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41話 初クエスト

「ユキトさん、わたし達の戦いはどうでした?」



 アミルは自分達だけの力で勝った事が嬉しかったのか、笑顔で雪兎の元に走ってきた。



『ま、当然の結果だが良くやったな。だが、やはりと言うべきかモンスタートレーナーのモンスターは、野生のモンスターと比べて動きが機敏だな』



 雪兎は楽に勝ったからとはいえ、タマモが火の息を吐くのが分かっていたように有効範囲の外で待機し、ちゃんと隙を見て動き出していた。その訓練されたような動きは野生のモンスターでは不可能で、トレーナーの指示が有効に働いているのが分かる。それに動き自体も今までに見たゴブリンの中では一番早かった。



「はい。タマモちゃんの火を簡単にかわされて分かりました。普通だったら最初の一撃で終わっていたはずですから」


『それが分かっただけでも成果があったな。明日はクエストを受けてみたいから、今日は出来るだけ周りの実力を体験しておけ』



 この後も対戦相手を変え、何度か戦いをおこなっていった。3馬鹿のゴブリンはもちろん、スライムやブルーウルフの使い手と戦ってもアミルは勝利した。それは複数のモンスターを仲間に出来るからだと3馬鹿あたりが文句を言って来たが、今の実力ならタマモ1匹でも勝つ事は可能だ。



《タマモ  レベル 4  スキル ファイアブレス(LV3)》


《ミズチ  レベル 4  スキル ウォータレー(LV3)》


《ガイア  レベル 3  スキル 硬化(LV2)》



 オークキングとの戦いで3匹共レベルが上がっており、戦いの度にスキルを使っているのでスキルレベルもしっかり上昇していた。

 遠距離の攻撃ならゴブリンでもかわす事は出来るかもしれないが、接近して攻撃を避けながら火の息や水弾を放たれては、ブルーウルフといえども直撃は避けられないだろう。


 つまり、アミルが安全策で2匹同時に戦わせているだけで、実力だけを見ても明らかに上回っているのだ。それはある程度の実力者が見れば分かる事だが、パッと見でそれを把握できているのはビル先生と生徒で言えばプリセラと後数人程度だろう。


 そんなアミル達も、キルアリゲーターとの戦いでは時間切れで引き分けになった。タマモ達の攻撃は通じず、キルアリゲーターの攻撃もガイアの防御力を上回る事はなく、勝敗がつきそうになかったのだ。


 それでも最下位に近い成績だったアミルの快進撃には驚かれた。



「わたくしも早く戦いたいですわね」



 対戦相手がいないで暇そうにしているプリセラの視線を背中に感じる。



『何度も言わせるな。俺は目立つつもりはない。だいたいお前達がやったプロモーションだったか? その技をアイツが自由に使えるようにならないと、今の俺ではバハムートに勝つのは難しいからな』


『ほう、つまりあの娘は最低でも1度はプロモーションを使った事があるんだな』


「どうやらそのようですわね。フフ、やっぱり貴方達は期待以上に楽しみですわ。それにバハムートに勝つのは難しいですか。それはプロモーションを使わないでも勝つ可能性があるってことですよね?」


『確かにそうとれるな。お前には我の鱗の頑丈さを見抜けないとは思えんがな』


『詳しい硬さは攻撃してみないと分からんが、頑丈な鱗なんて関係がないぞ。俺から見れば頑丈な鎧を装備している奴より攻撃が通しやすいからな。ま、まともに戦うなら俺も攻撃魔法を覚えないと、近づくのが大変そうだとは思うがな』



 バハムートは先の戦いでは見せなかったが、ブレスの他に竜魔法も持っていた。どういう物かは分からなかったが、雪兎が持っている回復魔法だけでは魔法戦になった時に絶対的に不利だと感じている。



「なら魔法科に一度顔を出してみてはいかがでしょう。あそこでは他の科から魔法科に転科出来るように、お金を払えば初級の魔導書グリモアを読む事が許されますよ。もし本当に貴方が魔法を覚える事が可能なら、見る価値はあると思いますよ」



 プリセラは意味ありげな顔をして雪兎に魔法科の説明をしてくれた。魔法使いは生まれた時から魔法が使える人と、後から魔導書グリモア読んで魔法を覚えた人がなれる。なので他の科より魔法科の人数は少なく、現在は10人ぐらいしかいない。

 慢性的な生徒不足を解消する目的と、新たな魔導書グリモアを買い集める目的で、お金で魔導書グリモアを見せているのだ。これにより魔法が使えるようになった生徒は、魔法科に転科する事が許可されている。



『それなら今度金に余裕が出来た時に、あいつが魔法が覚えれるか試してみるか。本人も魔法が使えれば、戦いの幅が広がるからな』


「……わたくしは貴方にお勧めしたんですが?」


『ああ、俺も一緒に試すから同じ事だろ?』


「それは残念ながら出来ませんわ。魔導書グリモアは高価な物なので、例えモンスターといえども警備上の問題で立ち入れるのは1人だけなのです」


『なるほど、確かにそれぐらい厳重にしないといかんだろうな』



 雪兎のあまり問題にしていない仕草に、プリセラは想像もつかない方法を持っていると感じ、面白そうに眺めている。

 だがそんなプリセラより少し頭が堅そうなバハムートは、モンスターが魔法を覚えると言う事に苦言を放つ。



『……お主は本当に分かっているのか? 魔物は詠唱が出来ないから普通に魔法は使えないだ。先に教えておくが、詠唱は念話ではカバーできないぞ』


『確かに魔法に必要と言われている詠唱についてはまったくしらんな。素直にアドバイスをくれた事は感謝するが……まあもし覚える事が出来たら、実戦という形で魔法戦をやろうじゃないか』


『お主!?』



 バハムートは更に言いたい事が出来た。雪兎の話し方では自分が竜魔法を使えるのを知っているように思えたのだ。だが確証は持てない。この状態でこちらから何かを言えば、それこそ魔法が使えますと公言しているようなものになる。そう考えると、これ以上の言葉を続ける事は出来なかった。



「フフ、この勝負はバハムートの負けですわね。どうやら彼には隠している武器の量が違い過ぎるようです。このまま1つ1つ晒していては、先に底に着くのはこちらのようですわ」


『なるほど確かにそのようだな。だが、久々に感じたぞ。これが敗北感だったな』



 悔しそうにも嬉しそうな顔をするバハムートを、プリセラは満足そうな顔をして見ていた。雪兎もこれ以上詮索はしないなら何も言うつもりはなく、帰ってきたアミルを出迎えてあげる。







 翌日の午後、アミルはリンと合流してクエストを受ける事にしていた。クエスト表示板の前は相変わらず混み合っている。

 グイグイ前に行く事が苦手なアミルにとって、この人ゴミはまさに堅固な壁に感じていた。なのでクエスト証を取りに行くのはリンが行う。



「わたしが勝手に選んで来たけど良かったかな。とりあえず初クエストだし、ブルーウルフの討伐にしたわ」


「わたしはそれでも構わないけど、リンちゃんならもっと強いモンスターでも良かったんじゃ?」


「アミルもいるし、もう少し上のクエストでも良かったんだけど、ちょっとお母さんに頼まれてた事があったの。……実はね、師匠達が狩ってきたブルーウルフの肉が何故か美味しいって好評にだったのよ。それで出来ればその理由と方法を聞き出してきてって言われたの」



 リンはチームで受けるクエストにプライベートの理由を混ぜた事を、少し申し訳なさそうに頭を掻いて目をそらしている。

 自分でも良くない事だとは分かっていたが、一度評判が上がり注目を浴びてる状態で味が落ちれば、悪評が広がって客が一気に減ってしまう。よく親の手伝いをしていたリンだからこそ、そういう評判を大事にしないといけないと理解しているので、怒られるのを覚悟して話を切り出したのだ。



『別に特別な事などしていないぞ? たまたま美味い肉だったんじゃないのか?』



 リンは雪兎の狩りの様子を遠目でしか見ていない。一緒にいたアミルは狩りに詳しくないので、雪兎の行動に変なところは見付けれなかった。



『俺にはお前の親との狩りの違いが分からんからな。そのクエストを受けて自分で見つければいいだろう』


「良いんですか?」


『変わった事をした覚えはないからな。たぶん猪娘の思い過しだ』



 こうして初めての学園クエスト、ブルーウルフの討伐が始まった。



 町を出てしばらく歩くと、最初のブルーウルフと遭遇する。雪兎にとって雑魚なので手を出すつもりはなかったのだが、リンの疑問を解決させるために最初の一匹を倒す。



『な、とくに変わっている所はないだろ?』


「此間と同じですね」



 そう何事もないように2人で話しながら、雪兎はブルーウルフを木の上に逆さにして吊るす。



「いやいやいや!? 何やってんですか? 突然モンスターをそんな所に吊り上げて!」



 リンは普通に話しをしながら行っている雪兎の変な行動を見て、慌てて話に入ってきた。雪兎とアミルは顔を合わせて、いったい何に驚いているか理解出来ずに不思議そうな顔をしている。



『何を驚いているんだ? 普通に血抜きをしているだけだろ』


「血抜き? いったい何なんですかそれは?」


「これは血抜きですよ。なんでもすぐに血を抜くとお肉に生臭さが付かないらしいです。ユキトさんは狩りをするなら当たり前の事だと言っていましたし、別に変なところはないと思うけど?」



 2人とリンとの間にはかなりの認識の違いがあった。生前の知識で常識だと思っている雪兎と、狩りに関する知識がないアミルは雪兎が全てだ。この世界での常識を知るリンにとって、どうしてそんなに変な知識をいろいろ知っているのか不思議だった。



「師匠、アミル、わたしもお父さんに付き合って何度か狩りに出た事があるし、他の人の狩りを見た事もあるけど、誰も血抜きなんて行動をしてなかったわ。なんで2人はそんなに当たり前みたいに話しているの?」



『おいおい、冷蔵庫も各家庭に普及していない世界で、なんでナマモノを長持ちさせる方法が広がっていないんだ。こんなの生活の知恵レベルの内容だろ』



 思わず雪兎は冷蔵庫と言ってしまったが、この世界に来て一度も冷蔵庫を見ていない。そんな家電がある訳がないとすぐに気付いたが、言ってしまったからにはそのまま話を続ける事にした。



「冷蔵庫なんて高級品、お金持ちの貴族か王族しか持っていませんよ。それに話に聞いた血抜きだって売上に直接関わる事だから、そうそう広がりませんよ」


(冷蔵庫はあるのか。……たしか昔の冷蔵庫は氷を保存しておいて、それを使って冷蔵庫代わりにしていたらしいから、その辺を魔法でカバーすれば割と楽なのかもしれんな)



 冷蔵庫の事をこっそり納得する。血抜きに関する事は言われてみればリンの言うとおりだった。日本のように少しネットで調べれば情報が得られるような世界でない以上、それだけで他店と差をつけれるのだらか、誰も好きこのんで口外する者はいないだろう。

 それに魔法がある世界で新鮮さを確保したいのなら、狩ってすぐに魔法で凍らせれば良いのだ。つまり生活の知恵などその手の話は、最初から生まれにくく広がらないのだ。



「簡単に秘密が分かっちゃったわ。でも……いつもこんな事をしていると、目立って仕方がないわね」



 倒したモンスターの首を吹き飛ばし、逆さに吊り下げているので血がボタボタ落ちている。血抜きの目的でやっているのだから当然だが、周りから見れば異常な光景である事は否定できない。



『んー、確かにそれは否定できないな。だが今のところ周りに人はいないから安心していいぞ』



 別にこの血抜きの知識を秘密にするつもりはないので、この方法を知られても気にはしない。だが勘違いをされて変な噂が立つのは面倒くさいと思っている。


 ならどうすると考えると、すぐに答えが思い付く。



『……よし! 金を貯めて魔法を覚えるとするか。土の魔法を覚えれれば壁を作ってこの行為も隠せるし、日を跨いだクエストも家を作れば夜は安心して寝れる』


「魔法ですか? わたしなら火と水の魔法を覚えたいですね。そうすれば外で簡単な料理を作れますし」



 お金を貯めている時の雪兎は、アブソープションでモンスターを吸収して食事代わりにしていたが、決して食べる事が嫌いという訳ではない事をアミルは知っている。。むしろ美味い物を食べるのは好きで、異世界に来たのだからと見た事がない物は一度は口に入れていた。


 前に日を跨いだ依頼を受けた時の食事はブルーウルフの燻製肉だったが、手軽で日保ちがする反面その不味さを知っている。リンの宿屋で雪兎に碌な戦力にならないと思われていた事を気にして、少しの間だったが料理を習っていた。なので簡単に火をおこす事が出来れば、旅の途中でも簡単な料理が作れると考えていた。

 ライターやマッチなど存在しないので、火を1つおこすだけでも一苦労なのだ。


 その話を聞いて、雪兎は各属性の魔法を一通り覚えたいと思った。



『確かにそれもあるな。快適な旅をする為には魔法は必要不可欠だ』


「その3つがあれば、旅の途中でもお風呂に入れますね」


『おお! 溝を掘って水を溜めて温めれるから、即席の風呂が作れるな。それに各地の湧き水さえ有れば、いろいろな温泉を作れるかもしれん。やはり魔法は覚えるぞ!』


「はい!」




「師匠、アミル……魔法はお風呂作りの道具ではないですよ」



 魔法でのお風呂作りの話に盛り上がっている2人に、リンは呆れて眺めていた。魔法は先天的に覚えていない限り、ある程度高い魔力を持っている人が高いお金を払って魔導書グリモアを読まないと覚えれない。ただ魔法を使えない人は魔力を鍛える事が出来ないので、後天的に魔法を覚えれる人は少ない。


 その事を知っているリンは、可能性の低い話で夢を語っている2人に現実をどう教えるか悩んでいた。




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