33話 入学式
今年最後の投稿となります。執筆ペースは遅いですが来年もよろしくお願いしますm(__)m
入学式までに必要な物の買い出しにまわり、忙しい日々を過ごした5日間。雪兎とアミルだけでは土地勘もないので間に合わなかったかもしれない。だがリンが一緒に買いだしにつき合ってくれたので、忘れもなく、無事に入学式の日を迎える事が出来た。
「皆さん、冒険者や軍を目指すべく、我がアルティア学園に入学おめでとうございます。皆さんは入学試験にて、将来有望と判断された生徒達です。ですがまだ卵から孵ったばかりの雛、これからの学園生活でどのような成長をするかと楽しみにしています」
『どこの世界でも、偉い立場にいる奴は話がくどくて長いな』
「そうなんですか? 私は新鮮ですけど」
冒険者養成学校……どうやら正式名称は<国立アルティア学園>と言うらしく、冒険者だけではなく国や各町で雇われる兵士、または魔法の研究者などを育てる施設のようだ。一流の冒険者や国の重鎮の子供達もここに来るらしく、長ったらしい話の節々にプライドの高さが垣間見える。またこの国にはアルティア学園以外にも複数の同じような施設があり、年に一回、他の学園の代表者達がお互いを刺激し合う目的で、交流戦のような催しもあるとの事だ。
もちろんそんな先の事、雪兎にとっては退屈な話でしかない。今は学園内を探索したいのだが、入学式の最中、小型のモンスターは主に抱かれていないと出席を認められなかった。
ちょっと異世界の入学式に興味があった雪兎は、出席すると決断した30分前の自分に忠告したい気分になっていた。
「それでは各科に分かれてください。皆さんの学び舎に案内をします」
長くて退屈な入学式の挨拶が終わりを告げ、今から学園案内が始まる。この学園は、前衛で己の力を頼りに戦う戦士科、魔法をメインに戦ったり補助をする魔法科、そしてアミルのように自分の代わりにモンスターに戦ってもらうモンスタートレーナー科の3科があり、ここで戦士科に向かうリンと別れる事になった。
リンと別れたアミルは、すぐに不安そうに俯きながら自分の科の集まりに向かう。
「今年のモンスタートレーナー科の新入生は人数が多いわね。去年は22人しかいなかったのに、今年は36人。私も後輩が増えてとても嬉しいわ」
モンスタートレーナー科の案内役は3年生の先輩で、笑顔の絶えないのほほんとした雰囲気を感じさせる女性だった。
「まずは預けているモンスターを受け取りに行くわよ。皆も相方がいないと落ち着かないでしょ?」
周りを見渡すと、アミルのようにモンスターを抱きかかえているのが大半で、数名の生徒だけが1人で歩いている。連れているモンスターはファイアフォックスやブルーウルフの子供、ホーンラビットが多く、普通の白いスノーラビットを抱いている子もいた。
「私の今の相方を紹介するわね。この子がオークの<ロアザン>よ」
モンスターの預かり所から出てきた案内役の先輩が紹介するオークを見て、周りの生徒がざわめきだす。歳は15才ぐらいの戦えなさそうな少女が、低ランクの冒険者だと逃げ出すようなモンスターを従わせているのに驚いているのだ。
「せ、先輩は、最初からそのモンスターを従わせれたんですか? いったいどうやって……」
スライムを抱いている少年が、その事実を信じられずに質問する。
「んー、詳しい説明は講師の先生が教えてくれるんだけど、私も最初っからこの子を相方に出来た訳ではないの。複数でチームを組んで強いモンスターと戦い、弱ったところに契約させ、従わせるの。そこのキルアリゲーターを連れている子は、分かっているんじゃないかな。モンスタートレーナーのスキルはね、モンスターと主従契約をする力なの。もちろん制限なしで契約は出来ないわ。スキルのランクと自分のレベルによって、契約できるモンスターの強さが変わってくるのよ」
『……お前の時とだいぶ違う方法だな』
「はい、タマモちゃんもミズチちゃんもガイアちゃんも、みんな自分から懐いてくれました……」
『お前と主従契約を交わしている俺だが、あいつの考えには賛同しかねる。あいつは今の相方と言っていた。つまり前に連れていたモンスターは……』
「あ、あの!」
雪兎の話を聞き、アミルは思わず声を出してしまう。
「何かな?」
「す、すみません。その、先輩の前に連れていたモンスターは……」
「ああ、私は主従契約を1匹にしか出来ないからね。契約を解いて途端に襲って来たから、この子の最初の相手になってもらったわ。皆も気をつけてね。モンスターを乗り換える時は、距離をとって安全を確保してからしないと、突然バクリ……とされちゃうからね」
明るく話をしている先輩の態度に、雪兎はもちろん機嫌が悪くなっていたが、その他数名の生徒も微妙に納得してない顔をしている。その様子に気付いた先輩は、
「たしかに1匹のモンスターに固執して育てるのも良いけど、モンスターが持つ元々の強さがあるから、強い子の方が成長が早いのよ。この学園は3年間で終わってしまい、その後はプロとして生きていかないといけないの。同じ目的の仲間がいる内に協力して、強いモンスターに乗り換えないと、将来苦労するわよ。周りの強さに乗り遅れたら、足手まといとしてチームに入れてくれなくなるからね」
その話を聞いて、半数以上の生徒は納得したように周りを見回し、連れているモンスターの値踏みを開始しだした。
『話は理解出来るが納得は出来んな。確かに俺は敵対したモンスターに情けは掛けんが、捨て駒のように使い回すのは気にいらん』
「私にはユキトさんがいて、たくさんの子が着いて来てくれるから文句を言う資格はないのかもしれませんが……私は絶対にタマモちゃん達を見捨てたりしません。みんな私にとって、大切な家族ですから……」
雪兎の苛立ちに、珍しくアミルも賛同した。そんなアミルを見て、雪兎の苛立ちは吹き飛び、笑みを浮かべる。
『フッ、お前ならそう言うだろうな』
「……何か、馬鹿にされている気がしますが」
『気のせいだ。むしろ見直したぐらいだよ』
「そ、そうですか? なら良いですけど」
雪兎とアミルがそんな話をしていると、生徒の中で複数のグループが出来上がっていた。自分達が連れているモンスターに近い実力同士や、スライム同士のグループもある。
残されたのはアミルを含めて5人だけで、モンスターの預り所に行っていた者達だった。
「あなたは乗り遅れたみたいね。私が口を聞いてあげましょうか?」
他にも一人ぼっちの生徒はいたが、この先輩にはアミル以外は自力でどうにか出来ると思ったようだ。俯き加減で人と話すのが苦手そうな態度のアミルを心配して、親切心で声をかけてくれたのだ。
だが、アミルにとってこれは必要のない優しさ。もともと人付き合いが苦手なのに、考え方まで違ってはチームを組むことなど不可能。いつもは初対面の人にはオドオドした対応しか出来なかったアミルには珍しく、キッパリと返す事が出来た。
「私にはユキトさんやタマモちゃん達がいます。それに……私は着いて来てくれたモンスターを見捨てる事なんて出来ません」
オークを横に連れている先輩に対して、少しも臆せず否定したアミルを見て、周りの生徒達は黙り込んでその成り行きを見守っている。
「……そう、あなたは一匹に固執するのね。別にそれが悪いとは言わないわ。実際、3年生の中にも同じ考えの人もいるしね。ただ、その人達は2種類に別れているわ。最初から強いモンスターを連れていて、更に力を付けたトップクラスの人達と……現実を見ないで落ちこぼれとして下位に居続ける者達ね」
案内役の先輩は、アミルみたいな考え方をする人を馬鹿にするような笑顔を見せ、肩を軽く叩いて通りすぎて行く。アミルは雪兎はもちろん、タマモ達まで馬鹿にされたような気がして怒っていた。しかし今は先輩の言うとおり、落ちこぼれと言われても仕方がない実力しかないので、反論する事は出来なかった。
だが、
『自分だって雑魚のくせに、人を見下して楽しむとは……正直、気分が悪いな!』
そう言って雪兎はオークを睨みつける。
「そんなくだらない話はさっさと辞めて、自分の仕事である案内をしてくださらないかしら?」
「っ!? 1年生の筆頭合格者、<プリセラ>さんだったわね」
「あら? わたくしの事をご存知なんですね。先輩にまで覚えてもらっていて、光栄ですわ」
声がする方を見ると、金髪縦ロールの育ちが良さそうな服をきた女の子がいた。目つきが少し吊り上がっているので性格は厳しそうだが、整った顔立ちなので間違いなく美人に分類されだろう。だがそれ以上に注目を集めていたのは、肩に乗っているモンスターの存在だ。
「ドラゴン使いのプリセラ……たしかに凄い威圧感ね。なるほど、試験官を全員のした受験生って言うのは、あなたの事だったのね」
案内役の先輩が気圧されていた存在。それは翼の生えたトカゲ……いや、ドラゴンだった。
スカイドラゴン レベル 13 スキル ドラゴンプレス
『この世界にはドラゴンがいるのか。あいつを吸収出来れば、奴が持っているスキル<ドラゴンブレス>を俺が使えるようになるかもな』
「……ユキトさん、人様のモンスターを殺しては駄目ですよ」
『分かっている。俺は野生のスカイドラゴンに興味が出ただけだ』
「? わたくし、実技試験では試験官の方々を倒してはおりませんわ。皆さん<バハムート>の姿を見て、逃げだしてしまわれたので」
「え? つまりあなたの他に、試験官を倒せる実力者が隠れているって言うの?」
先輩は慌てて周りを見渡すが、バハムートと呼ばれたドラゴン以外には強そうなモンスターは見付けれなかった。
「その情報には興味がありますが、まずは案内の続きをお願いしたいですわね」
「……たしかにそうね。みんな、案内するから着いて来てね。……ど、どうしたの?」
ここでようやく先輩は自分の相棒の異変に気付いた。先輩の声にも反応せず、オークはまるで金縛りにあったように冷や汗をダラダラ流しながら一歩も動けないでいた。
もちろん、その原因は雪兎だ。雪兎は案内役の態度が気にいらなかったので、スキル<威圧>を使って動きを制限させていたのだ。
(少し大人げなかったな。ま、これで誰だか分からない、油断できない相手が1年の中にいると思っただろ。俺達は知識を得に来ただけで、変な言いがかりで絡まれたくないからな)
雪兎が威圧を解くと、オークは膝を地に付けてすぐに立ち上がる事が出来なかった。




