<第十四足>パジャマパーティ
ゴールデンウィーク前夜。
世間では、大型連休と呼ばれるらしい。
私はダイニングテーブルでノートを閉じ、大きく息をついた。
「……ふぅ」
隣では舞姫姉が微笑む。
「今日はここまでにしよっか」
「うん……舞姫姉、ほんま教え方上手やなぁ」
「そう?」
「めっちゃ分かりやすかった。最初は簿記なんて全然分からへんかったのに、今は問題解くん楽しいもん」
舞姫姉は少し照れくさそうに笑う。
「夢玖ちゃんが頑張ってくれるからだよ」
「飲み込みも早いし、教えがいあるもん」
「……えへへ」
褒められることには、まだ慣れない。
でも。
そんな言葉をかけてもらえることが、少しだけ嬉しかった。
その時だった。
リビングの扉が開く。
「二人とも、お疲れ」
希望さんが、大きめのお皿を両手で持って現れた。
「その……ガトーショコラ焼いたんだけど、食べる?」
「「食べる!」」
思わず二人で声が重なる。
希望さんは照れくさそうに笑った。
「実は昨日の夜、仕込んでたんだ」
「生クリーム使ってないから、俺も食べられるし」
私は少し首をかしげる。
「……俺も?」
希望さんは少しだけ困ったように笑った。
「俺、白血病なんだ」
「治療の影響で、食べられないものが少しある」
「だから、食べられるように工夫して作ることが多いんだよ」
その言葉に、私は静かに頷く。
病気のことは聞いていた。
でも、こうして本人の口から聞くのは初めてだった。
「……そうやったんや」
希望さんは笑って肩をすくめる。
「まあ、元気だから心配しなくて大丈夫」
その笑顔に、少しだけ安心した。
舞姫姉がキッチンへ向かう。
「飲み物どうする?」
「私はルイボスティー!」
「夢玖ちゃんは?」
「……同じので」
「希望君は?」
「烏龍ミルクティーお願い」
「はーい」
しばらくして、湯気の立つ飲み物と一緒にガトーショコラが運ばれてきた。
フォークを入れると、しっとりとした生地がゆっくり沈む。
一口食べる。
「……!」
濃厚なチョコレートの香りが口いっぱいに広がった。
「めっちゃ美味しい……」
思わず声が漏れる。
舞姫姉も幸せそうに頬を緩める。
「やっぱり希望君のお菓子好き……」
「私は絶対こんなの作れないもん」
「そんなことないやろ?」
「あるよ!」
舞姫姉は少し頬を膨らませた。
「クッキー焼けば焦げるし、パウンドケーキは炭になるし……」
「料理はできるのに、お菓子だけ壊滅的なの」
私は思わず吹き出した。
「嘘やろ……」
希望さんも笑う。
「だから役割分担。」
「舞姫は料理担当。俺はお菓子担当」
「だからその代わり、毎日美味しいご飯作ってもらってるから、お返し」
舞姫姉は少し照れながら笑った。
「ありがとう、希望君」
希望さんは思い出したように立ち上がる。
「あ、そうだ」
キッチンから小さな箱を持って戻ってきた。
「明日、お泊まり会だべ?」
箱を開けると、綺麗に包まれたブラウニーが並んでいた。
「みんなで食べて」
「わぁ……!」
舞姫姉が嬉しそうに笑う。
「お姉ちゃんも絶対喜ぶ!」
私はブラウニーを見つめながら、小さく呟く。
「仁愛ちゃんも夜海ちゃんも、喜ぶやろなぁ」
自然と笑顔になる。
友達と過ごすゴールデンウィーク。
そんな日が来るなんて、一ヶ月前の私は想像もしなかった。
部屋へ戻り、布団へ入る。
窓の外では、静かな春の夜風が木々を揺らしていた。
明日はいよいよ、お泊まり会。
胸の奥が、少しだけ弾んでいた。
****
お泊まり当日。
二泊三日で、お泊まり会でやりたいことを企画している。
「ふわぁ…メイクしたら家を出るよー」
「うん………」
「如月…友達によろしく言っといてな」
「うん!」
こうして、私達のお泊まり会が始まった。
……To be continued
第十四足(第十四話)を呼んで下さりありがとうございます。
今回は久しぶりの希望登場です。
あと二、三話ぐらい書いてから夢玖のアルバイトが始まるので、引き続き読んで頂けますと幸いです!
それではまた次回お会いしましょう。




