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36話 入寮

 ようやく機嫌を戻したリンは、膨らましていた頬も元に戻っており、笑顔で話の続きを始めた。



「そういえばアミルの実力なら、入学試験の結果で結構上位に行ったんじゃない? 私でも上から数えた方が早いぐらい上位だったわよ」



 話によると、戦士科の今年度の新入生は150人。スキルや魔法が必要ない分、生徒の数もかなり多いようだ。その中で上位に入るリンは、周りからチームの誘いをたくさん受けていたらしいのだが、他の科とチームを組んで良いと聞いていたので、アミルと雪兎と同じチームを組もうとすべて断っていたのだ。



「わたしは学科がほぼ0点だったから、最下位に近い結果だったんだ。だから誰にも声をかけられ……そう言えば1人だけユキトさんの実力に気付いた人がいたんだよ」


「へー、師匠の実力に気付くなんて、凄い子がいたんだね」


「うん、ユキトさんが学園案内をしてくれた先輩のオークに悪戯をしてね。それがその子にバレちゃったんだ」


「オークに悪戯が出来るって……流石師匠、半端ないですね。それで誰が気付いたの?」


「あのね、スカイドラゴンを連れているプリセラちゃんなんだ。とっても綺麗な髪をした女の子でね」


「ド、ドラゴン使いのプリセラ!?」



 リンが驚きのあまり大声でその名を言った途端、周囲の新入生達も静まり返ってこちらを見つめてきた。その様子に不思議そうな顔をしてアミルが問いかける。



「どうしたのリンちゃん? 突然大声を出して」


「ドラゴン使いのプリセラって言えば、この町に住んでいて知らない者がいないぐらい有名な人よ。すでに冒険者登録を済ませ、1人で数多くのモンスターを倒した女の子。<デストロイヤー>って二つ名もあって、戦ったモンスターは粉々に吹き飛ばされ、地形が変わるほど激しい戦闘をするって話よ。まさか今更学園に入学するなんて、予想外だわ」


「二つ名って、何?」


「二つ名ってのは、周りの人が付ける呼び名みたいなものよ。最近では<イレイザー>って新人冒険者も現れたって言うし、名付けられるのは実力者の証明でもあるわね」


『デストロイヤーにイレイザーか。なかなか物騒な二つ名だな。そう言う事ならお前達にもついているじゃないか。猪娘とおも……ウグッ!』


「それは言わないでください!」



 アミルは雪兎が何を言おうとしたか瞬時に理解し、口を押さえてそれ以上発言出来ないようにした。ただ念話による会話なので、本来口を押さえたからって発言を止める事は出来ないのだが、それは昔の癖と言うか思い込みで、とっさに止められたと思い込んで言い淀んでしまったのだ。



「猪娘って……そりゃそうかもしれませんが、私だって反省しているんですよ。それにその名で呼ぶのは師匠だけです」



 リンもその名前は不本意と感じているようだが、雪兎に対して行なった行動を考えると、強く否定も出来ないのだった。とりあえずここにいてもクエストは見えそうにないので、職員室に入ってチーム登録をする事にする。




「あんた達はどうやら違う科の生徒のようだけど、チーム登録しても大丈夫なのか? 知っているだろうが、一度チームに入ると一ヶ月はチームを変えれないぞ。急いで決める事でもないし、しっかりと話し合いを済ませて相手の事を知ってからの方が良いぞ」


「それについては大丈夫です。アミルとは入学前から一緒に住んでいたし、訓練も一緒にやってたから」


「そっか、なら何も言う必要はないな。じゃあ2人共、学生証を出してくれ。チーム登録を済ませるからな」



 2人は先生に言われるままに、ポケットから1枚のカードを取り出し渡す。この学生証は入学式の前に受け取った物で、ギルドカードのように個別に登録をした黄色いカードだった。色は毎年違い、それを見るだけで何年生か分かるようになっていた。


 このカードは身分証明にもなり、チーム情報と受けたクエスト、所持しているポイント、成功率、討伐履歴、などが分かるようになっていている。ギルドカードとは違ってステータスなどは表示されないし、討伐履歴もトドメを差した者にだけカウントされるようになっていた。


 その学生証なにやらガラスのような台に置き、二三、別のところに触れると淡い光が放たれた。それでチーム登録は終わりのようで、学生証を返してもらう。



「これでお前達はチームとして登録された。今後はチームリーダーが受けたいクエスト書を持ってくれば、それがチームのクエストとなって登録される。リーダーはアミルになっているが、受けるクエストはチームでちゃんと相談して決めろよ」


「え!? わ、私がリーダー? リンちゃんじゃないの」


「そりゃそうよ。私が師匠をさしおいてリーダーになれるわけがないじゃない」


「ならユキトさんが変わってくださいよ」


『俺は生徒じゃないんだから、リーダーになれる訳がないだろ。くだらない事を言っていないで、さっさと今日からの拠点を調べに行くぞ』


「……私がリーダー、うう、緊張してお腹が痛くなりそうです」



 別に2人で冒険者をやっていた時と変わらないのだが、リーダーという言葉に、アミルはプレッシャーを感じているようでお腹を押さえながら職員室を退室した。






 学園で説明を受けた寮に着くと、クエストを見終わった生徒やさっさと帰ってきた生徒が列を作って並んでいる。



「うわー、すっごい並んでるわ。本人確認と部屋の割り振りで混雑しているのね」


「ほんと凄い人数だね。みんなこの寮で住むんだ」



 軽く見ただけで並んでいる人数は100人程。すでに入寮を終わらせた生徒の数も考えると、ほぼ新入生の全員が来ているようだ。



「やっぱり寮に入ると時間ギリギリまで訓練にまわせるから、人気が高いんだね。ま、ここで並んでいても時間の無駄だし、師匠、指導をお願いします。もちろんアミルも」


『確かに人数が減ってから来ても同じだな。……あっちの方に少し開けたところがあるから、そこで軽くお前達の氣の練り上げを見てやるか』



 雪兎はすぐに周囲の地形をスキルで確認し、人がいなくて来そうにない場所を見付けてそこに移動する。




 指導と言ってもそこまで時間がないので、今やる訓練は氣を練り上げるのを見てあげるだけだ。もともと自分の肉体を使って戦うリンは飲み込みが良く、まだそんなに日数が経ってはいなかったが、扱える氣の量も順調に増えていた。

 アミルのほうは……



『お前は細かい所を感知する感覚は凄いが、体を使う事になると途端に駄目になるな』


「う~、リンちゃんみたいに上手く扱えないです……」



 アミルは氣の存在を感じるのは早かったが、それを操作するとなると手こずっていた。どうにか少量を全身に循環させる事は出来たが、ようやくリンが初日に扱った氣の量の半分程度になったぐらいだ。



「アミルもすぐに扱える量が増えるわよ」


「そうかな……私はあまり才能がないのかも」


『確かに才能の差は出るだろうが、それは今の段階では関係無い。前にも言ったが猪娘は元々体を使って戦うのに慣れているから、コツを掴むのが早いだけだ。

 いいか、才能ってのは長い年月を修練に費やし、始めて差が出て分かる事だ。気軽に上手くいかない言い訳にするんじゃない。

 だいたいこの世界ではスキルというハッキリとした才能があるだろうが。それを必要としない技術なんだから、あとは本人の感覚とやる気だけだ』



 リンとの差がドンドン開いて行く事に落ち込んでいるアミルに、雪兎は気合いを入れ直すように言い聞かせる。



「今は苦手でも、アミルもやっておいて損はないわ。最近、私の瞬発力が上がっている気がするの。たぶん力の流れに無駄が減ったおかげだと思うけど、前に説明された防御力のアップにも繋がるなら、後列のアミルも危険が減るわよ。万が一、まずありえないと思うけど師匠の手が回らないほどの攻撃を受けた時、自分の身は自分で守らないといけないから、その時の為にもね」


「そうだよね。この学園中はユキトさんに頼らないって決めたんだから、自分の身は自分で守らないといけないもの。私、頑張るよ」


「その意気よ。一緒に頑張ろう」



 そうしてアミルもまた、集中して氣を練り始めた。



(フフ、どうやら猪娘と一緒に習わすのは正解だったようだな。おかげで自分に自信を持たないこいつが、ここまでのやる気を出してくれたんだからな)



 訓練を始めて1時間ほど経った。入寮の方も雪兎が確認したところ、人の列が減っていたので受付に戻る事にする。訓練内容は周りから見ればただ立っているだけだが、氣を練り続けていた2人は汗をかいて疲れ果てていた。


 少々ふらついた足取りだったが、寮の前に戻ると調べた通り並んでいる生徒はほとんどおらず、アミル達はすぐに受け付けを行う事が出来た。



「君達で最後のようだね。入学した初日から訓練をするとは、中々頑張っているようだ。……ああ、紹介が遅れたわ。私は<ミネッサ>、今年の新入生用の寮長よ」



 ミネッサと名乗った女性は、まだ20代半ばぐらいに見える。雪兎が調べた結果、レベルは14で氷の魔法を覚えている魔法使いだった。見た目は少し厳しそうな感じを受けたが、武器などで戦うようには見えなかったので、鑑定眼を使わないでも後衛職だとは分かっていた。



(最長で3年間はここに住むからな。そうなると今は大した事がない生徒も、数名はそれなりの実力を持つかもしれない。そんな寮の寮長を務めるには、それなりの実力者じゃないと下手に生徒が暴走した時に止めに入れないだろうからな)



 雪兎の予想は見事に的中している。この学園の寮は100人を超える生徒が寝泊まりする。寮内では男女の生活空間は別れてはいるが、間違いが起こってからでは遅い。最初は大人しい生徒もモンスターとの戦いに慣れてきて有頂天になる者が毎年何名も出て来る。そんな生徒は自分だけが特別強くなったと勘違いをして、寮内で我が物顔で暴れたり、弱者に暴力を振るったりするので、それを抑制する力を持ったトップが必要なのだ。


 もちろんあまりに酷い行いをした生徒は、退寮させられ内容によっては退学もありえる。その事は生徒も重々承知いるのだが、戦いによる興奮状態と若さから来る暴走は、当人だけでは止めらるものではないのだ。



「君達はチームのようね。なら2人部屋が空いているからそこにしましょう。503号室、そこが君達の部屋だ。荷物は……あとから持ってくるのかな? 一応午後の9時に位置口は施錠するから、それまでには帰ってきてね。食事は1階の食堂で全員が合同。朝と夜しか出ないけど、両方とも5時から8時までだから遅れたら食事抜きになるから気をつけて。あと、お風呂は男女別々になっているから、24時間自由に入っていいわ。……最後にこの寮の、と言うか寮長である私が決めたルールだけど、生徒同士が揉めて互いに譲れないときは、立会いの下、当事者同士で決闘をしてもらうから覚悟しておいてね」



 2人は部屋のカギを貰い、指定された部屋に向かう。寮長には言わなかったが、必要な荷物は雪兎が背負っているアイテム袋に入れているので、買い出しの必要は今のところなかった。


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