<第二十三足>歓迎会兼誕生日…?
「夢玖ちゃんって、誕生日いつ?」
「……六月十日や」
「えっ、じゃあ来月!?」
アルバイト先で大騒ぎになった一件も落ち着いた、ある日の昼休み。
私はいつものように、夜海たちとお弁当を囲んでいた。
何気ない会話の中で、仁愛が私の誕生日を尋ねてきたのだ。
「六月十日やけど……それがどないしたん?」
「あら……来月で十八歳になるのね」
隣で話を聞いていた愛姉が、ぱっと顔を輝かせた。
「……愛姉?」
「私の可愛い可愛い義妹が十八歳になる日ですもの。お誕生日会をしましょう!」
「うん、賛成!」
「お父さんにも話さなくちゃね」
「ちょっ……!」
私が止める間もなく、話はどんどん進んでいく。
「ケーキはどうする?料理も作る?」
「飾り付けもしたいね!」
「でも本人がいるところで話す内容じゃないわね……」
次々と飛び交う言葉。
結局、何を話し合ったのか、途中からよく覚えていなかった。
ただ、みんなが私の誕生日を祝おうとしてくれている。
それだけは、ちゃんと分かった。
─なのに。
アルバイト先でも、私は思いがけない話を聞くことになる。
****
「歓迎会?」
「ああ。如月さん、福島に来てから学校もバイトも頑張ってるだろ?気疲れもしてるはずだ…。それで歓迎会を開いてもいいんじゃないかって話になってね」
別の日の休憩時間。
アルバイト先でも、私の歓迎会を開こうという話が持ち上がっていた。
「……そういえば、ここに来て二ヶ月経とうとはしてますけど…」
「まあ、親睦会みたいなもんだよ」
「如月ちゃん…焼肉と寿司、どっちがいい?」
加堂さんはスマホを片手に、早くも店を探し始めている。
「加堂さん、珍しいじゃん。でも、それって本当は加堂さんが食べたいやつじゃないんの?」
「あ?ガキは居酒屋に入れねぇだろうが」
「確かにそうだけど……」
店長と加堂さんがそんなやり取りをしていた、そのときだった。
「……あ、如月さん。もしかして、お好み焼き……恋しい?」
通りかかった廉命さんが、ふと思い出したように口を開いた。
「……っ!」
お好み焼き。
その言葉を聞いた瞬間、思わず顔が上がった。
「にゃっ!」
「……今、猫みたいな声出なかった?」
「出てないっ!」
「いや、出てたって」
店長が笑い、加堂さんも呆れたように肩をすくめる。
「……関西人って、粉もん好きなんすよね。たこ焼きとかお好み焼きを、おかずに白飯食うのも珍しくないらしいっすよ」
廉命さんが何気なく説明する。
「えぇっ!そうなの如月さん…?」
店長が不思議そうに尋ねた。
「はい。大阪やと普通にお好み焼き定食とかあります…」
「嘘…関西人はつまり…タンパク質不足ってこと?筋肉不足はいけないよぉ?」
「店長…」
大阪には、お好み焼き定食やたこ焼き定食があることを話すと、筋肉命の店長が驚いた。
「あと…関西人は一家に一台…たこ焼き器が…!」
「へぇ…廉命。わざわざ調べたの?」
しかし店長はすぐに切り替え、廉命に聞く。
「いや、俺もお好み焼き食いたくて……。寿司か焼肉かって俺らが決めるより、本人が食べたいものでいいんじゃないすか?」
「……」
私は、廉命さんを見つめた。
もしかして、私が知らないうちにお好み焼きを食べたいという気持ちが顔に出ていて、気を遣わせてしまったのだろうか。
「確かに……俺らが食べたいものを選ぶより、如月さんが食べたいものを選んだ方がいいよね」
店長が頷く。
「やっぱり、粉もんが好きなんだね?」
希望さんも笑いながら尋ねてきた。
「……はいっ!」
思わず元気よく答えてしまった。
みんなが笑う。
少し恥ずかしかったけれど、お好み焼きが食べられると思うと、どうしても嬉しかった。
「よし、それなら歓迎会はお好み焼きにしよう!」
店長の一声で、歓迎会の会場はあっさり決まった。
「あと……如月さんの学校の友達や、愛さんたちも呼んでいいと思います」
「……ん?」
私は思わず廉命さんを見た。
「いつもは自分から意見を出さないのに……廉命、熱でもある?」
希望さんが、からかうように笑う。
「ないっすよ」
廉命さんは面倒くさそうに答えた。
「友達もいれば、如月さんも安心すると思って。知ってる人がいた方が気を遣わなくて済むでしょ」
「……」
そうだった。
歓迎会には、学校の友達も呼べるのだ。
夜海や仁愛だけじゃない。
愛姉や舞姫姉、義父も。
知っている人がたくさんいれば、きっと心強い。
「……如月さんは、どうしたい?」
希望さんが優しく尋ねてくれた。
「えっ?」
急に意見を求められて、戸惑ってしまう。
こういうとき、どう答えたらいいのだろう。
みんなに迷惑をかけたくない。
でも、できることなら──。
「……呼びたいです」
私は小さく答えた。
「夜海ちゃんたちも、愛姉たちも……来てほしい」
「……そっか」
希望さんが笑う。
「なら、決まりだね」
「……あれ?如月さん、来月の十日って空いてる?」
店長がカレンダーを確認しながら尋ねてきた。
「あ、あの……実はその日……」
「もしかして、都合悪い? 学校のテストとか?」
「この時期は検定ないような……」
「違うんです!その……私、その日が誕生日で……学校の友達も誕生日会をしようって……!」
言いながら、申し訳ない気持ちになってくる。
せっかく歓迎会を開いてくれるのに、予定が重なってしまった。
「……ああ、そういうことか」
店長は少し考え込んだあと、ぽんと手を打った。
「それなら、歓迎会兼誕生日会にすればいいんじゃない?」
「……え?」
「おお、それいいな!」
「一度にみんな集まれるしね」
周囲から賛成の声が上がる。
「よし、今度、舞姫さんと生野も交えて詳しく話そう!」
店長が仕切るように手を叩いた。
「ということで、この話は俺達大人で話し合って色々決めるってことで終わり!以上っ!」
「……は、はい!」
こうして、来月の六月十日に、歓迎会兼誕生日会が開かれることになった。
(……今年の誕生日、イベント多すぎひん!?)
嬉しい。
嬉しいけれど、なんだか大変なことになってきた。
そして、この話が週末、さらに大騒ぎを引き起こすことになるとは―このときの私は、まだ知らなかった。
****
「歓迎会兼誕生日会?」
「……うん。みんなを巻き込んでもうて、ごめんな」
週末。
アルバイトが休みだった私は、自宅に夜海と仁愛、舞姫姉を招いていた。
先日決まった歓迎会兼誕生日会について、みんなに説明しているところだった。
「大丈夫、大丈夫! むしろ、その方が楽しそうじゃん!」
夜海は、まったく気にしていない様子で笑った。
「そうね。無理に別々で誕生日会をするより、夢玖ちゃんが食べたいものをみんなで食べた方が楽しいもの」
舞姫姉も頷く。
「鳳斗さん、いいことを考えたわね」
「……舞姫姉?」
なんだか、みんな楽しそうだ。
私の誕生日なのに、私よりもみんなの方が張り切っている気がする。
「……でも、廉命君も一緒なんでしょ?」
舞姫姉が、ふと思い出したように尋ねた。
「うん。バイト先の人やから……」
「廉命君、迷惑してない?」
「……え?」
「だって、夢玖ちゃんの誕生日会でしょ?本人より周りが盛り上がっちゃってるし」
「……あん人、そんなこと思っとるんかな」
私には、廉命さんが何を考えているのか、よく分からない。
無愛想で口も悪いけれど、仕事はちゃんと教えてくれる。
お好み焼きを提案してくれたのも、きっと私に気を遣ってくれたからだ。
──たぶん。
「ところで、廉命さんってどんな人?イケメン?」
仁愛が、身を乗り出してきた。
「うん。ケロイドが目立つし、無愛想で口も悪いけど……顔は整っとる方やと思うで」
「へぇ……!」
「…ふふっ。夢玖ちゃんのこと、たまに聞くんだよね」
夜海が、意味ありげに笑った。
「……は?」
「学校で夢玖ちゃんがどんな感じか、とかね」
「……あん人、何を聞いとるねん」
思わず呟いてしまった。
私の知らないところで、そんな話をしていたなんて。
「へぇ……何かが始まりそう♡」
仁愛が両手を合わせ、目を輝かせる。
「仁愛ちゃん……目がハートになってるよ」
夜海が呆れたように突っ込んだ。
「それより、バイト先の人が来るなら……あの銀髪の人も来るよね? ね?」
仁愛は、期待に満ちた目で私を見つめてきた。
銀髪の人。
私の知っている限り、該当する人物は一人しかいない。
「……福吉さん?」
「そう!福吉さん!」
仁愛は勢いよく頷いた。
「うん。来ると思うで」
「やった♡可愛くしないと!」
「……仁愛ちゃん、福吉さんって、あなたより十歳以上年上なのよ?」
愛姉が尋ねる。
「だからなの♡」
「……そ、そうなんだ」
仁愛が福吉さんにどんな感情を抱いているのか。
今の私には、まだよく分からなかった。
ただ、なんだか楽しそうなのは伝わってきた。
「……そういえば、夢玖ちゃん」
今度は愛姉が口を開いた。
「雷磨さんも来るのよね?」
「うん。この前、数学を教えてもろてん」
「そう……。彼とは高校を卒業して以来、会っていなかったわね」
「……えっ、そうなん?」
思わず聞き返してしまった。
愛姉と雷磨さんが高校の同級生だということは知っていた。
けれど、卒業以来会っていなかったなんて。
「お姉ちゃん……実は、アメリカの有名な大学を卒業してるの」
夜海が、何気なく説明した。
「「「えぇぇっ!?」」」
私たちの声が重なった。
「ちょっと、みんな!You’re speaking too loudly! 声が大きいわよ!」
愛姉が苦笑する。
「言い忘れていたけれど、英語を学ぶためにアメリカの大学を卒業したの。そのあと、ロンドンやオーストラリア、カナダにもホームステイしていたわね」
「だからTOEIC満点なんだ……」
夜海が感心したように呟く。
「お姉ちゃん、幼稚園の頃から英語の本を読んでたから……」
私がそう付け加えると、仁愛が呆然とした。
「……やっぱり、雷磨さんの同級生なんだね」
「安栄高校って……天才しかおらんの?」
思わず口にすると、夜海が苦笑した。
「県内トップクラスの高校だからね。特に雷磨さんと愛さんはすごかったよ。いつも学年一位を争ってたし」
「……私たち、こんなにすごい人から勉強を教わってるんだ……」
仁愛が、しみじみと呟いた。
身近に、そんなすごい人たちがいたなんて。
改めて考えると、不思議な気分だった。
「それでね。歓迎会の打ち合わせには、私と希望君も参加する予定なの。お姉ちゃんも来る?」
舞姫姉が愛姉に尋ねた。
「……ありがとう。でも、今回は遠慮しておくわ」
「えっ、どうして?」
「だって、夢玖ちゃんとくっついていたいもの」
「……何その理由」
舞姫姉が呆れたように笑う。
愛姉は、そんな反応も気にせず、私の肩を抱き寄せた。
「だって、可愛い妹の誕生日だもの」
「……愛姉」
なんだか、くすぐったい。
でも、嫌じゃなかった。
こうして、歓迎会兼誕生日会の話は、学校の友達だけでなく、家族にまで広がっていった。
思えば、私の周りには、いつの間にかたくさんの人がいる。
学校で出会った友達。
アルバイト先で出会った仲間。
そして、私を家族として迎えてくれた人たち。
それぞれ別の場所で出会ったはずなのに、少しずつ繋がっている。
この歓迎会兼誕生日会で、私たちはどんな時間を過ごすのだろう。
そして、どんな新しい関係が生まれるのだろう。
そのときの私たちは、まだ何も知らなかった。
……To be continued
第二十三足をお読みいただき、ありがとうございます。
夢玖の歓迎会兼誕生日会をすることになり、周りは大忙しに…!
それではまた。




