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26話 ウサギの恩返し

 アミルが食事を終わらせ、少し部屋でゆっくりしていると、お風呂に行くと言い出した。雪兎は眠気からすぐにでも寝たかったが、今まで野宿の旅だったので確かに体は汚れている。

アミルの説得もあり、仕方なくお風呂に向かうと、ようやく食堂が一段落したようでリン達が食事をしていた。



「リンさん、先程は学校まで案内してくれて、ありがとうございました。おかげで無事、試験を受けれます」


「いいのよ別に。それにお礼は試験に合格してから言いなさい。落ちたら結局無駄になっちゃうんだしね」


「それでもお礼は言っておきたくて……」


「ほんと、こんな小さな事にいちいち頭を下げて、私はあんたが悪い奴に騙されないか、そっちの方が心配になるわよ。ま、恩知らずよりは、全然好感が持てるけどね」


「それよりお嬢ちゃん。もう少しでお風呂が男用に変わるから、さっさと入っておいで」



この宿は1つのお風呂を男女交互に使える時間を替えている。流石に1週間もお風呂に入っていない状態で、明日試験を受けに行くわけにはいかないので、アミルは慌ててお風呂に向かっていった。







お風呂から上がるとリンの姿はなく、母親だけが片付けと明日の仕込みをやっていた。



「お風呂から上がったなら、さっさと眠りな。明日は大事な試験なんだよ」


「で、でも、まだ忙しそうだし、お礼もしたいのでお手伝いします」



実際に学校まで案内してくれたのはリンだったが、そうするように言ってくれたのは女将さんだった。その事に対してもお礼がしたいと感じたアミルは、皿洗いぐらいならと手伝いを申し出たのだ。



「そんなに気を使わないでもいいんだよ。忙しいのは慣れてるし、お嬢ちゃんはどんくさそうだから、逆に仕事が増えそうだしね」


「そ、それは……」



アミルはそれはないと言い切れなかった。皿洗いとは言え、見たことはあったが体験した事はないからだ。



「冗談だよ。お嬢ちゃんのその気持ちだけで十分だ。さ、あんたは明日に備えて、寝た寝た」


「でも……」



そう言われても、アミルは何かしないと気がすまなかった。このままでは一向に動こうとはしないアミルに、雪兎は語りかける。



『このままでは明日の試験に響くぞ』


「……………」


『ハー、お前は変なところで頑固だな。まあいい、俺も流石に眠たいから、女将に伝えろ。旦那を治療してやるから、俺が治した事は黙っていろとな』


「!?。 ユキトさん!」



この女将が忙しくしているのは、旦那が怪我で動けないからだ。ならその原因を取り除いてやればアミルが気休めの手伝いをするより効率が良い。その事にアミルも気付いたようで、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように明るい表情を見せた。



「あ、あのー、怪我をしたという旦那さんの容態を見せてもらう事は出来ますか?」


「見せてどうなるんだい? だいたいお客さんに見せるもんじゃないよ」


「も、もしかしたら、その、怪我を治せるかもしれませんので」


「なんだい? もしかしてあんた、回復魔法が使えるのかい? でも……いや、気休めぐらいにはなるかもしれないね」



なにやらあまり乗り気ではないようでだが、女将さんは怪我をした旦那の寝室に連れて来てくれた。



「っ!? これは……」



アミルはその患者の容態を見て、一歩下がってしまった。



「ま、その反応が普通だよね」


「すみません」



 アミルが引けたのも仕方がない。旦那は両腕の肉が何ヵ所もえぐり取られて骨が見えそうで、足は少しマシな程度だった。お腹も内臓は無事かもしれないが、多数噛まれた痕があり、苦しそうな顔からも正直生きている方が不思議だった。



「今は薬草の効果で何とかもっている状態さ。ここまで怪我が酷いと、ヒールぐらいの回復魔法じゃ効果がないって言われているのさ。ハイヒールを使える神官様に頼むとなると、この宿を売り払っても足りないぐらいお金がかかるからね」


『ん? ヒールでも何度もかければ効くんじゃないのか?』



 その疑問にアミルが代わりに聞くと



「ヒールはね、傷は治せても欠損部分は治療できないのさ」



 悲観にくれる女将の説明に、雪兎は1つ納得いかなかった。傷を治すには多かれ少なかれ、細胞の再生が必要になるはずだ。なら欠損部分があろうと、回復魔法の前には関係がないのではないかと。


 ここで最初にこの世界に来たときに出会った、謎の人物の言葉を思い出す。


 この世界は地球より文化が遅れている、と。魔法はイメージが重要だ。つまり細胞などの存在を知らないから、イメージも出来ず、治療が成功しないのだろう。


 そう考えるとすぐにでも試してみたくなったので、最初言った条件を女将に再度約束させる。



「何をそこまで隠そうとしているか分からないけど、それで旦那が少しでも楽になるなら、いくらでも口をふさぐよ」



 口約束だが、約束は取り付けた。なので雪兎は患者の前に行き、両手をかざす。



「ちょっと、お嬢ちゃんのモンスターが……」


「大丈夫です。ここはユキトさんを信じてあげてください」



 アミルがヒールを使うと思っていたのに怪我人の前にモンスターが行ったので、驚いて止めに入ろうとした女将を止める。雪兎はそんな外野の行動を無視して、再生のイメージを込めた魔法に意識を集中する。幸い、魔力操作のスキルも手に入っているので、ヒールに魔力の上乗せをすることには苦労しなかった。



『何とかいけそうだな。ヒール』



 雪兎がイメージを乗せて魔法を放つと、怪我人である旦那は劇的な変化が訪れる。



「なんて強烈な光なんだい! それに……」



 女将は旦那の体を見ていて、驚愕する。えぐられて治療不可能だと言われ諦めていた傷が、徐々に盛り上がっていき、記憶にある元の形に戻っていくのだ。今まで苦しそうにしていた呼吸や表情も安らぎが見え初め、数分後、光が収まると完全に元通りの体に戻っていた。





『ハー、流石にここまでの怪我を治すと疲れるな。あとは意識が戻って異常がなければ、俺の仮説は証明されるな』


「あ、あんた、大丈夫かい、あんた!」



 怪我が治ったことで女将は旦那の頬を叩き、意識を戻そうとする。女将がこの行動にでなければ、雪兎が蹴って起こそうと思っていたので、これはファインプレーといえた。



「う、うーん。……あれ? 痛みが消えてる?」


「あんた! 体に異常はないかい? 痛みは? 腕は? 足は? 1人で立てるかい?」



 矢継ぎ早に聞いてくる女将の問いに、1つ1つ確認するように体を動かしていく。



「なんともない。痛みもないし、前と同じように物も持てるぞ!」


「あんた!」



 二人とも相当嬉しかったのか、夜なのに大声で喜び合う。その声にリンも気付いてこっちに向かって来るようなので、アミルに教え、素早くこの場から立ち去ろうとする。



「待っておくれ。ちゃんとお礼を言わせておくれ」


「でもリンさんも起きてしまったようですし、私達は失礼します。あ! 内緒にする約束は守ってくださいね。ユキトさんが怒ってしまいますので」



 それだけを告げると、アミルは足早にその場から立ち去り、自分たちの部屋に帰っていった。




「どうしたのお母さん。夜に大声出すと、お客さんに迷惑だよ」


「ああ、ごめんよ。ちょっと嬉し事があったもんだからね」


「いったい何があっ……」



 そこまで言って、リンも母親が何に驚き大声を出したのか気付いた。



「お前にも迷惑をかけたな」


「お父さん……何で? あの傷は、高位の神官様じゃないと治療できないって言われていたのに」


「それはね……いや、気が付いたら治っていたんだよ。ね、あんた!」


「……そうだな、正直よく分からないんだよ。突然暖かく強烈な光に照らされたと思ったら、傷が綺麗さっぱり治っていたんだ。あれがなんだったか、本当に説明出来ないんだ」


「本当に治ったの? 見た目だけ治ったんじゃないの?」



 そう問いかけだが、現に父親は自力で立っている。もし自分が同じ怪我をしたとして、表面だけ治っても立つことは不可能だと思えるほど、父親の怪我は酷かった。



「リン、信じられないのも嬉しいのも分かるけど、明日はあんたにとっても大事な試験があるんだ。だから、もうお休み」


「そんな! そんなの無理だよ! こんなに興奮した状態で、寝れるわけがないよ」



 確かに誰が見ても今のリンは気が高ぶっている。それは女将も理解していたし、旦那も分かっていた。だが、寝ないで試験に行くのは、不合格にしてくれてと言っているようなもの。そこで女将は1つの打開策を思い付いた。



「なら、久しぶりに家族3人で寝ましょう。ここは血の臭いが酷いから、リンの部屋でね。それなら安心して寝れるでしょ?」


「それは、そうかもしれないけど……」


「なら決定。仕込みがまだ終わってないけど、私と旦那の二人がかりでやれば、朝からやってもすぐよ。怪我の問題が解決したんだから、あとはリンの試験が全てよ」



 そう言って家族3人は仲良くリンの部屋に行き、幸せそうに眠りについた。


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