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29話 宿屋での依頼

 雪兎によって意識を刈り取られた試験官を持って入口に戻る。二人同時に運ぶのは体の小さい雪兎1人ではキツいため、アミルに言ってガイアを呼び出して運んでもらう。


 外の出ると最初の二人の様子を見ていた試験官が気付き、驚いた表情でこっちを見つめてきた。



「あ、あの……この人達もお願いします」


「……本当に全員倒してしまったのですね。見たところ、そちらの二人も大した怪我はなさそうですが、いったいどのような方法を使ったのですか?」



 最初の二人もそうだが、今連れてきた二人にも手加減が失敗したのでヒールをかけている。運ぶ時の擦り傷はあるが、それ以外の怪我はないので疑問に思ったのだろう。


 だが、わざわざ自分の手の内を見せる気はない。アミルには適当に誤魔化せと伝え、どう言えばいいか悩んだ彼女は、「秘密ですぅぅぅ!」とだけ叫んで、逃げ去ってしまった。







 受験結果は後日発表との事なので、アミルは宿屋に帰って行く。


 宿屋に着くと、すでにリンが帰って来ていた。



「……試験は来年もあるから、気を落とさないでね」


「!?。 だ、大丈夫です。試験には合格しましたから、……たぶん」



 アミルの普段からにじみ出ている負のオーラを感じて、試験で良いところなく終わったと思ったのだろう。突然慰めてきたリンに、アミルは小さい声で反論した。



「合格したって、結果は数日後に通達されるのよ? そんなに良いところを見せれたの?」



 試験官が提示した合格ラインより上の成果を出したのだから、合格はまず間違いはない。だがそれを話してしまうと、変に目立ってしまう可能性が出てくると思ったアミルは、ありのままを説明出来ないので誤魔化す事にした。


 よく見るとリンの腕とかに治療の痕がある。おそらく試験官に負けたのだろうが、満足そうな表情から手応えはあったのだろう。自分は合格出来ると自信がありそうだった。



「まあいいわ。あなたはモンスタートレーナーだから、本人が頼りなさそうでも実力にはあまり関係がないのかもね」


「……私はユキトさんのおかげで、ここにいれますから」


「へー、そこまでそのモンスターに自信があるんだ」



 いつも周囲の視線にオドオドしているアミルが、不安を感じさせない穏やかな雰囲気で雪兎を見つめている。その全面的に信用しているような感じに、リンは興味が引かれた。



「ねえ、ちょっとそのモンスターと戦わせてもらえないかな?」


「え!? あ、危ないですよ。ユキトさんは、その、手加減が上手くいっていないので……」


「ッ!? 何? 私はそのスノーラビットに、手を抜いてもらわないといけないぐらい弱いって言うの!」


「で、でも……」



 ちょっとした興味本位だったが、アミルの言い方に完全になめられていると感じたリンは、椅子から勢いよく立ち上がり、今すぐ噛みついてもおかしくない感じだった。



『おいおい、なんか話しが変な方向に向かってないか? まったく、勘弁してくれよ。大体ガキ相手だと、どれだけ力を抜けばいいのかまだ分からないぞ』



 試験ではリンより体格が良かった試験官を一撃でのしている。その四人を倒しても、安心して放置出来るような手加減は、一度も上手く出来なかったのだ。

 雪兎の感覚では、豆腐相手に崩さず攻撃するようなもの。それだけ雪兎の肉体は強化されていたのであった。



「さあ、宿を出て裏の空き地に行くわよ」


「ちょ、ちょっと待ってください! わ、私はやるとは……」



 アミルの小さい声を無視して、リンは歩いて宿を出ていってしまった。それを追いかけるようにアミルもついて行く。














「なんで肝心のあんたがついて来ないのよ!」



 しばらくすると、リンはアミルを引っ張って勢い良く宿の扉を開き、大声で怒鳴ってきた。



 もちろん怒鳴った対象は雪兎だ。雪兎は二人が出ていってもその場から動かなかったのだ。



『なんで俺が戦わないといかんのだ? いちいちガキの我が儘に付き合う必要はない。大体、相手の力量も見抜けない段階で、大したことがない証拠だろ?』


「あ、あのー、ユキトさんは戦いたくないって言っています」


「あんたも主なら、権限で命令しなさいよ! それじゃ、どっちが主だか分からないわよ!」



 その一言にアミルは何も答えられないで黙ってしまう。性格的にも命令は出来ないだろうが、主は雪兎なので命令出来る立場ではないのだ。

 この事はもちろん誰にも公表していないし、今後するつもりもない。間違いなく変な目で見られるということは、この世界の常識に疎い二人にも分かる事だった。




「ったく、いい加減にしなさい、リン! その子はお客さんなんだよ」



 ここでアミルに救いの手を差し伸べたのは、リンの母親だった。



「でも……」


「でもじゃないよ! その子も困っているじゃないか。同意の下ならまだしも、強要するのは許さないよ!」



結局リンはこれ以上何も言えなくなり、不満そうな顔で宿の奥に入って行った。



『まったく騒がしいガキだったな。……それよりこのままこの宿に泊まり続ける訳にもいかないからな。明日はもっと安く泊まれる場所か、いっそ家を買う事も想定して探さないと、金がすぐに底をつくぞ』


「そうですね。冒険者ギルドで依頼を受けても、入学したら仕事をする時間がないかもしれませんし……。町の中なら野宿をしても命の危険はないのでは?」


「なんだい? あんた入学する前に冒険者になるつもりかい? いくら回復魔法が使えても、攻撃しないとモンスターは逃げてくれないよ」



 自分の娘が絡んできたお詫びだろうか、リンゴのような果物を食べやすいサイズに切って持って来てくれた。その時にアミルの話し声が聞こえたようで、心配そうな表情をしている。



「だ、大丈夫です。ブルーウルフ一匹なら、ユキトさんの力に頼らないでも何とかなりますから」


「へー珍しい、あんたは複数のモンスターを率いているんだね。それにすでに実戦を経験済みかい。見た目からは想像も出来ないね。……なら宿の食事に出す肉を取りに行ってくれないかい?」


「肉って……確かブルーウルフの」


「そう、うちの旦那が大怪我をした原因さ。……あんな事があったばっかりだからね。しばらくは狩りに行ってほしくないんだよ。娘と同じくらいの年の子に、危険な狩りを頼むのは気がひけるけど、もし引き受けてくれたなら、入学まではこの宿にタダで泊まってくれていいよ」


『あれを狩るだけで宿代が浮くのは助かるな。だが、何故期間が入学するまでなんだ?』



 雪兎のその疑問は、アミルが代わりに聞いてくれた。



「あそこはね、この町の住民以外の生徒のために、格安で寝泊まり出来る寮があるの。もちろんこの町の住民でも希望すれば入寮は可能だし、大概の子がそこに行くんだよ」


『それは知らなかったな。だが格安なら金銭的に余裕がない俺達にピッタリだ』


「それでどうだい? ブルーウルフの肉を取りに行ってくれるかい?」


「は、はい! 喜んで引き受けます。……でも、私は解体とか出来ません」


 こんな好条件の話を断る理由はなかった。しかし今まで倒したブルーウルフは、雪兎が吸収するか埋めるかしかしていないので、必要な部位だけを持ってくる事は出来ないのだ。それどころか、アミルは刃物を持った事すらなかったし、雪兎は持つ事すら出来なかった。


「そうなのかい? そのまま持って来てこれたらそれでも良いんだけど……」



 アミルは子供、雪兎は小型のモンスター。いくらブルーウルフを倒しても、町の外からここまで運んで来れるとは思えなかったのだろう。



「そ、それなら大丈夫です。ガイアちゃんは力持ちですから」


「そうかい、なら頼んだよ」



 問題だった点は解決した。そして宿に肉の在庫が残り少ないと聞いたので、さっそく雪兎達はブルーウルフを狩りに向かう事にする。


 そんな雪兎達のあとをこっそり着いて来る人影があったのだが、とくに害はなさそうなので雪兎は気にしない事にした。


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