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39話 プロモーション

『それがお前達の力の一端か。なかなかのプレッシャーだな』



 一瞬だったが発せられた怒気と共に出した威圧感に、雪兎は感心するように褒めた。



『ほほう、我の竜気に気付くとは、やはりお主は普通のモンスターとは違うようだな』


「昨日は貴方の力を見せてもらいましたから、今度はわたくし達の力を少し見せてあげますわ。もちろん手加減するので、それを実力の全てとは思わないでくださいね」



 プリセラとバハムートは一瞬だけ発した力に気付いた雪兎を見て、怒りが吹き飛んで嬉しそうに話し始めた。雪兎もお手並み拝見と、その戦い方を楽しみにしている。



『おい、移動するぞ。俺達にとっては初めて見る他のモンスタートレーナーの戦いだ。強くなる為のヒントがあるかも知れないから、何時までも落ち込んでいないで学びに行くぞ』


「は、はい。……すみません、ユキトさんまで弱く見られてしまって」


『そんな事を気にする必要はない。むしろ俺は注目を浴びないおかげで自由に動けるようになる。だからお前もそんな目の事は無視して、自分の好きなように動け。どうしようもなくなったら、俺が動いてやるからな』


「ありがとうございます、ユキトさん」





 モンスタートレーナー科の生徒は、後学と上位との力の差を感じてもらうために全員で見学する事になった。


 ここは学園内で試合や決闘を行う時に使う闘技場で、100メートル程の試合会場に観戦も出来るように一段高い位置に客席も用意されている。

 そこにプリセラと3人の生徒が向き合っている。プリセラから言いだしたのだが、バハムートを侮辱した者達とまとめて相手をするのだ。


 全員モンスタートレーナーなので、戦うのはバハムートとゴブリンが3匹。見た目だけで言えばゴブリンの方が有利に見えるかもしれない。だがプリセラと戦おうとしている生徒以外は、彼女の二つ名も知っているしその実力も話で聞いているので、結果は想像出来ていた。

 なので観戦している生徒の興味は、プリセラとバハムートの実力に集まっている。全員、世間でデストロイヤーとまで言われた戦い方を見逃さないようにしようと、無駄話の1つもしないで集中していた。


 この後、3馬鹿と言われる対戦相手の生徒は、完全に噛ませ犬でしかなかった。




「一応言っておきますけど、相手を殺さない程度の攻撃に抑えてくださいね。万が一の時の為に、保健の先生にも待機してもらっていますけど、何事もない方が良いですからね」


「ハハ、分かっていますよ。俺達のモンスターは手加減も上手いですから」



 観戦している生徒達が一同に「ビアンヌ先生が言ったのはプリセラにだ」と、思っていたが、それを声に出す人はいなかった。



「攻撃には出来るだけ手加減をしますけど、わたくし達の力を見せたい方がいますので先生も注意しておいてくださいね」


「死なない程度で済ませてくれればいいですよ。……それでは試合のルールを説明します。勝敗は、この闘技場から出る、意識を失う、立ち上がれないほどのダメージを負うのいずれかです。もちろんギブアップを宣言してくれても決着としますけど、対戦相手がすぐに攻撃を止めてくれる保証はないので、無理だと感じたら早めに宣言してください」


「先生、モンスターに武器を持たせるのは有りなんですか?」


「もちろん良いですよ。ただし武器が破壊されたても、自己責任としてもらいます」



 先生に確認をとったところで、ゴブリン達は嬉しそうに棍棒を振り回し始める。プリセラはその事に興味がないようで、何も言わずに黙って見つめている。



「それでは準備は良いですね? ……それでは始め!」



 先生は試合開始の合図を送るとともに、すぐさま中央から離れて距離をとる。



「それでは始めましょうか。バハムート、準備は良くって?」


『愚問だな。我はいつでも良いぞ』


「それでは行きます。《ソウルリンク》」



 プリセラの肩からバハムートが離れた後、掛け声と共に2人の体が青白い光に覆われる。



『あれは……』



 雪兎にはあの光に見覚えがある。オークキングとの戦いの最中にアミルが起こした現象で、雪兎の力を一時的に強化されたので、この学園で知りたい事の1つだ。

 アミルは目を閉じて集中していたので、この現象を不思議そうに驚いていた。




「こけおどしに乗るかよ! 叩き落してやれ!」



 その声に従い、ゴブリン達が棍棒を高く持ち上げて向かって行く。



「お馬鹿な人達……バハムート、これ以上あの醜い顔は見るに堪えません。一気にいきますわ、《ソウルプロモーション》!」



 一際激しい光がバハムートから放たれる。ゴブリンはもちろん、注目していた生徒達も眩しくて手で光を遮る。




「う、うそだろ。何なんだよ、なんでそんな姿に変わるんだよ!」



 ゴブリンも腰が引け、その主たる生徒達もバハムートの姿を見て何が起こったか理解できずに驚愕していた。



『なるほど、確かにあの姿を見たら試験官達は逃げだすだろう。今の俺では勝てる気がしないな』



《バハムート  レベル 50  スキル  ドラゴンブレス ・ 竜気 ・ 竜魔法》



 雪兎は感心するようにバハムートを見ていた。バハムートから発せられた光が納まると、そこにいたのは3メートルを超える白いドラゴンだった。見つめられるだけで殺されると感じる鋭い目、全てを噛み砕くような牙、力強い体格、堅強そうな鱗、巨大な翼を広げて更に威圧している姿に、ゴブリンごときが立ち向かえるはずもなかった。



「す、凄い姿ですね」



 アミルは今までのバハムートとの違いに驚いていたが、他の生徒と比べるとその驚きは少なかった。



「でも……本当にユキトさんでも敵わないんですか?」


『まあ、正面からまともに戦うならな。確かに今のままでも勝つ方法はあるが、それはプリセラを狙う卑怯な作戦だ。どうしようもない状況だったら実行するが、そうでなければ俺はそんな選択肢を選ぶつもりはない』


「プリセラちゃんみたいな事を出来れば、わたしもユキトさんの力になれますよね」


『あれと同じような事をお前もやっているぞ? オークキングとの戦いが終わった時、俺の姿が違っただろ。あれはおそらく、お前が無意識に同じ事をやった結果だ』


「あの時は夢中で神様に祈っていただけですので、何をしたかよく覚えてないんですよ」


『そうだろうな。だがまぐれでも一度出来たんだ。きっとお前も同じ事が出来るようになるだろう。それに……あの時感じた感覚。あれに近い感じを前世で経験したような気がするんだ。あんな特殊な経験、魔法がない前の世界で体験するはずはないんだが……それでも記憶を失った原因がそこにある。俺はそう思っている』



 雪兎はバハムートの姿を見ながら、過去を思い出すキッカケを見付けたと感じている。アミルはそんな雪兎の姿を見て、少しでも記憶のヒントを掴めて彼の力になれるのならと、プリセラが見せた力を身に付けようと心に決めたのだった。



 試合は一瞬で終わりを告げた。バハムートの威圧感に動けなくなったゴブリンは、口から放たれた白いレーザーのようなブレスが地面に当たり、その爆風で会場の端まで吹き飛ばされて気を失ってしまったのだ。


 爆風の影響はゴブリン達の主にもあり、飛んで来た小石などで少し怪我をしている。日本なら試合で怪我などさせたら問題になるのだろうが、ここは異世界でしかも命懸けの戦い方を指導する学園。怪我をした本人はもちろん、誰1人としてこの事に対して文句を言う者はいなかった。



「皆さん、これが二つ名まで持つ上位の力を持った者の実力です。身近に実力者がいるという幸運に感謝して、驕らず、自らの力を磨いてください。プリセラさんも手加減をしてくれてありがとうございました。貴女達には刺激のない退屈な授業になるかもしれませんが、それも将来に役立つかもしれませんので我慢してくださいね」



 試合終了を告げたビアンヌ先生は、今後のトラブル回避と生徒達の目標となるようプリセラを紹介した。



「安心してください。わたくしも最初はそう思っていましたが、面白い方がおられましたので対戦が楽しみでしょうがありませんわ」


「ああ、アミルさん達の事ですね」



 観戦している生徒には聞こえないような声でビアンヌ先生に話をしたプリセラに、すぐにその人物が誰なのか理解して名前をだす。



「あら? 先生にもあの方達の実力が分かるのですね」


「んー、それはちょっと違うかな。わたしの印象ではただ気の弱い女の子にしか見えなかったもの」


「ならどうしてあの方達の名前を?」


「あなたも噂ぐらいは聞いているかもしれないけど、彼女達が入試で試験官を全員倒した子なのよ。雰囲気と記録があまりにもかけ離れているから、他の先生も公表していないけどね」


「なら、そのまま公表はしないままでお願いしますわ。どうやら彼女達は制限をかけて学園生活を行うようなので、あまり目立つような行動は好まないようです」


「あらそうなの。ならわたしも見た目通りの実力だと扱うわ。それにしても……本当に貴女が興味を引くようには見えないわね」



 ビアンヌ先生は不思議そうな顔をしてアミル達の方を見つめる。



「ふふ、彼女にも不思議な力を感じますが、まだまだ未熟ですね。でも、そんな彼女に着いているモンスター……彼は何度も死戦を潜り抜けた歴戦の戦士、そんな雰囲気を纏っています。そしてそれに相応しい実力も持っていますわ」


「へー、わたしにはそうは見えないけど、貴女が言うんだから本当なのでしょうね」



 プリセラも面白そうにアミル達の方に視線を向ける。2人の行動にアミルは意味が分からず首を傾げていた。



(わざわざそんな情報交換をしないでも良いだろうに。ま、教師である以上、試験での情報が伝わっていても不思議じゃないか)



 周りには聞こえないような声でも、雪兎は2人の口の動きから何を話していたかを読みとっていた。読唇術、口の動きだけで言葉を把握する技術だが、相変わらず一般人には会得する機会がないような能力を持つ自分に呆れていた。

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