42話 またも資金集めが始まる
『そうなのか。学園に置いてある魔導書は、何度も使用できる代わりに本人の魔力が関わって来るのか。前に聞いた話で覚えれるか分からない魔導書があるってのは知っていたが、そんな条件があったんだな』
魔法に対する期待がドンドン膨らんでいく2人を見て、これ以上話が盛り上がると止める事が出来ないと判断し、リンは思いきって切り込む。そして魔導書で魔法を覚えれる条件を説明する。
事実だから仕方がないが、夢を壊すような話をした事で落ち込んでしまうのではないかと、リンは心配して表情が暗い。だがその話を聞いても、2人は落ち込んだ様子を少しも見せなかったので、ホッと安心した。
「あと、その人の魔法属性に対する相性があるらしいですよ。わたしは最初から諦めているので、それに使う分のお金があったら装備を買いますね」
リンはこのクエストに向かうに、拳に金属の板が何枚も入ったグローブを装備し、動き易い厚めの服の上に皮の胸当てを着ている。腰のナイフは戦闘では使わないので、目印を木に書いたり何かに絡まった時などに使用するらしい。
アミルのように厚めの服を着ているだけでクエストに出る方が珍しいのだ。
実際、魔導書の閲覧にお金を使う人はほとんどいない。学生割引があるので普通にチャレンジするよりは格段に安いが、それでも一度の挑戦で3万クポンも掛かる。
今まで魔法と縁がなかった人が魔法の力に目覚める確率は5%もないらしく、そんなギャンブルに自分が命懸けで貯めたお金を使うなら、リンのように装備の充実にまわすのが当然なのだ。
なので挑戦するのは基本、親がお金持ちのボンボンがメインだった。
『ま、物は試しだ。俺達は学費とこいつの防具を買う以外、金の使い道がないからな。今はクエストを多くこなして金を貯めるぞ』
その後の戦いには雪兎が手を出す事をせず、黙って2人に任せた。
まずはリンが前衛として戦う。素早さはややブルーウルフの方が早いが、相手の動きを良く見て考えて行動するリンの拳だけがヒットする。それでもまだ力不足ということもあり、相手を一撃で倒す事は出来ない。
前でリンが戦っているのでタマモの火の息は使えない。なのでここではミズチがメインとしてリンの援護をする。
リンの攻撃で怯んだところにミズチの水弾が追い打ちをかけ、そこにリンがラッシュを行う。その左右の連打をまともに受けたブルーウルフはその場で動かなくなる。
学園に入る前に数回一緒に戦った事もあり、2人の連携は安心して見ていられるものだった。
今回学園で受けたクエストは、ブルーウルフの討伐数で報酬とポイントが増えていく。2人はチームなので成果は半分になってしまうので、日が暮れる前まで狩りを続けた。
倒したブルーウルフは雪兎が持つアイテム袋に入れ、血抜きをした物をリンの宿に届ける。そこで雪兎から許可を貰ったので、味の違いの理由をリンは両親に報告した。
その後は学園に戻り、残りのブルーウルフの死体と討伐報告を行う。
クエストで倒したモンスターを学園に持ち帰ると、その死体を買い取ってもらえる。どうやら毛皮や肉などを加工して販売しているようで、学園側としては出来るだけ持って来て欲しいと言っていた。
だが町の外から学園までモンスターの死体を持ち帰るのは大変な労力の為、ほとんどの生徒が持ち帰る事をしない。唯一楽に持ち帰る事が出来るのは、魔法科に所属していてアイテム袋を持っている生徒か、大型のモンスターを使役しているモンスタートレーナーの生徒だったのだが……
「これを全部君達が?」
モンスターの死体を買い取ってもらうため、雪兎が今日2人が倒して残っていたブルーウルフ10匹を職員の目の前で取り出したのだ。
アイテム袋の存在は知れ渡っているので驚きはしなかったが、基本その収容量は持ち主の魔力によって左右される。魔法科の生徒なら魔力を鍛えれるので割と大きな収容量を確保出来るのだが、目の前にいるのは戦士科とモンスタートレーナー科の生徒だ。しかも2人共新入生。とてもじゃないが、ブルーウルフの死体を10匹も入れれる魔力を持っているとは思えなかった。
それに加えてその量だ。町の外では他の生徒に加え、低ランクの冒険者も狩りに出ている。その競争率の高いクエストで、ここまでの戦果を出したものだから驚かずにはいられなかったのだ。
「はい。2人で頑張って狩りました」
リーダーはアミルだったが、職員は男性だったのでリンが代わりに受け答えをしている。
「信じられない……君達はまだ入学したばかりなのに」
「わたしはこの町に住んでいますから、お父さんと一緒に何度か狩りに出てます。だから狩りは慣れているんですよ」
「……それだけでこれだけの数を狩るのは……いや、生徒とはいえ個人のスキルを聞くのは間違っているな。うむ、見事な戦果だ。これからも君達には期待させてもらうよ」
「はい!」
リンは職員から買い取り金、3000クポンを受け取った。クエスト報酬より高い金額だったが、それは運搬の手間とその後に出る素材の売り上げの一部を貰えるので、割高になっている。
『この買い取り制度があれば、入学資金を貯めるのが楽になったんだがな。まあ、魔法を覚えるまでに掛かる時間が短縮されるんだから、文句を言う必要はないか』
クエスト報酬を受け取りに行くとそこでも驚かれたのだが、同じような説明をリンが行い、無事に報告は終了した。
今回のクエストだけで4000クポン得たので、2人で分けて1人2000クポンの儲けだ。リンは雪兎も合わせて3人で分けるべきと言って来た。
『俺はモンスターの居場所を教えただけだ。それに学費が必要なのはお前達だけだし、とりあえずの目標はこいつと同じ魔導書を読む事だからな。猪娘は自分で必要と思う装備を目指して金を貯めれば良いだろ』
「ありがとうございます! でもアミルの装備も少しは良くしないと、見ている周りが不安になっちゃうわよ」
その意見は前にも誰かに言われた気がした。確かに命懸けの戦いに出掛けるのに、少し丈夫な服を着ているだけで普通の町人と変わらないのだ。防御主体のガイアと、近くで見守っている雪兎がいるのでアミルに攻撃が届く事は皆無なのだが、それでもリンにとって友達と呼べるような相手の事を考えると心配になってしまう。
『俺から言わせれば猪娘の皮の胸当てや手甲は無いと同じなんだが……』
「それは師匠が異常なだけで、普通に戦う人はもう少し装備に拘るものです! だいたいクエストを受けた時の周りの生徒の装備を見ていましたか? 普通に町を歩くようなワンピース姿の生徒はいませんでしたよね」
雪兎もアミルも半日前を思い出してみると、確かに動き易い服に後衛職の人は皮の装備を、前衛で戦う生徒は鎧を着けていた。明らかにアミルの存在は浮いていた。
「でも、わたしは痛いのに慣れてますから、少しぐらいの怪我は大丈夫です」
『まあ、俺がみすみすこいつに怪我をさせるつもりはないが……』
「じゃあ最初は魔導書を読むのにお金を使って、その次にわたしの防具を買いましょう」
雪兎はアミルの装備を買おうと言おうとした。だがそれを遮るようにアミルが話に割り込んで来たのだ。
『おいおい、魔法を覚えるより防具の方が先だろ』
「いえ、わたしの事を心配してくれるのは嬉しいですが、それ以上にユキトさんの楽しみを先延ばしにしたくありません」
『だが』
「駄目です」
控えめのアミルにしては珍しく、一歩も引かなかった。雪兎はジッと見て来るアミルの目から、何を言っても無駄だと悟り、ここは引く事にする。
『分かった。まずは魔法の取得を先に目指す事にする』
「ちょ!? ちょっと師匠!」
『だが最初に目指す魔法は土魔法だ。それで防御に使える魔法を覚えてもらう』
土魔法……それは攻撃魔法としては人気がなく、主に防御や支援系の魔法が多いのだ。雪兎の戦い方は防御より攻撃に力を入れているので、これはアミルの為に選んだとすぐに分かる。
「ユキトさんなら火の魔法の方が……」
『お前の言い分は聞き入れた。そこに猪娘の意見を含めただけだ。確かにド派手な攻撃魔法を使ってみたい気持ちはあるが、脚に石を纏わせ、攻撃力を上げる事も可能だ。それでも文句を言うようなら、魔法を得る前にお前の防具を買う』
「……分かりました。ユキトさん、ありがとうございます」
結局どちらを選んでも自分の事を優先してくれた事に、アミルは嬉しく微笑んでいる。リンもこれ以上は何も言わず、互いの気持ちを優先し合う2人を少し羨ましく見つめていた。




