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38話 自己紹介

 深夜、アミルは雪兎と一緒に大浴場に入っていく。入学初日の夜ということもあり、この時間に入浴する生徒はいなかった。





『いやー、なかなか立派な風呂じゃないか。この世界の風呂に対する力の入れようは期待以上だな』


「凄いですよね。わたしも前に入った時は驚きましたよ」



 体を洗い終わり、体格の小さい雪兎は顔が水面に出ないのでアミルの膝に乗せてもらって湯船に浸かい、満足そうにしている。そんなアミルも嬉しそうな雪兎を見て、幸せそうな表情をしていた。タマモ達も腕輪から出て体を洗ってもらっていたので、今は湯舟で自由気ままに泳いでいる。


 堂々と雪兎達は湯に浸かっているが、他の生徒が入って来ないかは逐一スキルを使ってチェックしている。なので心置きなく湯を堪能することが出来た。



『お湯の成分は普通の水を温めているだけのようだが……なんだ? それ以外に不思議な感覚を感じるな』



 雪兎は浸かっている湯の成分を分析し始めた。



<アルティア寮の湯 ・・・ 薬草を煎じた湯を使っており、若干の体力と傷の回復速度を高める効果がある>



『なるほど、疲れを次の日に回さないように学園側の配慮か。この湯の感覚は日本では味わえないものだな。……ああ、いい湯だ』



 鑑定眼のスキルまで使ってお湯の成分を調べた結果を聞き、アミルは少し困った表情をしたが、満足そうに湯を堪能している雪兎を見て、何も言えないで見つめる事しか出来なかった。







『ここの湯は良いものだったぞ。この風呂に入れただけで、この学園に入学した甲斐があったというものだ』


「そうですね。良いお湯でした」



 部屋に帰って来た2人は、満足そうにリンに話をしだした。



「いやいや! 2人共、ここにはお風呂に入りに来たんじゃないんだから、そんなんで満足しないでよ!」


『そうは言うが、薬草入りの湯を用意するのは大変だろ。お前だって宿屋の娘なんだから、その維持費は想像がつくはずだ』


「え? あのお風呂って薬草が入っているの? ……師匠、良く分かりましたね。流石、お風呂マニア」



 お風呂の成分を聞き、リンは少し呆れるように感心していた。



『誰がお風呂マニアだ。お湯の成分なんか、俺のスキルを使えばすぐに判明する事だ』


「 ? 」


「ユキトさんはね。鑑定眼ってスキルを持っていて、物やモンスターのレベルやスキルを調べる事が出来るの」



 アミルが鑑定眼のスキルについて説明をし出したが、雪兎は止めるつもりはなかった。全部のスキルを教える気まではなかったが、鑑定眼ぐらいなら知られても良いと思えるぐらいには信用していたのだ。



「師匠の事を知れば知るほど驚きますね。どこまで調べれるかは知りませんが、その手のスキルを持っているだけで仕事には困りませんよ。たしかこの町の冒険者ギルドでも、素材の買い取り部署がスキル持ちを募集していたはずですし」


『そんな仕事にスキルは必要ないだろ。物の知識を学べば、十分に代用が効くものだからな』


「そうでもありませんよ。やっぱり誤魔化したり偽物を用意したりする人がいるみたいで、それに対応出来る知識を持っている人を育てるのには、莫大な時間が掛かりますからね。その点スキル持ちは正確な情報を得られますから、そのギルドに1人いるだけで抑止力になるんですよ」


『なるほど、確かにその考えに間違いはないな。だが俺はそんな職に着くつもりは毛頭ないがな』


「そうですよね。ユキトさんは世界中を回る事を楽しみにしていますから」


『そう言う事だ。それよりさっさと寝て明日に備えろ』


「「 はーい 」」



 いつも通り雪兎はアミルと一緒の布団に入り眠りに着いた。






 翌朝、湯船にモンスターの毛が浮いていた事でちょっとした騒ぎになったが、入浴する所どころが部屋から大浴場までの道のりも誰にも見られていないの、雪兎達が入ったとバレる事はなかった。



「師匠……これ以上騒ぎが大きくなるのは避けたいので、お風呂を我慢するわけにはいきませんか?」


『バレなきゃ問題ないだろ。だいたいモンスターを相棒とする職があるのに、浴場を差別するのは間違っている!』


「ほんと師匠ってお風呂好きなんですね。あまり人へ関心を持たない割に、お風呂には凄く執着しまてますし……」


『誰が言ったか覚えていないが、風呂は心の洗濯だと聞いた事がある。だから俺が風呂好きって訳ではないんだ』



 そう言って力説する雪兎だったが、お風呂好きではないと言う所は説得力がなかった。リンはため息を吐いて諦めたような顔をし、アミルは困ったような表情をしてオロオロしている。


 結論は、今後も2日に一度というリンの妥協案に仕方なく納得することになった。






「さて、今日から授業を開始するが、まずはあなた達の名前と顔を一致させたいから、1人づつ自己紹介をしてちょうだい」



 教室に集まった新入生が最初に行なうのは自己紹介と決まった。講師が決めたスタート地点から順番に前に立ち、各々の名前と目標を話す。



「ユ、ユキトさん、き、緊張して息が止まりそうです」



 順番が近づいていくにつれ、アミルの顔色はドンドン青白くなっていく。人見知りには過酷なイベントかもしれないが、決まってしまった以上は素直に従うしかないので諦めて受け入れている。だが緊張するのを止める事は出来ないのでどうしようもなかった。


 そうしてアミルの番に回ってきた。




「わ、わたしは、ア、ア、アミル、です。も、目標は、せ、世界中を回れる、だけの、じ、実力をつける事、です」



 アミルは俯きながら、噛みまくって自己紹介を言い終わった。ただスムーズとはとてもじゃないが言えない話に、何人もの生徒は首を傾げて理解出来なかったとアピールしている。


 そんな変な意味で注目を集めてしまったアミルは、知られたくなかった事に気付かれてしまう。



「おいおい、お前、忌み子か?」



 前列の生徒が、前髪で見え難くしていた目に気付いて声に出したのだ。



「うそ!? なんで忌み子が学園に入学しているのよ」


「マジか……気味が悪いからさっさと退学にしてくれよ」


「だいたい最下位に近い成績なんだから、入学試験をした奴も不合格にしろよな」



 1人の生徒の言葉を皮きりに、次々と罵声を浴びせて来る。アミルはさっきまでの緊張とは違う意味で顔を青くして、震えながら下を向いている事しか出来なかった。



「みんな、静かにしなさい。だいたい忌み子の話は裏付けもない話です。そんなあやふやな情報に流されないでください」



 講師もこの騒ぎを止めに入るが、騒ぎ出した生徒の勢いを止める事は出来ない。



『おい、そんなに気にするな。あいつ等ぐらいのガキは弱そうな所を見付けると、寄ってたかって突っついて、自分は強いと見せたがるものだ』


「……………」



 そんな雪兎の言葉も、罵声が続いている中ではアミルの耳には届いていなかった。



『我慢しろ……とは言えないぐらいに騒ぎだしたか。聞いてて不快なのは確かだ。少し黙らせるか』



 そう言って雪兎が睨みを聞かせようとした時、1人の生徒が立ち上がって前に歩き始めた。



「ユキトさん、でしたわね。力を隠したい貴方が前に出る必要はありませんわ。……貴方達、そんな事を言っていて恥ずかしくないんですか。まったく、群れないと何も出来ない雑魚はこれだから困ります」



 アミルの前に立ち、そう言いきった生徒はプリセラだった。彼女は罵声を発していた生徒を見下すような冷めた目で見つめる。



「なんであんたが忌み子を守るんだよ! あんたには関係がない話だろ」



 だいたいの生徒が静まり返った中で、まだ数人の生徒が文句を言って来た。



「わたくしが彼女を守った? フフ、本当にそう見えたのなら、貴方達には少しも期待が持てないですわね」


「……どういう意味だよ」


「自分達の腕を磨こうとはしないで、他人を見下そうとするだけの貴方達とこれ以上話す事はありません。わたくしの名前はプリセラ。最強のドラゴン使いになるのが目標ですわ」 



「なにが最強のドラゴン使いだ! そんな小さいトカゲを連れていて、雑魚はお前等だろ!」


「まったくだ。そんなトカゲの1匹ぐらい、俺のゴブリンの一撃で叩き落してやるぜ」


「ば、馬鹿!?」



 暴言を吐いた生徒はプリセラの実力を知らないようで、相棒のバハムートの事を馬鹿にしてしまった。周囲の生徒はその発言をした者達に驚いていたが、発してしまった言葉が消える事はないので「馬鹿が」とだけ呟いて、巻き込まれないように下を向いている。


 その発言が出た瞬間、プリセラとバハムートが重たい空気を発する。



「……貴方達、わたくしのバハムートにずいぶんな物言いですね。いいでしょう。すぐに身の程を分からせてあげますわ。ビアンヌ講師、すぐに闘技場の使用の許可を出してください」


「はー、分かったわ。でも殺さない事だけは約束して頂戴。それが許可を出す条件よ」



 モンスタートレーナーは、自分の相棒を馬鹿にされる事が耐えれないという人が良くいる事なので、その気持ちは理解している。だから最初に実力の差を分からせる事は、今後のトラブル防止になるだろうと判断し、すぐに許可を出す事にする。

 それでもトラブルにならないのがベストだった為、馬鹿な生徒にため息を吐いて、申請を済ませようと動き始めた。




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