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31話 氣

 条件付きで戦ってやったのに負けを認めないリンに、アミルの貧弱なステータスに負ければ、己の未熟さを認識するだろうと憑依のスキルを使って戦うことにした。

 しかし、その芸術とも言える圧倒的な技の数々にリンは惚れこんでしまい、急に師匠と言いだし、教えを請いだしたのだ。


 それを見て面倒臭い事が起こったと、雪兎は憑依を解いて逃げ出した。



「師匠! お願いします。私を弟子にしてください!」


「あ、あの、わ、私はその……違うんです」



 突然雪兎が逃げ出した事で、アミルはリンに迫られて困っていた。



「あれ? いつものあんたに戻ってる? ……それにしても、近くで見て始めて気付いたけど、あんた瞳の色が違うのね。たしか忌み子と言われて怖がる人がいるんだったっけ?」


「っ!?」



 普段、アミルは前髪を垂らして目を隠している。それは忌み子と言われて恐れられ、怨みを込めた視線で見られるのを避けるためだ。

 それをリンに気付かれてしまい、体をビクッと震わせて視線を地面に向ける。



「まあいいわそんな事。私は信じていないし。それより師匠は? さっきまでのあんたはなんだったの?」


「え!? 私が怖くないんですか?」


「別に瞳の色が違うだけでしょ? そんな事より、師匠はどこに行ったの?」


「え? え? ユキトさんは、その」


「……ユキトって、その倒れ込んでいるスノーラビットの名前よね」


「あ!? い、いえ、その……」


『馬鹿が、正直に名前を出す奴があるか。……ま、そんな話を信じる訳がないか』



 アミルは自分の瞳を怖くないと言われ、驚きと気の緩みから雪兎の名前をポロっと出してしまった。雪兎は呆れ気味にアミルを叱ったが、愛玩用とまで言われたスノーラビットなので信じないだろうと、とくに気にしないで良いと思っていた。


 だが、



「貴方が師匠だったんですね! どおりで私の攻撃がかすりもしない訳です!」


「あ、あれ? ユキトさんの事、信じてくれるんですか?」


「当たり前でしょ。最初に師匠と戦った時とあんたと戦った時で、動きに近いものがあったもの。それにあんだけ凄い事が出来る人がモンスターだからって、今更小さい事よ。もちろん方法は分からないけどね」


「リンさん……」


「それよりあんたも……いえ、たしかアミルだったわね。アミルからも師匠に頼んでよ。私はどうしても弟子になりたいのよ!」



 リンはアミルの呼び方を「あんた」から「アミル」に言いなおした。雪兎への対応から考えて、アミルが主だとは思えないが、それでも一緒にいる事を許されている所から見て、一番弟子、そうでなくても優先順位の高い守護対象なのは分かる。雪兎の弟子になろうとしている以上、アミルは対等の存在として認めたのだ。



「で、でも、ユキトさんが決める事だから、私には……」


「本当に立場が逆転している関係ね。ま、それも仕方がないか、師匠の実力は飛び抜けているもの。でも負けないわ。師匠! 私に戦い方を教えてください!」



 リンは失礼がないように雪兎の視線の高さに近づけようと、地面に膝をつけ懇願する。



『……面倒だ。だいだい、そういう技術を学ぶ為に冒険者養成学校に通うんだろ。入学してから講師に教えて貰え。そう伝えておけ』


「え、えーと、学校に入学したら、ユキトさんが見せた技術は教えてもらえるんじゃ?」


「そんな訳がないでしょ! 私は体験入学も経験しているけど、師匠が使ったような技術を教えたりはしてなかったわ。生徒同士で訓練したり、講師が生徒を引き連れてモンスターと戦わせ、レベルを上げさせたりするだけだった。もちろん体験入学でしか見ていないからそれが全部とは言えないけど……師匠の動きを見たから分かるの。どんな時でも瞬時に対応出来るような立ち姿、それを微塵も感じさせなかった上級生だったもの、学校で師匠の技術を教えてもらえるとは思えないわ」


『確かにこの世界では氣の運用は発展してなさそうだ。だがこいつはモンスタートレーナー科、あいつは戦士科。入学したら学科が違うんだから、そうそう出会う機会もないだろ』


「えーと、氣は発展していないし、入学したらあまり会えないから無理、だそうです」


「なに!? 氣? それってさっきの発剄って技に関係するの?」



 リンは聞いた事がない単語に興味が引かれ、アミルの肩を激しく揺すって情報を聞き出そうとしている。



『馬鹿が、わざわざ興味が湧くような言葉を伝えるな』


「ならユキトさんが直接話してくださいよ……。私にはどれが伝えて良い言葉か分かりませんし」


『……お前にそれを判断させるのは酷か。仕方がない』



 雪兎はリンの方に体を向き直し、



『おい! 俺は弟子をとるつもりはない。諦めて家に帰れ』


「!?。 今の話し方、師匠? 師匠の声ですね! でも言葉を話せるってことは、師匠は魔族なんですか?」



 この世界でも魔族とモンスターの違いは、言葉を話せるか話せないかが大まかな区切りになっている。



『俺はたぶん魔族ではない。言葉もスキルで語りかけているだけだからな』


「流石、師匠です。技術も持っていて、さらにスキルも……それで、まず私は何をすれば良いのでしょうか」


『だから俺は弟子をとるつもりは……』


「ユキトさん、リンさんにはお世話になったし、少しぐらい教えても……」



 ここでアミルの援護は入る。



『お前は分かってないな。付け焼の技は、身を滅ぼす原因にもなるんだぞ』


「私は指導を受けて死んだとしても、師匠を恨んだりしません。冒険者になると決めてから、死はいつでも隣り合わせにありますから」


「この世界は……ユキトさんのいた世界と比べて死が近いんです。私はユキトさんに救われましたが、そうでない人が沢山います。だから……」


『つまり技に溺れて死ぬより、力が足りずに死ぬ確率の方が高いって事か……』


「師匠」



 リンは真剣な眼差しで雪兎を見つめ続けている。身近に凄腕の指導者を得られるのは、かなりの幸運と言っても大袈裟ではないのだ。この機会を逃したら一生後悔してもしきれない、それほど雪兎の技術に惚れこんでいた。


 その力強い意思を込めた目に、雪兎は諦めたようにため息を1度吐いた。



『……仕方がない。この町にいる間だけだが、時間があれば教えてやる』


「ありがとうございます! 師匠」


「良かったですね。リンさん」


「アミルもありがとう。それと私の事はリンと呼んで良いわよ。同じ師匠の下にいるんだから、他人行儀になってほしくないの」


「え? ……なら……リン、ちゃん?」


「それで良いわアミル。それで私はまず、何をすれば良いのでしょうか?」



 アミルは少し照れながらリンの名前を呼び、それに満足したリンはさっそく雪兎に指導してもらおうとする。



『体を鍛えるのは今まで通りでいいだろう。つきっきりで指導するわけにもいかないし、お前には氣の存在を知ってもらう』


「さっきもアミルの口から出ていましたけど、氣、って何なんですか? 魔力とは違うようですが」


『氣は魔力と違うが近い存在だ。俺は逆に魔力についての知識がないから正しく説明出来ないが、体感的に魔力が精神エネルギーだとするなら、氣は生命エネルギーだ。だから氣を使い過ぎたり暴走させると、HPが減ってしまい、最悪は死ぬ可能性も出て来る』



 死ぬかもしれない。その言葉を聞いて、リンは唾を飲み緊張が走った。



『本来なら何年も掛けて氣の存在に気付いていくのだが、俺がお前の体に氣を通してやる。その氣を感じて、自分の氣の存在に気付くんだ』


「わ、分かりました」



 明らかにリンの表情は硬くなっている。未知の力。それに恐れを抱かない人はいないし、先程見た破壊力の元が自分の体を通ると聞いたのだから仕方がない。


 雪兎はリンを前に立たせ、片手を木にもたれるように前に突き出してもらう。その後ろから雪兎がリンの足に触れる。



『最後に1つだけ条件を出す。この世界で氣の存在はあまり認識されていないのだろう。だからお前もこの力を不必要に公表するな。もしお前が口を滑らせ俺の存在がバレてこいつに影響が出た時、その後の指導はもちろん、この町から姿を消す』



 雪兎に背後をとられた状態で殺気混じりの条件を聞き、リンは緊張し一気に額に汗が流れる。言葉には出していないが、おそらくアミルに害をなす者の全てを消し去ってから町を去る……そう、その決意を感じた。


 もちろんアミルにはそこまでの意味は感じとれてはいないので、キョトンとしている。雪兎の殺気は覚悟を聞く意味も込め、リンだけに放っていた。

 もちろん本当に広がったとしても、リンが感じたようなことはするつもりはなかった。



「わ、分かりました、師匠」


『その誓い、確かに聞いたからな。まあ、お前が習得できる保証もないし、身の危険が迫った時にまで制限をかけるつもりはない。……それじゃあ、いくぞ』



 雪兎はリンの足から氣を流し、体を通して触れていた木を破壊する。



「キャッ!?」



 体を通り抜ける波のような得体の知れない何かを感じ、リンは驚き悲鳴を上げてしまう。ただ不思議と不快感はなかった。それは魔力とは違う何か、それが通り抜けた確かな感覚。その余韻はリンの中に今も残っている。



『今のが氣の力だ。お前の中に少しだけ氣が残っているのを感じるか? もし分からないようならお前には才能がないんだろう。だがその感覚を掴めたなら、氣を体に巡らせるイメージをして、コントロールするんだ』


「通り抜けた力と似た物を感じます。……これを体中に広げるんですね」


『違う。体中を巡らせるんだ。体内で円を描くように回す、そんなイメージを持ち続けろ。今は俺の氣だが、それを続けている内にお前自身の気をコントロールできるようになるはずだ』



 リンは自然体に立ち、体内に感じる氣の力を必死にコントロールしようとしている。動いていないので疲れるはずがないのだが、リンの汗は止まらない。



「リンちゃんは大丈夫なんでしょうか?」


『ああ、氣の力は感じているようだが、そのコントロールに苦労しているようだな。おそらく疲れてそろそろ倒れるだろうが、それは氣の練り過ぎで疲れただけだから心配しないでいいぞ』



 雪兎の言葉通り、しばらくしたらリンはパタリと倒れてしまう。呼吸は荒く、理由を聞いていなかったら心配して動揺しただろうが、外傷はないし疲れているだけと分かっているので、ガイアを呼びだして町まで運ぶことにする。




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