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透ける約束は片結び  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)
【第二章】青い春と片結び

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27/43

<第二十七足>18歳。


「──ってことで、終礼終わります。今日も一日、お疲れ様でした!」


「「「「お疲れ様でした!」」」」


事務室内に、退勤の挨拶が響き渡る。


「如月さんは愛ちゃん、夜海ちゃん、仁愛ちゃんと向かうんだな……」


店長は参加メンバーを確認しながら、段取りを組んでいく。


今日は、私の歓迎会兼、誕生日会。


何人かに分かれて、それぞれのお店へ向かうことになっていた。


私は愛姉、夜海、仁愛と一緒に向かう。


「お酒を飲む人は……福吉さんと加堂さん、院長と廉命で合ってる?生野と舞姫ちゃんは飲む?」


店長が参加者に確認を取る。


私は今日、十八歳になったばかり。


もちろん、お酒は飲めない。


「舞姫も俺も飲まないですね」


希望さんが答えた。


「おっけー!よし、雷磨、加堂さん、福吉さん。行こう!」


「だな。……如月、また後でな」


「はい!」


何人かに分かれ、私たちはそれぞれのメンバーと一緒に店を目指す。


そして──。


今日という特別な一日が、始まろうとしていた。


****


「愛姉の車……あ、あれやっ!」


店の裏口から出て、愛姉の車が停まっている駐車場へ向かう。


私の姿に気づくと、夜海と仁愛が車内から出迎えてくれた。


「うわぁ……まつ毛長い……肌綺麗……!」


「おおきに……愛姉、コスメ貸してくれてありがとな……」


まずは、コスメを貸してくれた愛姉にお礼を伝える。


「ううん。可愛いわね……。グリッターとハイライトが良い仕事をしているわ。舞姫、流石ね……」


「アイシャドウの色も綺麗……!」


夜海と仁愛は、私の化粧をしげしげと眺めながら褒めてくれた。


「舞姫ちゃん、メイク凄く上手なんだね……」


改めて思う。


舞姫姉は、料理だけじゃない。


化粧も凄く上手い。


「お話はこれぐらいにして……そろそろ行きましょう」


愛姉の一言で、私たちは車に乗り込み、お店へ向かった。


金曜日の夜ということもあってか、道路はかなり混雑していた。


「渋滞しているわね……でも、時間には間に合いそうね」


四十分ほど掛かると聞いていたけれど、車内で雑談をしているうちに、あっという間にお店へ到着した。


****


「今日は半分貸切で食べ放題だから、遠慮なく食べてくれっ!」


お店に着くと、先に到着していた皆と合流した。


場所は、ウオンタウン近くのお好み焼き屋さん。


大阪にいた頃、大好きだったあのお好み焼き。


また食べられる。


そう思うだけで、頬が緩んでしまう。


「食べ放題……じゅるっ」


思わず、口元からよだれが出そうになった。


「時間制限はあるけど、このコースなら、もんじゃやデザートも食べ放題なんだよ」


しかも、食べ放題。


もんじゃ焼きに、デザートまで。


──ところで、もんじゃ焼きって何やろ?


「もんじゃ焼き……って?」


思わず、疑問の声が出た。


「……ええと」


希望さんが説明しようとしたところで、廉命さんがスマホを見ながら口を開いた。


「小麦粉を水で溶いた生地に、キャベツとかの具材を入れて、鉄板で焼いて食うやつ」


「へぇ……!」


「……東京発祥の郷土料理らしい」


もんじゃ焼きは、お好み焼きとはまた違う粉ものらしい。


どんな味がするんやろ。


「……如月さんが気に入るかは別だけどよ。チビなんだから、沢山食えよ」


「……なっ!」


チビだから。


また言われた。


──けれど、さっきほど腹は立たなかった。


今は、いつもの調子で言い返せる。


「誰がチビやねん!」


「お前以外に誰がいるんだよ」


「廉命さんのアホ!」


「はいはい」


「……お前ら、仲直りしたんだな」


そんな私たちを見て、希望さんが安心したように笑った。


「……はい。まあ、なんとか」


「そりゃよかった」


希望さんの表情を見て、私も少し嬉しくなった。


心配をかけてしまったから。


早いうちに仲直りできて、本当によかった。


「とまぁ、早速……なんか頼もう!と言いたいところだけど、まずは飲み物を取りに行こう!」


店長の声で、皆がドリンクバーへ向かう。


「夢玖ちゃん、ドリンクバー行こう!」


「うん!」


「夢玖ちゃん、何飲むの?」


「うーん……ジンジャーエール? ってやつ。気になるねん」


夜海と仁愛に誘われ、ドリンクバーで飲み物を注ぐ。


初めて見る飲み物もあって、どれにしようか迷ってしまう。


「……あいつ、いい友達ができたんすね」


ドリンクバーに立つ私を見ながら、希望さんが呟いた。


「えぇ。仁愛ちゃんも夜海ちゃんも、楽しそうで何よりだわ」


愛姉も、嬉しそうに頷く。


私もそう思う。


二人と一緒にいると、自然と笑顔になれる。


こんな友達ができるなんて、少し前までは想像もしていなかった。


「如月ー!俺、烏龍茶ねっ!」


「主役にやらせるな。俺達が取りに行こう」


希望さんが店長をたしなめると、周囲から笑い声が上がった。


ふふっ。


こういうの、ええなぁ。


「よし、皆、飲み物は揃ったね?それじゃ……頼もう!」


店長が仕切り、専用のタブレットで注文を始めた。


メニューを眺めると、見たことのない料理がたくさん並んでいる。


もち明太チーズ。


じゃがバター。


コーンカレー。


イカキムチ。


文字を追うだけで、食欲が刺激されていく。


「んにゃあ……!」


「麺が入ってるお好み焼きも美味いんだ。食べてみる?」


希望さんがメニューを指差した。


「麺も入ってるん!?」


「そう。広島風お好み焼きっていうんだ」


「是非っ!」


お好み焼きに麺まで入っているなんて。


どんな味がするんやろ。


考えるだけで、わくわくしてきた。


「よし……皆、飲み物は持ったね?」


店長がグラスを手に取る。


「それじゃ……」


皆の視線が、私に集まった。


こういう場は初めてだ。


私のために、こんなにたくさんの人が集まってくれた。


嬉しい。


でも、少しだけ緊張する。


「如月さん、お誕生日おめでとう!ようこそ福島へっ!これからの活躍を祈って……乾杯っ!」


「「「「「「「乾杯っ!」」」」」」」


グラスがぶつかり合う音が、一斉に響いた。


「おめでとう!」


「十八歳、おめでとう」


「夢玖ちゃん、これからもよろしくねっ!」


「如月、これからもよろしくな! おめでとう!」


「夢玖ちゃん、おめでとう!」


次々と掛けられる、お祝いの言葉。


誕生日おめでとう。


これからもよろしく。


十八歳、おめでとう。


──どうしよう。


何て返せばええんやろ。


こんなにたくさんの人から、おめでとうと言われたことなんてなかった。


どう反応すればいいのか分からず、私はグラスを持ったまま、黙り込んでしまった。


「……如月さん、お……おめでとう……」


少し遅れて、廉命さんが言った。


その瞬間、なぜか一時的に静かになった。


皆の視線が、私へ向かう。


「……夢玖ちゃん?」


舞姫姉が心配そうに顔を覗き込んできた。


「……あのな」


私は、ゆっくりと口を開いた。


「私、誕生日おめでとうとか言われたん、初めてやねん」


誰も、すぐには言葉を返さなかった。


私は、グラスを持つ手に少し力を込める。


「どう返したらええか分からへん。でも……おおきに。嬉しいわ」


うまく笑えているだろうか。


ちゃんと、気持ちは伝わっただろうか。


少し不安になりながら顔を上げると、舞姫姉が優しく微笑んでいた。


「うん!夢玖ちゃん、沢山食べてね!」


「如月ちゃん、豚玉派?海鮮玉派?」


「豚キムチ玉……!美味しそう……!」


「今日は、思いっきり楽しんでくれ。ほら、もんじゃ焼き一切れ!」


皆が、いつものように話し始めた。


誰も、私の言葉を大げさに扱わなかった。


それが、ありがたかった。


「おおきに……。もんじゃ焼き、出汁が美味しいねん!」


一口食べると、思わず声が弾んだ。


「もち明太チーズもんじゃ……これ、如月好きそうだと思ってさ。あと、広島風お好み焼きも」


希望さんが、もんじゃ焼きとお好み焼きを取り分けてくれた。


食べてみると、どちらも凄く美味しい。


粉ものが好きだからなのか。


皆と一緒に食べているからなのか。


自分でも、よく分からなかった。


でも、大阪で食べていたお好み焼きとは、また違う美味しさがあった。


同じようで、少し違う。


そして、何より。


今は、一緒に笑ってくれる人たちがいる。


「如月ちゃん……カレーもんじゃも美味いぞ?俺のお気に入り」


「如月さん、タンパク質も大事だよ?ハラミとカルビの鉄板焼き!」


「このコーンバターもいけるぞ!俺、センスいいからなっ!」


店長や加堂さん、希望さんが、おすすめの料理を次々と分けてくれる。


「んん〜!ご飯が進むっ!」


「…お好み焼きに白飯。合うな」


お好み焼きやもんじゃ焼きをおかずに、白米が進む。


「さすが関西人…!」


「廉命君、ご飯大盛り何杯目?」


「……確か、五杯目っす」


廉命さん野食べっぷりに、笑い声が響く。


一方で、希望さんと店長は呆れてる。


「そば飯……意外といけるな」


福吉さんが、そば飯を気に入ったらしい。


その一方で、サラダにはなかなか手を伸ばさない。


「福吉さん、野菜も食べてください」


「断る」


「あなた、来年で三十ですよね?メロンパンと煙草しか食べてないんだから、野菜も食べてくださいっ!」


「……うるせぇな」


「うるさくありません!」


雷磨さんが真剣な顔で説教を始め、福吉さんは露骨に嫌そうな顔をした。


「福吉さん……かっこいい♡」


そんな福吉さんを、仁愛が熱い視線で見つめている。


「松寺君……君はもしかして……」


義父が何かに気づいたように呟いた。


「何ですかー?」


「いや……何でもない。確かに福吉君は独身だが……」


「?」


仁愛は首を傾げている。


どうやら、まだ気づかれていないと思っているらしい。


「わぁ……!焼き小籠包おいひ〜!お姉ちゃん、あーん!」


舞姫姉は、焼き小籠包を頬張って幸せそうな顔をしていた。


「ん……熱いわよ!」


愛姉はそう言いながらも、ちゃんと口を開けて食べている。


「お父さん……お酒ばかり飲まないで、ちゃんと食べて!」


「はいはい」


愛姉に注意され、義父が苦笑した。


「ねぇ……廉命君。さっきから夢玖ちゃんばっかり見てない?」


夜海が、隣に座る廉命さんをからかう。


「あ? 席の位置的に見えるんだから仕方ねぇだろ」


「へぇ……そっか。はい」


夜海は、鉄板の上で焦げた部分を廉命さんの皿に押し付けた。


「おいっ!焦げた部分を押し付けんなっ!」


「えー?気のせいじゃない?」


「てめぇ……!」


楽しそうに言い合う二人。


─雰囲気だけでも、既にお腹いっぱいや。


皆が笑っている。


それだけで、胸の奥がぽかぽかと温かくなった。


「……如月さん」


ふいに、廉命さんに呼ばれた。


「なん?」


「ほら……タコも食えよ」


そう言って、廉命さんがタコ玉とタコもんじゃを取り分けてくれた。


海鮮玉にはイカやホタテ、エビが入っているけれど、タコが入ったお好み焼きは初めてだ。


「おおきに!んぐ……」


口に運んだ瞬間。


「……っ!」


思わず、目を見開いた。


「うみゃあ……!頬が落ちてまうやんか!幸せや!」


これ、めちゃくちゃ美味しい!


たこ焼きとも明石焼きとも違う。


タコの食感と生地の旨味が合わさって、口の中いっぱいに美味しさが広がった。


「んーっ!」


あまりの美味しさに、思わず頬を押さえる。


「……夢玖ちゃんタコ好きなんだ……!タコの唐揚げとかも好きそう」


夜海が、私の反応を見て笑った。


「タコ玉か……センスいいじゃん!日頃めちゃくちゃ食べるのに、女の子に食べ物を分けるなんて珍しい!」


希望さんまで、楽しそうに廉命さんをからかい始めた。


「廉命、今度飲みでいじるからなっ!」


加堂さんまで便乗する。


「……ほっといてくださいっ!」


廉命さんは、耳を赤くして顔を背けた。


──鉄板が熱いからやろか?


そんなことを考えながら、私はもう一口、タコ玉を頬張った。


このときの私は、気づいていなかった。


廉命さんが、私を見つめていたことに。


いつものからかうような視線とは、少し違う眼差しで。


「如月さん……これからもよろしくね」


「……はいっ!」


店長に声を掛けられ、私は笑顔で頷いた。


「そういえば、福吉さんは?」


「……あー、煙草」


雷磨さんが呆れたように答える。


「またですか……!」


「まったく、あの人は……」


そんなやり取りに、また笑い声が上がった。


私は、皆の顔を見回した。


笑っている人。


料理を取り分けてくれる人。


私をからかっている人。


何気ない会話を楽しんでいる人。


今日、ここにいる皆が、私の誕生日を祝ってくれている。


十八歳になった。


そして、今日という日を、一緒に過ごしてくれる人たちがいる。


──なんやろ。


胸がいっぱいで、うまく言葉にできへん。


でも。


「……私、ここに来られてよかったなぁ」


ぽつりと零した言葉は、賑やかな笑い声の中に溶けていった。


「ふふっ。良かったよ…これからも一緒だ」


「希望さん…」


希望さんが私に言葉を掛けてくれる。


今思うと、これは希望さんとの出会いから始まった物語で、これからも続く。


「よし、皆…如月さんへの誕生日プレゼントを…!」


店長が仕切り、皆バッグから物を出した。


「夢玖ちゃん、おめでとう!誕生日プレゼントだよ」


沢山の誕生日プレゼントをもらう。


「……皆、おおきに!」


誕生日プレゼントも、人生初めてだ。


でも、物よりも嬉しい誕生日プレゼントがあった。


私の為に、集まってくれ、大切にしてくれる皆という─。


「………十八歳、楽しみや」


それでも、確かに。


私の十八歳の誕生日は、始まったばかりだった。



……To be continued


第27話、読んでいただきありがとうございます。


今回は、夢玖と廉命の食べっぷりを可愛く書きました!

次回…廉命が抱くある欲が少し露わに…!


それではまた。

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