25話 アルティア
ここから新章となります。あと、書きたくなった話が出来たので、並行して進めていきたいと思ってます。
雪兎達の視界に、ようやくアルティアの町が見え始めた。
本来は馬車で5日間もかかる距離を徒歩で移動する為、少し日が暮れても歩き続ける必要があり、アミルもだいぶ疲れている。だが、一番疲れていたのは雪兎だった。
アルティアまでの道のりはある程度整備がされているとはいえ、モンスターは現れるので警戒は必要だ。もちろん夜は野宿になるので雪兎が寝ずの番を続け、朝になるとスキルの索敵周囲の中にモンスターがいない事を確認してから、アミルに抱かれて仮眠に入る。その間もアミルには少しでも進んでもらっているので、寝心地は悪かった。1日ならまだしも流石に一週間も続いたので、雪兎の顔にも疲労の色が見え始めている。
アミルは夜の番を変わると言ったが、「子供はしっかり寝るものだ」と雪兎が譲らないので、睡眠はしっかり取る事が出来ていた。
基本、この辺りに現れるのはブルーウルフだったので、単体ならタマモ達に任せて体力の温存に努める。
最初はもう少し時間がかかると思ったが、町に近づいていくにつれ、行商の馬車や冒険者の数が増えてきたので、モンスターとの戦闘は減ってきて楽になる。
だが、今度は盗人などから警戒をしないといけないので、かかる苦労の量は変わらなかった。
道を進んでいくと人だかりがあり、その前の方で行列が出来ているのに気付いた。理由は分からないが、雪兎達もその列に並ぶ事にする。どうやら町に入る為のチェックがあるようだ。
列の周囲には兵士が見回っているので、モンスターなどに襲われる危険はないのだが、進んでは立ち止まるこのペースは、普通に歩いているよりかなり疲れる。
そして近づくにつれて驚いたのは、町を囲う作られた塀の長さだ。見渡す限りの塀。一定間隔でここと同じような人だかりが出来ているので、そこにも門があると想像は出来たが、それがあってのこの行列と端が見えない程の長さには、ただただ驚くことしか出来なかった。
アルティアは人口10万人ぐらいの大きな町だ。この町はもともと魔族と戦う人材を鍛えるために国の指示のもと造られた場所だった。そのため魔族に狙われる事も多々あったが、そのほとんどを撃退してきた為、商人などの信頼が集まり、次第に人が集まって王都にも負けない規模に成長した。
そして現在は国王の弟がこの町の領主をやっている。
「お嬢ちゃんは1人でこの町に?」
ようやくアミルの番に回ってきたが、見た目通りの子供であったので疑問に思われているようだ。
「あ、あの、わ、私、冒険者で……その、この町の学校に……その、1人で来ました」
アミルは町を囲っている塀の大きさに感動して、門番から意識が外れていた。そこに急に話しかけられたので、動揺して上手く言葉を話せれなかった。
「ほう、お嬢ちゃんは冒険者なのか。なら普通は銀貨5枚のところを、銀貨1枚だな。ただその前にここにギルドカードを掲げてくれ。一応決まりでカードが本物かどうか確認しないといけないんでな」
そう言って門番が指し示した所には1つの台が置かれており、アミルは言われたとおりにギルドカードをかざすと、緑色に輝きだした。
「本物のようだな。それに犯罪歴もなさそうだ」
構造は分からないがとくに問題がなさそうなので、銀貨を1枚渡して門を通った。
「うわー、凄い人ですね」
ここは大通りなのか人の数が多い。店も活気があり、笑顔も絶えないところから見ても安全出来出来そうだ。
『確かに凄いな。だがこれじゃあ俺の位置から何も見えん。お前の肩に乗せてもらうぞ』
そう言って雪兎はアミルの肩に乗ったが、まだ子供で身長が低い彼女の肩の上でも視界はあまり変わらなかった。
『……とりあえず、宿屋でも探すとするか』
しかしそれも一筋縄にはいかなかった。もともと人見知りをする性格のアミルは、通行人にハキハキと聞く事も出来ない。人通りが激しいので、アミルの話に立ち止まってくれる人はいなかった。
なので結局、一軒一軒店を覗いて探すはめになった。
「おやおや、これは可愛いお客さんがきたもんだね。親御さんにでも、部屋をとるように言われたのかい?」
ようやく宿屋を見つける事が出来たが、結構な時間を消費した。
「い、いえ、私は冒険者養成学校に学びに……きました」
相変わらずアミルは俯いており、人の目を見て会話が出来なかった。
「なら明日が本番かい。もう受験申し込みは済んでいるだろうから、今日はゆっくり休んで英気を貯えないとね」
「え!? 受験……申し込み?」
「は? ……もしかして、受験申し込みが済んでいないのかい? 確かあと2時間ほどで今期の受付は終了のはずだけど」
「は、初耳です……」
その言葉を聞いて、アミルの顔色が青くなっていく。この宿まで来るのにも時間がかかったのに、土地勘もなく、まだ学校の場所すら知らないのに後2時間で着けるとは思えなかったからだ。
「まったく、こんなのんびりした娘が冒険者になれるのかね。……しょうがない、<リン>! ちょっと下りておいで!」
そう宿の奥に声をかけると、元気そうな足音をたてて1人の女の子が顔を出した。走って来る音からして、それなりに戦える身体能力はありそうだ。そして動きやすそうな服装と、髪を団子のように2つまとめていて、まるっきり拳法家の女の子、それが雪兎の第一印象だった。
「なに、お母さん」
「この子がね。明日の試験に受けるらしいんだけど、まだ申し込みが済んでないらしいんだよ。あんたはそろそろ走り込みにいく時間だろ。そのついでに学園まで案内してやりな」
「え!? まさかまだ申し込みが終わってない子がいるの!? ……なんかオドオドしているけど、冒険者として戦えそうには見えないわね。でもまあ良いわ。時間がないし、とりあえず今すぐ向かいましょう」
リンと呼ばれた女の子は元気にカウンターを飛び越え、そのままの勢いで宿の入口まで歩いていく。アミルも慌ててその後を着いて行こうと駆け出す。
「……あんた、本当に大丈夫なの? こんなにゆっくり走ったのに、全然余裕がなさそうじゃない」
「ハァハァ、わ、私は……ハァハァ、モンスタートレーナー、ハァハァ、だから……ハァハァ、前衛で、戦う……のは……苦手で」
アミルは全速力で走ってリンについて行こうと努力したので、肩で息をするほど疲れ切っていた。一方リンの方はまだまだ余裕があるようだ。
「まあいいわ。あとはあんた1人で何とかなるでしょ。私は走り込みの続きをするから、ちゃんと宿屋に帰ってきてね」
そう言ってリンは先程の倍ぐらいのスピードで駆けて行く。もう後ろを振り返る事はなかったが、アミルは頭を下げてお礼をした。
アミルの申し込みは無事に済んだが、受付の人にはもっと余裕をもって行動しろと怒られてしまった。目的は済み、帰りは時間に追われる事がないので、道に迷わない程度にゆっくりと町を見て回って宿に帰る事にする。
「それじゃあ、無事に申し込みは済んだんだね」
日が暮れかかった頃、ようやく宿に着くとリンの母親が話しかけてきた。
「は、はい。時間一杯でしたが、申し込み出来ました」
「そうかい。ならさっさと食事を済ませて、明日に備えて休むと良いよ」
リンはまだ走り込みから帰って来ていないようで、情報がなく、どうなったか気になっていた母親は、アミルの話を聞いてホッとしたように安堵してくれた。
言われたとおりアミルが席について食事を待っていると、他の宿泊客も食堂に集まって来て、賑わいだしてくる。するとリンが走り込みから帰って来た。
「お母さん、ついでに薬草も取って来たから、いつものところに置いておくね」
「ああ、すまないね。それと汗を流したら、店の手伝いもしてくれると助かるよ」
「分かってるよ。あら? 無事に帰ってこれたようね。迷子になったら探しに行くつもりだったけど」
アミルが席についている事に気付いたリンは、軽口を言いながら店の奥に入っていった。
「ここの宿屋は、女将さんとリンさんだけなんでしょうか? とても忙しそうに見えますけど」
『そうだな。この忙しさが続いていたら流石に倒れるだろうから、父親あたりが病気かなんかにかかって動けないんじゃないか?』
調理に配膳、宿泊客への対応などを見ていると、とてもじゃないがスムーズにいっているとは言えず、少し客に苛立ちが見え始めている。リンが参加してからはどうにかまわっているようだから、最低でも後1人は人手がいるはずだと想像出来た。
「すまないね。食事を出すのが遅くなってしまって」
「い、いえ、それは大丈夫です。……それより、この宿屋は女将さんとリンさんだけで?」
「ああ、お嬢ちゃんにも心配かけちまったか。実はね、旦那が町の外でブルーウルフの肉を手に入れる為に狩りに行ったら、群れに襲われてしまってね。通りかかった冒険者に助けられたが、かなりの重症で奥の部屋で治療中なのよ」
それだけを告げると忙しそうに調理場に戻っていく。さりげなく雪兎用にサラダの盛り合わせを用意してくれたので美味しく頂いたが、アミルは忙しそうにしている2人が気になるようで、チラチラ見ていた。
雪兎は今までの疲れをとるため、さっさと部屋に行くようにアミルに言った。。




