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40話 アミルの戦い

 予定外の試合が行われたが、その後は生徒達も素直に言う事を聞いて教室に戻っていった。




 この学園で最初の授業はこの町の成り立ちだった。長年の魔族との戦いに勝利する為に、何代も前の国王が計画して造られた戦士の養成所。それがこの学園の始まりだった。



 だがその手の歴史の授業は、実戦での力を付けようと学びに来た生徒にとって退屈なものだったのだろう。目が閉じそうで必死に耐えようとしている生徒がチラホラ見えた。

 ビアンヌ先生もそうなると分かっていたようで、見て見ぬ振りで授業を続けていた。




 昼食を売店で買って軽く済ませ、午後の授業が始まる。



「今日は最初の授業だからな。お前達には己の実力と周りの実力を知ってもらうために、一対一で戦ってもらう。……そうだな、対戦相手は各々の隣にいる奴だ」



 先生が現れたと思ったら、突然試合をしろと言いだした。すでにいくつかの仲良しグループが出来ているので、対戦相手は自然とそのグループ内で行われる事になる。



『なるほどな。確かに今集まっているグループはそのままチームを組む仲間も多いだろう。そのチームメイトの実力を体感するのは、今後の生徒にとっても有益な情報となるだろうからな』


「そう言う事だったんですか。わたしはてっきり思い付きかと……でも」


『そうだな。そんな教師の思いより問題なのは、お前の隣にいるのが竜使いだってことだ』



 そう、昨日入学して話相手も少ない現状では、不安を減らす目的もあって綺麗にグループ別けが出来ている。そして人見知り、対人恐怖症気味のアミルがこの科で唯一話が出来る生徒は、午前中に圧倒的な実力を見せたプリセラだった。



「フフフ、さっそく機会が来ましたね」



 プリセラはやる気十分で微笑んでこちらを見て来た。



『……先に言っとくが、俺は戦わないぞ。こんな目立つところで派手に立ち振る舞って、こいつが色眼鏡で見られるのは今後に支障を利かすからな』


「やはりそうですよね。分かっていましたが、少し残念です」



 雪兎の話を聞いて、わざとらしくガッカリする振りをするプリセラ。バハムートもこうなると予想していたようで、とくに何も言わずに黙認する。

 アミルは自分の実力不足でガッカリさせてしまったと思い、オロオロとしながら真に受けてしまったようだ。



『安心しろ。竜使いはガッカリしている演技をしているだけだ』


「え!? そうなんですか?」


『悪いな。我が主は気にいった相手には、少し悪ふざけをする事があるんだ』


「あらあら、バハムートにまで裏切られてしまいましたわ」


『いい加減にしておけ。そういうのは冗談と通じる相手だけにしておかないと、その内、大事になるぞ』


「はーい。フフ、怒られてしまいましたわね」



 ここでようやく冗談を言っていたと気付いたアミルは、安心したようにホッと息を吐いていた。



「おい、プリセラ。お前の実力は午前中に全員の前で見せていると聞いた。だからお前は戦わないで良いぞ。だからお前の対戦相手は……そこのガキ。そう、お前だ」



 ビル先生がプリセラの代わりにと指定したのは、午前中に彼女に何も出来ずに敗れたゴブリン使いの噛ませ犬の1人だった。3人でいつも行動をしているようなので、自然と対戦相手がおらずに余っていたようだ。



「なんだよ。俺の相手は忌み子の女か。だいたいスノーラビットしか従わせれない奴が、俺のゴブリンに勝てる訳がないだろ。やるだけ時間の無駄だ」



 プリセラと戦って惨敗した事をもう忘れているような強気の発言を聞いて、雪兎達は呆れて見る事しか出来なかった。そんな噛ませ犬の1人の言葉も、気弱なアミルにとっては威圧的に聞こえてしまい、俯いて少し震えている。



『まったくお前って奴は。まあ、トラウマはそう簡単に解消出来るもんじゃないか。……だが安心しろ。タマモ達の実力を考えれば、お前達が勝つのはほぼ確定している。少しはお前に着いて来てくれた仲間の実力を信じてやれ』


「……そうですよね。タマモちゃん達も頑張ってくれてますし、わたしが一番信じてあげなくっちゃいけませんよね」



 相変わらず相手の目を見る事は出来ないが、それでも戦う意思だけは固めたアミルは訓練会場に移動を始めた。








「貴方は彼女のそばにいなくて良いのですか?」



 訓練用の試合会場は、四角い枠が9つある場所だった。その枠の中に2人が入って、己のモンスターを指示して戦いを行う。


 プリセラが聞いて来たのは、アミルが枠内に移動したのに雪兎が外で試合を眺めている事を疑問に思ったのだ。



『最初にも言ったが、この学園内ではあいつ1人の力で戦ってもらい、その実力を鍛える事にしている。だから俺はあそこに立たない方があいつの為になるんだよ』



 もちろん、相手が死に至るような過剰な攻撃を仕掛けてきた時は、手を出す事を控えるつもりはない。だが少しぐらいの怪我なら雪兎の魔法で治せるし、視線の先にいるゴブリン程度なら<威圧>のスキルで動きを止めるぐらい造作もない事なので、とくに心配はしていない。

 


『だいたいモンスタートレーナー同士の戦いだから、ゴブリン1匹しか連れていない相手に負ける訳がないんだよ』



 アミルの仲間は今3匹で、その内2匹が遠距離攻撃を行い、もう1匹が防御主体のモンスターだ。近距離しか攻撃できないゴブリン1匹が、2匹の攻撃を掻い潜って近づくのは無理だろうし、主であるアミルを直接狙おうとしても、ガイアを倒す事など不可能なのだ。





 アミルは最初から3匹同時には出さず、まずはタマモだけを呼び出し、ファイアブレスで攻撃を行う。相手は何もない所からタマモが出てきた事に驚いていたが、すぐにゴブリンに指示を出して攻撃をさせた。

 単発的なファイアブレスは、多少知能があるゴブリンにはかわすのが容易だった。火が消えると同時に駆けて来て、タマモに攻撃を行おうとする。


 タマモもレベルが上がっているのかファイアブレスの威力が上がっていたが、近づいてくるゴブリンを見て、アミルはミズチも呼び出して攻撃をさせる。



「な!? 2匹目!? ……クソ! 1匹だけならどうとでもなるって言うのに、本命を隠して戦うなんてズルイ奴だ」



 戦力を最初から全部見せていない事をズルイと言いだす噛ませ犬。この学園を卒業したら全員ライバルになるかもしれないのに、手の内を最初に全部見せろと的外れな甘い考えを聞いて、雪兎達は呆れて何も言えなくなっている。


 火の息はかわせても、その合間から飛んでくる水の玉をかわす事は出来ない。ゴブリンはタマモ達に近づく事も出来ずに攻撃を受け続けた。




 結果、ゴブリンは何も出来ずに力尽きて倒れてしまった。



「ほう、お前は複数のモンスターを仲間に出来るようだな。全員が強くなるのは大変な事だが、個人で複数のモンスターを引き連れていけるのは大きなアドバンテージを得る事が出来る。厳しい道のりだが、しっかり精進するんだぞ」


「は、はい」



 ビル先生もアミル達の戦いを見ていたようで、試合終了と共に声を掛けて来た。



「待ってくれ! ずるいじゃないか。これは一対一の戦いだろ? その忌み子は2匹使って戦ってたんだぞ」



 声を掛けてきたビル先生に、噛ませ犬は納得がいっていないようで文句を言いだした。その内容にはビル先生も呆れたような顔をした後、諭すように説明を始める。



「お前な。これはモンスターの一対一の戦いではなく、モンスタートレーナーの一対一の戦いだ。その子に複数のモンスターを連れていける才能がある以上、二対一になるのも想定の内だろ」


「それは! それはそうだが……」



 先生に言われて少し冷静さを取り戻した噛ませ犬は、完全ではないが納得したようでこれ以上の文句は言って来なかった。


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