<第五足>はじめまして、福島
大阪から、どれくらい歩いたのだろう。
携帯はない。
財布の中には、残りわずかの小銭だけ。
「お腹……減った。」
夢玖は信号機の地名標識を見上げる。
『福島県 須賀川市』
「ここ……福島なん?」
夢で見た景色。
あの時聞こえた、「福島」という言葉。
やっと、辿り着いた。
でも──。
「どこ行けばええんやろ……。」
行く当ては、なかった。
* * *
「昨日のあの子、大丈夫かな……。」
俺はインソールをカットしながら、昨日見掛けた少女のことを思い出していた。
擦り減った靴底。
何度も結び直した片結びの靴紐。
あの靴は、普通じゃなかった。
「あの……希望さん。」
振り向くと、廉命がどこか困ったような顔をして立っていた。
「どうした?」
「ちょっと……来てもらえますか。」
廉命に案内され、店の入口へ向かう。
そこに立っていたのは──。
「……昨日の。」
あの少女だった。
目が合う。
けれど少女は、すぐに視線を逸らしてしまう。
逃げようとはしない。
でも、警戒しているのが伝わってきた。
「大丈夫。」
俺は少女の目線までしゃがみ込む。
「怖くないから。」
少女の肩が小さく震える。
それでも、その場から動かなかった。
俺は自然と足元へ目を向けた。
「……その靴。」
靴紐は今にも切れそうで、靴底は限界まで擦り減っている。
サイズも明らかに合っていない。
「相当歩いたな。」
少女は何も答えない。
でも、少しだけ俯いた。
「ちょっとだけ、見せてもらっていい?」
恐る恐る右足を前へ出す。
俺は店内からサイズの近いランニングシューズを持ってきた。
「これ履いてみようか。」
少女はぎこちなく足を入れる。
立ち上がる。
一歩。
もう一歩。
「あ……。」
少しだけ目を見開く。
「足、痛ない……。」
もう一歩。
「ふかふかや。」
思わず笑みがこぼれる。
俺もつられて笑った。
「ランニングシューズ、初めて?」
「……うん。」
その返事は、とても小さかった。
閉店まで、あと十分。
「廉命。」
「はい。」
「売り場、少し頼んでもいい?」
「もちろんっす。」
俺は少女を休憩室へ案内した。
* * *
「座って。」
少女は静かに椅子へ腰掛ける。
自動販売機の前で振り返る。
「何か飲む?」
少女は少し迷ってから答えた。
「……コーヒー。」
「ブラック?」
「うん。」
缶コーヒーを一本買い、少女へ手渡す。
両手で缶を包み込む。
「……温い」
その一言だけで、十分だった。
しばらく沈黙が続く。
やがて俺は、穏やかに笑った。
「俺、生野希望。」
「この店でシューフィッターやってる。」
少女は缶コーヒーを見つめたまま、小さく口を開く。
「……如月夢玖。」
「夢玖ちゃんね……ううん、よし。如月」
夢玖は小さく頷く。
「どこから来たの?」
少しだけ間が空く。
「大阪や……歩いて。」
思わず息をのむ。
「歩いて来てん」
その言葉の重さを、俺はまだ知らなかった。
第五足「はじめまして、福島」をお読みいただきありがとうございます。
今回から、希望と夢玖が出会い、大きく物語は変わります!
次回は希望は夢玖をマンションへ連れて帰り…
それでは、次回またお会いしましょう!




