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30話 師匠

 この町に来て始めても依頼。それは宿代を浮かせる為のブルーウルフ狩りだった。以前は狩り過ぎて禁止を言い渡された雪兎達だったが、今回は冒険者ギルドを通していないので問題無しと判断する。


 ただこの町は大きいので冒険者も多く、周囲に低ランクの冒険者がウロチョロしていた。その為か、近場にモンスターの存在は確認出来なかった。町が平和なのは良い事なのだが、この現状から考えて未熟な冒険者がランクを上げるのは大変そうだと理解出来る。



『簡単な依頼だと思ったが、この町の近くにはモンスターがいないとはな。仕方がない、少し距離はあるが歩くぞ』


「はい!」



 いないものは仕方がないので、近場のモンスター探しを早々に呆れめ、一直線に町から離れる道を選び進んで行く事にした。





 30分ほど歩くとだいぶ人の気配は少なくなり、まだ少し距離はあるがモンスターの匂いを嗅ぐ事が出来た。


 今回は食用の肉を得るのが目的なので、最初は直接攻撃で倒せる雪兎が戦う。戦うと言っても、無警戒で真っ直ぐ進んでいき一撃で倒すので、一方的な討伐だが。


 ただ今までと違うのは、ブルーウルフの頭部への攻撃が魔力撃で、首から上を吹き飛ばした事だ。その過剰過ぎだと思われる攻撃に、アミルは理由が分からず不思議な顔をしていた。



「ユキトさん、その、ブルーウルフに対して今の攻撃は……やり過ぎでは」


『何を言っているんだ。これは食用だぞ? ならさっさと血抜きをしないと味が落ちるだろ』


「血抜き、ですか?」



 雪兎はブルーウルフの死体を持ち上げ、木の上に逆さ吊りで固定した。



『なんだ、お前は血抜きも知らないのか。血をそのままにしておくとな、肉に生臭さがついて味を落とす原因になるんだ。だから狩ったらすぐにこうやって血を抜くんだよ』


「へーそうなんですか、始めて知りました」



 アミルが感心する中、しばらくするとブルーウルフから流れ落ちていた血が止まった。それをアイテム袋にしまい、せっかくここまで来たのだからと、明日以降の分もまとめてと、雪兎達は近くにいるブルーウルフを根こそぎ狩る事に決めた。






 時間にして約1時間。その間に倒した数は5匹で、その全てをアミルが戦った。食用にする予定のモンスターなので、タマモの火を直接あてるわけにはいかない。なので攻撃のメインはミズチの水弾だ。アミルは相変わらずガイアの後ろに隠れているが、タマモとミズチは戦いに慣れてきたので、安心して見ていられる。



『それにしても……あいつは何時まで俺達に着いてくるつもりなんだ?』


「え? 誰かいるんですか?」


『ああ、たしかリンと言っていたか、しばらく厄介になる予定の宿屋の娘だ。あいつ、俺達が宿屋を出るとすぐに追いかけるように着いて来てな、とくに何か仕掛けて来る様子は見えないからほかっていたが、ここまでしつこいとな……』


「きっとユキトさんの実力が気になって仕方がないんですね」


『だが、このまま監視されると迷惑だ。アブソープションも使えないとなると、俺の分の食費が無駄にかかってしまうぞ』


「……あまり迷惑ではなさそうですね」



 この辺りはブルーウルフかゴブリンしかいないので、雪兎にとって吸収してもあまり意味がない。なので最近は食事代わりにスキルを使っている節があった。

 その事を知ったアミルは、食費を浮かすだけにスキルを使っていた事に少し呆れた様子で雪兎を見つめている。



 そして周囲に確認出来た最後のブルーウルフを倒した時、今まで隠れていたリンが驚くような表情で姿を現せた。



「……なんでよ。この辺りもまだ冒険者が多くて、一匹出会えれば良いところなのに、なんであんたはそんなに簡単にモンスターを見付けれるのよ!」


「な、なんでと言われても、ユキトさんは鼻が良いですから……」



 このままリンは隠れ続けると思っていたアミルは、突然声をかけられて驚いて動揺していた。そんなアミルの気持ちを無視して、リンは話し続ける。



「匂いだけでモンスターの位置が分かるは驚いたわ。スノーラビットって鼻が良かっのね。……まさか! 私がずっとあとを着けていたのも分かっていたって事?」


「や、宿屋を出てから、ですよね?」


「ッ!? ならさっさと声を掛けなさいよ! ずっと隠れていた私が馬鹿みたいじゃない!」


「す、すみません!?」


『たんなるガキの我が儘だ。お前もいちいち謝る必要はないぞ』



 完全に恥ずかしさからの八つ当たりだが、アミルは慌てて謝ってしまう。そんな彼女を見て雪兎は、「仕方がない奴だな」と、呆れていた。



「そ、それで、私達に用事でも?」


「理由は少し前に言ったでしょ。そのスノーラビットの実力に興味があるのよ」



 リンはビシッと指を差し、今すぐにでも戦うつもりを感じさせる目をしている。



『……仕方がないな。おい、そいつに伝えろ。5分だけ時間をやるから、その間に俺に触れろ。それが出来たなら真剣に戦ってやる、とな』





「なんなのよ、それは! 触れるだけ? 私を舐めるのもいい加減にしなさい! すぐに真剣に戦ってもらうんだから!」



 アミルが困った表情で雪兎の言葉を告げると、リンは怒ってしまった。時間制限、手を出さない、真剣にはやらない、アミルは雪兎の言葉をオブラートに包んで伝えたつもりだったが、完全に下に見て馬鹿にしているようにしか聞こえなかったのだ。

 そして合図も出していないのに、雪兎に向かって走って来る。


 雪兎は「やれやれ」と呆れていた。合図を待たずに向かって来た事もだが、リンは触れれば良いだけの条件で拳や蹴りを繰り出して来たのだ。もちろん雪兎にとっては脅威でも何でもなかったのだが。



「なんで攻撃が当たらないのよ! 試験官にも防御ぐらいさせれたのに」


『……やはり身体能力の高さに頼り切った攻撃か。動きが馬鹿正直で直線的過ぎる』


「リンさん。ユキトさんによると、動きが直線的過ぎるらしいですよ」


「な!? 直線的ってどういう事よ! 最短距離で攻撃を繰り出す。それが拳闘士の戦い方でしょうが!」


「わ、私に怒鳴られても……。私には拳闘士の戦い方も知らないし、ユキトさんの言葉の意味も分かりませんよ……」


『まったく、いちいちこいつに伝えないでも良いものを』



 雪兎の1人事をアミルが勝手に伝えたが、リンにはその意味を理解出来なかった。結局最後まで攻撃の流れを変える事ができず、5分経ったとき、リンは悔しそうに雪兎を睨んでいた。



「……もう満足しましたか、とユキトさんが言っていますが……」


「納得するわけないじゃない! 逃げに徹すれば私だってこれぐらい出来るわよ。だいたい途中で訳の分からない事を言って、私の集中力を削いで来るなんて卑怯よ」


『ったく、言葉が通じないのは不便だな。……おい、少し体を貸せ。その娘にスキルじゃない技ってのを、体に教え込んでやる』


「またですか……でも、リンさんには入学手続きの時にお世話になりましたし、う~、少しの間なら我慢します……」


「あんた、何を言っているのよ?」



 突然わけの分からない事を言いだしたアミルに、リンは不思議そうな顔をしている。



「リンさん。いまから言葉使いが変わりますけど、それは私ではないですからね。それだけは覚えていてくださいね」


「だから何を言ってるのよ」


「うるさい、もう黙れ。これからお前がどれだけ未熟か教えてやるから、全力で掛かって来い」


『ですから、もう少し言葉使いを!』



 アミル(雪兎)はリンに向かって手招きをする。もちろん頭の中に響くアミルの言葉は無視する。



「あんた……突然言葉使いが変わり過ぎよ。だいたい私が文句があるのは、その……どうしたの? あんたのモンスターが倒れているわよ!」



 雪兎の体は力なく倒れ込んでいる。もちろん憑依のスキルを使っているのだから魂はアミルの体に入っている。魂は抜けているが雪兎の体は心臓も脈もちゃんと働いているので死ぬ心配はないのだが、動かす事は出来ない。

 そんな雪兎を見て、リンは何事かと驚いていたのだ。



「それを気にする必要はない。ただ意識が抜けているだけだ。それよりあまりノンビリしていると、こいつが五月蠅いからな。さっさとかかって来いよ」


「……あんた、本当に何者なの? さっきまでのあんたなら、そのモンスターに依存し過ぎているほどだったのに」


「まだごちゃごちゃ言うか。……なら少し説明してやる。俺はこいつではない。さっさとお前が俺の言うとおりにしないと、こいつの魂が消滅してしまうぞ」


『え!? 私の魂って消滅するんですか!?』


(馬鹿か! そいつが動こうとしないから、嘘を教えただけだ)


『そうだったんですか。私、ビックリしちゃいましたよ』


(まあ、本当にそうなる可能性も少しはあるのだがな)


『え!?』



 スキルの説明文にそのような事は書いていなかったが、絶対にないとは言えないので、冗談半分でアミルを驚かしただけだ。だがそれを聞いたアミルは、言葉だけで分かるほどオロオロ動揺しているのが伝わった。



「さて、まだ動かないようだから、こちらから攻めさせてもらうか」



 そう言ってアミル(雪兎)はゆっくりと歩き始める。リンは半信半疑だったが、それでもすぐに動けるぐらいには警戒を解かなかった。


 解かなかったのだが……



「え? キャッ!?」



 リンはアミル(雪兎)の柔らかい拳を胸に受けて、悲鳴を上げてうしろに後づ去る。ダメージは小さい。まだ戦える。だが何故攻撃を受けたのかが理解出来ないでパニックになる。


 アミルの身体能力は低い。それは道案内したリンも知っている事だったし、現に近づいて来た時の動きは遅かった。遅かったのだが、気がついた時には拳が胸に当たっていた。



「どうした。こいつのステータスはお前に比べて貧弱そのものだぞ。少しは得意の攻撃を仕掛けて見ろよ。ま、お前ごとき未熟者の攻撃、こいつの貧弱な体でも十分過ぎるがな」


「いい加減にその口を閉じなさい! 私は毎日体を鍛えているのよ! そんな柔らかい腕や拳の攻撃、何度受けても効かないわよ!」



 今度はリンから向かって来る。明らかにアミルより素早い攻撃だが、雪兎は慌てる事もなく紙一重でかわし、すれ違いざまに背中を軽く押すように攻撃する。バランスを崩すだけのダメージの少ない攻撃を受けて、リンの怒りのボルテージは更に上昇した。


 そのため攻撃に無駄な力が入り、より見抜き易くなる。リンの攻撃パターンは素早い動きで相手の懐に入り、殴るか蹴るかのどちらかだ。そこに技や技術はなく、ステータスに依存した攻撃力頼りだった。確かに拳に手甲などで覆えば、それだけでかなりの攻撃力を得る事が出来るだろう。


 剣士などと戦っても、懐に入ってしまえば間合いと手数の差で有利に戦える。レベルやスキルがあるこの世界では、もしかしたら技や技術はあまり進歩していないのかもしれないと感じた。


 そして無駄に突っ込んで来たリンの重心を崩し、そのまま軽々と投げ飛ばす。自分の言葉を聞かせる為にわざと背中から落ちるように投げたので、肺の空気が抜け、一瞬動けなくなる。



「分かったか、この猪娘。馬鹿の1つ覚えみたいに突っ込んで来たって、直進的過ぎで対応され逆に利用されるんだ。もう少し無い頭を使って戦いを組み立てろ」


「痛っ……。なんで私が攻撃したのに投げられたの? 実は結構な力持ちだったの?」


「まだ分からんのか。これが技であって技術だ」


「なによ。あんたはモンスタートレーナー以外にも、戦闘スキルを持っていたの」


「馬鹿が……。これは誰もが修練次第で覚えれる技だ。猪娘の攻撃を避けれるのも、相手の筋肉の動きを見れば自然と分かる事だ。たとえば……」



 そう言ってアミル(雪兎)は座り込んでいるリンの肩に手を置く。



「さあ、立ち上がってみろ」


「何がしないのよ。…………え!? なんで? 力を入れているのに、全然立ち上がれない???」


「これは簡単な技術だ。お前が加えようとした力の起点に、それと同じ量の力を押し当てて無力化しただけで動けなくなる。力の流れが見えるようになれば、指で軽く押すだけでお前を転ばす事も出来るんだよ」



 そう言ってパニックになっているリンの額を軽く押し、尻餅を着かせる。



「う、そ……」



 リンはそのままの体勢で、指を突き出したアミル(雪兎)から目が離せないでいた。力も込められていない、勢いもない、なのに逆らう事が出来ずに言われたままに倒されたので、驚きを隠せないでいる。



「で、でも、それは人間相手だから意味があるだけじゃない! モンスターや魔族と戦う時には、なんの役に立たないわよ!」



 リンは言い返せそうな言葉を探して立ち上がり、アミル(雪兎)に向かって指を向けて指摘する。



「まったく、この世界は実戦に身を置く機会が多いから、この手の技術は発展してそうなものなんだがな。やはりスキルや魔力なんてチートがあるから、技を磨く努力をしないのか。……いいか、相手の力の流れが分かるって事は、自分の力の流れも分かるって事だ。それを磨けば、こいつみたいな貧弱な力でも……」



 拳を軽くリンの胸に押し当てる。またも反応出来ずに接近を許してしまい、体は動かせずに目だけが驚いていた。

 拳に勢いがまったくない状態。そこから何をされるのかと見ていると、いきなり拳の先から激しい衝撃を受けて、リンは2メートルほど吹き飛んでしまう。



「分かったか? 手加減はしたが、これが<発剄>という技だ」


「痛っっっっっ」



 リンはその痛みに目が離せないでいた。零距離からの異常な破壊力。いや、それより問題なのは、この攻撃が受けた事がない衝撃だった事だ。表面に残る痛みではなく、体の芯に残る痛み……。例えどんなに勢いをつけたとしても、この衝撃を出すのは無理だ。そのイメージが自分にはまったく出来なかった。


 ただ漠然とモンスターを倒してレベルを上げる事しか、強くなるための近道はないと思っていた。その常識にヒビが入った。



「……これは魔力撃……なの?」



 唯一、自分に想像できる攻撃かと問いかける。



「お前はそんな事も分からんのか。……これがおそらく普通の魔力撃」



 そう言ってアミル(雪兎)は近くに木に魔力撃を放つ。アミルの拳が当たった所は小規模な爆発と共に抉れた。



「そしてこれが発剄だ」



 続いて別の木に拳をあてると、衝撃音は響いたが見た目は何も起こっていない。が、アミル(雪兎)に言われて木の後ろ側を見た時、リンは言葉を失った。


 アミル(雪兎)の拳をあてた木の裏側、そこが抉れてへこんでいたのだ。


 それは魔法のような出来事。これがスキルではなく技術だと言っていた。つまり何のスキルを持っていない自分にも、まるで魔法のような戦い方が出来るかもしれないということだ。

 リンは抉れた木に釘付けになって固まってしまった。



「これが力の流れをコントロールするって事だ。分かったか、自分の未熟さを棚に上げて、全てスキルのせいにするな」



 この未知の攻撃を普通に話だけで聞いても、今までの自分なら鼻で笑って信じなかっただろう。だが今は違う。目の前で自分より力が弱いアミル(?)が、スキルではない技を見せてくれたのだ。もはや疑う余地がなかった。



「おい、聞いているのか?」


「はい、師匠! 師匠の言葉は一言一句聞き洩らさないで記憶します!」


「は!? 師匠だと?」


「はい! このような素晴らしい技術。ぜひとも指導してもらいたいです。なので、これからは貴女の事を師匠と呼ばせてもらいます!」


「……あー、そうきたか。……あとは任せた」


『ちょっと待ってください!? 任せたって私にですか!?』



 雪兎の技にアミルも魅入っていた。そのため雪兎の無責任な発言に、苦情を言うのが遅れてしまい、止める事が出来なかった。



「師匠! まずは何をすればいいのでしょうか!」


「え、あの、その……」



 憧れの目で見つめて来るリンに、突然放置されたアミルは途方に暮れてしまった。






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