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透ける約束は片結び  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)
【第二章】青い春と片結び

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<第二十五足>この気持ちにつく名前は


「……今日は如月さんの歓迎会兼誕生日会か」


いつもと変わらない、始業前の朝礼。


―いや、今日は少し違う。


今日は、如月さんの歓迎会兼誕生日会当日だ。


「廉命、俺、思うんだけどさ……」


希望さんが、何やら意味ありげな顔で話しかけてきた。


「何すか?」


「お前……如月のこと、好きだべ?」


「はあっ!んなわけねぇだろっ!」


あまりにも唐突な質問に、思わず声が裏返った。


「前からおかしいと思ってたんだよ。如月のこと、よく話すし……話してるとき、めっちゃ嬉しそうにしてるし。これで何もないとか、あり得ないんだよ!」


「本当のことを話してるだけでしょ!」


「いやいや……分かりやすいぞ、お前」


希望さんは、にやにやと笑っている。


その顔は、先日、夜海に問い詰められたときのものとよく似ていた。


揃いも揃って何なんだ。


「はあっ!べ、別に……気になるわけじゃねぇし!」


「へえー?じゃあ、もし如月に男ができたら?」


「…………は?」


さらに、とんでもない話題を振られた。


如月さんに、男ができたら?


別に、どうとも思わない。


そうだ。俺には関係ない。


─関係、ないはずだ。


「……そりゃあ、迎えに行くに決まってるでしょ」


「……えっ?」


「…………は?」


口を開いたのは、俺ではなかった。


―いや、待て。


今、何て言った?


迎えに行く?


誰を?


如月さんを?


「……お前、自分で何言ったか分かってる?」


希望さんの声が、妙に遠く聞こえた。


もしかしたら今日、俺はどうにかなってしまうのだろうか。


「まあまあ……今日は如月も一緒だからな」


その一言で、全身に雷が落ちた。


まるで雷を怖がる大型犬みたいに、思わず身体が縮こまる。


「……忘れてた。シフト変更で、如月さん、今日出勤だ……」


「…………廉命?」


店長が、心配そうに俺を見た。


「主役よりビビってどうするの!今日という日を乗り越えるんだ……!」


「店長……」


なんだかんだ、この人は頼りになる。


俺とは正反対の性格だが、こういうときは本当に心強い。


「俺は……如月さんの栄養が偏らないように、プロテインバー持ってきたから!」


「……プロテイン要員」


思わず呟いてしまった。


けれど、そのおかげで少しだけ気持ちが落ち着いた。


「よし……朝礼を始めます!」


そして、いつもと変わらない一日が始まった。


―如月さんが来るまでは。


****


「おはようございまーす!」


「おはよう、如月さん!お……今日、雰囲気違うね?」


正午前。


如月さんが出勤してきた。


そして、その姿を見た瞬間、俺は言葉を失った。


いつもと、雰囲気が違う。


「舞姫姉に化粧してもろてん!」


如月さんは、嬉しそうに笑った。


いつもはノーメイクで、童顔で、色気の欠片もないくせに。


今日は化粧をしている。


ぱっちりとした目元には、いつもと違う深みがあった。


―何だよ、それ。


「おー!舞姫ちゃん、めっちゃセンスいいじゃん!」


店長が真っ先に気づき、感心したように声を上げた。


その瞬間、胸の奥で何かが沸き立った。


─何なんだ、この感覚。


「…………」


「妬いてる?」


横から希望さんが、にやにやしながら話しかけてきた。


「昨日から煌星家に泊まりに来てるんだけどさ。朝から舞姫が化粧してたんだよね」


「だから……ここは素直に、可愛いって言えよ」


「……分かってますよ」


そうだ。


分かっている。


ただ、口に出せないだけだ。


如月さんが、こちらに顔を向けた。


「廉命さん、おはようございます!」


「……はよ。その……」


「?」


ダメだ。


いつもと雰囲気が違いすぎて、まともに顔を見られない。


たった一言。


可愛い。


そう言えばいいだけなのに。


「……童顔なのに、化粧……お前、女だったのか」


―しまった。


口にした瞬間、後悔した。


違う。


言いたかったのは、そんなことじゃない。


いつもと違う如月さんに、思わず見惚れてしまった。


それだけだったのに。


「な、女ですけどー?」


如月さんが、むっとした顔で言い返す。


「……あぁ?幼児体型で、普段からノーメイクで、童顔で色気ゼロだろ、お前はっ!」


何を言っているんだ、俺は。


止めようと思えば、止められたはずだ。


それなのに、口から出てくるのは、いつもの悪口ばかりだった。


「なんやねんっ!高三やし、乙女に染まってもええやろ!」


「世間でいう乙女は大人っぽいんだ……お前にはまだ早いっ!」


言ってしまった。


取り返しのつかないことを。


「ダメだ!廉命……言いすぎだ」


見かねた希望さんが、慌てて間に入った。


「……ふんっ」


俺は顔を背けた。


最悪だ。


せっかく、可愛いと思ったのに。


素直に褒めるどころか、傷つけるようなことばかり言ってしまった。


―嫌われた。


そう思った。


****


「如月さん……これ、お願い……」


売り場での作業中。


いつものように仕事を頼もうと声をかけた。


「…………」


「……如月さん?」


「ふんっ」


─無視された。


如月さんは、こちらを見ようともしない。


「…………」


いつもなら、どれだけ口が悪くても、何だかんだ言い返してくる。


それなのに、今日は違った。


─本気で怒っている。


当たり前だ。


あんなことを言われて、平気なわけがない。


「……廉命」


福吉さんが、声をかけてきた。


「話は聞いたが……あれは、さすがに言いすぎだぞ」


「……すんません」


誰に謝っているのか、自分でも分からなかった。


福吉さんにか。


如月さんにか。


それとも、情けない自分自身にか。


「……如月も高校三年だ。化粧ぐらい、したって何もおかしくねぇだろ」


「…………はい」


分かっている。


高校三年生が化粧に興味を持つことも、いつもと違う自分になりたいと思うことも、何ひとつおかしくない。


それなのに、俺は。


「……お前、如月に対して何か思ってるだろう」


「…………は?」


思わず、顔を上げた。


福吉さんは、俺の目をまっすぐに見ていた。


「ほかの人間には、そこまで突っかからねぇだろ」


「……別に」


「じゃあ、なんであんな言い方をした?」


「…………」


答えられなかった。


可愛いと思った。


いつもと違う如月さんに、目を奪われた。


それを知られるのが恥ずかしくて、いつもの調子でからかった。


―いや。


あれは、からかいなんかじゃない。


ただの八つ当たりだ。


「…………」


俺は、拳を握りしめた。


─最低だな、俺。


素直になれないせいで、あいつを傷つけた。


しかも、今日はあいつの歓迎会兼誕生日会だ。


本来なら、笑って過ごせるはずの日だったのに。


「……福吉さん」


「何だ」


「……俺、どうすりゃいいんすかね」


初めて、自分から尋ねた。


福吉さんは、少しだけ目を細めた。


「まずは、自分が何をしたのか、ちゃんと考えろ」


「…………」


「それから、本人に謝れ。言い訳はするな」


「……はい」


分かっている。


分かっているのに、いざとなると、どうしても言葉が出てこない。


けれど。


このまま、なかったことになんてできない。


─ちゃんと、謝らなければ。


俺は、そう思った。


いつもなら、あいつはすぐに言い返してくる。


「なんやねんっ!」


「廉命さんのアホ!」


そうやって、遠慮なく怒って、笑って。


─それが、当たり前だった。


けれど今日は違う。


俺を見ようともしない。


たったそれだけのことが、こんなにも気になるなんて思わなかった。


「…………クソ」


何が、色気ゼロだ。


何が、幼児体型だ。


本当は、可愛いと思ったくせに。


いつもとは違うあいつに、目を奪われたくせに。


それを認めるのが怖くて、傷つけるような言葉を吐いた。


何やってんだ、俺。


あいつに嫌われたくない。


そう思った瞬間、胸の奥がひどくざわついた。


この気持ちに、名前をつけるとしたら。


―俺は、一体何と呼べばいいんだろう。



……To be continued

第25話を読んでいただきありがとうございます。


無愛想で口が悪いケロイド系イケメンフリーターこと、日出廉命をメインに書きました。

実は彼…195cm98kgというガタイの良さもあるのです…!


そんな彼が抱く夢玖への感情に、名前がつくのか…


それではまた。

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― 新着の感想 ―
XのRT企画から伺わせていただきました! 第一章の時点ではどことなく日常の手触りを光や五感を通した描写の中で描きつつ、第二章以降は人間関係の変化や人の内面へと切り込んでいる話になったと思います! 全…
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