<第六足>温もり
「大阪って……あの大阪?」
「そこ以外、あるん?」
思わず聞き返してしまう。
昨日出会った少女──如月夢玖。
彼女は、大阪から福島まで歩いて来たという。
「……宿とかは?」
「最初はホテル泊まっててん。でも、お金なくなってからは……カプセルホテルとか、公園。」
「……え。」
思わず言葉を失う。
「ご、ごめん。」
夢玖は小さく首を振った。
「ええよ。」
その笑顔が、かえって胸を締めつけた。
ホテルに泊まれなくなり、公園で夜を明かす。
それを当たり前のように話す彼女が、どれだけ過酷な日々を送ってきたのか。
少しだけ想像できた。
「……今夜、俺ん家来る?」
夢玖は目を見開く。
「なんで?」
「変な意味じゃない。」
慌てて手を振る。
「恋人と同棲してるから安心して。」
夢玖は黙る。
「……今日、行く場所ないべ?」
少しの沈黙。
やがて、小さく頷いた。
「……うん。」
「よし。」
俺はスマホを取り出し、舞姫へ電話をかける。
「もしもし?」
『もしもし、希望君?』
「あのさ……女の子を家に連れて帰ってもいい?」
数秒、沈黙。
『……浮気?』
「違う違う!」
思わず声が裏返る。
「家出してきた子なんだ。事情があって……今日だけでも、ご飯食べさせたくて。」
舞姫は少しだけ考えてから笑った。
『そっか。分かった。連れておいで。』
その一言に、肩の力が抜ける。
『今日は茄子のお味噌汁に、鯖の塩焼き、だし巻き卵、それとほうれん草の胡麻和えだよ。』
「最高じゃん。ありがとな。」
* * *
車の中。
夢玖は窓の外を眺めていた。
「彼女さんって、どんな人なん?」
「舞姫?」
少し笑う。
「料理が上手で、優しくて、看護学生。」
「看護学生……。」
夢玖は少し考えてから首をかしげた。
「怖くない?」
「え?」
「なんか……厳しそう。」
「ははっ。」
思わず笑ってしまう。
「全然。むしろふわふわしてる。」
「ふわふわ……。」
そんな話をしているうちに、マンションへ到着した。
「ただいま。」
「おかえり、希望君。」
玄関には舞姫が立っていた。
夢玖を見ると、にっこり微笑む。
「初めまして。煌星舞姫です。」
夢玖は少し緊張しながら頭を下げた。
「……如月夢玖。」
「夢玖ちゃん。」
舞姫は自然に笑う。
「遠くから来たんだって?」
「……大阪から。」
「えっ!?」
舞姫は目を丸くする。
「歩いて。」
その一言で、空気が静かになった。
舞姫は驚きながらも、それ以上は何も聞かなかった。
「まずは、お風呂に入ろっか。」
その言葉だけだった。
* * *
「着替えはこれ、どうぞ。」
舞姫はパーカーとタオルを差し出す。
「ありがとう……。」
「ゆっくり温まっておいで。」
夢玖は小さく頷き、浴室へ向かった。
* * *
しばらくして。
「お風呂ありがとう。」
髪を乾かした夢玖が、少し照れくさそうに出てくる。
頬には赤みが戻り、表情もどこか柔らかい。
「さっぱりした?」
「……うん。」
舞姫は嬉しそうに笑う。
「じゃあ、ご飯にしよっか。」
食卓には温かい料理が並んでいた。
「今日は夢玖ちゃんもいるから、とんぺい焼きも作ってみたの。」
夢玖は料理を見つめたまま動かない。
「……食べて、ええん?」
「もちろん。」
舞姫は優しく笑う。
「みんなで『いただきます』しよう。」
第六話(第六足)「温もり」読んで下さり、ありがとうございます。
今回は、夢玖と舞姫が対面、そして夢玖が希望達のマンションで一夜明かすシーンを描きました。
次回またお会いしましょう。




