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32話 合格発表

 日が暮れた頃、リンは自分の部屋で目を覚ました。なぜこんな時間に寝ていたのか、それを思い出そうとしても記憶がない。



「ようやくお目覚めかい? まったく、客の世話になるなんて、あんたはいったい何をしていたのよ」


「お母さん? 私はどうしてここに?」


「覚えていないのかい。あんたは町で疲れて眠っている所を、この宿に泊っているアミルちゃんに運んでもらったんだよ。いくらモンスターがいない町中でも、不用心に眠るのは感心しないよ」


「アミルに? …………思い出した! 私、師匠の指導を受けている間に気を失っちゃったんだ! お母さん、師匠は……ううん、アミルは今どこにいるの?」



 記憶の整理が終わり、リンは勢い良く立ち上がってアミルの事を聞き出す。



「アミルちゃんかい? あの子は食事中だよ。それより体の方は大丈夫かい?」


「食堂ね。あ、体調はもう大丈夫よ。もう全然平気」



 それだけを告げると、リンは食堂に駆け出していく。








「師匠、アミル、ごめんなさい。なんか迷惑を掛けちゃったみたいで」



 食堂に着くと、すぐに2人が食事をとっているのが目に入った。



「リンちゃん、もう体は大丈夫なんですか?」


「ええ大丈夫よ。でも力のコントロールをするだけで、あれだけ疲れるとは思わなかったけどね」


『そりゃそうだ。お前の氣の力はまだ少ない。その少ない生命エネルギーで大きな力を操ろうとすれば、すぐに倒れるに決まっているだろ。……だがこれで分かったろ? 無理をしてこの力を使い過ぎると、気を失うだけで済まず、命の危険もあるのだと』


「はい……」



 リンは自分に起こった事を思い出し、氣の力の危険性を実感した。



『あとはお前自身の氣の総量を増やすために、さっきと同じ事を繰り返し続けろ。氣の流れは力の流れ、この訓練を続ければ俺が今までに言った言葉の意味が理解出来るはずだ。本格的に技を教えるのは、ある程度氣のコントロールに慣れてからだ』


「でも、自分の氣と言われても……」



 町の外で体験した氣の力の大きさを、今は感じない。リンは不安そうに雪兎の方を見る。



『安心しろ。不完全ながらも氣のコントロールをしたんだ。落ち着いて意識を集中すれば、少しだが氣の力を感じれるはずだ』



 雪兎の話しを聞き、リンはすぐに椅子に座って目を閉じ、意識を体内に向ける。しかし、しばらくしてもリンの表情は優れないままだ。



「リ、リンちゃん。たぶん、たぶんだけどね。力の出所はおへその少し下ら辺んだと思うの……」


『ほう、お前から的確なヒントが出せるとはな』



 自信なさそうにアドバイスをしたアミルの言葉に間違いはなかった。おそらく雪兎が憑依のスキルで乗り移った時に氣の力を使ったので、リンより力の出始めをしっかり感じる事が出来たのだろう。

 この指導方法が全員に出来たら教えるのが楽になるな、と思ったが、雪兎とアミルのように主と奴隷の関係でないと自分の魂が消滅する危険があるので、すぐに諦める。



「おへその下側…………あ!?」


『どうやら感じたようだな。あとをさっきと同じだ。全身に廻らせるイメージで移動させるんだ。……ついでにお前もやっておけ。少しはその貧弱な身体能力を向上させれるかもしれないしな』


「わ、私もですか? 感覚では分かっていても、動かすとなると……」



 まさか自分もやる事になるとは思ってもみなかったので、アミルは驚いていた。ただ別に悪い事をする訳ではないので、雪兎に言われてすぐにリンと同じように目を閉じて意識を集中しだした。だがアミルは氣をコントロールする感覚をまったく掴むことが出来なかった。



『感覚は鋭くても、自分でコントロールするとなると別か。やはりその辺りの感覚を掴むのは、普段から体を動かしている奴の方が早いな』


「すみません……」


『別にすぐに成果が出るとは思っていないから気にしないでいい。それよりお前は走り込みでもして、少しでも体を鍛えろ』


「な、なら、ハァハァ、私と、一緒に走る? ハァハァ……」



 アミルと話をしている間も氣のコントロールの練習をしていたリンは、気を失わなかったが呼吸が乱れるほど疲れていた。これは普段使わない筋肉を使うようなもので、しかもそれが細胞レベルで全身を働かせているのだから、この疲労も仕方がない。

 だがこの疲れた状態のリンと体を鍛えていないアミルなら、ちょうどつり合いがとれて良いだろうと走らせに行かせた。もちろんアミルにとっては苦手な分野なので苦笑いをしていたが、必要な事だと頭では分かっているので、文句も言わずに宿を出ていく。






 試験を受けて6日目の昼を迎えた時、冒険者養成学校から手紙が届いた。



「……ついに来たわね。たぶん大丈夫だろうけど、実際目の前にすると緊張するわ」



 リンは受け取った手紙を前にして、表情が強張っていた。



「うん。ちょっと緊張するね」



 そう言っていたが、アミルはあまり緊張している様子は見えなかった。リンはそれを見て、ジト目でアミルを見つめる。



「私の目には、全然緊張しているようには見えないんだけど……まあ、師匠が実技試験で戦ったんだろうから、自信があるのは分かるけどね」


『たしかに試験官の奴等は雑魚だったからな。手加減が上手くいかなくて、大変だったぞ』


「何人かは死にそうになってましたしね」


『ああ、おかげで手加減の練習の必要性を実感したな』


「……流石師匠、と言うべきなんでしょうね。試験官はプロの冒険者だったっていうのに」



 笑い話のように話している2人に、リンは呆れるような表情をしていた。冒険者を目指す者が集まる試験で、プロを雑魚扱いし、事もあろうか手加減が大変だったと言いだす始末。リンじゃなくても、何しに学校に入るのか疑問に思うのが普通だろう。



「そんなに強いんですから、わざわざ学園に入らないでもう冒険者になった方が良いんじゃ」


「それは……その……」


『冒険者養成学校に通おうと決めた理由は知識を得る為だ。俺達は世間で言う一般常識が、かなり欠如しているからな』


「一般常識って人や住んでる環境によってだいぶ違うけど、アミルはそんなに何も知らないの? 師匠はモンスターだから仕方がないだろうけど」


「私、ずっと奴隷だったんだ。それにこの目が気にいらないと、小さい時に両目を潰されたから、周囲の知識が得られなかったんだよ」


「うそ…………ごめん、悪い事聞いちゃったわ。……でも、今は普通に見えるんだよね?」



 リンが変な事を聞いてしまったと、気不味い雰囲気になってしまう。



「うん。ユキトさんがね、エリクサーって薬で治してくれたんだ。凄かったんだよ。両足も折れてたし、病気でもうすぐ死ぬって思っていたのに、それも含めて全部治っちゃったんだ」


「エ、エリクサーって、あの伝説の治療薬!? なんで師匠がそれを?」


『別に意図して手に入れたわけではない。たまたま遺棄倒れた人攫い共のアイテム袋に入ってたんだ』


「?。エリクサーってもしかして、凄く貴重な薬、なんですか?」



 エリクサーと聞いたリンの驚きっぷりに、アミルは自分なんかのために貴重品を使わせてしまったのかと思い、顔を青くして汗を流している。



『貴重かどうかなんて関係ない。俺の手に入れた薬なんだから、俺が必要と感じた時に使っただけだ。こいつが助かったのも、俺と出会ったのも、そういう運命だったって事だ』


「運命……」



 アミルはその言葉を聞いて、嬉しそうに頬を赤く染める。リンはその様子を見て、アミルの気持ちを何となく理解した。



「でも、流石師匠ですね。……ん? なら奴隷だったアミルの主って」


「うん、ユキトさんが私の主なんだ。でも、あまり公にするとユキトさんに迷惑をかけちゃうかもしれないから、秘密にしてね」



 そう言うアミルの表情からは、不安や不満は少しも感じさせなかった。アミルが雪兎に対する気持ちを知ったリンは、その表情からも安心して見ていられるのだった。




 この6日間、たえずリンが雪兎に教えを求めてきたので、人見知りで対人恐怖症気味のアミルも普通に会話が出来るまで慣れる事が出来た。もともと同じような年齢の友達が出来るのは、アミルにとって良い事だと雪兎は思っていたので、今の状況が続けばと見守っていく事にしている。



『それより合格発表は見ないでいいのか?』


「「 あ!? 」」



 2人は雪兎に言われて手に持っていた合格発表の存在を思い出した。結局2人共、無事に合格する事ができ、入学式は5日後とも書かれていた。


 学校で必要な物を何一つ用意していないアミルは、この5日間で必要な物を買いに走らされる事になってしまった。




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