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裏話 アミルの気持ち その3

 わたし達の学費集めが始まりました。高い報酬の依頼から順にこなしていき、その資金は順調に貯める事が出来ました。その間もユキトさんはドンドン強くなっていき、わたしは劣等感に耐えながら頑張って着いて行こうと後を追います。


 近場のモンスターを狩り続けていると、ギルドマスターから他の冒険者が生活に困っているからやめてくれと言われてしまいました。確かにユキトさんが本気でモンスターを探し、倒しているので、最近この町の周辺にはモンスターが一匹もいなくなっています。低ランクの冒険者にとって、これでは食べるのにも苦労するような状況ですので、素直に従う事になりました。


 変わりと言う訳ではありませんが、そこにギルドマスターからの指名依頼を貰いました。内容は鉱山で最近現れたストーンゴーレムの討伐です。今のわたしのランク以上の依頼ですが、幽霊屋敷で倒したファントムロードもランク以上のモンスターだった事も加味されて、問題なくこなせるだろうと判断してくれたようです。



 そこでわたしに着いて来てくれる3匹目の仲間に会いました。名前はガイアちゃん。ウォーキングロックスライムと言う珍しいモンスターのようですが、タマモちゃんを救ってくれた優しい子です。少しのんびり屋さんですが、とても力持ちで戦いになるとわたしの傍で守ってくれる良い子でした。



 無事に指名依頼をこなし、Eランクの依頼を日にち一杯まで受けて町に帰ると、慌ただしい町の人の雰囲気に遭遇しました。

 理由はオークとゴブリンの群れが町に向かっているようです。数は合わせて200匹以上。ここは町としては小さい方なので、高ランク冒険者もいませんし人数も今は50人もおりません。

 さらに逃げ出そうとする商人たちの依頼で何人かの冒険者は町を出て行ってしまい、厳しい状況になるのは町の人でも簡単に想像がつくみたいです。


 ギルドマスターにわたしはさっさと逃げろと言われました。ユキトさんも冒険者の質を上げる事に努力を怠った自分等のせいだと言って、わたしにアルティアにさっさと向かうぞと言います。


 皆を見捨ててわたしだけが逃げる? わたしはユキトさんに聞いてみました。もしユキトさんが戦ったら勝てますかと。



『なんだお前、俺達はこの町をもう出るんだぞ。それなのに命を掛けて町の為に戦うって言うのか?』



 分かってます。わたし1人では何も出来ないし、一番に怪我をするのはタマモちゃん達です。それにわたしに酷い事をした奴隷商の人達の為に命を掛けるのは嫌です。


 でも……



「分かってる。分かってるよ! わたしも死ぬのは怖いよ! ……でも、それでもこんなわたしに普通に接してくれた人達を見捨てて、自分だけ逃げたくないよ!」



 わたしは主でもあるユキトさんに丁寧語も使わないで、感情のままの言葉をぶつけてしまいました。死にたくはないけど、ローザさんや宿屋の女将さん、ちょっと怖いけどギルドマスターさんはわたしを人として見てくれた数少ない人なんです。

 一番大事な人はユキトさんですが、それでもこの人達を見捨てるのは嫌なんです。



『ったく……お前のお人好し加減には、ほとほと呆れるな』



 呆れる……それはわたしが一番怖がっていた言葉。ユキトさんから聞きたくなかった言葉。それが耳に入ると、体がビクッと震えるのを止める事は出来ませんでした。


 怖い、続きの言葉を聞くのが怖い。まだわたしは何も恩返しをしていないのに、捨てられるかもしれないのが死ぬほど怖い。今はまともにユキトさんの顔を見る事が出来ません。



『だが、お前がやる気を出したと考えれば、この戦いも無駄ではないかもしれないな』



 ああ、やはりユキトさんは優しいです。皆が絶望を感じている戦いに、わたしの気持ちだけで挑む事を決めてくれました。

 わたしは感謝の気持ちでいっぱいです。




 オークの群れが来るまでまだ半日近くの時間があるらしいので、わたし達は戦いに備えて食事などを済ませる事にしました。



 宿屋に戻るとさっそくお風呂に入りました。ユキトさんがベタベタしたままでは気持ちが悪いと言って、無理やりわたしも連れていかれます。

 町の人達が慌てて荷物をまとめている中、こんなにのんびりとしていて良いのでしょうか? こんな状況でもユキトさんは平常心を保っています。なんでもこういう時こそいつも通りの生活をして落ち着かないと、いざという時、力が出せずに後悔する羽目になるそうです。


 流石ユキトさんです。まるでこのような戦いに何度も身を投じているような安心感を感じました。






 準備を終え、冒険者ギルドに顔を出すとギルドマスターの悲痛な顔が目に入りました。それだけで状況が分かります。わずかな望みであった、モンスターの群れの誘導に失敗したんですね。


 ギルドマスターは戦局が悪い方に傾いたら、わたしにすぐに逃げ出せと言ってくれました。男の人で大きい方なので怖くて顔は見れませんが、やっぱり良い人のようです。

 ユキトさんもこの方を気にいったようで、悲痛そうな顔を解消させようと憑依のスキルを使って、わたしの体で直接会話をし出しました。


 突然の憑依にわたしは驚いてしまいましたが、伝えたい事は危険なオークは自分が相手をするから気にするなと。そして混戦でのわたしの身を案じる事だったので、内心では嬉しかったです。


 でも、乱暴な言葉使いで言いたい事を言って去るのはやめてほしいです。その後のわたしを見る視線に、どう対応して良いか分からないんだもの。




 戦いが始まるとギルドマスターはわたしの傍で守るように追走してくれました。でも子供のわたしの足では、ドンドン周りから遅れていきます。結局先頭で走り始めたのに、モンスターの姿が見えた時には端の方に追いやられていました。


 結果としてはそれが良かったようで、中心のゴブリンの壁は予想以上に厚く、本来オークと戦う予定だった冒険者の人達は前に進めないで苦労しているようです。


 逆にわたし達端っこの人達は少ないゴブリンの壁なので、ユキトさんの足が止められるような事はありませんでした。

 ギルドマスターの予定とは違い、わたし達が壁を突っ切って後ろからオークと戦う作戦に変わりました。ギルドマスター以外の着いて来た冒険者は、オークの姿を見て立ち止まってしまいましたが、ユキトさんは餌を見るように嬉々として向かって行きました。


 ユキトさんの一蹴り一蹴りで巨大がオークの体が吹き飛ぶのは凄かったです。まさに無双。少しも負ける気がしません。


 このままいけば余裕で勝利を勝ち取れる。そう思っていたのですが、ユキトさんの索敵範囲に危険なモンスターの反応を拾ったようです。




 姿を現したのはオークキングでした。見るだけで分かります。このモンスターはオークなんて相手にならないぐらい強い威圧感を放っていました。

 ユキトさんはまだオークとの戦いに時間が掛かります。その間、ギルドマスターや着いて来た冒険者さんで足止めをする予定でしたが、皆恐怖に負けてか何も出来ずにやられてしまいます。ギルドマスターは凄い集中力で剣を向けていますが、そのせいで周りが見えていないようです。


 わたしは横から迫っていたゴブリンをミズチちゃんに攻撃してもらい、ギルドマスターを救いました。



 でも、そのせいでオークキングに目をつけられてしまいました。わたしは怒ったオークキングの目を見た瞬間、全身の力が抜けたように動けなくなりました。タマモちゃんやミズチちゃんの火や水の攻撃はダメージを与える事ができず、ガイアちゃんも前に出てくれましたが、持ち上げられて投げ飛ばされてしまいました。隅っこで動いているのを確認出来ましたので命に別状はないようですが、距離が離されたのですぐに戻って来る事は出来ず、タマモちゃん達も必死に攻撃をしたので息が乱れています。


 わたしは逃げてと言ったのですが、震えながらも攻撃の手を休める事をしませんでした。



 もうオークキングは目の前です。持っている棍棒を持ち上げた時、わたしに出来るのはタマモちゃん達を守るように体の下に隠してあげる事だけでした。


 死を覚悟しました。奴隷商にいた時はいつ来ても構わないと思っていたんですが、何故でしょう。今はとても怖いです。


(ユキトさん)


 心の中でそう叫んだ時、わたしは何に恐怖しているのか理解しました。



 そうか……わたしは愛する人が出来れば死んでも構わないと思っていたけど、今はユキトさんと別れるのが怖いんだ。なんの恩も返せず、まだまだ一緒に旅をしたいと思ったから死ぬのが怖くなったんだ。


 わたしはまだ死にたくない! ユキトさんと別れたくない! もっとユキトさんと話がしたい! 次々と言葉は浮かんでくるが、振り下ろされる棍棒は待ってはくれない。


 わたしは一際力を込めて目を閉じて祈った。



『なかなか頑張ったじゃないか。お前のおかげで、すべてのオークが俺の糧に出来たぞ』


「ユキトさん、遅いですよ……」



 絶体絶命のピンチに駆け付けてくれたヒーロー。わたしにはユキトさんがそう見えて、今まで以上に格好良く感じます。


 でもその後の言葉はいただけません。怖くて少し下着が濡れただけなのに、それをわざわざ言葉にして伝えるなんて、デリカシーがありません。わたしは救ってもらったのに「馬鹿」と、呟いてしまいました。




 ユキトさんとオークキングの戦いは劣勢でした。ギルドマスターとの戦いでは本気を出していなかったようで、全力での実力はユキトさんを追い込む程でした。

 わたしの不安は悪い方で当たりました。


 ユキトさんが鈍い音を立てて、激しく殴られてしまったのです。わたしの声に大丈夫だと応えてくれましたが、隠しているようでも脚が折れているのが分かります。攻撃の起点がその脚に集中しているので、わたしは顔色を真っ青にして最悪の想定をしてしまいました。


 オークキングの追撃にもユキトさんはその場から動く事が出来ませんでした。その一振りで数人の冒険者を吹き飛ばしそうな猛攻を一身に受け、わたしはいてもたってもいられず、ユキトさんの元に駆け寄ろうとしました。



「いいから落ち着け!」



 ユキトさんに傷を癒してもらったギルドマスターが、わたしの無謀な行動を止めます。でもその声はわたしの耳には入っていません。駄目です。わたしが先に死ぬのは良いんですが、ユキトさんが先に死んじゃ駄目なんです。


 わたしは邪魔する手を振り払って、すぐにでもユキトさんの下に駆け寄りたかった。でもそんなわたしの頬に衝撃が走り、少し周りが見えてきました。



「いいか、良く聞くんだ」



 わたしの頬を叩いて冷静さを取り戻させたギルドマスターは、モンスタートレーナーが出来るとされているモンスターの強化法を説明してくれた。あとで冷静に考えると曖昧なところが多く、説明とは程遠いものだったのだが、ユキトさんを救えるかもしれない。その一心で行動に移る。



「タマモちゃん、ミズチちゃん、ガイアちゃん。お願い、わたしに力を貸して。ユキトさんを、助けたいの」



 わたしの近くに待機してくれていた子に頼むと、元気良く返事をしてくれた。実際何をすれば良いか分からない。でも主従契約を結んだ時繋がった感覚。それがギルドマスターの言っていたパスなら、それを通してわたしの全てを送れば良い。魔力だろうと体力だろうと、そして魂だろうと。


 さいわいユキトさんの憑依のスキルを何度も受けているので、魂の感覚は分かっている。




 あとの事は考えない……




 全部、あなたに捧げます。





 わたしは目を閉じて祈り続ける。周りの音も何も聞こえないほど集中し続けた。魂が疲れているのだろうか? なにやら体が重くなっていくが、今は気にしない。ユキトさんの無事だけを祈る。




 どれぐらいの時間が経ったのでしょう。



「悪かったな。お前にも心配をかけたようだ」



 その声と共にわたしに触れられた手の感覚で周りが見え始めた。助けたいと願った人の声。それを聞いてわたしは安心して顔をあげることが出来た。



「!? ユ、ユキトさん。━━ユキトさん、その姿は?」



 わたしは目の前にいる人に驚いてしまいました。すぐにその方がユキトさんだとは気付きましたが、その変化の大きさに驚きは隠せませんでした。


 どうやらユキトさんにも変化の理由は分からないようです。わたしが何かをやったようですが、夢中だったので自分でも良く分からないんです。


 でも勝利したのだけは分かりました。



「もうこの戦場での俺達の仕事はない。町に帰るぞ」



 ユキトさんはいつもの念話とは違い、普通に話しています。どうやら今の姿は人間に近いようで、良く分かりませんが声帯も機能しているようです。たまにユキトさんの言葉は分からない所がありますが、それはわたしの勉強不足なのでしょう。学校に行ったら、しっかりと学ばないといけませんね。


 あれ? わたしも立ち上がろうとしましたが、脚に力が入りません。いえ、脚だけではなく、全身に力が入らないです。倒れこんでしまったわたしを、ユキトさんは慣れない力を使ったせいだと言って優しく抱き上げてくれました。



「え!? え!? えーーーーー???」



 思わず声を上げてしまいましたが、これはお姫様だっこ。ユキトさんにしてほしかった行為の1つでしたが、こんな不意打ちでされてしまいますと、声を出して驚く事しかできません。

 それに戦闘はまだ続いているんです。ギルドマスターさんや他の冒険者さんの視線が集中しているのが分かり、とっても恥ずかしい気持ちになります。


 町への帰り道にいるゴブリンの壁も、ユキトさんの一蹴りで道が出来てしまいました。もちろんその先にいた冒険者さんの視線も集まります。


 恥ずかしいけど嬉しい。その両方の感情が同時に襲って来て、わたしの顔はお湯が湧かせるかもしれないほど真っ赤になっている気がします。



 戦場を抜け、周りが静かになると、わたしはユキトさんの胸に頭を預けます。


 ユキトさんの心臓の音が聞こえます。とっても安心出来て、心地よい音色に聞こえます。このままの時間が永遠に続けば良いのにな……



 でも、どんなものにも終わりはきます。町に近づくと、2人共ユキトさんの体が元に戻る感じがしたので、ゆっくりと下に降ろしてもらいました。

 ユキトさんが元に戻るとわたしの体も自由が戻り、疲れは残っていても何とか歩ける状態までは回復しました。




 宿に戻って食事をしていると、町が歓喜の声に騒ぎ出したので冒険者さん達が帰って来たのが分かりました。そのまま町中でお祭り騒ぎが始まりました。

 でもわたしはもうクタクタです。ユキトさんが外を見て回りたいと言えば着いて行くつもりでしたが、疲れているのがバレているようですぐに寝るように言われました。


 ユキトさんの楽しみを奪ってしまい申し訳ない気持ちもありましたが、それ以上にわたしの体調を見ていてくれた事に嬉しくて顔がニヤケしまいます。


 やっぱり疲れていたのでしょう。わたしはベットに入るとすぐに眠りについてしまいました。曖昧な記憶の中、誰かがわたしの名前を呼んで優しく頭を撫でてくれる感覚があります。


 ああ、気持ちいいです。きっと幸せな家庭では、両親が子供にしてくれるんでしょうね。わたしもいつか子供を持つ事が出来たら、その子が寝るまで優しく撫でてあげよう。




 わたしは眠りながら嬉しそうに顔を微笑ませ、幸せに包まれまた夢を見ました。



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