
「確かにそうですが……その割にアミルさんの怪我は次の授業までには治っていますよね? 薬草の支給はありますが、それにしても回復するのが早いのでそこまで慌てないでもよろしいのでは?」
クエストを受けている時は怪我をしたとしても木の枝で傷を負う程度なのだが、学園内での模擬戦では割と大きな怪我もしていた。
野生のモンスターと比べてレベルが高いのと、トレーナーの指示があるのでどうしても怪我は避けられないのだ。それに加えて前衛で戦うリンや雪兎もおらず、どうしても遠距離からの攻撃に偏ってしまう。そして近づかれるとアミル本人のトラウマから体の硬直が出て、動きが鈍り、攻撃の直撃を何度も受けてしまう。
ビル先生が戦いを見守っているので死ぬような事はないので、町の外で戦うより安全ではあった。
プリセラが疑問に思っていた事はそこで、怪我をしたとしても次の日の午前授業までには綺麗サッパリ治っているので不思議に思っていたのだ。
実際は授業が終わって人目がない所で雪兎が治しているのだが、ヒールを使える事は教えていないのでアミルの回復力が高いと勘違いしていた。
『それでも怪我をしないで済むなら、それに越した事はないだろ。ま、使用者の相性があるから覚えれるかは分からんが、早く試してみたくてウズウズしている』
「わたくしはこの学園にある魔導書は相性が悪かったみたく、覚える事が出来ませんでしたわ」
プリセラはそう言ったが、それでも魔法を覚えている事は知っている。
《プリセラ レベル 16 スペル ファーストライト(LV5) スキル モンスタートレーナー1級》
ファーストライトと言う魔法でどのような事が出来るかは知らないが、このコンビとまともに戦うにはアミルにも魔法を覚えてもらう必要があると考えてもいた。
『お主のその目を見る限り、本気で我と戦うつもりのようだな。理由は分からんが、的確に我々との戦いを想定して準備をしているように見える』
『なーに、こっちはソウルラインだったか、それがまだ使えないんだ。手の内をバラしたら一気に不利になるからな。……それともモンスターの強化方法を教えてくれるか? たぶんその内授業で教えて貰えるだろうが、早い事にこした事はないからな』
「そうですわね。もうすぐ授業でソウルライン━━魂魄同調とも言いますが、その説明が出ると思いますが、その前に教えてもよろしいでしょう。……ただしわたくしも貴方の持っているスキルの1つを教えてもらうのが条件です」
プリセラがニヤッと口端を上げ、雪兎の反応を楽しみに見ている。
確かに少し悩む条件だった。プリセラの話が本当なら、少し待てば授業でタダで教えてもらえる技術を少し早く教えてもらう為だけに、戦いを有利にこなす武器の1つを晒さないといけないのだ。
『……どういうスキルについて聞きたい? それが教えても構わないものなら条件を飲もう』
内容次第。雪兎は大量のスキルを持っているので、どの関連のスキルが知りたいかによっては諦めるしかないと判断する。
(この世界に来てから手に入れたスキルならまだしも、その根源にあるアブソープションについては絶対に秘密にしないといけないからな)
「そうですわね……なら少し前に話に出た、バハムートの硬い鱗が意味をなさない理由に関するものではどうです?」
『ああ、そんな事も言った事があったな。だがその理由はスキルだけでは説明が出来ないんだが……まあいいか。その条件を飲んでやる』
「なら取引は成立ですわね」
少々歩の悪い取引だった気もするが、それでも人生何が起こるか分からない。強くなるチャンスがあるなら、力をつけておかないと後悔する。そう失われた記憶に後押しされている気がした。
「ユキトさん、プリセラちゃん。どうしたんですか? 何やら楽しそうにお話をして」
そこに模擬戦を終えたアミルが合流して来た。
『竜使いと取引をしてな。俺のスキルを1つ教える代わりに、<魂魄同調>を教えてくれる事になったんだ。そう言う事で、お前も一緒に話を聞いておけ』
「は、はい!」
突然の話に半分以上流れに着いて行けなかったが、何かを教えて貰えるとだけは理解した。
今模擬戦が終わったばかりのアミルは次の対戦はまだない。なので早速だがプリセラに説明をしてもらう。
「魂魄同調とは文字通り、主とモンスターとの間に結ばれているパスを通して魂を同調させる技術ですわ。……パスって分かりますか?」
「う、うん。皆が仲間になってくれた時に何かが繋がったみたいな感覚があった物でしょ?」
「ええそうですわ。やはりアミルさんはモンスタートレーナーとしても優秀な感覚の持ち主のようですわね。普通、そのような微弱な事には気付かないものなんですが」
プリセラは少し驚きながらもアミルを見て褒めていた。アミルは褒められる事には慣れていないので、困った表情をしながらも嬉しそうに微笑んでいる。
「その感覚が分かってらっしゃるのなら、あとはパスを辿って相手の魂と自分の魂を同調させます。簡単に言えば魂同士で手を繋ぐイメージでしょうか……これは各々で感覚を掴んでもらわなければなりません。それで効果ですが、ソウルラインが結ばれるとお互いの魔力や力、その他のステータスの上乗せが出来ますわ」
『なるほど、トレーナーのステータスを一部貸出、それを上乗せすることによってモンスターを強化するのか。ならその後に見せた力は、上乗せではなく魂の昇格……まさに肉体まで巻き込んだプロモーションってわけだな』
雪兎自信も経験があるが、アミルの微々たるステータスの上乗せをした程度では、オークキングとの戦いで感じた力の上昇を説明出来ない。
つまりその後に見せたソウルプロモーションが爆発的にステータスを上げる秘密なのだ。
「ユキトさんのおっしゃるとおりですが、これより先は取引外の話になりますわ」
『今はこれだけで十分だ。……次は俺の番だが、まずダメージを与える為に使うスキルは<魔力操作>って物だ。これは魔力自体を自由に操れるスキルで、おかげで俺は魔力撃を使う事が出来るんだ』
『魔力撃は確か攻撃が当たると同時に魔力を爆発させる技だったな。お主がそれを使えるのには驚いたが、それだけでは我にダメージを与える事は出来んぞ』
『分かっている。話はまだ終わっていない。まあ簡単に言えば、俺は攻撃の衝撃を物の中を通す事が出来る。……言葉では伝わり難いから、実際に見せてやるか』
体験してもらうために雪兎はアミルとプリセラに手を握ってもらう。アミルの反対側の手から少量の氣を流してプリセラの掌に小さな衝撃を流す。
「っ!? ……なるほど、このように衝撃を送る事が出来るのなら、バハムートの鱗も意味をなしませんね。でも、今のは魔力ではないのでは?」
プリセラは衝撃に驚いて握っていた手を離した。傷などは出ないように調整したので怪我は残っていないが、すぐに今行われた攻撃が魔力ではないと気付き、雪兎に問いかけてくる。
『今のを使って魔力撃を行う。それが硬い鱗が意味をなさない理由だ。竜使いの言った通り、今の力は魔力ではないが……フッ、それを説明するのは取引外の話になるな』
「ふふ、先程わたくしが言った言葉でしたわね」
『そう言う事だ。これで取引は終了だ。……それに授業も終わりのようだし、俺達は魔法科に行く事にするよ』
「ならわたくしも同行させてもらいませんか? 実は魔法科の先生には顔が効くんです。もしかしたら少しぐらい安くしてもらえるかもしれませんよ」
『まあ、安くなる可能性があるなら、わざわざ断る理由はないわな』
こうしてプリセラを連れて行く事になる。雪兎達はリンと合流して魔法科に向かった。
魔法科に着くと、すぐにプリセラが担当の先生に話をしに向かう。
「すみません。どうやら特別扱いは出来ないようです。ですが、すぐにでも土の魔導書を閲覧できるように頼みました」
『別に構わんさ。じゃあ、早速魔法を覚えに行くとするか。猪娘、俺の体を持っておけ』
「は、はい」
こうして魔導書が用意されている部屋に、アミル1人が入っていく。魔導書はとても高価な物なので、例え連れのモンスターと言えども連れて入る事は出来ず、担当の先生と生徒の2人でしか見る事が出来ない。
なのでここに入るのはアミル1人なのだ。
「それではこれが希望された魔導書です。読み終わるのに大体10分ぐらいでしょうが、時間を気にしないで構いません」
「ああ、分かった。早速読ませてもらおう」
そう説明されたアミルは、堂々と魔導書に手を掛ける。その言葉使いから分かるように、アミルには雪兎の魂が憑依していた。
魔導書の閲覧にモンスターが出来る訳がないので、最初からこの作戦を考えていた。
スキルには肉体が覚える物と魂が覚える物がある。嗅覚強化や耐火防御などが肉体で、念話や魔力操作などが魂が覚えている。
そしてスペル、魔法も魂が覚える物に該当する。それはアミルに憑依した時にヒールを使ってみて確認済みである。
この事実から考えて、アミルに憑依していても魔法を覚える事が可能だと予想していた。
肉体の主導権は今は雪兎が握っているが、アミルの魂もまた一緒に見聞き出来る。もしかしたらアミルも同時に魔法を覚えれるかもしれないと考えてもいた。
『ユキトさん、少し緊張しますね。わたし、魔導書って始めて見ますよ』
(俺だって初めてだ。ヒールの魔法はアブソープションで吸収した奴が覚えていただけだからな。あと、さっき竜使いに教えてもらったソウルリンクを使っておくぞ。魂が結ばれていれば、魔法を覚える条件である魔力の高さも共用できるし、属性の相性も2倍に広がるだろうしな)
魂が繋がっていれば、雪兎と相性が悪く覚えれない魔法でも、アミルとの相性が良ければ魂を経由して雪兎も覚えれると考えたのだ。
『そうすればわたしも魔法を覚えれるかもしれませんね。わたし、魔法って一生縁のない物だと思っていました』
(まあ、この状態でソウルリンクを使えれば、って条件はあるがな)
『それは大丈夫だと思いますよ。パスの方は細くて感じにくいですが、今は一緒の肉体にユキトさんの魂がありますから……たぶんこんな感じで良いと思います』
そう言われると、雪兎は何かが繋がった感覚を感じる。すぐにそれはアミルの魂だと理解し、この状態だと何故か安心出来ると感じたが、少し恥ずかしい気がするので本人には言わなでおく。
(相変わらずその手の感覚を掴むのは早いな。お前がイメージで使える魔法を覚えたら、凄い魔法使いになるかもしれないな)
『わたしなんかがそんな事はありえませんよ』
アミルは自分に自信を持てない。学園内での実技訓練でも勝ち越しているのだが、それもタマモ達が凄いのであって、自分は何もしていないと自己評価を最低に見ていた。
この傾向を治していきたいと雪兎は考えていたが、これはアミルが生まれてから今まで誰にも評価されなかった事が原因なので、時間が掛かっても仕方がないと思っている。
ここで魔法を覚えれれば自分の力でモンスターを倒す事が出来るようになるかもしれない。そうすれば少しは自分の力に自信を持ってくれるかもしれないと感じていた。
魔導書を開くと、まるで本に引き込まれるような感覚に陥る。周りの音も時間も全てが曖昧になり、本に直接語りかけられるような不思議な感覚。1ページ1ページ本に誘導されるように進んでいき、やがて終わりを告げる。
「どうやら終了したようですね」
先生に肩を叩かれて、ようやく我に返る事が出来た。
『不思議な感覚でしたね』
(ああ、たぶん魂に直接語りかけられた。そんな感じだった)
『それで、魔法は覚える事が出来たんですか?』
神社 雪兎 レベル 15
HP 330 / 330
MP 229 / 229
力 288
耐久力 230
素早さ 208
魔力 199
スペル ヒール(LV3) ・ ファーストエア(LV1)
スキル アブソープション ・ 鑑定眼 ・ 念話 ・ 嗅覚強化(LV3) ・ 耐火防御(LV1) ・ 耐水防御(LV1) ・ 憑依 ・ 魔力操作(LV3) ・ 肉体強化(LV3) ・ 超音波探知(LV1) ・ 威圧
最近は目新しいモンスターを吸収していないので、ステータスの伸びが悪かった。だが、今気にしないといけないのは別の事だった。
ファーストエア ・・・ 消費MP5。初級の風の魔法でレベルに応じた大気を操る事ができる。追加でMPを使えばレベル以上の大気を操る事が可能。レベルが上がると効果が上昇する。
「おい、どうなっている。俺が頼んだのは土の魔導書だったはずだぞ。なんで風の魔法が身に着いているんだ」
「え? プリセラさんに、貴女は風の魔法を望んでいると聞きましたよ?」
「は? いったいどういう事なんだ」
『プリセラちゃんが間違えちゃったんでしょうか?』
「それより早速魔法を覚えれたか、訓練所に行って試してみましょう」
雪兎はすでにステータスを確認して覚えている事を知っている。なので今一番しないといけないのは、プリセラにどういうつもりか確認するのが先決だ。
「悪いがその前に竜使いに話がある。お前はしばらく待っていろ」
そう言ってアミル(雪兎)は閲覧部屋からさっさと出て、やや不機嫌そうにプリセラの所に向かう。




