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透ける約束は片結び  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)
【第一章】はじまりの片結び

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<第三足>いただきます

第三話 いただきます


午後九時。


閉店後の店内には、レジ締めや在庫確認を終えたスタッフたちの声が静かに響いていた。


「よし……帰るか」


荷物を肩に掛けた、その時だった。


「おら、待て生野」


腕をぐいっと掴まれる。


振り返ると、加堂さんが立っていた。


「何? 今日、脚痛いんじゃなかったの?」


「雨の日だけだ。飯行くぞ」


「は? いきなり過ぎない?」


どうやら外食に誘われているらしい。


俺は食べられるものが限られていることもあって、こういう誘いはなるべく断ってきた。


今日はそうもいかないらしい。


「加堂。また生野いじめてるのか」


低い声が後ろから聞こえる。


振り返ると、一服を終えた福吉さんが歩いてきた。


「違うんすよ。久々に飯でも行こうかと……」


「なら俺も行く」


「福さんも?」


「俺が来ちゃ悪いか?」


「……いえ」


加堂さんは小さく肩をすくめた。


この人が唯一頭の上がらない相手が、目白福吉だった。


「焼肉とか……」


「却下」


福吉さんは即答する。


「生野が食える店にする」


それだけ言って少し考え、


「……ゴゴスでいい。あそこなら胃に優しいメニューもあるし、お前が食いたいものもあるだろ」


「……福吉さんが言うなら」


「ありがとう」


「あと、喫煙室もある」


「「結局それかよ!」」


三人で思わず笑った。


* * *


店に入り、それぞれ席へ着く。


「なんで急に飯なんか誘ったの?」


メニューを開きながら尋ねると、加堂さんは少しだけ視線を逸らした。


「最近、お前……なんか無理してねぇかって」


「加堂さん……変なもんでも食べた?」


「失礼なやつだな」


苦笑したあと、加堂さんは真面目な顔になる。


「白血病ってさ……何でも食えねぇのか?」


その質問に、少しだけ驚いた。


「体調次第かな。食べられる日もあるし、食べられない日もある」


「そうか……」


そこへ喫煙室から福吉さんが戻ってきた。


「生野は周りに気を遣って、こういう付き合いを避けてきた。」


図星だった。


「……そうだろ」


「うん」


俺は頷くしかなかった。


皆に気を遣わせるくらいなら、一人で食べた方が楽だ。


ずっとそう思っていた。


「福吉さん、何食べるの?」


「……カットステーキ。肉二倍。ライス大盛り。」


「俺の話聞いてた?」


「肉のあとに吸う煙草は美味い」


「そこ譲れないんだ……」


「譲れん」


真顔で言われると、笑うしかない。


「俺はビーフハンバーグステーキのダブル。ライス大盛り」


「……俺は」


メニューを眺めたまま止まる。


すると福吉さんが指を差した。


「鬼おろし冷やし豚しゃぶ膳。ライス少なめ」


「え?」


「さっぱりして食べやすい。あとお前少食だからな」


「おろしは俺が食う。」


「そこまでしてくれるの?」


「食え」


短い一言だった。


でも、その一言が妙に嬉しかった。


* * *


料理が運ばれてくる。


一口食べる。


「……美味しい」


自然と箸が進んだ。


「それなら良かった」


福吉さんは肉を切り分けながら呟く。


加堂さんは少し考え込んだあと、口を開いた。


「福吉さん」


「なんだ」


「生野って、何が食えないんすか?」


福吉さんは少しだけ考えてから答える。


「治療や体調によって違う。ただ、今の生野は生ものを避けてる」


「刺身とか?」


「ああ。感染症のリスクを考えてな。加熱が不十分なやつもだが、発酵食品もはちみつ、ドライフルーツとかも食えん」


「そうだったのか……」


しばらく沈黙が流れる。


やがて福吉さんが静かに続けた。


「俺は、お前に生野の病気を全部理解しろとは言わん」


加堂さんは黙って聞いている。


「でも、こいつが無理してることくらいは気付け」


「……はい。」


加堂さんはゆっくり俺を見る。


「悪かった」


「謝ることじゃないよ」


俺は笑った。


「知らないのが普通だし」


そう言うと、加堂さんも少しだけ笑った。


* * *


食事を終え、店を出る。


「会計終わったぞ」


「えっ?」


「今日は俺」


「PayPay送ったのに」


「現金とカードしか使わん。煙草買えねぇしな」


「……ありがとう」


福吉さんは何も言わず、煙草を一本取り出した。


加堂さんはぶっきらぼうに歩き始める。


「ほら、生野」


「ん?」


「また飯行くぞ」


「……うん」


恋人の舞姫とは違う。


でも、この二人にも甘えられる。


そう思えた夜だった。

あとがき


第三足「いただきます」を読んでいただき、ありがとうございました!


今回は、希望・霧也・福吉の”男飯”回でした。

三人の距離が少し縮まり、それぞれの関係性や優しさが伝わっていたら嬉しいです。


そして次回は、希望の後輩であり、ケロイドイケメンこと 日出廉命 がいよいよ登場します!


希望を取り巻く人間関係は、まだまだ広がっていきます。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

応援や感想、ブックマーク・評価も励みになります。


それでは、第四話でお会いしましょう!

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