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34話 ドラゴン使いプリセラ

 雪兎の威圧から解放されたオークが膝をつき、汗が滝のように流れ息も乱れている。完全に疲れ切った様子を見て、案内役の先輩だけではなく、新入生も一部を除いてこの異常な状況にざわめいていた。



「ユキトさん、少しやり過ぎじゃあ」


『思ったより威圧のスキルの効果が高かったな。あまり弱い奴に掛け続けると、下手したら死ぬかもしれないか……取り返しのつかない事が起こる前で助かったな』



 雪兎は何事もなかったように言ったが、アミルの目の前では慌てふためく先輩の姿が映っている。明らかに異常事態が起こっている事に、アミルは遠くを見て誤魔化すしか出来なかった。



 この後、落ち着きを取り戻したオークを連れて、先輩の仕事である新入生の学園案内が続けられた。


 訓練用のグラウンド、宿泊用の寮、購買や座学用の教室など順番に回った。寮と購買は他の科と共用だったが、訓練用のグラウンドと教室は別々だ。

 己の肉体を使って戦う戦士科や魔法を使う魔法科、モンスターに戦わせるアミル達モンスタートレーナー科が同じ設備であるはずがなかった。




 大体の案内が終わり、今は教室で指導してくれる先生を待って待機している。


 この教室はモンスタートレーナー専用になっており、生徒が座る机の並びとは別に部屋の一角が柵で仕切りがついたスペースがある。ここは中型以上のモンスター用の待機場所だ。机も横に少し長く、小型のモンスターが座れるようになっていた。



『授業を聞きたかった俺にとって、なかなか条件の良い学び舎だな』


「私もまだ文字を覚えきっていませんので、ユキトさんが隣にいるのは安心できます」



 入学試験を終えてから今まで、アミルと雪兎はリンに文字を習っていた。雪兎は鑑定眼の効果で文字は読めるが、アミルは読み書きが出来ないので苦労している。アミルの努力の成果も出て少しは読み書きが出来るようにはなったが、それでもまだまだ知らない言葉が多かった。


 席は自由に選んで良かったのでアミルは適当に座った。周りを見回して見ると、案内の途中で言われて即席のチームを組んだ人達が集まって座り、今後の事など話が盛り上がっている。



 完全にアミルはグループの輪から外れてしまった。もともと人見知りで、少し対人恐怖症のアミルなので気にしていないが、雪兎から見て、この傾向はよろしくないと感じていた。


「ねえ、あなた」


「ふぇ!? わ、私ですか?」



 突然声を掛けられたアミルは、背筋をビクッと伸ばして振り向く。



「驚かしてしまってごめんなさい。でも、あなたに少し興味があったので」


「わ、私に? な、何か失礼な事でもしました」


「いいえ、あなたは何も。ただ、先程オークに掛けた拘束……あれを仕掛けたのはあなたのモンスターだとバハムートが教えてくれたので」


「えーと……」


「ああ、紹介をしていませんでしたね。わたくし、プリセラと申します。相方はバハムート、スカイドラゴンですわ」


「あ、あの……アミルです。それとユキトさんです」



 アミルは小さい声でだが、自分と雪兎の事を話した。



『おい、向こうは相方の種族まで紹介しているんだ。お前も自分の仲間を全員紹介してやれ』


「は、はい」


「 ? 」



 雪兎はこれを機に少しはアミルが人に慣れてくれればと、話を続けるように勧めた。それにこの学園で学んでいる時は、自分が実技で前に出るのを控えるつもりでいた。周りを見ても倒す価値がないのが多い事もあったし、他人の相棒の息の根を止める訳にもいかない。実力から考えて、今のアミルでも中間ぐらいの実力を持っていると判断出来たので、鍛える意味も込めて手を出さないと決めていた。



「どうしました、アミルさん?」


「あ、あのね。私の仲間を紹介するね。出て来て、みんな」


「まあ!? あなた、複数のモンスターを従わせれるんですね。それにそのブレスレット……そんな魔導具を持っているなんて、余程良い家の生まれなのね」



 アミルが何もない所からタマモ達を呼びだした事で、プリセラは目を大きく開いて驚いていた。



「私……親はいないの。この腕輪も貰いものなんだ」



 タマモ達の紹介を済ませると、手狭になっていたのですぐに腕輪に戻って貰った。



「そうなの? わたくしの見積もりでも、そのブレスレットは数千万クポンはするような物ですが、奇特な人もいたんですね」


「うん、とっても優しくて、命の恩人でもあるんだ。私は一生を掛けて、恩を返していくつもりなんだ」


『大袈裟な奴だ。その腕輪だって、お前みたいに複数のモンスターを仲間に出来ない奴には価値がないし、エリクサーだってただの薬だ。両方とも拾いものだから気にするなと言っただろ?』


「それでも私が恩を返したいんです。だからこればっかりはユキトさんに言われても撤回しません」



 アミルは周りに聞こえないような小声で雪兎に話しかけた。



「それでオークに掛けた拘束はバハムートの言った通り、そのウサギが仕掛けたんですか?」


「それは……その……」


「ああ、気にしないで良いですよ。わたくしもあの方の考え方には賛同致しかねますから」


『プリセラもこう言っているし、我から見てもそのモンスターからは只ならぬ力を感じる。是非とも詳しい話をしてほしいぞ』


「……今のは念話?」


『そのようだな。なるほど、その娘が言っていた通り、言葉として聞いたようだな』



 バハムートから発せられた念話はアミルだけではなく、雪兎に向かっても飛ばされていた。普通の人なら驚くところだが、雪兎と日常的に念話による会話を繰り返しているので、あまり驚かず納得してしまった。


 だがそれがプリセラ達の確信を得るキッカケになってしまった。



「バハムートの声を聞いて驚かない所を見ると、やはりそのウサギも話が出来るのですね」


『プリセラに言われた時は冗談かと思ったが、そのような下級のモンスターの体にしては、力もスキルも多才のようだ』


「言ったでしょ。わたくしの見る目に狂いはないのですわ」


「ユ、ユキトさん!?」



 アミルは雪兎のスキルの1つがバレた事に慌ててしまった。この様子を周りから見るだけで、プリセラが言っている事を肯定していると話しているようなものだったが、アミルは誤魔化すかバラすかを雪兎に判断してもらおうと助けを求めている。



『ハー、そんなにオロオロするな。こいつ等にはもうバレている。それに念話が使えるって事は、戦いにおいて有利に働く。こいつ等も他の奴にペラペラ話したりしないから、安心しろ』


「まあ、それがそのウサギさんの声ですか。渋さがない所から、まだ若い方のようですわね」


『魔族が姿を変えている、と言う訳でもなさそうだな』


『ああ、その疑いも受けた事があったがな。どうやら違うらしいぞ』


「ご自分の事なのに、ずいぶんと曖昧な返事なんですわね」


「ユキトさんは過去の自分の記憶がないんです。でも」


『おい! その続きは話すな。自分の手の内を全部話す程、俺はこいつ等を信用しているわけではない』



 アミルが魔族ではない証拠……聖魔法を使える事を話そうとしたと感じた雪兎は、念話をアミルだけに飛ばして注意した。本人もハッと気付いた様子を見せて、慌てて口を手で押さえた。



「フフ、どうやらまだまだ隠しているスキルは多そうですわね。わたくし最初はこの学園に入るのは退屈だと感じていましたが、世界はやはり広いようですわね。見た目では判断できないモンスターがいるなんて、他の学年の方々にも期待して良さそうですわ」


『俺もドラゴンを生で見るのは初めてだからな。他にどんな種族がいるのか楽しみだ。ただ先に言っておくが、俺はこの学園内での訓練では戦うつもりはない。ここではこいつ自信の力をつけてほしいからな』


「え!? そうなんですか?」


「その気持ちは分かりますわ。わたくしもバハムートと周りのモンスターとの力の差を見る限り、全力で戦う訳にはいきませんから。……でも、ユキトさんとおっしゃいましたね。わたくしは絶対にあなたと戦うと誓います」


『我も全力で戦える相手を探していたからな。お前との戦い、楽しみにしているぞ』


『勝手に期待していろ。俺にそのつもりはない。だが、その時が来たら覚悟するんだな。俺は手加減が苦手だからな』


「わたくしも楽しみにしておきますわ」


「え? え?」



 実力者達の会話に完全に取り残されたアミルは、雪兎とプリセラを交互に見る事しか出来なかった。

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