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27話 入学試験

 朝、アミルは試験の事を考えていたせいか、いつもより早い時間に目を覚ました。まだ日が昇る前だったのでもう一度寝ようとしたが、眠れそうにない。



『やはりガキだな。試験の事を考えただけで、興奮して眠れないか』


「起こしちゃいましたか、すみません」


『別に構わん。だが、旅の疲れはとれたのか?』



 アミルはベットから出て、軽く体を動かして確かめていると。



グ~~



 体調を雪兎に告げる前に、アミルのお腹が返事をした。もちろんアミルの顔は真っ赤になっている。



「あの!? その!? 今のは違うんです!」


『……俺は何も言ってないぞ』


「っ!? …………何でも……ないです」



 アミルのお腹の音で気付いたわけではないが、扉の隙間から旨そうな匂いがしていた。この匂いがアミルの鼻にも届いたために、体が正直に反応したのだろう。



『まあいい、その様子だと二度寝は無理だろう。さっさとメシを食いに行くぞ』


「……はい」






 食堂に行くと流石にまだ早いのか、誰もいなかった。なのでアミルの姿にすぐに気付き、女将が手を止めて近づいてくる。



「お嬢ちゃん、もう起きたのかい? いや、それより昨日はありがとうね。おかげで旦那もあの通り、元気に働いているよ」


「そ、それは、ユキトさんがやってくれた事なので、私は何も……」


「確かに回復魔法を使ってくれたのはそのモンスターなんだが……そう言えば、あの魔法はなんだったんだい? お嬢ちゃんはヒールと言っていたが、上位の回復魔法〈ハイヒール〉でもあの怪我は一度では治せないよ」


「?。 ユキトさんはヒールしか使えないはずですよ」



 アミルは女将さんが何に驚いているのか理解出来ず、雪兎の方に顔を向ける。



『あれはただのヒールだ。知ってのとおり治療に数分もかかるような魔法で、戦いの最中には使えない残念回復魔法だ』



 最前線で戦う雪兎にとって回復が必要なときは、目の前に敵がいる。そんな場所で悠長に数分も回復魔法をかけている時間なんてないのだ。おかげでオークロードとの戦いでは苦労させられたので、自己評価は低い。

 だから雪兎の理想としている回復魔法は、一瞬で効果が発揮するものだった。



「……と、ユキトさんは言ってますが、他の人とは違ったんですか?」



 アミルは女将さんにそのまま伝えた。それを聞いて呆れたような表情をされた後、少し心配そうな顔をしだす。



「あれがヒールだった事にも驚いたが、その事を不思議に思わないお嬢ちゃんも心配だよ。今日の試験、一般常識の問題が出たら大丈夫なのかい?」


「問題ってなんですか?」


「……もしかして、今日の試験内容を知らないのかい? ……ハー、お嬢ちゃんは旦那の命の恩人だから試験には合格して欲しいけど、あまりに物事を知らなすぎるようだしね。ま、落ちても、うちで住み込みで働いてくれればいいよ。私は大歓迎だよ」


「ま、まだ落ちると決まったわけじゃ……」


「半分冗談よ。試験は知識を問われるものと、実技があるから、得意な方で高成績を出せればきっと大丈夫よ」



 そう話をしているとだいぶ時間が経ったのか、他の宿泊客も顔を出してきた。女将はもう一度お礼を言って、旦那が働いている厨房に戻っていった。


 昨日のお礼もあるのか、アミルと雪兎の朝食は周りの人より豪華だった。












 アミルが朝食を食べ終わったぐらいにリンが顔を出した。父親の怪我が治ったのが嬉しいようで、アミルの対面の席につき、明るく昨日の事を話し続けた。「謎の聖人が」とか、「精霊の気まぐれ」とか、「神の奇跡」など、いろいろ想像した話を聞かせてくれる。

 その奥で事実を知っている女将が笑いを堪えているのも見えた。



「さあ、そろそろ時間だから、学園に向かうわよ!」


「は、はい」


「元気がないわね。今日は本番なんだから、もっと気合いをいれなさいよ!」


「私はそういうのが苦手で……」


「まあいいわ。実技試験であんたと戦う事になっても手加減はしないからね。さ、行きましょ」



 こうしてリンに引っ張られる形で、アミルは宿屋を出た。









「それでは自分の受験番号と名前が書かれている席に座って、試験時間まで待っていてください」



 リンが先導してくれたので、30分ぐらい余裕をもって到着することが出来た。土壇場に申し込みをしたアミルとは違い、リンは前もって済ませていたので、二人は別の部屋になってしまう。


 別れ際に「気合い入れなさいよ」、と、リンが激励をしてくれたが、アミルは苦笑いでしか返せなかった。


 席に座るとアミルはじっと何もない机を見つめている。雪兎も机の上で座っていたが、その事に対して誰も文句を言わなかったし、他にも数人同じようにモンスターを連れている子もいた。



『流石冒険者の卵を育てる場所だ。俺の存在に何も言ってこないな。それとも試験直前で緊張しているのか?』


「……………」



 しかしアミルは何も言わず、答えを返してこない。



『……もしかしてお前も緊張しているのか?』


「……………」



 やはり返事はない。それどころか机の一点を見つめたまま、視線すら動いていなかった。「これは駄目かもしれん」と、雪兎は入学を半分諦めた。





「それではこれから試験を始めます。問題用紙が全員に行き届いたら開始します。なお、このテストも冒険者としての素質も見ます。試験時間は一時間とっていますが、30分経過した段階で声をかけます。そのタイミングで提出できた者には、5点の加点を与えます。もちろん慌ててやって間違いを増やした意味はありませんから、その辺の判断は皆さんの自由です」


『なんだ、まずはペーパーテストか』



 問題用紙を見て、悠然に構える雪兎とは違い、アミルの顔色は真っ青になっている。



『どうした? 苦手な内容でも出たのか?』


「あ、あの……わ、私、自分の名前以外書けないし読めないんです……」


『は?』


「ですから……私、字が読めないんです……」


『え? だってお前、ギルドで依頼書を…………そう言えば、依頼は全て俺が選んでいたような』



 アミルは何も言わずに俯く。確かに奴隷として売られる前に、アミルは両目を潰されて光を失っている。そんな彼女がまともな教育を受けているわけがないし、光を失ってから文字を覚えるのは不可能だ。


 だが、雪兎も人の事は言えない。文字はスキル鑑定眼のおかげか、難なく読むことが出来ている。しかし読めても書くことは出来ないし、もとよりこのモンスターの体ではまともにペンを持つことも不可能だった。


 もう書くことが出来ないペーパーテストには諦めたが、とりあえず試験問題だけでも読んでみる。






『……結局、文字が書けても意味がなかったな』


「……そうですね。二人の知識を総動員しても、1つも分かる問題がありませんでしたね」



 試験問題はこの世界の歴史やら、チームで戦うときの陣形やら、凶悪な魔族の名前や性質などが出ている。


 この世界での教養が足りなすぎる二人には、分かるはずのない問題だ。もともとその辺も知るために入学しようとしているのに、事前に覚えようとは考えもしなかった。





「それでは30分経ちました。問題が出来た人はいませんか?」



 しかし、その声に反応した人はいなかった。


 唯一、アミルを除いて。



「ほう、今回は1人いましたか。…………君、これはふざけているのかい?」



 アミルの提出した試験用紙を見た試験官は、その内容に怒っているとすぐに分かるほど、声のトーンが低くなった。



「こ、これが今、私に出来る最善です……」


「分かっているのかい? 試験はこれと実技試験しかないんだよ? それなのに」


「わ、私、字が読めないんです……」


「それでよく試験を受けようと……いえ、確かに人それぞれ理由があるでしょう。この点数では実技でかなりの高得点をとらないといけないが、不可能ではない。頑張りなさい」


「は、はい!?」


「実技試験は昼からですから、またこの部屋に戻って来てください」



 注目を浴びてしまったアミルはとても居心地が悪そうで、足早にその場から逃げ出した。

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