<第二十二足>世界を知るきっかけ
「よし…まずはバックヤードでの作業に慣れよう」
「よ、よろしくお願いします」
「固くならなくていい。ゆっくり教えるから」
アルバイトに入り、初出勤を終えてから数日。
私は放課後にもアルバイトに入るようになった。
「まずはこのコードを読み取って…」
「梱包して伝票を貼って…」
「はい」
「……って感じかな。俺売り場に行くから、分からないことあれば店長とかいるから聞いてみて」
希望さんが、バックヤードに案内し、バックヤードでの作業を教えてくれる。
「はい…」
「あ、そうそう。これは先に言っとくわ…失敗は誰でもするから、気にするな」
希望さんはその言葉を残し、バックヤードから出た。
教えられた通り、作業を始めようとする。
「………」
「……よ」
「わっ!」
コードを読み取ろうとしたら、店長が現れ、驚いた。
「て、店長……」
「ごめんごめん!どう?」
「ええと…店長…さっき転送出荷教えてもろてんですけど、見てもらってええですか?」
「よし…まずは指示書の内容しようか…」
店長の目を気にしつつ、作業を進める。
「よし…これで大丈夫。他の指示書も…あ、これECだ。教わってる?」
「それは…分かんないです」
「よし。ここは俺が教えよう。指示書の内容や送り先の希望によっては運送会社も変わる。伝票も変わるからね…ゆっくり覚えてこう」
更に新しく教わり、何とか一時間掛けて作業を終えた。
「お疲れ様。あとは売り場に…」
作業を終え、私は売り場に戻った。
****
「如月、お疲れ様。多かったべ?」
「まぁ……そ、それより…」
売り場に戻ると、大きな叫び声がし、その方向に目を向けた。
どうやら廉命さんが接客してるのだが、お客様が怒鳴ってるらしい。
「あれね…お客さんが無理な値引きしろって…たまにいるんだよな…」
騒ぎを見る限り、お客様都合で廉命さんが対応してるらしい。
無理な値引きや無理なサービスをしろ、それが無理なら店長を呼べと、私もいつか対応しろとなると、とても怖くなる。
「二千円ぐらいいいでしょっ!なんで安く出来ないのよっ!」
「申し訳ございません。こちらのお品物は傷も汚れもなくこの価格でございます。特別お安くは出来ません」
「はぁっ?展示されてるなら少しはお安くなるんじゃないの?」
「申し訳ございません。展示品もお品物の一つですので」
「あれもう三十分は経ってるんだよ?お客さんも全然懲りなくて…」
廉命さんは顔色一つ変えず、ひたすらお客様に謝罪をしている。
しかしお客様はヒートアップしていく一方だ。
それでも、希望さんは廉命さんの元へ向かう。
「よし……廉命、よく耐えた。あとは任せな」
廉命さんの接客が彼にバトンタッチをした。
「お客様、申し訳ございません。もう一度申し上げますが、展示品もうちのお品物の一つに入りますので、特別お安くは出来かねます」
「なんでよっ!若い癖に偉そうに!」
それでもお客様は懲りない。
「申し訳ございません。ですがお客様…値段というだけで三十分以上、うちの従業員に無理な要求をし、他のお客様もいるにも関わらず大騒ぎ…」
「だって……こいつが値下げするって言わないから!」
「そうですか…とにかく無理な値引きは出来かねます。それに…これ以上騒がれると他のお客様に迷惑なので…通報させて頂きますけど?」
希望さんがキッパリ言う。
シューズコーナーが一時的に静かになった。
「…な、何よっ!ここの店員は顔が良くても態度がダメ、値段は高い!それに…この子の目おかしいわっ!」
だが、私のオッドアイも指摘されてしまった。
通報という言葉が出ても、お客様は懲りなかった。
やっぱり、私のオッドアイが人を不快にさせる─。
そう思っていた。
「……如月さん、君は何も悪くないから」
しかし、廉命さんがそう声を掛けてくれた。
その言葉に熱い涙腺が、少しずつ冷えてきた。
「………日出さん」
「…何の騒ぎですか?」
「雷磨さん。実は…展示品を無理な値引きしろと言われて出来ないって伝えたらこの通りっす。三十分以上大騒ぎしてるんすよ…はぁ…」
「なるほど…事情は分かりました」
中々騒ぎが収まらず、たまたま通り掛かった雷磨さんが様子を見てきた。
廉命さんが事情を話すと、彼は少し考え、希望さんとお客様の間に入った。
「お客様。これ以上騒がれると出禁にさせて頂きます」
「次から次へと何なのあなたっ!」
「……従業員への無理な要求や侮辱…威力業務妨害罪。三年以下の懲役または五十万円以下の罰金。さぁ…どちらを選びますか?」
雷磨さんはお客様にある話をする。
「えぇ?あたし何も悪くないでしょっ!」
「いやぁ…僕らも聞こえてたうえ、彼らも近くで見てます。それに…防犯カメラにも映ってるので言い逃れは不可能です。出禁と通報、どちらがいいですか?」
「〜!」
私には分からなかったが、とにかく重い内容だった。
お客様はみるみる顔色を青くし、店を出ていった。
「悪いもの見せちゃいましたね。僕、最近六法全書をまた読んでるんです」
「……医大生なのに?」
「えぇ。幼稚園の頃から読んでて…」
「…やっぱり愛姉の同級生や」
何とか店に平和は訪れたものの、雷磨さんは六法全書を読んでるらしい。
「やから、妨害罪…?とかもろもろ…」
「そう。良かったら今度…法律の勉強もしてみます?」
「……是非」
「如月さん…長くなるからやめときな?」
「いえいえ。実は僕、如月さんに日頃勉強教えてるんです。英語以外」
そう。
大阪に来た頃は学校に来れない日が非常に多かったため、勉強はほぼ出来なく、テストも酷い点数だった。
だからここに来ては、雷磨さんに教えてもらってるのだ。
「如月は…福島に来て正解だったな」
「……そうっすね」
「学校も、家族も友達も、バイト先も揃ってる。残るは…」
希望さんが疲れた表情で、廉命さんに語る。
「何すか?」
「……彼氏だべ」
「いやぁ…ちんちくりんのに彼氏とかまだ早いっすよ」
「あれでも高三だぞ?男いてもおかしくねーべした」
「幼児体型なのに?」
その内容を、私はまだ分からない。
でも─
「如月…今日のは…お前は悪くない。だけど、少しずつ世界を知っていこうな」
「……はい」
大阪で見てきた、世界とはまるで違った。
どれだけ理不尽な場面と出会うのだろうか。
怖い─でも、皆がいるから。
世界を知ろうと思った、きっかけを掴んだ気がした。
……To be continued
第二十二足を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は久しぶりの舞姫と愛の登場…
次回は…夢玖の歓迎会…と思いきや誕生日会も…よりによって夢玖の誕生日に被ることに…!
その件を機に、夢玖は目には見えない繋がりを見ることに─。
それではまた次回。




