<第二十七足>18歳。
「──ってことで、終礼終わります。今日も一日、お疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
事務室内に、退勤の挨拶が響き渡る。
「如月さんは愛ちゃん、夜海ちゃん、仁愛ちゃんと向かうんだな……」
店長は参加メンバーを確認しながら、段取りを組んでいく。
今日は、私の歓迎会兼、誕生日会。
何人かに分かれて、それぞれのお店へ向かうことになっていた。
私は愛姉、夜海、仁愛と一緒に向かう。
「お酒を飲む人は……福吉さんと加堂さん、院長と廉命で合ってる?生野と舞姫ちゃんは飲む?」
店長が参加者に確認を取る。
私は今日、十八歳になったばかり。
もちろん、お酒は飲めない。
「舞姫も俺も飲まないですね」
希望さんが答えた。
「おっけー!よし、雷磨、加堂さん、福吉さん。行こう!」
「だな。……如月、また後でな」
「はい!」
何人かに分かれ、私たちはそれぞれのメンバーと一緒に店を目指す。
そして──。
今日という特別な一日が、始まろうとしていた。
****
「愛姉の車……あ、あれやっ!」
店の裏口から出て、愛姉の車が停まっている駐車場へ向かう。
私の姿に気づくと、夜海と仁愛が車内から出迎えてくれた。
「うわぁ……まつ毛長い……肌綺麗……!」
「おおきに……愛姉、コスメ貸してくれてありがとな……」
まずは、コスメを貸してくれた愛姉にお礼を伝える。
「ううん。可愛いわね……。グリッターとハイライトが良い仕事をしているわ。舞姫、流石ね……」
「アイシャドウの色も綺麗……!」
夜海と仁愛は、私の化粧をしげしげと眺めながら褒めてくれた。
「舞姫ちゃん、メイク凄く上手なんだね……」
改めて思う。
舞姫姉は、料理だけじゃない。
化粧も凄く上手い。
「お話はこれぐらいにして……そろそろ行きましょう」
愛姉の一言で、私たちは車に乗り込み、お店へ向かった。
金曜日の夜ということもあってか、道路はかなり混雑していた。
「渋滞しているわね……でも、時間には間に合いそうね」
四十分ほど掛かると聞いていたけれど、車内で雑談をしているうちに、あっという間にお店へ到着した。
****
「今日は半分貸切で食べ放題だから、遠慮なく食べてくれっ!」
お店に着くと、先に到着していた皆と合流した。
場所は、ウオンタウン近くのお好み焼き屋さん。
大阪にいた頃、大好きだったあのお好み焼き。
また食べられる。
そう思うだけで、頬が緩んでしまう。
「食べ放題……じゅるっ」
思わず、口元からよだれが出そうになった。
「時間制限はあるけど、このコースなら、もんじゃやデザートも食べ放題なんだよ」
しかも、食べ放題。
もんじゃ焼きに、デザートまで。
──ところで、もんじゃ焼きって何やろ?
「もんじゃ焼き……って?」
思わず、疑問の声が出た。
「……ええと」
希望さんが説明しようとしたところで、廉命さんがスマホを見ながら口を開いた。
「小麦粉を水で溶いた生地に、キャベツとかの具材を入れて、鉄板で焼いて食うやつ」
「へぇ……!」
「……東京発祥の郷土料理らしい」
もんじゃ焼きは、お好み焼きとはまた違う粉ものらしい。
どんな味がするんやろ。
「……如月さんが気に入るかは別だけどよ。チビなんだから、沢山食えよ」
「……なっ!」
チビだから。
また言われた。
──けれど、さっきほど腹は立たなかった。
今は、いつもの調子で言い返せる。
「誰がチビやねん!」
「お前以外に誰がいるんだよ」
「廉命さんのアホ!」
「はいはい」
「……お前ら、仲直りしたんだな」
そんな私たちを見て、希望さんが安心したように笑った。
「……はい。まあ、なんとか」
「そりゃよかった」
希望さんの表情を見て、私も少し嬉しくなった。
心配をかけてしまったから。
早いうちに仲直りできて、本当によかった。
「とまぁ、早速……なんか頼もう!と言いたいところだけど、まずは飲み物を取りに行こう!」
店長の声で、皆がドリンクバーへ向かう。
「夢玖ちゃん、ドリンクバー行こう!」
「うん!」
「夢玖ちゃん、何飲むの?」
「うーん……ジンジャーエール? ってやつ。気になるねん」
夜海と仁愛に誘われ、ドリンクバーで飲み物を注ぐ。
初めて見る飲み物もあって、どれにしようか迷ってしまう。
「……あいつ、いい友達ができたんすね」
ドリンクバーに立つ私を見ながら、希望さんが呟いた。
「えぇ。仁愛ちゃんも夜海ちゃんも、楽しそうで何よりだわ」
愛姉も、嬉しそうに頷く。
私もそう思う。
二人と一緒にいると、自然と笑顔になれる。
こんな友達ができるなんて、少し前までは想像もしていなかった。
「如月ー!俺、烏龍茶ねっ!」
「主役にやらせるな。俺達が取りに行こう」
希望さんが店長をたしなめると、周囲から笑い声が上がった。
ふふっ。
こういうの、ええなぁ。
「よし、皆、飲み物は揃ったね?それじゃ……頼もう!」
店長が仕切り、専用のタブレットで注文を始めた。
メニューを眺めると、見たことのない料理がたくさん並んでいる。
もち明太チーズ。
じゃがバター。
コーンカレー。
イカキムチ。
文字を追うだけで、食欲が刺激されていく。
「んにゃあ……!」
「麺が入ってるお好み焼きも美味いんだ。食べてみる?」
希望さんがメニューを指差した。
「麺も入ってるん!?」
「そう。広島風お好み焼きっていうんだ」
「是非っ!」
お好み焼きに麺まで入っているなんて。
どんな味がするんやろ。
考えるだけで、わくわくしてきた。
「よし……皆、飲み物は持ったね?」
店長がグラスを手に取る。
「それじゃ……」
皆の視線が、私に集まった。
こういう場は初めてだ。
私のために、こんなにたくさんの人が集まってくれた。
嬉しい。
でも、少しだけ緊張する。
「如月さん、お誕生日おめでとう!ようこそ福島へっ!これからの活躍を祈って……乾杯っ!」
「「「「「「「乾杯っ!」」」」」」」
グラスがぶつかり合う音が、一斉に響いた。
「おめでとう!」
「十八歳、おめでとう」
「夢玖ちゃん、これからもよろしくねっ!」
「如月、これからもよろしくな! おめでとう!」
「夢玖ちゃん、おめでとう!」
次々と掛けられる、お祝いの言葉。
誕生日おめでとう。
これからもよろしく。
十八歳、おめでとう。
──どうしよう。
何て返せばええんやろ。
こんなにたくさんの人から、おめでとうと言われたことなんてなかった。
どう反応すればいいのか分からず、私はグラスを持ったまま、黙り込んでしまった。
「……如月さん、お……おめでとう……」
少し遅れて、廉命さんが言った。
その瞬間、なぜか一時的に静かになった。
皆の視線が、私へ向かう。
「……夢玖ちゃん?」
舞姫姉が心配そうに顔を覗き込んできた。
「……あのな」
私は、ゆっくりと口を開いた。
「私、誕生日おめでとうとか言われたん、初めてやねん」
誰も、すぐには言葉を返さなかった。
私は、グラスを持つ手に少し力を込める。
「どう返したらええか分からへん。でも……おおきに。嬉しいわ」
うまく笑えているだろうか。
ちゃんと、気持ちは伝わっただろうか。
少し不安になりながら顔を上げると、舞姫姉が優しく微笑んでいた。
「うん!夢玖ちゃん、沢山食べてね!」
「如月ちゃん、豚玉派?海鮮玉派?」
「豚キムチ玉……!美味しそう……!」
「今日は、思いっきり楽しんでくれ。ほら、もんじゃ焼き一切れ!」
皆が、いつものように話し始めた。
誰も、私の言葉を大げさに扱わなかった。
それが、ありがたかった。
「おおきに……。もんじゃ焼き、出汁が美味しいねん!」
一口食べると、思わず声が弾んだ。
「もち明太チーズもんじゃ……これ、如月好きそうだと思ってさ。あと、広島風お好み焼きも」
希望さんが、もんじゃ焼きとお好み焼きを取り分けてくれた。
食べてみると、どちらも凄く美味しい。
粉ものが好きだからなのか。
皆と一緒に食べているからなのか。
自分でも、よく分からなかった。
でも、大阪で食べていたお好み焼きとは、また違う美味しさがあった。
同じようで、少し違う。
そして、何より。
今は、一緒に笑ってくれる人たちがいる。
「如月ちゃん……カレーもんじゃも美味いぞ?俺のお気に入り」
「如月さん、タンパク質も大事だよ?ハラミとカルビの鉄板焼き!」
「このコーンバターもいけるぞ!俺、センスいいからなっ!」
店長や加堂さん、希望さんが、おすすめの料理を次々と分けてくれる。
「んん〜!ご飯が進むっ!」
「…お好み焼きに白飯。合うな」
お好み焼きやもんじゃ焼きをおかずに、白米が進む。
「さすが関西人…!」
「廉命君、ご飯大盛り何杯目?」
「……確か、五杯目っす」
廉命さん野食べっぷりに、笑い声が響く。
一方で、希望さんと店長は呆れてる。
「そば飯……意外といけるな」
福吉さんが、そば飯を気に入ったらしい。
その一方で、サラダにはなかなか手を伸ばさない。
「福吉さん、野菜も食べてください」
「断る」
「あなた、来年で三十ですよね?メロンパンと煙草しか食べてないんだから、野菜も食べてくださいっ!」
「……うるせぇな」
「うるさくありません!」
雷磨さんが真剣な顔で説教を始め、福吉さんは露骨に嫌そうな顔をした。
「福吉さん……かっこいい♡」
そんな福吉さんを、仁愛が熱い視線で見つめている。
「松寺君……君はもしかして……」
義父が何かに気づいたように呟いた。
「何ですかー?」
「いや……何でもない。確かに福吉君は独身だが……」
「?」
仁愛は首を傾げている。
どうやら、まだ気づかれていないと思っているらしい。
「わぁ……!焼き小籠包おいひ〜!お姉ちゃん、あーん!」
舞姫姉は、焼き小籠包を頬張って幸せそうな顔をしていた。
「ん……熱いわよ!」
愛姉はそう言いながらも、ちゃんと口を開けて食べている。
「お父さん……お酒ばかり飲まないで、ちゃんと食べて!」
「はいはい」
愛姉に注意され、義父が苦笑した。
「ねぇ……廉命君。さっきから夢玖ちゃんばっかり見てない?」
夜海が、隣に座る廉命さんをからかう。
「あ? 席の位置的に見えるんだから仕方ねぇだろ」
「へぇ……そっか。はい」
夜海は、鉄板の上で焦げた部分を廉命さんの皿に押し付けた。
「おいっ!焦げた部分を押し付けんなっ!」
「えー?気のせいじゃない?」
「てめぇ……!」
楽しそうに言い合う二人。
─雰囲気だけでも、既にお腹いっぱいや。
皆が笑っている。
それだけで、胸の奥がぽかぽかと温かくなった。
「……如月さん」
ふいに、廉命さんに呼ばれた。
「なん?」
「ほら……タコも食えよ」
そう言って、廉命さんがタコ玉とタコもんじゃを取り分けてくれた。
海鮮玉にはイカやホタテ、エビが入っているけれど、タコが入ったお好み焼きは初めてだ。
「おおきに!んぐ……」
口に運んだ瞬間。
「……っ!」
思わず、目を見開いた。
「うみゃあ……!頬が落ちてまうやんか!幸せや!」
これ、めちゃくちゃ美味しい!
たこ焼きとも明石焼きとも違う。
タコの食感と生地の旨味が合わさって、口の中いっぱいに美味しさが広がった。
「んーっ!」
あまりの美味しさに、思わず頬を押さえる。
「……夢玖ちゃんタコ好きなんだ……!タコの唐揚げとかも好きそう」
夜海が、私の反応を見て笑った。
「タコ玉か……センスいいじゃん!日頃めちゃくちゃ食べるのに、女の子に食べ物を分けるなんて珍しい!」
希望さんまで、楽しそうに廉命さんをからかい始めた。
「廉命、今度飲みでいじるからなっ!」
加堂さんまで便乗する。
「……ほっといてくださいっ!」
廉命さんは、耳を赤くして顔を背けた。
──鉄板が熱いからやろか?
そんなことを考えながら、私はもう一口、タコ玉を頬張った。
このときの私は、気づいていなかった。
廉命さんが、私を見つめていたことに。
いつものからかうような視線とは、少し違う眼差しで。
「如月さん……これからもよろしくね」
「……はいっ!」
店長に声を掛けられ、私は笑顔で頷いた。
「そういえば、福吉さんは?」
「……あー、煙草」
雷磨さんが呆れたように答える。
「またですか……!」
「まったく、あの人は……」
そんなやり取りに、また笑い声が上がった。
私は、皆の顔を見回した。
笑っている人。
料理を取り分けてくれる人。
私をからかっている人。
何気ない会話を楽しんでいる人。
今日、ここにいる皆が、私の誕生日を祝ってくれている。
十八歳になった。
そして、今日という日を、一緒に過ごしてくれる人たちがいる。
──なんやろ。
胸がいっぱいで、うまく言葉にできへん。
でも。
「……私、ここに来られてよかったなぁ」
ぽつりと零した言葉は、賑やかな笑い声の中に溶けていった。
「ふふっ。良かったよ…これからも一緒だ」
「希望さん…」
希望さんが私に言葉を掛けてくれる。
今思うと、これは希望さんとの出会いから始まった物語で、これからも続く。
「よし、皆…如月さんへの誕生日プレゼントを…!」
店長が仕切り、皆バッグから物を出した。
「夢玖ちゃん、おめでとう!誕生日プレゼントだよ」
沢山の誕生日プレゼントをもらう。
「……皆、おおきに!」
誕生日プレゼントも、人生初めてだ。
でも、物よりも嬉しい誕生日プレゼントがあった。
私の為に、集まってくれ、大切にしてくれる皆という─。
「………十八歳、楽しみや」
それでも、確かに。
私の十八歳の誕生日は、始まったばかりだった。
……To be continued
第27話、読んでいただきありがとうございます。
今回は、夢玖と廉命の食べっぷりを可愛く書きました!
次回…廉命が抱くある欲が少し露わに…!
それではまた。




