表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/60

37話 大浴場

 アミル達が住む寮は、7階建てのとても大きな宿泊施設だった。今年の新入生の大半が入寮したので150人程の共同生活なので、早速揉めている生徒が見えたが無視する。2人共汗をかいていたので、すぐにお風呂に向かう事にしていた。


 お風呂はとても大きく、男女とも同じ広さで作られていた。だが今年入学した生徒の男女比は7:3と女の子の割合が少ない為、かなり余裕がある。



「ん~~~、やっぱり一汗かいた後のお風呂は最高ね!」



 リンは湯船で体を伸ばし、気持ちよさそうにしていた。



「それはそうだけど……」



 アミルも隣で浸かっていたが、少し表情が優れていなかった。



「ああ、やっぱり師匠の事を気にしているのね。師匠、大浴場は生徒限定って聞いて、かなり落ち込んでいたもんね」


「うん……ユキトさん、お風呂や温泉が好きだから、ここに大浴場があるって知って楽しみにしていたし」



 今、アミル達が浸かっている大浴場に入ろうとした時、寮長にモンスターを連れて入っては駄目だと注意されたのだ。その時にアミルも説得を試みたのだが、「規則で決まっている」の一点張りで聞きいれてくれなかった。

 どうやらモンスター専用の洗い場が用意されているらしいので、雪兎は平気そうな顔をしてそちらに向かって行った。だがその顔とは裏腹に、アミルどころかリンにまで見破られる程、落胆していた。



「師匠って絶対に前世は人間だよね。うちの宿に泊っていた時も、毎日のようにお風呂に入っていたもん」


「ユキトさんね、この学園を卒業したら、世界中の温泉を探す旅に出るんだって。もちろんわたしも着いて行くけど、そこまで好きになれるものがあるって、少し羨ましいって感じるんだ」


「え!? アミルだって好きなものに正直になってるじゃん」


「?。わたしってユキトさんに着いて行く以外、何もしてないよ?」



 アミルはリンの言葉の意味が分からず、首を傾げて振り向く。



「だってアミルって、師匠の事が好きなんでしょ? もちろん見た目が可愛いから好きって意味じゃなく、異性に対する気持ちの方よ」


「えーーー!? な、なんで? なんで分かっちゃったの???」



 今の時間、大浴場にはアミル達以外の生徒はいなかったのもあり、驚いて大声を上げたアミルの声は壁に跳ねかえって鳴り響いていた。



「だって……アミルが師匠を見るときの目や、後ろを着いて行くときの顔が幸せそうにしていたもん。普通はモンスターにそんな感情は生まれないものだけど、師匠は色々規格外なところがあるからね」


「~~~~~。そんなに顔に出てたかな? もしかしたらユキトさんにも気付かれているかも!」


「それはないわ。師匠って人の動きには敏感だけど、気持ちにはすっごく鈍感って言うか無頓着って言うか、とにかく好意に対する視線には無反応だからね。……それより、アミルはどうして師匠を好きになった? わたしとしてはそっちの方が気になるんだけど」


「う~~~、絶対にユキトさんには内緒だよ。……わたしね、大人の男の人が怖いの。前に言ったと思うけど、奴隷のときに殴られたり蹴られたりされたし、目を潰されたのもお父さんだった。お母さんもわたしを見る目は汚い物を見るようだったの。そしてわたしは病気になった。治療も何もされず、わたしは誰にも愛される事なく、誰も好きにならずにただ死を待つだけだと思ってた」



 リンはアミルの事情を少し聞いていたが、想像以上に酷い経験に顔が引きつってしまう。実の両親に愛されず、更に目まで潰された時の気持ちは想像もつかないし、目の見えない状態で振るわれる暴力は恐ろしかっただろう。

 そんな経験をしたのに、オドオドしながらも町を歩けるどころか、自分に対して笑顔まで見せて話が出来るアミルを凄いと感じていた。


 自分ならきっと誰とも会うのが怖くなってしまう自信があったからだ。


 空気が重かった。


 そんな話をするアミルに、リンはどういう言葉を掛ければ良いか分からなかった。



「でもね!」



 そんな暗い雰囲気と悩みを吹き飛ばすほど、アミルの表情と声は明るく変わる。



「そんな地獄からユキトさんが救ってくれたの! 潰された目も折れた足も、怪我だらけだった傷も、治療もしてくれなかった病気も、みんなまとめて治してくれたの! そしてわたしの目を見て、宝石のように綺麗だって言ってくれた。今まで怖がられたり嫌われていた目を見て褒めてくれたの。それにわたしを忌み子と呼んだ人に本気で怒ってくれた、守ってくれた。とても、とっても嬉しかったの。そしてこれをプレゼントしてくれた」



 そう言ってアミルは腕にはめている腕輪を幸せそうに撫でている。



「それって師匠がプレゼントしてくれたの!? たしか男性から女性に渡す腕輪って、結婚してくれって意味があったんじゃ」


「うん、わたしも最初はそう思って「はい」って応えたんだけど、ユキトさんは意味を知らないみたいなの。でも、わたしの気持ちが決まった瞬間でもあるの。だから今後ユキトさんが好きな人が出来て、わたしはいらないって言われるまで、ずっと慕って着いて行こうと思ってるよ」


「ちょっと! そんな受け身じゃなくてアミルの気持ちを伝えないと、いつか捨てられるかもしれないじゃん!」


「……それでもいいの。わたしが傍にいるとユキトさんに迷惑をかけるかもしれないし、今のままでは足手まといでしかないもん」


「うーー、確かにそうだけど、そうなんだけど納得いかない! でもアミルの気持ちがそう決めているなら、やっぱり実力をつけて師匠に認めてもらうしかないわ。わたしも協力するから、アミルはまず一年生のモンスタートレーナー科で一番になりなさい!」



 リンはモヤモヤした気持ちを吹き飛ばすように勢い良く立ち上がって、アミルに力強く指を差す。



「でも、わたしは一番になりたいわけじゃ……」


「駄目よ! 師匠が頼れるぐらいの存在になるには、一年生のトップ程度にはなってないと!」


「そうだね、ユキトさんの重荷にならないように頑張るよ」


「だから、目標はもっと高く持ちなさいよ。……そうだ! アミルの目標は、まずは学園で一番になる事で、次に旅に出たついでに師匠を人間にする魔導具を見付けて結婚する事! どう? やりがいのありそうな高い目標でしょ?」


「わ、わたしなんかがユキトさんのお嫁さんは無理だよ。ユキトさんにはもっと相応しい人がきっといると思うから」



 アミルは無理をして作った笑顔でリンに応える。始めて優しく接してくれた雪兎に、アミルは淡い気持ちを持っているのを自分でも分かっている。相手が人ではないが対人恐怖症気味のアミルにとっては、雪兎が一番好きな異性なのだ。

 だが雪兎の実力を間近で見てきたので、自分ではつり合いが取れないと感じて身を引いていた。だがら影ながらサポート出来れば良いと考えているし、身を引くときが来たら素直に離れる覚悟もしている。だがそう頭で思っていても、気持ちは簡単には納得出来るものではない。


 リンは無理をしている笑顔の影に隠れた気持ちが分かったが、今までの人生で一度も必要とされなかったアミルに、自分に自信を持てと言っても無理な話なので、何も言えず話題を変える事しか出来なかった。



「そ、そう言えば師匠の方は大丈夫かな? せめてちゃんとした湯舟があれば満足してくれるかもしれないけど……」


「そうだね。そろそろ上がって、ユキトさんの様子を見に行こうか」







 アミル達がお風呂から上がって部屋に戻ると、雪兎が不機嫌そうな空気を出して座っていた。



「ユキトさん……お風呂は、満足いかなかったみたいですね」



 リンは雪兎から出ている不機嫌オーラに気圧されて何も聞けなかったが、アミルは普通に話し始める。



『あんなのは風呂じゃない。ただの水たまりだ』



 モンスターの洗い場。それは大きな桶に絶えず水が流れ出ており、それを使って体を洗うだけの場所だった。もちろんお湯が用意されているはずもなく、雪兎じゃなくてもそれを風呂とは認定出来なかった。



「……暗くなったら、こっそりお風呂に行きましょうか。ここの大浴場は大きくて、なかなか気持ち良かったですよ」


『そうだな。全員が寝静まった頃に、こっそり入るとするか』


「はい。万が一の時はわたしが頑張って誤魔化します」


『フフフ、そんなに風呂がでかかったか。今夜が楽しみだな』



 2人は楽しそうに話をしているが、リンはそんなアミルを見て呆れていた。普段は人目を気にして大人しくしているのに、雪兎の事となると平気でルールを破るのを気にしないのだ。


 雪兎も人に迷惑のかかる事は普段はしないのだが、どうやらお風呂の事になると少々タガが外れるようだ。アミルもそれをまったく止めないとなると、リンは自分がしっかりしないといけないと秘かに決意する事になった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ